柳生の庄は修善寺の温泉街を抜けて山道に向かう道沿いの竹林の中にあります。

車の鍵と荷物を預け、数寄屋造りの玄関ロビーに通されました。

檜兜の飾られたお迎えの間や取次の間はすっきりとした佇まいで、

ここに立つだけで古風な上品さを感じました。


この宿の見どころは、木立に包まれた風情あふれる露天風呂だと思います。

 

客室のある本館から大浴場への通路には庭の木立を見せる大きな窓や坪庭を眺める腰掛もあり、

お風呂への通路にも風情が感じられました。

 

大浴場と露天風呂は男女別に「武蔵の湯」とやや狭い「つうの湯」があり、

深夜に男女が入れ替わります。

鬱蒼とした木立の中に岩で組まれたゆったりとした露天風呂で、滝の音を聞きながらしばらく至福の時を過ごしました。

 

露天風呂から見るあずまやは趣がありとても印象的でした。

あずまやにもバスタオルと天然水が置かれていて、休みながら何度も温泉を楽しめました。

 

翌朝は小雨でしたが露天風呂には菅笠で入り、

雨で新緑がいっそう鮮やかに見えました。


客室「楓」は本館2階にあり、10畳の本間に5畳の次の間と広縁や5畳ほどの部屋がついた数寄屋造りの端正な部屋でした。

花頭窓が美しい次の間は独立しており、

荷物を開いたり着替えに使ったりして、散らかりがちな本間をきれいに使うことができました。

 

座卓が用意されてましたが、案内の仲居さんの計らいでテーブル席に替えていただきました。

部屋で柏餅とお抹茶をいただいて、チェックイン手続きもここで済ませました。

客室の内湯にも源泉が引かれています。

 

檜の湯船はさほど大きくありませんが、大人1人で入るには十分だと思います。

浴室はリニューアルされて間もなかったのか清潔感があり、檜の香りがしてとても気持ちがよかったです。

 

浴室のシャンプー類はMIKIMOTOで、洗面室の女性用基礎化粧品は馴染みのあるものではなく、このクラスの宿としてはやや見劣りがすると思いました。

夕食前のお風呂から戻ると、この部屋担当の仲居さんが挨拶にいらっしゃいました。

 

この日は隣の客室が空いていたので、食事はそちらでいただけることになりました。

 

この宿は平成21年の大規模改修で本格的な数寄屋建築として生まれ代わり、全部で15室ある客室には同じ造りのものがなく、どの部屋も趣向が凝らされているとのことです。

上:「楓」の床の間  下:「桂」の床の間

私たちの泊まった客室「楓」と食事に使わせていただいた「桂」は同じクラスの客室ですが、

間取りも天井の仕上げから障子の桟や襖の引手に至るまで異なり、素晴らしい数寄屋造りの技を楽しませていただけました。

柳生の庄の前身は都内の有名な料亭で、その味を伝える三代目料理長のお料理は見た目も美しく味わい深いものでした。

温かい料理は熱く、冷たい料理は冷たく出されました。

お皿を温めるのはもちろんですが、和牛の石焼には檜の葉があしらわれ、卓上の土鍋と七輪は小ぶりの上品なもので、無粋にならない工夫がされていました。

小鮎の塩焼きをいただいた後、御箸の取り換えがあったのは嬉しい心遣いだと思いました。

筍のお料理はめずらしい食感でとても美味しく、これは料亭時代からの人気の一品とのことでした。


記念日プランには、夕食時に金杯での乾杯と祝鯛やお赤飯が、

夕食後にサロンでのドリンクサービスが全員についていました。

 

サロンは洋室で、壁にはこの宿の先代女将と親交があった日本画家堀文子画伯のコレクションが飾られていました。

宿全体が上質な数寄屋建築ですが、このサロンも上品なインテリアで夕食後のひと時をリッチな気分で過ごし、とても満足できました。

隣室で夕食をいただいている間に本間に布団が敷かれていました。

 

和室に泊まる場合、布団を敷いていただく間は少し気まずい思いをすることがありましたが、今回はそのようなことがありませんでした。

10畳の本間に大人3人の布団を敷くとやや手狭に見えますが、広縁がゆったりとしており、また次の間をうまく使えるので窮屈な感じはしませんでした。

朝食も隣室のテーブル席でいただきました。

最初にいただいた手絞りのパイナップルジュースは新鮮な味わいでした。

畳鰯の煮麺でお腹を整えて、一品一品丁寧に作られたお料理を美味しくいただきました。

朝食の鯵干物は焼きたてが運ばれてきて、骨が丁寧に取り除かれていて嬉しかったです。

お部屋で温めて出されたお味噌汁は、熱々でお出汁もきいておりました。

最後に出されたぶどうのシャーベットの味は印象に残るもので、お腹が一杯でしたが味わい深くいただきました。

チェックアウトを済ませてお土産コーナーで堀画伯の絵葉書を選んでいると、女将が声をかけてくださり、先代の女将と堀画伯のお話など聞かせくださいました。

帰りには女将も宿の入口まで送ってくださり、車が見えなくなるまで手をふってくれました。

柳生の庄は、落ち着ける部屋、風情あふれる露天風呂や美しい庭園があり、心遣いのあるおもてなしが随所に感じられて、ゆったりと寛いで過ごすことができました。

 

温泉の湯はさらっとしていますが、よく温まって肌がすべすべになるので、露天風呂の風情だけでなく泉質にこだわりのある方にも嬉しい温泉だと思います。

この宿のどの場所を切り取っても美しく演出されていて、上質な空間を求める方には満足度が高いと思います。