月と雲と芦雪 | 水石 一刻亮のちょっとしたコダワリ

水石 一刻亮のちょっとしたコダワリ

水石の深淵なる美を見つめて

前々から欲しいと思っていた『月』の掛軸が手に入りました。

なにも御月様は秋だけに限った訳ではなく、四季を通じて夜空に浮かんでいますね・・・

鳥や草花などの季節を限定するような書き込みが無ければ通年掛ける事ができます。

つまり、一幅持っていれば使い回しが利くと言う事です。

 

早速設えてみました。

 

主石は四万十川石の高土坡、添えは陶器の高士像です。

 

どっしりとした存在感のある石です。

父が油分をたっぷりと含ませてあったのでギトギトしていました。

中性洗剤で洗い流したので大分自然な色合いになりましたが、

暫く屋外で風雨に晒さないと完全には油分が抜けないようです。

因みに台座は名人『広寿』作

 

高士像は常滑の『壹興』さんの作品

 

で、大変お気に入りのこの掛軸なんですが、

一つ気にかかることが・・・

 

この署名落款なんですが、

なんと、『長沢芦雪』!!!なんですよ(汗

 

とか言ってますが、正直言って掛軸買ってから知りましたけどね・・・芦雪

でも、こうして落款までバッチリ押してありますと

『本物ではないのか???』とスケベ心がムクムクと湧きたつわけです。

 

そんなこんなで、取敢えず教材も買ってみました。

 

芦雪と言ったら、ゆるい感じの人物や動物画が真骨頂だと思うのですが、

山水・風月画も多く残しているようです。

 

似たような技法で描かれていますね。

 

 

 

コチラも、

 

正直申しまして、この絵柄が気に入った訳でして、

購入の決め手は芦雪の署名落款では無いのですが、

かえってソコが気になって邪魔な訳なんです。

勿論のこと贋作ならばこの署名が尚更気に入らないとなる訳です。

 

 

 

円を描くことは絵師がひたすら練習する課題らしく、基本中の基本らしいです。

それ程までに単純ですが難しい。

 

まして、漂う雲を何も着色せずに本紙の白のみで表現しているために、

御月様(円)を上下に分断している訳です。

これは難易度が高いと思われますよ。

 

ネットで色々と調べていましたら、芦雪に大変精通した御仁のブログを発見しましたので、

この掛軸について色々と御意見を頂きました。

 

私が安っぽくて偽物臭がプンプンするペラペラの紙表具が気に入らないと申しましたら、

『それは揉紙表具といって決して安物の作りではない』

と教えていただきました。

 

そこで揉紙について調べましたところ

江戸時代には掛軸など表装用に多く使われていたことも分かりました。

同時代には裂を使った表装よりも紙の表装の方が多かった様です。

大変勉強になりました。

 

因みに、この掛軸に使われている揉紙は小揉みだと思います。

大判の紙では無かったために何枚か継ぎ合わせていますね、

 

天地は揉み加工を施さないで原紙に顔料を塗った状態のままなのだと思います。

コチラも真ん中で継いでいますね。

決して安っぽいのではなく、材料の寸法の加減なのだと思われます。

 

この揉紙を使った表具は千利休が創始したと伝わっており、

侘茶の世界では特に珍重されていたという事です。

 

芦雪の有名な虎の図は無量寺の襖絵なのですが、

無量寺が臨済宗の禅寺であることからしても、茶道と芦雪は何らかの接点が有ったのかも知れません。

 

であるならば、

この様な画題のわび寂びた作品が残されていてもおかしくは無いのかな・・・

 

コロナが治まったら南紀を旅したいな