『アウシュヴィッツ・レポート』は収容場を決死の覚悟で抜け出し、内部の惨状を訴え12万人のユダヤ人を救った人物の実話に元づいた映画である。
ホロコーストを描いた映画は幾つか観てきたが、本作はよりリアルな衝撃を突きつけてきた。
舞台となる強制収容場は私も実際に足を運んだことがある(画像参照)。
悲劇から60年近くの時が重なったその地は青々と緑が広がり、それは映画のセットであると言われれば、そうかと納得してしまうような無機質な静けさがあった。
資料を目にし、遺産に触れ、自分なりに過去と繋がってみたが、しかし私のイマジネーションは現実の足元にも及んでいなかったと、この作品を観て痛感した。
私は彼の地まで赴き何を感じてきたのだろう。
身体的な拘束。 精神的な拘束。
否定される絆。 否定される真実。
観ていてこんなにも閉塞感を覚える映画があっただろうか。
始まりのテロップとエンドロールに流れるクレジットは哀しくも非情に輪廻する。
私達は今この身の隣に、そしてこの心の中にもジェノサイドの影が全く存在しないとは言い切ることができないということを忘れてはいけない。