亡き父の事を思う時、楽しかったことや、父の含蓄のある言葉の数々を
なつかしさと少しの悔恨の情と共に思い出す。
母の事を思う時まず最初に思うことは落胆したことや、母の怒りの表情と母に対して感じていた情けなさだ。
母が私に対して悪意を持って何を悪をなしたのだろう?
多分何もない。
十分に愛を注いで育ててくれたと思う。
ただ、自分が思ったことを口に出し態度にあらわしただけなのだ。
それがどんなに相手を傷つけるかわかっていたにもかかわらず。
自分から引ける質ではなかったのだ。
新婚当時、父は母にあだ名をつけた。
「猟犬」
争いごとを嗅ぎ付けて鼻を突っ込んで
さらにことを大きくしていくからだそうだ。
方や彼岸に渡り、方やこの世にまだ生きているものの差なのだろうか?
母が父の下に行ったらば、幼い時のように母があたたかかったことや、
ふんわりした石鹸の匂いを
一番最初に思い出せるようになるのだろうか?
とはいっても母に対してすでに苛立ちや憎しみは一切ない。
それは過去のものだ。
認知症もかなり進んでしまっている母には哀れみや悲しさ、
あと義務感を感じるだけだ。
母が旅立ったあと私がまた違う感じ方をできるようになった時、
自責の念に捉われない為にも
多少の後ろめたさを感じながら気にかけたいと思っている。
墓に布団は着せられぬ。

