元旦のお昼近くに裕子は目覚めた。パジャマ代わりのトレーナーの上にカーディガンをはおり、階下の郵便受けまで年賀状を取りに行った。輪ゴムに留められた年賀状の束をパラパラとめくってみると、毎年届いている京子からの年賀状が見当たらない。どうしたのかと不信に思ったが、晴彦との生活を見せ付けられるのは辛く、心の隅で安堵した。
二日の早朝、晴彦から電話があった。
「ゴルフの用意できている?泊るつもりで来てね。近くまで行ったら又電話するから」
キャディーバック、シューズに着替えの入ったボストンは用意してあった。行き先も宿泊先も知らされず裕子は戸惑ったが、シワにならないワンピースと真珠のネックレスを加えた。三十分もすると晴彦から電話が入る。裕子は急いでマンションの玄関へ下りると、紺色のBMWが駐車してあった。晴彦は手際よくキャディーバックをトランクに、ボストンバックを後部座席に積み込み、助手席に裕子を乗せ車は出発した。
いつもなら都内を抜けるだけでも二時間はかかるのに、あっという間に東名高速に入った。お正月の東京は人も車も少なく空気も澄んでいて、見慣れた景色が新鮮に写った。
裕子の顔が和らいだのを見計らったかのように晴彦は話しかけた。
「川奈ゴルフって知っている?」
「いいえ……」
「そうか、ゴルフをする人は誰もが憧れるリゾートホテルだよ」
言われてみれば、裕子も人気のあるゴルフ場としてゴルフ雑誌で見たことがあるような気がする。
「赤い屋根の白いお城のようなホテルは歴史と格式が売りでね」
運転しながら晴彦は、助手席の裕子に微笑みかける。ここ何日か沈んでいた裕子の気持ちが次第に晴れてきた。
お昼前には真鶴道路から国道一五三号に入り、海岸線を眺めながら伊東市内に入り川奈ホテルに到着する。富士を背に相模湾を見渡す、赤い屋根のホテルが見えてきた。
「ホテルの古さに驚いた。これが歴史っていうやつさ。格式っていうのは料金のことだろうね」
笑いながら話す晴彦に、釣られて裕子も笑った。ラウンド前にホテルのグリルで昼食をとる。名物のカレーを注文した。ランチが終わると、晴彦に席立てられるようにコースに向かう。
「ここは日本で最初のリゾートゴルフ場でね、ホテルに宿泊した人だけがプレーできるんだよ。今日回る大島コースは日本にゴルフを広めた大谷光明の設計、海側の富士コースは、その後にイギリス人が設計したんだ。その人の名前を取ってアリソンバンカーって背丈ほどのバンカーがあるんだよ。難しいコースで今の君にはまだ無理だから、もっと上手になったらやらしてあげるよ。トーナメント会場なので毎年テレビで放映するから見てご覧」
ホテルからコースへ向かう間、晴彦はここ数日の裕子との隙間をうめるように話続けた。