黒田勇樹を殺したのは誰か | IKKANのオフィシャルブログ「IKKANのKAIJIN MANIA」Powered by Ameba

黒田勇樹を殺したのは誰か






2年前に撮影した黒田勇樹殺人事件。
ようやく陽の目を見た。
黒田勇樹くんが初めて監督した映画作品。

懐かしいな、2年前に撮影した映画だ。


彼のことは、ネットにいる変人だというくらいの認識で知っていた。


とある番組で知り合い、彼がぐでんぐでん酔っぱらった打ち上げの席で、

「僕は東村アキコが好きなので、あなたのことは嫌いです!」

と、熱弁していたのが我々のスタートだ。まあ、なんならそこで終わったくらいの関係であった。

俺は彼の演技を見た事がなく、何のドラマに出ていたかも知らなかった。ちょこちょこネットニュースを賑わす、サブカル属性のタレントさんだ。くらいの認識でしかなかったのだ。ハイパーメディアフリーターと言っていたりして、現在はアルバイトをしている過去のタレントさん。それくらいの認識だった。

そんな彼と、番組のあと久しぶりに道端でばったり会った。本当に新宿でばったり。なぜか、そのまま飲むことになった席で、

「僕の映画に出てください!」

と、その場にあった『黒田勇樹殺人事件』の台本を渡された。
彼もまた、俺の演技は微塵も知らないはず。

こういうときの俺は躊躇なく即答するタイプ。

「当然やります。」

面白そうな人と関わると、上手く行ってもコケても楽しいからだ。



もらった台本を読まずに即答した俺は、オフィス★怪人社の稽古場に戻り、うちの若手たちと一緒に読み合わせてみた。

「なんだか、ビートたけし殺人事件とか、そういう感じのパロディなのかな?」

そう思って、初見で読み合わせを若手たちとしていると、

「わ!これ、面白いじゃん!本当にあのサブカル紛いの役者が書いた台本!?」

と、内容がおもしろくて、めちゃくちゃ興味がわいた。もっと冗談みたいな台本を書くもんだと思っていたからだ。

それから撮影に入る前までにだいぶ時間もあったので、読み込んで自主練習を重ねた。
演技プランの作り甲斐はあった。

そして撮影の日。

あんなに楽しそうに演技演出をしている黒田監督を見て、やっぱり演技が好きなんだなとしみじみ感じた。

飲み会で軽く誘ってみた事もあったが、今度は正式にオファーしようと俺の芝居に誘う。
3週間ぶっ通しの公演に誘った。
俳優をやめたはずの人間に舞台をやらせる。それも3週間公演。
彼は出演をOKしてくれた。

黒田くんは当初、

「セリフってどうやって覚えるんでしたっけ?ってくらいブランクがあって分からない!」

と、苦笑いをしていた。

彼の身体は、俳優としてのリハビリが必要だった。
苦戦は見えていた。

俺は、彼の人間としてのいかがわしさがぴったりくる役をお願いしていたので、死ぬほど繰り返して練習し、言葉が文字じゃなくなったときに、体は勝手に素敵なキャラクターを演じるに違いないと確信していた。

千秋楽間際に、

「これで俳優復帰した訳じゃないから!」

と、楽屋で共演者に苦笑いをして語る黒田くんに、

「どうせやりたくなるよ。」

と、俺は呪いをかけた。

あれからたくさんの黒田勇樹を見てきた。
何本の芝居に携わっただろう。
めっちゃ俳優やってる。

出会ったときは、半分アル中で、田代まさしさんみたいな厭世観満載の空気を身にまとって、トゲトゲしく、牙のない狂犬が遠吠えをしているような黒田勇樹だった。
あの時の、黒田勇樹は、
俺みたいな人間はとってもニヤニヤと楽しめるサブカル属性のダメ人間だった。

それが2年経って、まるで別人になっていた。
とんがり具合も丸くなり、
息をするかのように演劇をしている。



「黒田勇樹殺人事件」

観終わって

あの時の黒田勇樹を殺したのは、
俺だったのかもな。

そう思った。



あの頃の黒田勇樹はもう居なくなっていた。

あの時の俺の悪魔の囁きは、
俺の呪いは、
彼にとってどうだったのだろうか。





その後、打ち上げの席で、
映画に携わった多くの黒田勇樹を慕う弟子たちが
とってもとっても嬉しそうな顔をしていた。


黒田勇樹も
それはもう 嬉しそうな顔をしていた。


打ち上げに響く笑い声は
愛に溢れていた。