
判決の言い渡しは、午後。
身体の痛みはだいぶ引いたけれど、
朝からずっと、胸のざわつきが収まらない。
気持ちを静めたくて、
私は銀座でひとり、お茶をした。
「身はたとひ 武蔵の野辺に 朽ちぬとも――」
ふと、吉田松陰の辞世の句が頭をよぎる。
たとえ望まない結果になろうとも、
気丈でいられますように。
一生懸命心構えしようとした。
平和な朝の光が差し込むカフェ。
裁きを待つ囚人のような心境の私と対照的に、
楽しげに街を行く人々が、ひどく羨ましく思えた。
行こう。
覚悟を決め、紅茶を一気に飲み干した。
裁判所に到着し、
ロビーで友人たちの顔を見た瞬間、
張り詰めていた糸が、ふっとほどけた。
法廷前の廊下は、意外にもざわざと、
人で溢れていた。
私と同じ時間帯に、
10件以上の判決が入っているらしい。
「私だけじゃないんだ」
少しだけ気が楽になった。
判決は、開廷表の順番通りに読まれるわけではない。
そして、名前も呼ばれない。
自分の「事件番号」だけを頼りに、その時を待つ。
けれど、緊張のせいか、
覚えたはずの番号に自信が持てない。
何度も開廷表へ足を運び、
自分の番号を指でなぞった。
そして、定刻。
裁判官3名が入廷し、一礼する。
法廷が、静寂に包まれた。
書記官が事件番号を読み上げ、
裁判長が淡々と主文を告げていく。
(大丈夫。大丈夫。)
心の中で呪文をかけるように繰り返すけれど、
膝に乗せた手の震えが止まらない。
開廷表では、一番最後に記されていた私の番号。
それが、突然、中盤で読み上げられた。
――来た。
私は息をのみ、ゆっくりと顔を上げた。


