ルドビコ★バンク・バン・レッスン 演出メモ | IKKANのオフィシャルブログ「IKKANのKAIJIN MANIA」Powered by Ameba

ルドビコ★バンク・バン・レッスン 演出メモ

9ce7038e.jpg

演出を担当させて頂いておりました、ルドビコ★another vol.2『バンク・バン・レッスン』
終幕。

最初にルドビコ★の林修司君に話を頂いたのは、確か1月か2月くらいかな?5月に高橋いさをさんの作品を上演したいので、演出をお願いしてもいいですか?と。
「ボクサァ」と「バンク・バン・レッスン」が候補に挙がっていて、キャスティングなどを考えていたら「バンク……」になったようです。男だけでやろうというアイデア、これは桜木さやかちゃんの発案だそうです。

林修司くんとは、30-DELUXの公演「シェイクス」で出会い、「ファミリア」でもご一緒させて頂きました。シェイクスの時に、修ちゃんにアテガキした小手形イチロウというキャラクターも評判が良く、もちろん芝居自体ももの凄く笑いがあり評判が良かったので、それで脚色と共に、演出をお願いされました。

その時点で俺はバンク・バン・レッスンは読んだことが無くて、いさをさんのテキストを持っている生徒達の最初数ページをちらりと見たことがあるくらいでした。

大好きな高橋いさをさんの作品ですからね。
いさをさんにも「僕よりも僕の脚本について分析できていると思います(笑)」と、お褒め頂くくらい読み込むのが得意と、コレ自負しておりますから。絶対におちゃらけないで丁寧に台本分析して、台本からはずれない王道の演技演出にしつつ、24年前の作品を決して古くさいと感じさせぬように全体演出をしようと。

だから台本を読んで、その上で一度よそのベテラン劇団がちょうど上演していたのでそれをいさをさんと共に見に行ってみました。その時は、まったく笑いも起こらず地味に淡々と芝居が進行していて、「え?こんな地味な芝居なんですか?」と、いさをさんに尋ねてしまいました。

自分が、ショーマの南口奈々絵ちゃんから論創社から出版されている戯曲を借りて読んだ時は、もっともっとテンション高く、なんていうんですかね?つかこうへいさんの『熱海殺人事件』のようなテンションの芝居を想像していたのでびっくりしてしまいました。

ショーマでやったビデオとか無いんですか?と、いさをさんに聞いても「ビデオ、僕の手元にはないんです……」みたいな。キャラメルボックスのライブラリーに無いかなと真柴さんに尋ねても「うちにもないやー」と。もちろん奈々絵ちゃんも持って無くて。地元に帰った時に旭川の劇団で、素人さんがやっているのを見ても、まあちょっとプロの劇団さんがやってるよりはテンション高かったんですけど、なんかこうイメージしているものとは違ってて。

とにかく、バンク・バン・ザ・スタンダードを作って見せよう。
そういう気持ちで演出の準備をしました。

全員が男でやるため、いくつかの脚色作業がありました。

まず、柳田という女性行員を男性にする。
これは単純でした。男言葉に変えて、女性的な発言を変更。
いさをさんも言っていたけど、銀行員全員を男性にするのは難しくない作業だと思いますと。

でもポイントは、タケシとジュンコというカップルです。
男言葉に変えただけでは意味不明になります。
途中ドクターとナースという役設定にもなるので、どうしようかなと。思い切って全体に変えようか?と思った時に。
あ、男役だった人が突如、女役になったら面白い。

このアイデアは、いさをさんが褒めて下さいました。
こうした方がより演劇的であるし、面白いと。「このアイデアは感心しました。」と。嬉しい。

タケシという役は、俺はいさをさん本人をイメージしました。
いさをさんはいつも、頭の中でいろんなシミュレーションをしていて、ニコニコしながら変なところで笑います。これ絶対作者本人だと思って読んでいて、稽古はそのようにTakuyaにも指示しました。「このタケシは、いさをさんだから!」と。

ある日、いさをさんと会った時「実はタケシって僕みたいな人間なんですよ」と言ってきて「フフフ。もちろんそのつもりで演出してますよ。」と言ったら、「!!」という顔をされました。読み込んでますよ~台本。

で、そのカップルを男同士にする時、どんな関係性にしようかなと思ったわけです。

タケシは、台本上、一番冷めた目線でいる役に見えます。しかし俺の考えは違います。一番熱く、ストーリーにのめり込んでいる人間がタケシなのです。

興味はあるけど恥ずかしがり屋、やる気はあるけど照れ屋、頭の中のシミュレーションはたくさんできるけど、いきなり振られると即答するのが苦手。

これ、いつものいさをさんじゃん!

