真広と誠一は授賞式のあとで、どちらからともなく、旧交を温めた。ふたりで会場から近くのワインバーにいった。最初はぎこちない会話だったけれど、次第に昔の感覚がよみがえってくると何でも話せるようになってくると、誠一は本音で近況を真広に話しはじめた。

「子供はいるけれど、それを差し引いても女房とは別れたいんだよね」



誠一は投げやりに呟いた。

「でも子供もいるんだからそれなりに上手くやっていくんでしょ?」

「どーだろ?今は別居しているし、養育費さえ何とかなれば別れるんじゃないの?」

「社長やっているんだからそれぐらい払えるでしょうに」真広の所感に内心、誠一は動揺した。

「そうだな・・でも経営がなかなか思うように行っていないんだよ。何とかギリギリ持ちこたえているようなえ感じさ」

「ギリギリ持ちこたえているだけ凄いじゃん!」

真広はワインを一口飲んだ。

「おまえほど上手くは行ってないよ。おまえはやっぱりただ綺麗なだけではないよね。モンスターだよな」

「そんな事ないよ!仕事は上手く行ってるけれど、まだ自分を愛してくれる人とは巡りあえていないみたい」真広はさみしげに呟いた。

「君みたいに美貌もあって地位もある人なら男はたくさんよってくるだろうに・・・」

「誠一さんと別れたあとも彼氏が途切れたことはなかった。でも、私が求めている愛とはみんな違った。身体目当て、経済的な援助目当て、そんなダメ男ばっか・・・私はダメ男をよく引くみたい」

「俺もダメ男か、、、」誠一は自虐的にいった。

「違うわ。誠一さんと別れた後に付き合った男性(ひと)よ。でも私にも問題があるんだろうなってつくづく思ったわ。もう結婚できないんだろうなぁってつくづく思ったわ」真広はため息をついた。

「そんなこともないだろ。まだ、若いんだからこれからだろ。何にも焦る必要はないさ」

「私も本当は誠一と別れて本当は後悔してた。だってその後に付き合った男の人は全然、心の中で好きになれないんだもん。いつも二人で海で戯れていた頃をよく思い出したりしていたもん」真広はさりげなく本音を吐露した。

「その気持ちは信じてもいいのか?」

「自分勝手かもしれないけれど、おまえと別れて結婚したことをとても後悔したし、本当はずっとお前の事を考えていた・・・」

「・・・私もよ」真広は封印していた言葉を呟いた。

「俺たち、やり直さないか?」誠一の言葉に真広は胸が熱くなった。



「・・・・・」真広は熱い想いで黙り込んだ。誠一のその言葉は真広の心を凍りつかせた。ずっと待っていた人からの言葉を聞いて、緊張のあまり真広は身動きをすることが出来ずにいた。

「ダメよ。今、付き合ったら私は愛人になってしまうから」

「別れることは時間の問題から大丈夫さ」

「でもまだ別れてないから、不倫になってしまう」

「真広はおまえは意外と形に拘るんだな」

「当たり前よ!あなたから寄ってきてまるで私が略奪したように思われたりしたらやだもん」真広ははっきりといった。

「別に冷え切っているから争うこともないさ。まぁ、あるとしたら慰謝料の問題くらいかな?」

「私が訴えられたりでもしたらやだもん」

「ずいぶん用心深いな」誠一は苦笑いをした。

「そりゃ、そうよ。男はいざとなったらズルい生き物だから・・・」真広はそういいかけて言葉を止めた。

「そうだな、男はズルい生き物なのかもしれないな」誠一は自虐的に呟いた。「そんなことはないよ・・・人にはそれぞれの事情があるからね。今、言ったのは一般論よ。一般論!」真広は取り繕うようにいった。

「じゃあ、真広との復縁もしばらくお預けだな」誠一は静かにいった。

誠一の言葉に真広は誠一の言葉に頷いた。

ープルルー、プルルー、プルルー。誠一の携帯が鳴った。

「はい、もしもし、俺だけれど・・・わかった。すぐにいくよ!」誠一は電話を切ると急にせかせかしたような感じになっていた。

「ごめん。現場でトラブルが起きて、あいつらでも解決できないみたいだから、ちょっと会社に戻らなくてはいけなけなくなったみたい。悪いんだけれど、ここに2人分置いてくから、自分から誘っておいて申し訳ないけれど、ちょっといくけど、ごめんね。でも今日は会えてよかったよ」誠一は名刺入れから名刺を取り出し真広の前においた。

「もし何かあったらいつでも連絡していいよ。相談くらいなら乗るよ。また」誠一はそう言い残すとその場を去っていった。