《太刀魚のハーブグリル》 数年前までは、よく釣りに行っていた。太刀魚もよく釣った。太刀魚は真冬のキンと凍える夜の海で釣る。
和歌山や明石以西まで行く時は良かったが、泉南辺りの波止や武庫川の河口付近で釣った太刀魚は何だか本当に食べても大丈夫なのかと不安に思った。なんたって大阪湾なのだから・・・。真っ暗でよく見えないのだが、テトラポットや波止に当たる‘タップン...タップン...’という粘度を伴った鈍い波の音が耳に響き、胃酸がこみ上げてきそうな油臭い匂いが潮の香りよりも確実に勝っていて鼻につく。明るい時に見たらきっとゾッとするはず。でも釣り仲間達は『太刀魚は回遊魚だから大丈夫。』と言い張る。釣った魚は必ずきっちり綺麗に食べるというポリシーの元に釣りを楽しむ私は、どうしても気が進まないのだが、太刀魚独特の引きと、釣り上げた時の美しさが大好きだったので、誘われたら、断り切れずに付いて行ってしまっていた。
しかし、単純な性格故に、いつも行ったら行ったでいつの間にかやる気満々に・・・。一ちょ前に「私は今日は一ひろ半だと思うな。」とか、棚を予想したりしていたっけ・・・。2時間ほど全く当たりが無い夜、沈黙を破り1匹釣り上げたこともある。野生の勘は結構ある方じゃないかな。Bossの缶かんのあの男の人がツルッパゲ状態でデザインされBozuとパロられたTシャツ、釣り仲間内では罰ゲームのように扱われていたが、幸い着ろと言われた事はない。仕事に余裕が出来たらまた釣りに行きたいな・・・。
釣り上げた太刀魚の映像は一番美しい情景として脳裏に焼き付いている。目を瞑ると何度も何度も鮮明に再生出来る。
ライトに照らされ暗黒の中に一層浮かび上がる、銀色の羽衣がたなびくような螺旋を描き輝く背ビレ。一度で良いから海の中で泳いでいる姿を見てみたい。太刀に似ているから太刀魚と名付けられたらしいが、泳いでいる姿が立っている様に見えることからタチウオと呼ばれるようになったという説もある。スクーバダイビング熱にも火がつきそうになってきた・・・。
余裕のある生活がし~~~た~~~い~~~。

スーパーの魚売場でほんの数分間、色々な思いが交錯した。周りの人達は私がこんなこと考えながら太刀魚の前に居たとは思いもしないだろう。
『やっすい太刀魚買うのにどんだけ迷ってんねん。』なんて思われていたに違いない。
いっつもあんなに寒い思いをして苦労して釣り上げていた太刀魚より、数倍ぶっとくて、その上子持ちのぶつ切り2切れが、480円で売られている。そして更にそこから3割引。鮮魚売場全品3割引デーだった。336円かー。釣りの餌代より安い・・・。

両面に塩をしてサッと熱湯を掛けてすぐ水洗いした後、水気をふき取り、あらためて塩胡椒して少し置き、タイム、ディル、ローリエ、ガーリックパウダー、ヴァージンオリーブオイル、白ワインを適当に掛け、オーブンでグリルした。
美味しかった。
太刀魚を買って料理したのは初めてだった。釣ったものは新鮮だから、和歌山や明石より西で釣った時は刺身で、大阪湾で釣った時は塩焼きでいつも食べていた。
太刀魚の子(卵)を食べるのも初めてだった。大味だったけれど、美味しかった。子を持っているから煮付けがいいのかなと思ったけれど、グリルしてみて良かったと思う。
最近魚料理が増えてきた。週3日くらい魚を食べるように出来たらいいなと思う。