才能
世の中には才能がある人がいるものだ。記者という仕事をしているので、そういう人を間近でみることもあるが、私が1番才能があると思っている人は、実は、仕事関係ではないところのつながりがある。
小学時代からの同級生のSくんは、絵を描かせたらとんでもない才能を発揮する。
小学校4年ぐらいの時だったか、学校で写生大会があった。
学校の屋上から町を見下ろして水彩画を描くというものだった。その作品が各クラスの廊下の壁に張り出されたのだが、一枚だけ、ものすごいのがあった。
その絵だけ、奥行きを感じさせるものだった。今思えばパースペクティブというやつだ。それが完璧、パーフェクトなのだ。
他の同級生の絵は、どこかがへんだったが、彼のものだけがパーフェクトなのだ。
当時私は、Sくんとまだ知り合いではなかったが、彼の名前を覚え、チェックするようになった。
彼のクラスをのぞいて、彼の絵が張ってないかをチェックし、張ってあると見に行った。
中学生になって同級生になった。中学では3年間、クラスメートだった。
Sくんは高校で私と同じ硬式野球部に入ったが、打撃練習の手伝いをしていて打球を頭に当ててしまった。そのお陰で手が不自由になってしまったので、「ああ、あの絵はもうみられないかな」と失望したものだ。
ところが彼は、動かない手で東京の国立大学の絵画科に現役合格してしまった。たいしたものだ。
彼の才能は、やはり開花し、その後、ディズニー映画社に勤め、、現在は国営放送の番組でアニメを描いている。
アニメーターを志す人が毎年かなりの数いるはずだし、そういう人たちと常に競争しながらその業界で生き抜いてきたのだから大したものだと思う。
多分、パースペクティブというのは学べば実践できるのだと思う。しかし、それを学ぶことなく、自分の感覚でそれを実践していた、というのは、学んでできるようになった人の何百倍もすごいのではないかと思う。
「どうやってあんな絵を描いたんだ」と小学4年生の時のことを聞いたら、「いや・・・・。見えたように描いただけなんだけど」と言っていた。才能というのはすごいものだと思う。