で、今回の芝居の全体図。

日々、同じような生活に少しだけ息苦しさを感じたり、感じないまでももう一つの自分に憧れを持っている人間達。

銀行員はサラリーマン代表として描こう。全ての銀行員がそうではないと思うけど、生活のために色々なことを辛抱している。中には夢を諦めて、仕方なくサラリーマン生活をしている人もいるかも知れない。モチベーション高くサラリーマン生活を送っている人も、全てが上手くいっているわけではない。そんな社会の縮図をこの4人に出そう。


501fd12d.jpg




強盗役の警備員たち。高学歴でもなく、高収入でもない警備員達。金銭的に厳しい、綱渡りをしている人が世の中にはたくさんいるわけで、そういう社会人の縮図をここに出そう。もちろん警備員全員が学歴が低いとか収入が低いとか言っているわけではなく、あくまでもイメージ図としての設定です。

5c31daef.jpg


そして、カップルだった二人。
社会人チームがいるので、社会人じゃない方が良いなと。

2aabf76c.jpg


若い二人で、プロフィールを見た感じのイメージ。
バンドマン?クラブDJ?コンビニのバイト?
いやいやダメだ。
バンドマンとか、夢を持って生きている代表の若者は、この銀行では絶対このレッスンに参加してはいけない。
この銀行強盗の予行練習は、なにかしら社会に不安を感じ、お堅い職業をするような人でなければならない。

あ、東大生にしよう。
思いついたのがそれです。

東大生の全てがそうではないでしょうが、東大は言わずもがな日本のトップ大学。日本各地にいる秀才達が集まる場所。
なんなら、地元じゃ圧倒的な天才扱いだったにもかかわらず、なんなら東大に入って初めて知る劣等感。あれ?俺、学力一番じゃないんだ……。初めての落ちこぼれ。そんなイメージです。

将来は政治家?官僚?

テレビの現場にも東大出身のディレクターなんかをよく見かけますが、みんな変な人が多いですね。

いる。こんな今時のチャラく見える東大生。
そんなイメージです。

そうすれば、途中でドクターとナースになっても、専門用語を知っていてもおかしくないなとか。医学部だったのでは無かろうかとかね。医学部じゃなくても、それくらいの知識は知っていても不条理じゃないし。

成立した!
こりゃいい。

全員がどこか、今の生活に満足していない。
一生懸命頑張って仕事したり、勉強したりしていても、
フッとよぎるコンプレックス。ストレス。

登場人物は、予行練習をとてもソワソワしながらまってます。
なぜなら、いつもと違うことが始まるという新鮮な気持ち。

稽古スタートで言いました。

俺は、自分の作る作品は必ず笑いが起きるから、アンケートによく書かれる言葉として「久しぶりにこんなに笑いました。」というのが一番多いんです。

だから出演者達に「普段、笑う機会の少ない人を演じて下さい。」と。我々お笑いや演劇をやっていると、稽古場で笑ったりすることも多いんです。「久しぶりに笑った」ってアンケートは最初のうちよくわかりませんでした。自分はいつも現場で笑っているから。

思い出したんです。
東京に上京してきて、新聞配達の奨学金をもらいながら専門学校に通っていた時のことを。
「あれ?俺一日中、声を出していない。」

世の中にはそんな人たち、まだまだたくさんいるはずだ。

だから銀行員達が最初に明るく楽しく演じるのはやめよう。
どこか表情は堅く。笑い顔に慣れぬ人たち。

そんな人たちが、少しずつほぐれてきて、
今までうっぷんを晴らすかのように、主人公になっていこう。

だから殺陣で死ぬシーンも、全員に「一世一代の死に際を見せてくれ!」と演出しました。台本に死ぬと書いてあるから、サッと死ぬなよ!と。死ぬ瞬間まで「俺が主役なんだ!」という顔をして死んでくれ。

