続続・グループ送迎
グループのみんなであるルールを作るとき、「効率」や「便宜」を求めると、大きな間違いをすることがあります。
私が東京に住んでいた時に、考えさせられることがありました。
私たち夫婦は、郊外にマンションを買って住んでいたのですが、ある日、マンションの総会でこんな議題が持ち上がりました。
「マンションのベランダに布団を干している人がいるが、ああいうことをされると、マンションの格が下がる。あれをしないマンションの住民にとって、資産の価値を下げられてしまう行為だから、禁止すべきだ」。
我が家では、「何を馬鹿なことを言っているのだろう」と思い、無視してベランダに布団を干していたのですが、今度は、「あれは消防法に引っかかる違法行為」だというのです。
消防法に引っかかるなら、消防署が注意に来るだろうから、注意に来るまで干して置きましたが結局来ませんでした。
ところが今度は、その議案が総会の多数決で可決されたとのこと。
私は、「総会の議決というのはマンションの住民全体の公益的な問題だけに拘束力を持つ」と思ったので、放って置きました。我が家の資産である自分の部屋で、どうしようと自分の勝手です。
住民総会の多数決を得れば、個人の資産、権利にまで拘束力を持つなんてことはありえないですから。
住民総会で「あの家の資産を没収する」と決まったら没収できますか? 住民総会で「あの家の家族は皆死刑だ」と決まったら死ななければなりませんか? 個人の権利は全体の利益より優先されるべきなのです。
我が家のお隣に小さなお子さんがいる奥様がいらっしゃいましたが、この住民総会のプレッシャーで転出なされました。お隣には、ぜんそく持ちのお子さまがいらっしゃったのです。だから、できるだけ清潔な布団でお子さんを寝かせるために、干していたのです。
本当に気の毒な結末になってしまいました。
グループによる暴力って多いですよね。
一人一人の生活をよりよくするためにグループを作り、みんなの力でグループ全体がよくなるならわかります。でも、その結果、一人でも不幸になるのなら、そのグループの方針というのは間違っていると思うのです。
たとえ、全体の99パーセントの人が利益を得ることでも、その決定によって1パーセントでも不幸になるのなら、そんな団体行動をしない方がいいのです。
そういえば、私が小学生の頃、遠足のお菓子を巡って、トラブルがありました。遠足の前々日の学級会で、先生が「遠足のお菓子は200円以内にしなさい。お弁当やフルーツなら良いが、お菓子には金額の制限をつけます」と発表しました。
同級生から「それじゃあ、少なすぎる」と反論が出ましたが、先生はがんとして譲りません。結局、先生の指示通りの金額になりました。
私は家に帰って母にそのことを話しました。「これじゃあ、遠足が楽しくないよ。なんでそんなルールを作るんだろう」
母の答えは意外でした。「クラスには、おうちにお金がなくて、親にあんまりお菓子を買ってもらえない子もいるんじゃない。そういう子が惨めな思いをするとしたら、遠足なんて楽しくないでしょう。みんなが楽しく遠足に行けるようにっていう配慮なんじゃないの」。そして、母はこう付け加えました。
「みんなで何かを決める時には、一番弱い立場の人の気持ちを考えて決めないとダメだよ。お前は、いつもそういうことを考えながら行動しないといけないよ」
当時の私は、母のこの言葉の意味がわかりませんでしたが、今はよくわかります。
私はこの容疑者を断じて許せません。どんな理由があろうとも、他人の子供に手をかける行為はあってはなりません。
ただ、グループの論理で個人を追いつめるような思考回路を日本人が持っているとしたら、こういう事件はなくならないと思うのです。