ネタバレ注意。
主人公の名前は「かな」です。
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(……見えた)
速度を緩めず馬を走らせ、前方に目を凝らす。
敵味方入り乱れる戦場で、黒い甲冑を身にまとう宿敵が、幸村を見て笑った。
信長「真田幸村……いざ、尋常に勝負!」
幸村「信長、覚悟……!」
十文字の大槍を振り上げ、間髪いれずにつき出す。
耳に痛い音を響かせ、信長の刀が槍の切っ先をなぎ払った。
幸村「へえ…本能寺で死にかけたと聞いたが、腕が鈍ったわけじゃないらしいな」
(奇襲にも動じねえか。魔王って異名がこいつほど似合うヤツも珍しい)
信長「貴様こそ……主君信玄ともども、この俺に手向かうべく身をひそめ牙を研いでいたのだろう?みずから刀を振るうのは久々だ。せいぜい俺を愉しませろ、幸村」
(上等だ)
血が沸き立つのを自覚し、十文字槍を再び振り上げた、その時だった。
「っ…あ…」
信長「かな!」
(は……?)
信長の馬の背に女が乗っていることに、初めて気づく。
よろけたところを信長に後ろ手で支えられ、女は怯えた目を幸村に向けた。
幸村「かな…?」
槍を持つ手が凍りつき、身じろぎもできず、かなと見つめ合う。
(どうして、お前が…!?)
信長「女連れとて容赦は要らん。呆けてないで抜け、幸村」
幸村「っ……」
動揺を抑え込んで槍を放り出し、距離を一気に詰めて刀を抜き放った。
信長の刀と幸村の刀が火花を散らしぶつかり合う。
(なんでかなが戦場にいる…?それも、信長と……)
幸村「っ……くそ」
わけがわからないまま、がむしゃらに信長の刀を押し退ける。
信長「……っ」
信長がかなをかばうように身体をねじった。
反射的に腕が動き、幸村は刀を喉元を狙い振り下ろす。
「やめて……!」
幸村「っ……」
かなの悲壮な声で、我に返った。
信長「かな…」
信長の首を自らの腕でかばい、かながすがるような目でこちらを見ている。
(っ…どうしてだよ…)
振り上げた刀が、宙で止まる。
信長「――…幸村、女に情けをかける余裕が貴様にあるのか?」
しがみつくかなをものともせず、信長が腕を振り上げた。
幸村「く……っ」
「あ……!」
胴に鋭い一太刀を浴び、幸村は馬から転げ落ちた。
(くそ……っ)
受け身をとって転がり、刀を取り落とさないよう拳を握る。
(っ…よし、骨は折れてねえみてえだな)
兵が押し寄せ土ぼこりが舞い上がる中、幸村はすぐさま身体を起こした。
再び馬に飛び乗り、刀を振り上げる。
幸村「列を乱すな!全員、続け!」
家臣達「はっ」
乱れた隊列を組み直す一方で、信長が後方に下がるのが見えた。
その背に掴まっているかなの姿も遠ざかっていき、見えなくなる。
(っ……あいつのことは、今は考えるな。家臣達をひとりでも生かして敵を倒すことだけを考えろ)
幸村「臆すな、押し通れ…――!」
声を張り上げ、幸村は容赦なく進軍を開始した。
織田軍側も体勢を立て直し、一時は乱れていた部隊が合流し始める。
幸村と離れた場所で、かなは呆然としたまま信長の馬の背にしがみついていた。
武将「信長様!先鋒はわたくしが務めます!」
信長「よし、許す。一歩も退くな」
部隊の将と短く言い交し、信長は馬の鼻先を後方へ向けた。
信長「貴様、馬には乗れたな?」
「えっ?は、はい、一応は…」
信長「では、右翼にいる秀吉の元に合流しろ」
「えっ、逃げろってことですか…?私は験担ぎだって言ってたのに」
信長「であればこそだ。後方で貴様を遊ばせておくつもりだったが状況が変わった。敵は、こちらの前方に構える右翼左翼に主力でない雑兵を多勢ぶつけてきたようだ。そうしてこちらの兵を足止めし、この俺のみに的を絞り、精鋭で奇襲を仕掛けてきた。そんな合戦の矢面に、有用な運気の元を置いてはおけん」
前線から離れた場所まで来ると、信長は馬を止めた。
口笛を鳴らし、乗り手を失った馬をそばに呼び寄せる。
信長「この馬に乗って去れ、かな」
「でも…っ」
信長「無駄口を叩くな。秀吉も後方の状況に気づく頃、こちらに合流する途上だろう。貴様はその隊と合流し、後方の支援へ回れ。ぐずぐずするな、行け」
ためらうかなを、信長が強引に抱き上げる。
「わ…っ」
別の馬へと乗せかえられ、かなは慌てて手綱にしがみついた。
信長はにやりと笑い、かなへと懐剣を放って寄越した。
「っ…これは…?」
