「お母さん・・」
「犯人を探してどうなるの?あの子が帰ってこないのに・・。だからあなたもあの子のことは忘れて幸せを見つけて欲しい。償わなくていけないのは私なの。あの子の願いはこの私がみつけてやりたいと思う。それをあの子も望んでいるはずだから!お願いよっ」祥子は泣きながら誠一に懇願した。
「私にあの子との失った日々を取り戻したいの」祥子はぐしゃぐしゃになった顔で泣いていると、店の店員も客も不思議そうに見つめていた。
誠一は祥子の想いに言葉を失い、目を赤くしながら泣きそうになるのを堪えていた。
誠一は涼太が入院している病院に想いを堪えてそっといった。こないだ病院で暴れたことで警戒されていることはわかっていたけれど、そっといくと愛歩と舞子がいた。誠一はドアの隙間から中の様子をじっーとみていた。愛歩が舞子を励ましている姿が見えていた。
「きっと意識が戻ってくれると思うから、信じましょう」
ーこれ以上誰かの不幸や報復を望んでいないと思うー
ーあの子の命がきっと誰かを救ったんだと思う。誰かの犠牲を救ったんだと思うー
ーあの子ね、クリスチャン系の学校に通っていたけれど、そのことにも理由があったと今さら気がついたわ。私が思っている以上にいい子だったことに今さら気がついたわ。母親、失格だわー
「お前は神か?」誠一は一言つぶやいた。
誠一は病室から離れると病院を出て行こうとした時だった。
「沢村さーん」誠一は愛歩の声に振り返った。
「話したいことがあります。屋上で話しませんか?」
屋上は思いの他、風が冷たかった。
「やっぱり、真広さんのことで私を警備会社で働かせたんですね」愛歩は誠一に問いただすようにいった。誠一は黙ってうつむいている
「私を利用したんですね!」
「さぁな。君だって仕事がなかったじゃないか?半分は救ってあげたんだよ」誠一は開き直るようにいった。
「救ってあげた?自分の復讐のために、松永さんに揺さぶりをかけるために、私を一つの駒に利用しただけじゃないですか?誰がみずから恨みを買いたい人間なんているんですか?」愛歩も負けじと言い返した。
「・・・」誠一はだまり込んだ。
「あなたに利用されていたことを知って警備会社やめました」
「ふん、あっそ」
「これからも仕返しするんですか?」
「・・仕返しって子供の喧嘩みたくいうなよ」誠一は愛歩に本性を隠すことなく言い返した。
「君もさ、あの松永っていう男に情が移ったか?あいつが意識が戻ったら言ってやってくれ!もうあの事件の忘れて生きていけって」ぶっきらぼうにいいながら誠一は涙声になって、涙を見せないように愛歩の顔を見ずにいった。
「えっ?」愛歩は誠一の思いがけない言葉に少し驚いた顔をした。
「もうあいつのことは忘れて、おまえはおまえの人生を生きていけって伝えろよ」誠一は愛歩にそれだけ伝えるとあふれる思いに堪え切れずその場を立ち去った。愛歩は誠一が立ち去ると呆然と立ち尽くした。
愛歩も思わず涙ぐんで、袖で涙を拭いた。