留学時代、フィレンツェの映画館で『魔女の宅急便』を観たことがある。


終演後、イタリア人の観客が賑やかに帰っていく中、僕と連れ立った友人らは涙に暮れたまましばらく立ち上がることが出来なかった。

皆、自分の姿を主人公に重ねていたのだ。


故郷を離れて暮らすことへの、期待、寂しさ、虚勢、意地‥‥。

喜びも悲しみも、彼らはいつも思いがけない風姿でやってきては、良くも悪くも僕たちを驚かせた。

ままならない毎日だったからこそ、人の優しさが心底染み入った。

思い返すと笑えてしまうほど不器用な日々だったが、愛おしいことに変わりはない。


あの時、僕達もまた魔女の習いと同じく胸いっぱいに憧れを抱いて修行をしていたのだ。