藤本真広は真昼に真広は初老の村田医師と向かいあった。
「で、今日はどうされたんですか?」
「頭がズキズキ痛むんです」
「またお酒の飲み過ぎではないんですか?」医院長の村田医師は朗らかに微笑んだ。
「とてもしんどいんです。この世の終わりみたく気持ちが落ちてしまうんです」真広は甘えるような声でいった。
「何を言っているんですか?そんなに綺麗で経済力があるんだから何も困らないでしょう。あなたは恵まれているんですよ。男性にももてて、何も不自由していないでしょう」
「最初はこの人だ!って思うんですけれど、何ていうんですかね?虚しい気持ちになってしまうんですよ。とても虚しさに襲われてしまうんですよ。いろんな人から『あなたほど恵まれている人はいない』って言われるんですけれど、でも気持ちがとてつもなく落ちてしまうんですよ。今までは理由はわからないのですが、最近、少しわかったような気がするんですよ」
「何なのですか?」村田は穏やかに聞いた。
「本当の意味で誰からも愛されたことがなかったんじゃないかって思えてきたんですよ」
「でもご家族からは愛されてるでしょうに」
「家族はね、空気みたいなものだし、別に仲良くないし・・・そうじゃなくて異性から、深く愛されたことがないような気がして、特にここ数年くらい・・・」
「まだ若いじゃないですか?これからですよ!若いうちはいろいろ体験してこれからもっといい人に出会えますよ!」村田はそういうとペットボトルのお茶を一口飲んだ。
「自分でいうのもあれですけれど、男なしでは生きていけないってわかっているんですけれども、男の人なしでは生きていけないんですよ!」
「それでも虚しさは消えないんでしょう?」
「えぇ、そうなんです。好きでもないのに何となくタイプだと思ったら関係もっちゃうから。愛を知らないんでしょうね。私は」
「恋をするのはいいですけれど、身体の関係は自制した方がいいですよ。いろいろな病気もあるし、それこそ取り返しがつかなくなることもありますからね」
「どうしたらいいんですか?迷宮の中を彷徨っているかのようなんです。頭の中が混乱しているんです!」真広はぐねりだした。
「今、一緒にいる彼氏とも早く縁を切りたい!早く出ていって欲しいんですよ!うっとおしい!・・・おかしくなりそう!」真広はふさぎ込むように頭を抱えた。
「少し環境を変えてみてはいかがですか?ずっとそのままでいたらおかしくなりますよ」村田は優しく諭した。
「私の依存体質をどうにかしたいです!」
「自分で自覚があるうちはそう遠くないうちに治りますよ!一番厄介な人というのは自分がおかしいことさえ気がつけないものです。自分が正しいと思って迷惑をかけている人は何をいってもダメな人です。あなたはきちんと欠点を自覚されているじゃないですか?全然ダメなんかじゃないですよ!精神安定剤を処方しますのでしっかり飲んで無理せずに頑張って。君は頑張っているんだから!」
「ありがとうございます。優しいお言葉・・・」真広は呟くように言うとのろのろと立ち上がり、ゆっくり診察室を後にした。真広の弱々しい後ろ姿を村田は見守った。
真広はゆっくりと家路を歩きながら家に戻ることがこの世の苦痛にさえ思えた。
(生き地獄のようだわ・・・)
真広の気は滅入っていた。半年前まではときめきの愛される喜びの絶頂期にいたはずなのに、今では彼氏が銭ゲバぐらいにしか思えなかった。ほとんど働かず家にばかり這うようにいる彼氏が真広は嫌気がさしていた。いくら自分がアパレルの会社の社長だからっていっても、全く働かないのは真広はいただけなかった。
働かない上にすぐに癇癪を起こすし、真広の心の闇はあいつによって作りだされたようなものだ。真広は早くあいつとの同棲を解消したくてどうしようもなかった。一分一秒離れていたかった。
(どうしてあんなダメ男(お)を好きになったことがあったのだろうか?)
一度はあいつを好きになった自分が情けなくなった。結局の所は、さみしいがりやだからなんだと結論ずけた。昔から一人ではいられない性格だった。一人になるととてもさみしい。いつも誰でもいいから側にいて欲しいと渇望していた。いつも誰かのぬくもりを求めていた。たくさんのライバルを蹴落としてきたけれど、みんなに腹黒いとか野心家とかしたたかと陰口を叩かれたりしたけれど、内心は寂しさでいっぱいだった。彼氏がいない女を蔑んだりしていたこともあったりしたけれど、心の底にあったのは寂しさだった。
真広は重い気持ちで歩いていたけれど自宅のマンションが見えてくると自然と歩く足が止まった。真広は鞄から携帯電話を取り出すと電話をかけた。
「よぉ、真広?今日はどうしたんだよ?」
「あっちゃん、今日、ヒマ?ヒマなら夜、会えない?」
真広は男友達の一人、中山淳と飲み屋で待ち合わせをした。
「よっ♪おまたせ!」淳は真広を見るなり、いつものおちゃらけたような感じで声をかけた。真広は一人で日本酒を飲んでいたせいか、テーブルに突っ伏して寝ているようには淳には見えて、思わず溜息をついた。
「お前、俺と飲む前から一人で飲みつぶれて寝ているのかよ?折角、予定をキャンセルして駆けつけたのによぉ~」淳は椅子に座って注文をしていると真広はのろのろと起き上がった。
「あっ、来てくれたのね。待っていたわ」
「一人で飲んで結局、俺がおもりをするハメになるいつものパターンじゃん!お前のマネージャーじゃないんだよ!」
「はい、はい、好きなものを注文して。私が払うから」真広は目をこすりながら淳に言うと淳の顔は嬉しさに綻んだ。
「本当~?真広ちゃん、ご馳走様!すごいお腹がすいてたんだよ。ではお言葉に甘えて」淳はメニューを見ながら淳は店員を呼ぶ呼び鈴を押すと、淳は駆けつけた店員にどんどん高い料理をオーダーした。


