愛歩は泣き崩れて、再び目を醒ますと昼を過ぎていた。愛歩はのろのろと起き上がるとシャワーを浴びて悲しみとこれからの不安で心が押しつぶされそうなどうしようもない言葉で語り尽くせぬ不安に襲われ、愛歩は訳もない震えが身体中に走った。愛歩は純平が紹介してくれるかもしれない仕事にありつけるまでの繋ぎの目の仕事を探さなくてはいけなかった。あと5日間、どうやって生きていけないのか?愛歩はふらふらと仕事を探すべく、部屋をでた。所持金2600円で自炊すれば生きていけるのだろうが、まだ電気代が残っているし、ばっくれで放棄したし、支払われない可能性もあるから、一刻も早く次の仕事を見つけなくてはいけなかった。愛歩はとにかく家をでないと再び、泣いたり、寝てしまったりするような気がしてシャワーを浴びて、着替えるととにかく部屋をでた。

愛歩はあてどなく歩いていた。コンビニで求人誌を買った。

愛歩は求人誌をもってファーストフード店で100円ハンバーガーに100円コーラを飲みながら求人誌をめくっていた。この求人誌も100円だった。

(・・・みんな100円だわ。100円でつなぐ運命・・・なんちゃって!)愛歩は求人誌をめくっていた。ペラペラとめくっていき、今すぐ働けそうな所が派遣のデモンストレーションやパチンコ店などしかなかった。そして愛歩にはもう一つ難点があった。愛歩は自転車操業だから月払いは厳しかった。デモンストレーションやパチンコ店でさえ月払いの案件しか出ていなかった。

「あっー、どうしよう。」愛歩は思わずため息が漏れた。

愛歩は求人誌を閉じるとその場に顔を突っ伏した。

(どーしたらいいのよ、神様、全部だめだよ。恋も仕事も金運も・・こういうのをどん底っていうのかしら。救いの手を・・こういう悲しい境遇の人を救えてナンボだと思うよ。神様も金次第か・・)愛歩はどうしていいのかわからないからだんだんムシャクシャしてきた。愛歩はまた泣きそうな気持ちになってきた。愛歩はあてどなく歩いていた。ふらふらと。死という概念さえも頭の中を掠めるほどだった。

(もうじきホームレスになるか?それとも死んでしまうのか・・・)

愛歩はふらふらになりながら歩いていると、一枚の紙切れが足元に風に吹かれて愛歩の足元に吸い付くように紙切れ吹かれてきた。愛歩はイラつきながら紙切れを手で払いのけようとちらっと紙切れを見ると、人材派遣会社の募集の紙切れだった。愛歩は広げてよくみると、駅前から徒歩1分でチラシの下に小さく簡易地図が出ていた。よく見ると、愛歩が今、立っている場所からとても近く、いや今立っている場所にあるようで思わずキョロキョロ辺りを見回してした。

愛歩がキョロキョロ周りを見回していると、よく見ると目の前のビルの2Fに人材派遣会社の<ユース>と出ていた。そしてチラシには<急募  すぐに働ける方大募集>と記されている。

「あっ・・」愛歩は立っている目の前にあったため、少し驚きながらも、ほんの少し運命的なものを感じながら、愛歩は一縷の望みをかけてエレベーターで2Fにむかった。愛歩はエレベーターから降りるとすぐに人材派遣会社<ユース>と書かれてある、ドアが目に入った。おずおずにゆっくりドアを開けた。愛歩はゆっくりと中に入っていくと、中にひとりの女性が顔をあげた。

「あのー、チラシを見たんですけれど、まだ募集していますか?」

「ええっ」

「どのようなお仕事なんですか?」

「明日から3日間なんですけれど、大丈夫ですか?」女は淡々と愛歩に質問をした。

「ええっ。むしろそうしていただきたい位・・・」愛歩は微かに口元に微笑みを浮かべた。


愛歩は履歴書をもって再び3時間後に<ユース>に向かった。

その履歴書も新たに買ったものではなく、100円求人誌の後ろに付録としてついた簡易履歴書を点線にそってビリビリ破いて使っているため、履歴書の横が少しギザギザになっている。また履歴書に貼る証明写真に今は600円とか700円かけていられない為、スマホでそれらく撮り、コンビニに安くプリントアウトしたものを切り抜いて貼り付けた。

(大丈夫だろうか?履歴書の横の線からしておかしいわ。まぁ、いいわ。仕方わないわ。向こうもそれ位、わかってくれるはず!)愛歩は開き直ると、一つ深呼吸をして部屋を後にした。


愛歩は3時間後ぴったりに再び「ユース」の扉を叩いた。3時間前に訪れたときと変わらない女性が愛歩を出迎えた。

「あっ、待っていたわ。どーぞ、こちらの椅子に腰掛けて!」女はにっこり微笑みを浮かべた。

「私、ここの人材派遣会社のコーディネーターをしています水口雅恵と申します。よろしくお願いいたします。今日、履歴書、急だったけれど書いてきてくれたかな?」

「あっ、はい」

愛歩は女の目の前に置かれている椅子に腰をかけた。愛歩は鞄からクリアファイルを取り出すと、おずおずとあり合わせと節約で作成した履歴書を後ろめたい気持ちで雅恵に差し出した。雅恵は履歴書をチラッとみるとテーブルの横に置いて、近くにあった。

