653-髭剃り後のクリーム | ikoma-gun(フリムン徳さん)のブログ

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髭剃り後のクリーム」

 

少し暑いから車の窓を開けて外の涼しい風に

当りたいけど、我慢している。

日曜日の朝950分、嫁はんと私は教会へ向かって

いる車の中。

仏教徒である私と嫁はんはもう3年ほど毎日曜日、

カソリックの教会へ行っている。家から、教会までだいた

12,3分かかる。

 

教会へ行く朝は必ずシャワーを取り、

髭を剃って、髭剃り後のクリームを顔と禿

かけた頭にも塗りに塗る。

アホなことをすると思いまっしゃろう。

嫁はんも笑うが私はかまわん。

それには私だけの秘密の理由がおまんね。

 

でも、クリームってたまに塗るとええ匂いがしまんなあ。

大工時代にいつも私の周りに匂っていた、材木の香りと

はえらい違いや。

昔、大阪で商売をしていた頃、

よう飲みに行った北新地の飲み屋の、優しい女の子を

思い出してしまうようなええ匂いや。

 

この髭剃り後のクリームは香水と違って、

1時間もすると匂いがなくなる。それ

ならば、香水をつけたらええと言うでしょうが、

大工をしていた2年前までは、香水

よりも肉体労働後の男の汗の匂いが、

男の香水やと思っていた男なのだ。

男性用の香 水の名前なんか知るはずもない、

ましてや買ったこともない。

 

ねじり鉢巻で頭の禿を 隠した大工が、化粧品売り場なんかに、

恥ずかしくて、寄り付けるかいな。

嫁はんも化粧にはこだわらん性質だから、

香水とはお互い縁の遠い人生なのだ。

 

向かっているのは、山の中の、大きなオークの林に

囲まれた小さなカソリックの教会だ。

建物の外は、白く塗られているが、中は古い木肌のままで、

古臭い木の匂いまでする。

なんだか田舎くさい。

 

椅子に座って周りを眺めていると質素な気持ちになる。

友達のバブとアルビラがこの教会のメンバーだ。

5年ほど前に知り合ったこのアメリカ人夫婦の家に、

たまに行った時は、ほとんどが英会話の

勉強みたいなものだった。

当時、嫁はんはほとんど、英語がしゃべれず、

理解できなかった。

ある日、「私達は仏教徒ですが、英語の

勉強のために教会へ行ってもいいですか。」と

彼らに頼んでみると大歓迎してくれた。

 

この教会にいつもくるメンバーは15、6名で、

教会の建物のように年とった

夫婦達だ。皆、親切な白人だ。

東洋人の私達でも、なんの抵抗もなく打ち解けること

ができた。午前10時ピッタリに始まる

この教会の礼拝に遅刻する人はほとんどいな

い。大工時代にアメリカの職人たちが約束時間を

守らないのにあきれていた私には、

不思議なくらいだ。

 

 

この教会には専任の牧師がいない。

メンバーが、交代で牧師役を勤めるのだ。少

ないメンバーだが、その中の6名ぐらいが牧師として、

礼拝を仕切り、説教をする。

夫婦とも牧師役をできるメンバーもいる。

ローマ法王が着る白いガウンみたいなのを

着て、すました顔で聖書を読んで、立派に、

たまにはニヤニヤしながら礼拝を勤める。

 

足元を見ると、ジーパンとスポーツシューズが見える。

ただの普段着の上に、牧師の白いガウンを

引っ掛けただけなのである

なんとも、ほほえましく、親しみがわく。

 

教会での自分の席は暗黙の了解で決まっている。

私と嫁はんはバブとアルビラの隣で前から3番目の椅子だ。

6人掛けの長い椅子が真中の通路をはさんで両側に

10 列ほど並んでいる。

長椅子の背もたれの後には英語の聖書が入っている。

礼拝が始まるとにわか仕立ての牧師が、聖書の

何ページを開けてと言い、そして読み始める。

また、皆で読むことある。

英語の聖書は、易しい英語で書かれている。

それにしても、

仏教の本は、難しい言葉ばかりで書かれていて、

分かりにくい。

 

説教が終わると、木製のサラダ用の皿みたいなものを

持って、お布施を集めに来る。

私達は毎回キャッシュで5ドルを入れる。

メンバーの人は、ほとんどがチェックを入れる。

そのお布施の額は、自分の気持ちだけでいいと

いうことになっている。

 

礼拝の最後には、椅子から立って、通路で、

全員、互に「ハグ」をする。

男同士 は握手、男と女、女同士はすべての人と

「ピース、ウィッズ、ユー」と言って、抱き

合って「ハグ」する。

白人のおじいちゃんもおばあちゃんも、私よりは背が高い。

白人のおばあちゃんとハグをすると、

おばあちゃんの鼻先に、フリムン徳さんの頭が来るのだ。

 

まさに、この瞬間のために、フリムン徳さんは

髭剃り後のクリームを禿げかけた頭に塗り、

その匂いを風で吹き飛ばさないために、

暑くても車の窓を開けない

で辛抱したのだ。

(これはいもですか)