数日後、晴彦の妻、京子から会社に電話が入った。

「柳沢さん?田中の家内です」

「はい、柳沢です。ご無沙汰しております」

「近くまで、お買い物に来たのだけど、お昼ご一緒にいかが?」

 裕子は気がすすまなかったが、有無を言わせぬ気配を感じ断り切れなかった。

「パレスホテルのテラスレストランご存じ?」

「はい」

「そこで、待っているわ」

 受話器をおいて茫然としている裕子に、

「大丈夫?顔色が悪いけど」

 真美が心配そうに声をかけた。

「あ、大丈夫。ちょっと出かけるわね。お昼一緒に行けないけど」

「お弁当でも買ってきて食べるから、お土産にスィーツ忘れないでね」

「了解」

 裕子は明るく答えたが、重い足取りでパレスホテルに向かった。

 

 約束はしたけれど、どんな顔で京子に会えばいいのか途方にくれた。なぜパレスホテルを指定してきたのだろう。晴彦は、京子のことも家庭のことも一切話すことはなかった。京子は留守がちの夫に不信は抱かないのだろうか、といぶかったこともあった。とうとう京子に二人の関係を知られてしまったのだろうか。

 晴彦は以前から裕子が好きだと言ってくれていたが、それ以上言葉にすることも、先々を約束することもなかった。京子に問い詰められたら全てを隠しおおせるだろうかと今更ながら不安になった。

 晴彦に連絡をしてみようかと、携帯を手に何度か試みたが留守電のテープが応答するだけだった。