THE 空想小説
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第二話、【明と闇】

白沢村内で唯一の中学校である【白沢中学校】。
白を基調とした二階建ての小さな校舎で、その周りは、小さなグラウンド、小さな体育館、小さな花壇と、緑豊かな裏山に囲まれている。

その校舎の二階部分の一番西側に、護と優羅が在籍する三年一組の教室がある。


朝のHRを終え、1時間目の授業を控えた教室の中には、クラスメイト達の他愛のない談笑が溢れている。


そんな中、一際盛り上がりを見せているグループがあった。


息を切らしてぐったり座り込む男子生徒と、幸せそうに煎餅をかじる女子生徒。

そしてヒーヒーと苦しそうに腹を抱えて、大爆笑する女子生徒がいた。


「あんなぁ…みちる、お前笑いすぎっ!!少しは俺の気持ちも考えてくれませんかーっ!?」


「だ、だって…まもっち…可哀相すぎっ!あーっはっはっはっはっはー」


「護ちゃん、みっちんに喜んでもらえて良かったねぇ~♪よく出来ました☆お煎餅あげるよぉ」


「…サンキュ…(脱力)」


今朝の『護の目覚まし事件』を話題に、本人には申し訳ないほどに盛り上がっている。むしろ笑われていた。


「あ~苦しいッ!まもっちある意味オイシイじゃん♪笑いの神様降臨したね(爆笑)」


この遠慮のない女は【比奈澤みちる(ひなさわみちる)】
護と優羅のクラスメイトでとにかく明るいヤツだ。
サバサバした性格で綺麗な顔立ちのため、男子にも女子にも人気がある。
護も恋愛感情抜きでなら好きな部類だ。

ただ今はちょっとウザイ…普段は見ててありがたい豊満な胸も、今はやけにウザく見える。


護はひとつ溜息をつき、優羅にもらった煎餅を食べる。醤油味のオーソドックスな味。

パリパリパリポリ…


「あ~、そう言えば護ちゃん。今朝なんか変な夢でも見てたの?うなされてたみたいだし…。」


唐突に優羅が話題を変える。
思わぬ質問に護は、どう話せばいいか逡巡し、「まぁ、そんな感じ…」とだけ答えた。


あんな夢の内容を話せるわけがない。他人に同情されるのはまっぴらだし、こいつらには二年前あの日の事を知ってほしくはない…。


こいつらとは、このままの距離感でいたほうが心地良いからな…。
 
 
 
ちょうどその時、始業のチャイムが、三人を取り囲む静寂を打ち破るように飛び込んできた。



「…まぁ元気出しなよ、まもっち♪」

「あぁ」
 
 
「護ちゃん、元気の出るお煎餅もーひとつあげる♪」


「…」



そして授業は始まり、黒板にはチョークの文字列が書き込まれていく。




護はノートをとる事もせず、窓の外の景色を眺めていた。



父さん、母さん…





空には薄く、雲がかかりはじめていた…。

第一話【始】

「うわあぁぁぁっ!はぁっはぁっ…はぁっ」


またあの時の夢だ…。何故かこの村に来てからは頻繁にあの頃の夢を見る。


あれからもう二年近く経つのに、あの光景は全く色褪せる事なく記憶にこびりついている。


忘れられるわけがない、忘れてはいけない記憶。


血みどろのリビング。

原型を留めてない父親。

腹を裂かれた母親の鬼の形相。

食卓を飾る…母親の…。




「うぷっ」




強烈な吐き気に襲われ、トイレに駆け込む。あの込み上げてくる感じには当分慣れそうにない。


吐瀉物をトイレに流し、頭をぶるぶるっと振るう。
汗ばんだ体がやけに重く冷たい。



「ベトベトして気持ちわりぃ…シャワー浴びっかな…」



重い体を引きずるようにして廊下を進み、着替えを調達、そして浴室へ向かう。


その途中で、居間に座る制服姿の少女が目に入った。

通りすがら声をかけていく。



「おはよー優羅」


「あ、おはよー護ちゃん♪」



この子の名前は宮凪優羅(みやなぎゆうら)。
俺と同じクラスでしかもお隣さんだ。


俺、(あ、俺の本名は池田護(いけだまもる)ね)がこの「白沢村(しらさわむら)」に越して来て、最初に仲良くなったのが優羅だ。両親を早くに亡くし、隣の家で独り暮しをしている。

俺が越してくる前から祖母とは仲が良く、家族同然の付き合いをしているらしい。


性格は温和でのんびり屋で照れ屋さん。
容姿は幼い顔立ちだが、それをいい意味で裏切る…グラマー(死語)な体躯をしている。
スリーサイズは各個人のお好みで想定してほしい。
だって聞く勇気が俺にはないからな。笑うなちくしょう…。


彼女は学校がある日は毎朝俺を迎えに来てくれる。今日もこうして朝のお迎えに…



お迎え?