「えっー、明日からお願いしたいのがとある工場でのお仕事なのよ」

「・・・工場のお仕事なんですか?」愛歩は少し不安そうにいった。

「ええっ、三つ先の工場でお願いしたいのよ。でも力仕事ではなくて、簡単な巨大なリーフレットの組み立てのお仕事なのよ。女性は立て看板の組み立てで明日、男性が包装や搬送の補助のお仕事で力仕事になるのよ。それに比べて立て看板の組み立ての仕事でやり方のマニュアルに沿って組み立てていくだけだから簡単なんだけれど、3人位でチームを組んでやるから大丈夫よ。その通りにやってくれればいいの。だから心配はいらないわ。時給800円で8時間労働なんだけれど、大丈夫かしら」水口は少し心配そうに聞いた。

「・・・ええっ。多分。」愛歩は少し不安げに頷いた。

「明日から3日間よろしくね。日払いだから、明日以降ならいつでも取りにきていいからね」水口の言葉に愛歩は少し希望を取り戻したように微笑みを浮かべた。


愛歩は次の日は朝、早く眠い目に乱れた髪の毛で集合する駅に向かった。愛歩が二駅先の駅に着いた時にはすでに10人位の人がすでに集まっていた。みな軽装でポロシャツにジーパンといった出で立ちだった。愛歩は最後だった。

「ではちょうど揃いましたので、今から現地に向かいますので、はぐれないようについてきて下さい」引率する男が歩きだすと10人漫ろに後ろを歩きだした。愛歩は一番最後を歩いていた。
愛歩はキョロキョロ周りを何気なく見回すと知らない人ばかりだったけれど、今の暮らしを反映するようなどこか皆、生活が苦しそうな生活感がにんじんでいた。愛歩は思わず溜息をついた。
(はぁ、本当に気が重たい・・)愛歩は下を向いて俯きながら歩いていた。

愛歩が3日間の勤務する工場につくと、そこは緑豊かな自然の中に点在していた。工場がいくつかの棟にわかれていた。そして引率者の男の指示で男女に分かれ、それぞれ言われるままに指示された場所に向かうと、6人の女性のグループは二つのチームに分かれて作業が始まった。初めは気だる気持ちだったけれど、愛歩はいつしか時間を忘れて作業に取り組んでいた。
「はい、それでは休憩になります!休憩室は隣の部屋になりますのでそちらで休憩室で休んで下さい」指示が降りると愛歩はとなりの部屋で昨日スーパーで買ったパンと紙パックのジュースを飲んでいた。
「あのぉ、隣いいですか?」見知らぬ女性が愛歩に微笑みかけてきた。見知らぬといっても今日、一緒にグループを組んで一緒に仕事している愛歩を含めて3人のうちのひとりだった。
「あぁ、どうぞ」愛歩はビニール袋をどけた。
「ありがとう。初めてみる人ですけれど<ユース>は、初めてですか?」
「ええっ」
「そうなんですね。私はもう2年くらいいるんですよ。あっ、三沢純子と申します」純子は愛嬌たっぷりの親しみやすい笑顔を浮かべた。
「よろしくお願いします」愛歩も少し口元に微笑みを浮かべた。
「明日も入っていますか?」
「ええっ。今日含めて3日間入っています」
「頑張るねー。身体もつ?という私もそういいつつ、しっかり3日間入っているんですよね。ちなみにどちらから来ているんですか?」
「二駅先から今日は歩いてきたんですよ」愛歩は純子の問いかけに少し心を開いて答えた。
「えっ、じゃあ、私と近いですね~~。私はこの隣町で今日は自転車できたんですよね」純子はニコニコ笑っている。
「いきなりでびっくりするかと思うんですけれど、今度、プライベートで会いませんか?どうせ近くなんだし。」
「えっ?」愛歩はいきなりの純子の誘いに少し面食らった。
「何か付き合って欲しい所があるんですよ」純子は少し警戒している愛歩の気持ちを無視して何の臆面もなく愛歩にどんどん入りこんでくる。
愛歩はいきなり声をかけられ、今度は突然、純子からお誘いを受けてどう返事をしていいのかわからずに面食らった。
「あっ、はぁ・・」愛歩は少し引き気味で純子をしげしげとみた。
「あっ、別に変なことに勧誘しようとしている訳じゃないの。誤解しないでね。なんか私の悪い癖がでちゃったみたい。だからみなに引かれてしまうのね。全然人見知りしないのよね」
「・・・はぁ」愛歩は純子の勢いに少し呆気に取られていた。純子は鞄からボールペンとメモ帳を取り出すと電話番号とアドレスを書いて愛歩に渡した。
「いつでもいいからここに連絡ちょうだいねっ。寂しがりやだからすぐに連絡を返すから」純子は愛歩にニッコリ微笑むと紙をそっと渡すと、休憩室をあとにした。愛歩は純子が去っていくと、愛歩は純子が置いていった紙を不思議な気持ちでしげしげと見つめていた。



