日本社会科教育学会編集。

社会科教員であるならアカデミックな場でどのような議論が行われているか知りたくて

学会員に入会したら送付してくれた学会誌。

 

いくつかの論文が収録されているが、

まとめ方がお手本になるので、良かった。

 

自分は社会人になってから通信教育で教員免許状を取得したので、

社会科に関しても特定のゼミに所属しておらず

人脈もコネも作法を教えてもらった経験もないので、

現場での教育研究が的を射ているのか外れているのかわからなかったので

このような読み物に出会えるととても助かる。

 

しかし、M-GTAやルーブリック評価を開発したり、大学教員と連携したり、

とても部活動指導をしっかりやったり、分掌の仕事を複数抱えている教員にできる研究ではない。

中学校現場の問題は、力がある教師にばかり仕事が集まり、力がある教師が教科研究する時間が与えられないことであると私は思う。

 

内容は

《研究ノート》《実践研究論文》《実践研究ノート》のそれぞれに1~2本の論文(?)、巻末に《書評》《図書紹介》《第71回社会科教育学会全国研究大会報告》が掲載されている。千葉大学の戸田先生が学会長だったことを知らなかったので、ちょっと驚き。これも縁ですね。

 

《研究ノート》主権者教育において高校公民科教師が外部人材と連携するプロセスに関する研究

新設「公民」のこともあり、日本の主権者教育の重要性を改めて認識した。M-GTAを用いたインタビュー分析で外部連係を積極的に行う教師のプロセス(ストーリー)や課題意識を明らかにしている。30の概念と「実践力の育成」「多様な出会い」「学校文化の乗り越え」の3つのカテゴリーを生成した。これ、主権者教育だけではなく先進的な取り組みをして社会科教育の目標を達成しようとしている多くの教師に当てはまるカテゴリーやストーリーなのではないかと感じた。とくに「部活優先」「受験優先」「行事優先」の学校文化の克服、新しい試みに対して「同僚教師が壁」とインタビューを受けた教師の6人中5人が回答していたのが印象深い。

 

《実践研究論文》小学校における主権者教育プログラムの開発

模擬投票を行わせ、判断基準について話し合う授業を行い、生徒の感想等からその効果を分析した。私自身、中学校でも模擬投票を実施してきた。模擬裁判もやったことがある。やって効果がない体験型学習はないが、時数との関係が問題。「社会科は受験科目から外した方がいい」が私の持論。暗記すれば解ける社会科入試問題は社会科の問題ではなく、社会科クイズ。社会科の本当の問題は、「社会問題」と授業でも言っているものの、受験無視の授業はできない。論文中少し気になったのは、小中高の主権者教育が果たす役割の違いを意識して研究が進められていること。多くの教師がこれを意識しているはずだが、児童・生徒のすべてが高校進学することを前提に授業が計画されていないかという懸念。高校に行かない生徒、その中には外国籍の生徒、日本国籍だけれど日本語がしゃべれない生徒、なども含まれる。そのような子ども達のためにも主権者教育は中学校段階で完成させなければならない。

 

《実践研究論文》時代の変化の捉え方が分かるパフォーマンス評価の開発と実践に関する研究

時代ごとにまとめを行うのではなく、全時代に共通の「①国家の仕組み➁身分制度③土地・税制④産業・経済⑤教育制度⑥海外との関係」の視点から各時代のまとめを行わせる。単元ごとに①~⑥のそれぞれにA~Dの評価基準のルーブリックを作成。単元を貫く視点は大事。実際に中3受験期に生徒に時代を超えた比較や分析を行わせながらテーマ史をやってあげると、生徒の反応は非常に良い。

 

《実践研究ノート》転売を題材とした経済分野の授業開発

コロナ下ならではという視点で洗練された授業。私も公民の経済分野でマスク転売を導入で扱ったが、もっと突っ込んだ議論をさせたかった。中3で、休校の影響で時数制限がありできなかった。高額チケット転売問題(第一次でブレインストーミング ※朝日新聞の転売抗議広告が補助資料、第二次で一次での生徒のアイデアを紹介 ※ももクロのマッチングシステム等も紹介、第三次でダイナミックプライシングを紹介 ※浜崎あゆみの例を紹介、第四次で「先着定価販売」「抽選定価販売」「DP」「オークション」「それ以外」の長所と短所を考えさせる、第五次でレポート課題「コロナ第二波・第三波が来た場合のマスクの適切な販売方法」を課す。

 

《実践研究ノート》「歴史日記」の実践が生徒の歴史的思考力に及ぼす効果の事例的検証

各単元のまとめで、各時代の一般民衆の視点から創作日記をつけさせる。良い実践なのはわかるのだが、歴史分野のまとめの例として提示される物って、どうしても教科書の焼き直しみたいな記述になってしまう。歴史の力って何なのか、日本だけではなく世界的に曖昧であると感じる。ヒトラーもプーチンも歴史にくわしいが、彼らは小学生よりも歴史の力(知識・思考)があると言えるかという問題。

 

 

全体的に新学習指導要領にしっかりと対応したテーマの論文が掲載されていてとても勉強になった。今、社会科が向いている方向性がわかった。「主権者教育」「社会に開かれた社会科」「評価」というところか。第71回日本社会科教育学会全国大会福島大会がオンライン開催となってしまったことは残念でもあるが、被災地として注目される場所からの発信に全国からアクセスしやすかったことはプラスに考えるべきか。会長が戸田先生であったためか、全体として千葉県の先生方の記載が目立った。コロナ下で現場も多忙であった中で、お仕事をされたことに敬意を表したい。