とある早朝、県道沿いの停留所に、バス待ち人がぽつぽつと増え始めた。
この日常の風景に、小生久しぶりに肩を並べてみた。
するとその中に、1人だけ表情の強張った青年が佇んでいた。
定刻通りとは言い難いタイミングでバスが到着し、
人々は整然と規則正しく車中へと吸い込まれていった。
市外線のバスは2人がけ、それほど混んでいない車中を見回し、
意図的にその青年の隣に座り話かけてみた。
「この辺り、朝は騒々しいね、住宅街なのかな」と切り出してみた。
以外にもその青年、警戒心もなく小生を横目に見ながら話し始めた。
「道の向こうは山田ハイツだから、たくさん人住んでいるんですよ」
雑味のない応答になぜか爽やかさを感じた。
つまり今時の青年にはない雰囲気に、
小生もつい口元が緩み矢継ぎ早に問いかけてみた。
「これから出勤、それとも学校…?」
すると青年「一応仕事…かな、農業です」ほぉー、
ますます興味が湧いてきた。
「この近くかい、あっ、ここが住宅街なら畑は遠くだね」
「最寄り駅に迎えのバスが来るから、
それに乗って現場(農場)までみんなで行くんですよ」
「みんなって?」
「俺と同じ連中、ちょっと頭が悪かったり…あの、
何か病気のある人とか…」と言いながら、初めて笑みをこぼした。
小生も青年の表情を同じように横目で眺めながら、
全てを掌握した気分になった。
そんな余韻を残しつつ「その仕事場は楽しいかい」と、
べたな質問をぶつけてみた。
正直それ以上の言葉は思いつかなかった訳で…。
「よく解らないけど、行くところがあるっていいっす。
仕事も覚えたし、オクラとか 持って帰ると母さん喜んでくれるし…、
あっ! やっぱ楽しいのかな」
青年の表情を覗き込みながら、
バス停で見かけたそれとは違う柔らかさを感じた。
「なぜ、農業にしたの?」と核心にせまる質問をぶつけてみた。
「この前までは別の就労センターに通ってて、
そこの指導員にやってみないかって言われて…」
なるほど、背景が見えてきた。
更に青年は
「いつも誰かに、これやってみないかって言われてやってみて、
最後は自分でやろうって決めました。
親は大丈夫かって聞いたけど、やることにしたんです」と続けた。
青年のその言葉は、やけにずっしりと小生の肝に響いた。
「居場所を見つけたってわけだ」 と独り言のように呟いてみた。
すると青年は
「居場所⤴ ⁉ よく解らんけど
休んだことないから指導員にはいつも皆勤賞
だねって言われてます」 そう言いながら身を乗り出し、
小生を正面から見つめようとするしぐさに、思わず照れ笑いをしてしまった。
適度に揺れる車体の振動が、小生の胸のばくばくをよけいに掻き立て、
何度も頷く自分の影を、車窓から射しこむ日差し越しに見つめていた。
それから青年は、やはり横目で一礼するとバスを降りていった。
居場所というのは、何やら混とんとして
“たかが…されど…” といった表現で完結され、
深く意識することをためらいがちでもある。
青年の後姿を見送りながら、
彼の居場所が恒久的に続く事を願わずにはいられない。
それと同時に、人は時に足元のレールに迷わず乗ってみるのも悪くない、
そんな気がしてきた。
小生にも予想通りの展開で訪れた壮年期、
飛び込んできた扉をひたすら叩いてみようと思わずにはいられない気分だ。
逆らうことなく、進めと言われているような。
それが、あの青年が残したメッセージのように思えてきた。
就労継続支援事業所とは、一般企業などで働くことが困難な障害者に就労の機会を
提供すると共に、生産活動などを通じて知識や能力の向上を目指すことを目的としています。
(株)ゼネラルパートナーズHPより