愛歩は次の日も同じ仕事だった。昨日だけでもしんどい気もしたけれど、それでも重たい身体を引きずって集合場所にむかった。昨日と少し違う顔ぶれが集まっていた。その中に昨日みた、三沢純子という女性は来ていなかった。
(昨日、来るっていっていたのに・・・)愛歩は少し不審に思いながらも純子の代わりに他の人がきていたことに特に何も感じることもなく黙々と作業を続けた。
(・・・何か健気だわ)


愛歩はようやく、つらい重作業も最後の日だった。ようやく今日でこの大変な仕事から解放されるという開放感も手伝って愛歩は気合だけで何とか大変だった3日間を乗り切った。愛歩は帰り道は「ユース」に立ち寄り、3日間の給料を受け取ると開放感とやりきった感が手伝って愛歩は18時が過ぎてまだ明るい空を見上げてホッとしていた。愛歩の携帯がなっている。愛歩が携帯を見ると見知らぬ番号からだった。
「誰?」愛歩は首を傾げながら、電話にでた。
「・・・もしもし」
「あっ、飯田さんの携帯ですか」愛歩にはくぐもった声で聞こえた。
「あっ、はい。どなたですか?」
「私ですよ。一昨日、工場で一緒だった三沢純子ですよ」
「えっ、あっー」愛歩は少し怠い気がした。
「今日って仕事はもう終わりましたか?」
「ええっ。今から帰る予定なんですよ」愛歩は少し面倒くさそうに答えた。
「今日、水口さんから何か電話来てた?」純子は伺うようにきいた。
「水口さん?あっ、会社の人ですか?」
「そうそう」
「いえ、特には・・・」
「よかったわ。今日、バックれたのよ」純子は少しおどけるようにいった。
「えっ?一昨日も来る予定だったんですか?」愛歩は思わず絶句した。
「そうだよ。あなたと同じ3日間、お仕事が入っていたのよ」純子はこともなげにいった。
「へぇー、そうなんですね。それで大丈夫なんですか?」愛歩は少し驚きながらも感嘆した。
「多分、大丈夫じゃない。水口さんから何度も電話がきたけれど、無視したからクビなんじゃないかな?」純子はけろっとした口調でいった。
「・・そうなんですね」愛歩は少し引いたようなしどろもどろな返答になってしまっていた。
「気にしないでよ」純子は明るい声を出した。
「いや、別に気にはしていないけれど・・・」
「別にクビになったっていいのよ。元々いきたくなかったんだから」
「そう・・・なんですね」
「それより、明日か明後日、会いませんか?ヒマなんですけれど、どうしても付き合って欲しい所があるの」純子はグイグイは愛歩の中に入ってくる。いつしか愛歩は断れなくなっていた。
「どうせ、家が近いんだから会いましょうよ。大変な重労働からも解放されたんだし、ねっ!」純子に愛くるしい感じで言われると、愛歩は何となく断る勇気もなく、力なく頷いた。
「・・・わかった」



純子とは愛歩が住んでいる町田駅の前で待ち合わせをした。

愛歩が待ち合わせ時間ぴったりにつくと、待ち合わせ時間のドーナツ屋にはまだ純子は来ていなかった。

愛歩は駅前に立つ時計塔をみると、午後1時を指していたが、すぐに目を逸らした。午後2時の誰も来ない噴水の悪夢を突如、よみがえってきたからだった。愛歩が下を見ていると、肩をポンポンと叩かれ、愛歩が振り返ると息を切らしている純子がいた。

「ごめん、待たせた?」

「あっ、ううん。大丈夫よ」

「今日、原宿まで付き合って欲しいの」純子は少し申し訳なさそうにいった。

「原宿まで何しにいくの?」

「大好きなアイドルのショップにいきたいの。そのあと、最近、リニューアルアルオープンしたカフェがあるのよ。そこに立ち寄りたいの」

「・・・そう・・・」愛歩は少し引き気味にいった。

(・・・あんまり興味ないかも。必死に3日間働いたお金をあまり好きでないことに使うなんて・・・勿体・・ない・・)愛歩は冷静に分析をしながらもしぶしぶ純子についていき、電車に乗った。


純子について原宿までいくと土曜日の昼間だったせいかたくさんの女子学生や若者たちでごった返していた。

純子は原宿のアイドルショップを嬉々としながら微笑みを浮かべながら歩いていた。隣に肩を並べて歩いている愛歩は少し物珍しい気持ちで周りをみていた。

「飯田さんは好きなアイドルとかいるの?」

「えっ?好きなアイドル?別に・・・いないよ」愛歩は正直に答えた。

「ふーん。あっ、あそこなの。今日いきたかった所。Pingというアイドルのお店で一昨日出来たばかりなんだよ」

「・・・知ってる?」

「・・・えっ?知らないよ」

「最近、売れ始めたの。3年くらい売れない時期があったけれど、ようやく芽が出てきたのよ」純子は自分のことのように嬉しそうな表情(かお)を浮かべた。

「・・・そう・・」愛歩はどこか醒めた表情(かお)で問い返した。