「………………。いいものってなんですか…?」
恥ずかしいからっていつまでも騒いでいたら余計に見苦しい。私が変なブログを書いてたところで多分コウさんは何とも思ってないんだからいいかげん落ち着かないと…と思い、顔を覆っていた両手をゆっくり下ろす。
「はい!今度のフェスのチケット。これで機嫌直してくれん?」
「えっ…、わぁ、チケット!?」
私の予想を遥かに超えた“いいもの”にすごく驚いた。何だかこれじゃあ、いいものにつられたみたいになっちゃったな。実際つられたようなものなんだけど。
「ありがとうございます!いただいていいんですか!?…あ……でも…」
(フェスが開催される会場っていったら……)
「また遠慮しよろー?これは俺が招待する分でもらったやつやけん心配せんで大丈夫よ」
「いえ……、遠慮というかですね…
そのフェスって東京であるんですよね?」
「うん、そうだよ。1月7日の土曜日」
「そっか、ですよね。………うーん…」
せめて福岡とかなら聡史さんに言わなくても大丈夫かもしれないけど、さすがに東京まで黙って行くわけにはいかない。かと言って、私ひとりで東京に行くのを聡史さんが許してくれるとは思えない。どうにかして説得出来るかな……
「もしかして…忙しい?前もってチケットのこと伝えておけばよかったね」
「………………」
ターキッシュの他にもたくさんのアーティストが出演するんだから、きっと招待席を用意するのも簡単じゃなかっただろうな。そんな貴重なチケットをもらっておいて、もし聡史さんを説得出来なかったらそれこそコウさんに申し訳が立たない。私がチケットを受け取らなければ他の方に譲られるだろうし、やっぱり今回はお断りしよう。
「コウさん、すみません。私…」
「っ…あかりちゃん…!俺…」
うっ、、被ってしまった。
……ん?コウさん。なんか思い詰めたような表情してるけど、どうしたんだろう?
「あ、ごめんねあかりちゃん」
「いえ、コウさんからどうぞ」
2人で照れ笑いしながら譲り合う。くすぐったくて何だか変な感じ。
「俺は後でいいよ。なぁに?」
「……はい、あの…」
せっかく私のためにチケットを用意してくれたのに、受け取れないって言ったらガッカリさせちゃうかもなぁ。だけど、早めに言わないと更に迷惑かけちゃうし…
「…………、すごく行きたいんですけど東京に行くのは多分主人が許してくれないかな…。だから、すごく残念なんですが今回は…」
申し訳なくて少し俯きながら伝えたけれど、コウさんからは何の反応もない。小声だったから聞こえなかったのかな。ご厚意に背くんだから、ちゃんと顔を見てもっとしっかり言わないと。
「東京に行くとなると、主人の許可を得ないとなかなか難しくて。なので、申し訳ありませんが今回はご辞退させて下さい。せっかくお誘い下さったのに本当にすみません」
(………………………。)
あれ?
………………
聞こえてるよね?
私の顔をじっと見てるのに何も言わない。というか、焦点が合ってない…?
もしかして怒らせちゃったのかな、、「……………、コウさん…?」
心配になって声をかけると、突然コウさんが大きな声で笑い出した。
「はははっ!ごめんごめん、いきなりこんなこと言ったら困らせちゃうよね。無理しなくて良いよ」
「っ…、いえっ、無理だなんて💦そんなことないです。コウさんのお気持ちすごく嬉しいです。私の方こそごめんなさい」
急にびっくりした、、
怒ってるわけではない…のかな?
でも、そうじゃないとしたら………
「あの…、コウさんは私が結婚してることはご存じでしたよね?初めて公園でお会いした時に近くのマンションに主人の親戚がいるとお話ししたかと思うんですが…」
「うん、知ってるよ。あのマンション、旦那さんの親戚のだったんだ」
「あ…、はい。そうです」
一瞬、私が結婚してるって知らなくて動揺したのかと思ったけど、もし知らなかったとしても固まっちゃうほど驚くわけないもんね。
だとしたら、さっきのは何だったの…?
「どうかした?あかりちゃん」
「ええと…、ご気分が悪かったりはしませんか?コウさん。もし体調が優れないのなら言って下さいね」
「俺?全然何ともないよ。なんで?」
様子が変だから…とは言いづらいし、何ともないって言ってる人に休めって言うのもなんかおかしいし…
「ほら、あかりちゃん。橋を渡りきるまであともう少しだよ~、頑張ろう!」
「えっ…、は、はい」
大濠公園の真ん中の橋を渡り終わって、ぐるっと半周歩いてくる間、人が変わったように喋っていたコウさんは、車に乗ってからもずっと喋り続けていた。
まるで、私に喋る隙を与えないかのように。
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今日7月7日はあかりちゃんのお誕生日です
Happy Birthday