4. 実習生活について
4.1. 宿舎
実習期間中に使わせていただいた宿舎は、中国人留学生や職員が集まって暮らすワンルームマンションだった。前回の実習生が使用したマンションとは別のものだそうだ。大学から一五分ほどバスに乗り、五分ぐらい歩いたところにあるので、通勤にはまあまあ便利な距離である。全体的に新しく清潔で、不満な点はなかった。
ロビーはオートロックで廊下には防犯カメラが設置され、自室ドアやベランダ、クローゼットなどは施錠できるようになっていた。このため、セキュリティに関しては不安を感じたことはなかった。
部屋にはダブルサイズのベッド(枕・シーツ・ブランケット有)、クローゼット二つ、机二つ、鏡台、ハンガーラック、エアコンなどの家具があり、一人暮らしには十分な家具であったため、自分で買い足したのは洗濯用ロープと洗濯バサミぐらいであった。ただし、冷蔵庫がないため生鮮食品の買いだめはできず、水も毎日一本ペットボトルを買っていた。
バスルームは洗面台とトイレとシャワーが一つにまとめられたタイプで、バスタブはなかった。シャワーカーテンがなかったのだが、そもそもカーテンを設置できるような造りになっていなかったので購入しなかった。また、給湯設備がないため蛇口からもシャワーからも常温の水しか出なかったが、タイの気温を考えれば問題ないと思う。
上にあげた以外に必要な家具は共用になっていた。テレビやアイロンは一階の部屋にまとめて用意してあった(もっとも、私は一日中出歩いていたのでテレビは学食で見るぐらいだった)。洗濯機は一回三〇Bで 家庭用の全自動洗濯機仕様のものが使えたが、洗剤は個人で用意することになっていた。ただ、洗濯以外の家事は一切することがなかった。というのも、マンション全体が調理禁止で設備もないので自炊はできず、掃除は管理しているおばさんがしてくれ、ゴミは廊下にまとめておけば片付けてくれるからである。
宿舎については日本での一人暮らしとほとんど遜色なく、快適に過ごすことができた。ちなみに、噛み付いてくる赤アリやトカゲが毎日出現したが、これはバンコク暮らしでは当たり前のことだそうである。
4.2. 日常生活
宿舎のある地域は、留学生以外の外国人がいないローカル度の高いエリアだった。路地を抜けてバスが通る幹線道路まで続く道に出ると、八百屋や雑貨屋、薬局や美容院が並び、朝夕のラッシュ時にはモトサイ(バイクタクシー)やタクシーが列をなし、ご飯時には二〇〇メートルもない通り沿いに何十件もある食堂から湯気が立ち上るという、生活感溢れる町である。最初の二週間は授業の準備があり遠出できなかったため、買い物も食事もこの通りで済ませていた。
4.2.1. 食事
先にも述べたが、宿舎には冷蔵庫がなく自炊もできないため食事はすべて外食だった。中心街を散策していた三週目には数回レストランに入ったこともあったが、たいていは地元の屋台食堂か学食で済ませた。
地元にある食堂は、キッチンが屋台で机と椅子はガレージや道に並べてあるというかたちの屋台食堂だった。店によってジャンルが決まっていて、親切な店は壁に写真が貼ってあったりするが、基本的にタイ文字の壁メニューしかないため何が出てくるかはギャンブルである。麺類やご飯におかずを盛り付けたものなどで二五B~三〇B程度で食べられる。
学食はキャンパス内に二ヵ所あり、一ヵ所はタイ料理とムスリム用料理、寿司もどきがあり、もう一ヵ所は洋食と麺類があるという具合にジャンルによって分かれていた。私はタイ料理の学食でいつも食事をしていた。注文方法は、並んでいるおかずを選んでご飯に盛り付けてもらうやり方で、ご飯+おかず二品で三五B、それにデザートと水を一本買っても六〇Bを超えない。清算は現金をチャージしたカードで済ませるので非常に楽である。
タイの水道水は飲むことができないので、水は毎日コンビニエンスストアで買っていた。宿舎の一階に水の販売機があるが、一リットル単位なので利用しなかった。
私個人は、食べられなかったタイ料理はなく食事に関しては大満足だった。だが、すべてに香辛料が入っているため、たいていの人が二、三日は香辛料の取りすぎでお腹を下すと思う。
4.2.2. 買い物
