ゴルフトーナメントが終わると展示会が始まる。来シーズンの新作クラブやグッズが発表され,晴海を皮切りに中京、関西と会場が移動する。晴彦は兼任している広報部長として忙しさを極めた。月に二、三度、清算のため裕子の元に立ち寄り領収書の束を置いてゆく。伝票を付けて課長、室長の判を押し経理課に回す。殆どはカード決済になっており、晴彦の口座に振り込まれていたが、ときおり仮払いとして現金を調達することもあった。領収書を見ると晴彦の一部始終が見えてくる。それらの中にパレスホテルの領収書も含まれていた。手にすると裕子には、晴彦の言葉、仕草の一つ一つが思い出される。度々会うことは出来なかったが、スケジュールを管理することで、いつも晴彦と一緒のような感覚にとらわれた。そして晴彦から突然電話があり逢瀬を重ねる。裕子は待つ身の女になっていった。


 

クリスマスの近づいたある日、「中通りのミレナリオ見て帰りましょうよ」と、真美に帰り道を誘われた。前年より東京駅と有楽町の間に、イタリアのイルミネーションが展示されていた。人ごみで混雑しているので裕子は通ったことがなかった。真美とともに東京駅丸の内口に出て、中通りを有楽町方面に歩いてみた。

「時の向こうを見つめて」と名付けられたイルミネーションは、オレンジを基調に赤く彩られた光のトンネルだ。その下は冬の夜とは思えないほど暖かだった。行きかう幸せそうなカップルを眼にし、裕子には羨ましく思えた。晴彦は決して人前で腕組みして歩いてはくれないだろう。晴彦と自分には目指すべき明日などあるのだろうかと、今更ながら二人の関係に気づかされた。

 

 クリスマスイヴは日曜日だった。晴彦は良い父親として家庭に帰っていくだろうという思いと、もしかしたら一緒に過ごしてくれるかも知れないと、かすかな期待があった。裕子はプレゼントとしてマフラーを用意したが、金曜日の夕方になっても晴彦からの連絡はなかった。ビル風が吹き、いつもより寒さが身に染みコートの衿を立て家路を急いだ。

 イヴ当日裕子は、小さなケーキとワインを用意した。照明を消しケーキのローソクに火を灯し、二個のワイングラスを並べてボルドーの赤を注ぐ。裕子のグラスをもう一つのグラスにあわせ「メリークリスマス」と目の前にいない晴彦と祝った。

 ケーキのローソクが溶けボトルが空になるころ、涙が自然に流れ出た。晴彦を知るまで感じなかった寂しさが、裕子を襲ってきて嗚咽に変わった。

 テーブルの上の携帯が晴彦の着信音を告げる。

「メリークリスマス」晴彦の声が静かに流れた。

「今どこ?誰かと一緒?」 

涙声の裕子に、気づいた晴彦は、

「ごめんね。寂しい思いをさせて」と電話を切った。