新年度を迎えて晴彦は、広報部長の兼任を解かれ、常務取締役としてゴルフ場建設に専念することになった。毎年出かけていた、マスターズトーナメントへの海外出張はなくなり、裕子の部屋でテレビ観戦した。
最終日は月曜日の早朝に衛星中継される。朝方ベッドの中でテレビのスイッチを入れた。2001年のマスターズは昨年の全米、全英オープンに続きタイガーウッズが大会を盛り上げていたが、毎年何かが起きドラマテックな展開をするので、最後まで目が離せないと、晴彦は解説する。
「この試合のために、半年もクローズしてコースコンディションを整えるのからね。きれいだろう、ホールごとに金木犀とかハナミズキとか花の名前がついているんだよ」
裕子にはグリーンの美しさはテレビ観戦でも十分堪能できたが、晴彦はその場にいられないことを、しきりに残念がった。
「今年もオーガスタに行きたかったな、いつか一緒に行こうね」
晴彦は背後から裕子を抱きしめてささやく。執拗な晴彦の愛撫の手から逃れ、裕子はシャワーを浴び朝食の用意をした。
ハムエッグにトーストそしてコーヒーの香りが漂うころ、晴彦はベッドから出てきた。
「なんだか新婚さんの気分だね」
晴彦は、入れたてのコーヒーをカップに注ぎ一口飲んだ。
「何度目のですか?」 裕子は化粧しながら、鏡の中の晴彦を目で追う。
「もちろん裕子と初めての」晴彦は背後から絡みつく。
「それでは、だんな様、私、先に出社しますので、ゴミ出しお願いしてもよろしいですか」
「えっ、冗談だろう。僕を置いていくのかい。今日ぐらい休めないの?」
「二人で?なんて言い訳するの?」
「マスターズテレビ観戦に決まっているだろ、僕はね。君は他にも言い訳ぐらい思いつくだろ」
裕子は一瞬気持ちが揺れたが、
「では、ゴミ出しのお願いは撤回しますが、鍵を置きますから、お先に」
ゴミ袋とヴィトンのバッグを手に玄関ドアを背にした。
晴彦が出社したのはお昼近くだった。社長が不在で役員室は閑散としている。先に出社した裕子がコーヒーを晴彦の席まで運んできた。
「ありがとう。これ返すよ」
晴彦はポケットから裕子の部屋の鍵を出し、デスクの上に置いた。
「はい。お預かりします」
鍵をポケットに滑り込ませ、裕子は花を直しながら話しかけた。
「ご出社、お早かったですね」
「誰かさんがいない部屋にいても仕方がないからね。タイガーウッズがデェバルと一打差で最終ホールを迎え、バーディーで上がり優勝したのを確認して出たよ」
晴彦との関係も長くなると、裕子は秘書と愛人との顔も使い分けられるようになった。
「きれいなゴルフ場ね」