「じゃあまずは道具を揃えて下さい。」
そう言われた僕はどこかの脱走犯のように問屋めがけて走る。
美容の‘び‘の字も知らない
‘元お好み焼き屋店員’の僕は
道具は何も持っておらず、リストに書き留めた商品を買い込む。
美容学生なら必ずしも持っている
ドールヘッド(練習用のマネキン)も購入し、Tさん家に向かう。
まずはブロードライの練習しよう」
デモンストレーションをしてもらう。
「こんな感じでやってみて」
と買いたてのブローブラシを使い
練習を始める。
美容学生の頃を思い出しながら試みる。
・・・・・。
記憶がほとんどない。
学生時代ほとんど、イルマティック酩酊ボーイの僕は授業をまともに受けた記憶がない。
免許もその場しのぎスタイルでくぐり抜けたのでとにかく何も出来ない。
ブロードライがカタツムリのように遅い僕を見かねて、Tさんは用事を済ませに一度その場を離れる。
一時間が経ちTさんが戻ってくる。
まだ終わらない僕。
呆気に取られるTさん。
「こんなの10分で終わるよ」
と目もくらむような速さで終わらせる。
そして自分の現状に気づく僕。
“ヤバい俺なにも出来ない”
そうやってイルマティックな僕の
セッションヘアースタイリスト
としての毎日は続いていく。