巡礼を終えてマドリッドに降り立ってから私は違和感を覚えていた。
目が合った人でさえ笑顔を交わすこともなく、そこに誰も存在していない様にすれ違う。
旅の最終日、楽しみにしていたレストランに足を運ぶとその時間は貸切になっていた。
これも何か意味のあることだろうとカミーノマインドで前向きにとらえ、友人がすすめてくれていたお店へ向かうことにする。
するとどうだろう。
そこには仲の良い友人が食事をとる姿。
前日に会っていた時に、色々と予定があるようだったので声を掛けるのを諦めていたが、出会う人には出会えるもの。
私達は驚きと歓喜の声をあげ、カミーノの思い出を振り返りながら最後の夜を過ごした。
あれ程の道のりを歩き、あんなにも素晴らしい景色に触れたが、お互いその様なことは大して重要ではなく、巡礼を振り返る時、何より一番に思い出すのは友の顔だった。
私達はエデンを歩いていたのだと言うことで見解は一致し、そして涙した。
一度でもあの楽園を歩いてしまった私達がこれから現実を生きていくのかと思うと憂鬱にもなるが、いやいや、あの美しい日々こそがこの先の道標となりうるに違いない。