買い物をするにはまずお金が必要である。私はすべて日本円の現金で持って行ったので、空港で両替したお金がなくなったらどうしようか不安に思っていたが、大学の敷地内にアユタヤ銀行の支店があったためそこで両替をすることができた。この支店は土曜も昼過ぎまで営業していて助かった。日本円はバンコクの銀行どこでも両替できるため、とても便利である。
身の回りで必要なものに関しては、地元の雑貨屋やセブンイレブンで一日目にそろえることができてしまった。こういった地元の商店では文単位の英語になると通じなかったが、買い物に必要なタイ語を覚えていけば困ることはないと思う。
一方、中心街のデパートに入っている店舗はマクドナルドなどのファーストフード店も含めて英語が通じるため、タイ語が通じなくても安心である。
その他サービスも充実している。バンコクは在留外国人が多い都市のため、英語が通じる薬剤師が常駐しているドラッグストアや観光客専門のツアーリストポリス、日本語で診察を受けられる病院などがあり、万一の時は助かると思う。
4.2.3. 生活費
日本を発つ時に早まって成田空港で両替をして、二〇〇〇〇円を五五〇〇Bにしてしまった。それでも、もし観光せずに必要なことにだけお金を使っていたならば、その五五〇〇Bで二四日間生活できただろう。それぐらいタイの物価は安い。タイでのレートは一B=三・一円だったので、約三〇〇〇円で一〇〇〇Bの計算になるが、実際には一〇〇〇B札が一〇〇〇〇円札と同じ価値があるような印象を受けた。
三週目以降がOFFだったので、観光をしたりおみやげを買ったりして大分出費があったが、それでも二四日間で使ったお金は一〇〇〇〇〇円に満たない。これは宿舎にまったくお金がかかっていないことが大きいと思われる。ちなみに大学内にあるホテルに宿泊することもできたそうだが、こちらは一泊九〇〇Bほどかかるそうである。
とにかく生活にかかるお金はとても安い。主なものを以下に記しておく。
〈交通〉
バス (エアコンなし):一律八・五B 地下鉄:一四B~
(エアコンあり・距離制):大学まで一二B BTS(高架鉄道):一〇B~
メータータクシー(約二〇分):五〇B バイクタクシー(大学まで):四〇B
〈飲食〉
水 五〇〇ml:七B マクドナルドのセットメニュー:八五B
コーラ 五〇〇ml:一八B 日本料理の定食(レストラン):三〇〇B
バミー(ラーメン):二五B アイスラテ(コーヒースタンド):二〇B~ カップラーメン:一三B
〈雑貨〉
洗剤 五〇g::一〇B 洗濯バサミ 一八個:一〇B 洗濯ロープ:一〇B 湿布:一二B
5.おわりに
今回、私自身はじめての海外旅行・はじめての一人暮らしということもあり、タイでの生活は全く予想のつかないものであった。しかし、実際に行ってみればそこではタイ人が毎日普通に暮らしているわけで、そこで日本人だからと言って私が特別困ることは何も起こりはしないのである。二四日間も暮していれば、外国で生活しているという“特別感”すらなくなった。
一方、授業に関しては少し苦労した。ほかの実習生とは違い、単発的にしかボランティアに参加したことがなく圧倒的に経験不足の私は、一回目の授業をするまでは緊張とプレッシャーで押しつぶされそうだった。しかし、学生としての今までの経験と少ない知識を頼りに教案を考えて、一四時間教壇に立つうちに少しずつ気持が変化していった。できないなりにどうにかするという気合いと、自分の力量以上のことはできないという開き直り(もちろん建設的な意味で)が生まれた。
たった三週間で、私の教師としての技量が上がったかといえば、それはさほどでもない。現地で毎日授業をしている先生方に比べれば、まだまだ使えないレベルだと思う。ただ、海外で暮らす体験を通して、外国で暮らすガイジンという立場、言葉が通じない状態を経験することができた。また、アルバイトもサークルも家事もせずに、二週間ひたすら授業のことだけを考えられるという、二度とない貴重な時間を過ごすことができた。
この二四日間で感じたことや吸収したことは、日本であるいは海外で奮闘している学習者のためにきっと役立つと信じて、さらに教師として成長していこうと思った実習だった。