「護ちゃん、早くガッコー行く準備しないと遅刻しちゃうよぉ?」




優羅が暢気に煎餅をかじりながら時計を指差している。



只今の時刻、午前8時30分…。



ちなみにHRは40分から始まる。もちろん出欠確認もその時間である。





しばし沈黙…。





後。





「Nooooooooooッ!!!!!!」



「護ちゃん!護ちゃん!大丈夫?大丈夫ぅ??」



発狂する俺をオロオロしながら心配する優羅。何故か背中を摩ってくれている。別にどこも痛くない。



「そんな馬鹿な…だって目覚まし鳴らなかったぞ?ちゃんとセットしといたはずなのにっ!」


その時、優羅の正面に座る護の祖母が口を開いた。


「あぁ、護の目覚まし時計の電池、テレビのリモコンの電池が切れてたから借りたんだよ。ほら~目覚ませTVの12星座占い観たかったからさ。婆ちゃん今日は恋愛運がいいんだってよ?やだねぇ~ひゃっひゃっひゃっ」



「ちなみに~優羅の今日の運勢はぁ~、運命的な出会いだって!きっとこのお煎餅との事だよぉ☆しあわせぇ~〓」



幸せそうに茶を啜る二人…。頭にお花が咲いてるように見えるのは目の錯覚だろうか。


ほのぼのとした空気に飲まれそうになっていた護は、ふと我に返り、諸悪の根源へと向き直る。



「んのクソバ○ァ!そんならせめて起こせ!!つーかいい年こいて占いなんか信じてんじゃねぇ!!」


「あら何て口の聞き方だい!?もうガキじゃないんだから朝くらい自分で起きれますって越して来た時に豪語してたのはどこのどいつだい??」


「目覚ましあっての話だっつの!目覚ましあっての護ライフだっつの!!」


「じゃあ電池返したげるよ、ほらどうぞ。」


「今更おせーよ!何その親切?!もはや手遅れ、護ライフに赤信号点灯してますけどー!!」


「護ちゃんもお婆ちゃんもファイトファイトぉ~☆」




やんややんやと口論を続ける室内。
しかし時間の流れは決して止まる事はないわけで…。


その現実をようやく思い出した頃には更に時間は進んでいた。


「やっべぇマジで遅刻しちまうっ!クソバ○ァてめぇ帰ったら覚えとけよー!!」


と、護は捨て台詞を吐き、シャワーそっちのけで支度へと急ぐ。

枕元に置かれた、動力を失った目覚まし時計は朝の6時を刺して静止していた…。


あんにゃろう(怒)。


玉露と海苔煎餅に舌鼓を打つ緊張感の欠落した優羅を引き連れ、玄関を飛び出していく護へと…



見送る祖母が最後の火種を落とす。



「護ー、今日は昼過ぎから雨降るらしいから、帰りは優羅ちゃんと相合い傘して帰っといでな?ひぇっひぇっひぇ」


「んな?!てめぇそれは飛び出す前に言え!!持たせる気0やんけ!!」


「え…相合い傘…?護ちゃんと…カップルみたいに…相合い傘…」


「あ、あの…優羅さん??(汗)」


硬直する優羅の頭上からは湯気みたいなのが立ち上り、頬は紅潮し、瞳を潤ませ、身体はもじもじ…。


流石は婆ちゃんとタメ張る人種、異常なまでの乙女人間である。
どんだけーいかほどー


このままではイカン!


ぷしゅうぷしゅうと湯気立つ幸せ者を、引きずるようにして猛ダッシュ!!


さらに汗だくになった護とユデダコ状態の優羅が、僅か5分で学校に到着し、ギリギリ遅刻を免れたのはもはや奇跡としか言いようがなかった。



ちなみに、今朝の護の12星座占いの結果は…


【あなたに思わぬトラブルが!】


もちろん護はそれを知らないのであった。

【プロローグ】


空は夕暮れに赤く染まり、不気味なほどに影を伸ばしていた。


僕の住む住宅街のこの時間は、いつも夕飯の良い匂いに包まれる。


あの家はカレーかな?こっちの家は餃子かも。


食べ盛りの中学生で尚且つ部活帰りだった僕は、激しい空腹感に苛まれ、少し足取りを早くし我が家を目指した。


今夜の夕飯は、確かロールキャベツだったよな…。


思わずにんまりしていた僕は、自然と駆け足にシフトチェンジしていた。母さんの作るロールキャベツは僕の1番の大好物だ。




「ただいまーっ!」




玄関のドアを開けるとコンソメスープのいい香りが漂ってきた。

コトコトと煮込む音が空腹感を更に煽る。


僕は玄関に靴を脱ぎ捨てて、制服も鞄もそのままに食卓のあるリビングを目指した。


あの時の僕は、父さんも帰宅しているはずなのに家の中が妙に静かだった事を何故不思議に思わなかったんだろうか?


口に溢れる涎を飲み込み、意気揚々と駆け込んだリビングには、コンソメスープのいい香りと…






血生臭いにおいが充満していた…。










「なに…これ…」








リビング全体に飛び散った、夥しい鮮血。


純白のカーペットに、赤黒い地図が描かれているようだった。






「父…さん、母さ…ん?」






目の前に転がる、かつて父親だったモノ。






「嘘だ。」






苦悶の表情を浮かべ、腹を裂かれた母親だったモノ。






「嘘だ。」






皆で楽しく囲むはずだった食卓に載る、かつて母親の体内にあったはずの…モノ、モノ、モノ。






「…嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」






ロールキャベツを煮込むコトコトという音が、夕闇に染まるリビングに静かに響いていた…。