全員が満足行く死に方をしたら、この芝居は無事に幕を下ろすことが出来る。

タケシが死ぬところは工夫をしたんです。

いさをさんの最新の台本だと、支店長の2回繰り返すタケシへむけた永台詞はカットされてます。「二回も同じ事言う必要ないので」と。タケシに、バーン!バーン!言い切って力尽きてみんなが笑い出すと。それが最新稿です。

しかし俺は、最後のセリフを言わせたかった。

「いさをさん、あれカットしません!そのまま支店長にやらせます!」

あれは、支店長役の宮島幸春くんに、自分自身の言葉として、セリフ自体には意味を込めずに放ってくれと。
中学の時に、新聞に載るほどの野球少年でエースピッチャーで、スターだった宮島君。プロ野球選手の夢を諦めて東京で、食えない俳優業。
全てのドラマにきちんとした結末がつかないときっと後悔する。後悔しない訓練にするためには、タケシに全ての宮島幸春の素の姿を見せてくれ。

柳田には、柳田に向けて言葉を放った。
タケシへ向ける時、これは宮島君へ向けて言葉を放ってくれと。

実家にいるお父さんが、宮島君に、東京で頑張れ!負けるなよ!とエールを送るつもりで放ってくれ!このセリフは自分自身に向けられたモノなんだよ!宮島君!

タケシは、表の言葉の意味以外のものを感じ取っていきます。
だからタケシは心を打たれ涙を流します。

ここは台本から変えさせて貰った部分なのですが。
最後にバーン!という数。原作から変更させて貰ったんです。

合計8発。

それぞれのキャスト分の弾数にしてくれ。

最初の1発は自分に向けて。
次の6発は、死んでいった仲間達全員分の弾を放つ。
そして最後の1発は、タケシへ!しかし、その気持ちは自分に向けて。

タケシは死ぬことは出来なかった。
みんなのために、死ぬ演技をしても良かった。けれど、タケシは即応できないんです。
ドクターの時もそうだけど、何度も何度も説得され、自分の中で納得しなければその設定に乗れない。
支店長の言葉が長いから、タケシはその間に心打たれて泣けるんです。

タケシは、支店長の叫びを聞きながら心の中でこういう言葉を放ってます、
「空々しい形で死ぬわけには行かないんです。でなければ僕はさっきのドクターのくだりで、自分の人生を出し切ってしまったから。」

支店長の絶叫の中に、支店長の心を感じ取っていきます。
「だったら僕は死ねます」

涙を流し、その後
心打たれて、心撃たれて、死んでいきます。

これで!この芝居はきちんと完成する!
そんな脚色です。

タケシはきっと東大の中で、自分のプライドの高さと現実の厳しさに戦っていると思うんです。自分の頭の中にある優越感。けど、体現することの難しさを感じている劣等感。
ジュンがタケシをドクターにさせようと思ったのは、友情だと思うんです。タケシに生き生きとして欲しいと思い続けているジュンの優しさだと思うんです。
だから、自分が男性の医療関係者(俺のイメージは織田裕二さんの医療ドラマに出てきそうな感じの人)だったにも関わらず、発想力豊かなタケシに「ナース」と呼ばれ、素直に受け入れた。

タケシは、じっくり考えればすごい想像力豊かな人間なんです。

だから俺のイメージは、いさをさんなんです。

あの役を別の劇団なんかで見た時に、なんかとても場の空気をわざとぶちこわすキャラに作っているものしか見たことが無くてガッカリしていて、今回Takuyaに言ったのは、KYで笑う「ハハハ」というセリフ。絶対に、「あ!しまった!」と必ず思ってね、と。場の空気を壊したいわけではなくて、ついつい素直にそんなリアクションが出てしまう。決してまわりにあわせたくない訳ではなく、周りにあわせたいのに、つい気持ちが出てしまって失敗する人にして下さい、と。悪気はないのです。本音でその場にいられる。そういう役がタケシであると。





あ、仕事いかなきゃ。




今日はここまで!



したっけ!