必殺技 | 乾燥日記

必殺技

人は皆、必殺技を持っている。

しかし、殆どの場合、人はそのことに気づいていない。

必殺技はあるジェスチャーにより、あるタイミングで発動する。

例えば3分間だけ戦える彼なんかは、手を十字形に交差させると必殺の光線が出るのだ。

人は誰もがヒーローになれる。

ただ、そのことを知っている人は、少ない。



「ねえねえ、今日のランチ何にする?」
「うーん、パスタかなあ、中華かなあ。」
「あれ?お局さま、誘った?」
「ううん、トイレに行った隙に出て来ちゃった。」
「うふふ、うまくやったわね。」
「あなただって、資料室に財布もっていくなんて、ずる賢いわ。」
「お互い様ね、うふふふふ。」

「ちょっと、貴方達。」

「はっ、お、いや、田中さん!!」

「お昼休みは12時15分からでしょ。今はまだ10分よ。」

「ええと、もう午前の仕事も終わったので。」

「ルールはルール、小さな事でも守らないと、大きな事故に発展するの。
 わたしだって、こんなこと言いたくないのよ。
 ただ、貴方達のためを思って言ってるの。」

「はあ。」

「ところで、貴方達、何を食べるのかしら?」

二人はアイコンタクトを交わし、咄嗟に判断した。

「これです。」

とんこつラーメンの専門店が会社のすぐそばにあり、
お局・田中がそこのとんこつが大嫌いということを二人は知っていたのだ。
だが、そんな小細工をする必要はなかった。

メンをすするジェスチャーは、このOLにとって必殺技のポーズだったのだ。

手から出た怪光線は、お局・田中の体を一瞬の内に超高熱化し、
溶けてなくなってしまった。


「・・・じゃあ、ランチいこっか。」