信長「くれてやる。いざという時は己の身は己で守れ。俺の居ぬ間に死んだりしてみろ、許さんぞ」
信長が去ると、かなは動揺しながらも懐剣を帯に差し、馬を別方向へと走らせ始めた。
一方、幸村は敵の壁を押し割りながら駒を進め…家臣を率いて、織田軍の奥深くまで斬り込んだ。
(信長の援軍がここへたどりつくのも時間の問題だ。その前に決着をつけねえと)
息を吸うように刀を振るい、ただ前へと進む。
さっき目にした、かなの驚いた顔が闘志で塗りつぶされ、感情が麻痺していく。
幸村「退くな、押せ…――!」
???「命に代えても行かせるか…っ」
肩をわななかせ、敵の足軽が目の前にたちはだかる。
幸村「……!」
その足軽の顔には、見覚えがあった。
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弥彦「がんばってって言いに来た!」
弥彦の父親「そうか。ありがとうなぁ」
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(弥彦の、親父……)
彼は味方を守って仁王立ちになり、槍を構えている。
背後の馬上にいるのは、怯えた表情のかなだった。
幸村「……っ」
頭が真っ白になった瞬間、弥彦の父親が幸村に向かって槍を突き出した。
幸村「邪魔立て無用…!」
とっさに槍の穂先を斬り飛ばし、刀をひるがえす。
その時、いつか見た弥彦の笑顔が、脳裏にちらついた。
(くそ……!)
弥彦の父親「ぐ……っ?」
幸村は狙いをずらし、弥彦の父親の槍だけを弾き飛ばした。
「駄目…――!!」
幸村「…………っ」
かなの叫びが耳に届き、胸が軋む。
「幸……」
幸村「っ……見るな」
小さく呟き、素早くかなに背を向ける。
(血で汚れてる俺を、お前が、そんな哀しそうな目で見るな)
なぜかなが戦場にいるのか、信長との繋がりは何なのか…次々に湧く疑問を、無理やり押し込める。
(俺が今成すべきことは……戦って戦って、戦い抜くことだ)
命が助かったことに困惑する弥彦の父親と、悲しげなかなをその場に残し…幸村は葛藤を抑え込み、混戦の中へと突き進んでいった。
やがて決着がつかずに陽が落ちて、一旦両者兵を引き、睨み合いのまま夜明けを待つこととなった。
織田軍が兵を引き平野に静けさが戻った時、片隅で影が動いた。
黒装束の男「思った通りの戦況だな。しかし、あの信長が女をかばい刀を振るうとは…思わぬ拾い物をした。顕如様に報告せねば」
真夜中になるのを待ち、幸村はひとり野営地を抜け出した。
(バカなことをしてんのはわかってる。だけど……)
きっとかなも自分を探している…そんな根拠のない自信があった。
野原はところどころ焼け焦げ、折れた矢が刺さる大地が黒ずんでいる。
(……!やっぱり、来たか)
ススキの向こうで、こちらに気づいたかなが目を見開いた。
目を逸らさずにかなの前に歩み寄り…
幸村「――…来い、かな」
「っ……」
強引に手首を掴み、ひと目を忍ぶようにススキをかき分け歩き出した。
見通しの悪い林へとたどりつき、幸村はそっと手を離す。
(こいつには、聞きたいことが山ほどある)
幸村「お前は……信長の、何なんだ」
疑問のひとつが、勝手に口をついて出た。
「っ……私、は……織田軍の世話役なの」
幸村「世話役…?お前が……?っ…そうだとしても、なんでここにいんだよ!?お前は信長の女だったのか?」
「え…?」
幸村「あの男が、戦場まで自分の女を連れてくるような腑抜けだったとはな」
「違うよ…っ!」
幸村「…………」
「そんなんじゃない…っ。全然違う…!私はっ、安土城の皆の役に立ちたくて、ついてきたの…!戦なんて嫌いだけど、大事な人達が危険な目に遭うなら少しでも何かしたくて…っ。守りたくて、だから……!」
(かな……)
幸村「……そうか。悪かった」
今さら、自分が信長に嫉妬していたのだと自覚する。
(自分で自分に呆れる…。俺にはこいつを責める資格なんてねえじゃねえか。俺は名を隠して安土の城下を偵察してた身で……かなの敵だ)
「幸は……織田軍の、敵なんだね」
幸村「…そうだ」
「本当の名前は、幸じゃ、ないんだね…」
幸村「……そうだ。俺の名は、真田幸村。信玄様に仕える一の兵だ」
「嘘って、言ってよ…!」
幸村「嘘じゃねえよ」
(敵地に潜入してた身だから、本当の名をこいつに言わなかった。もっと早く、俺が信長を憎む敵の将だって、かなが知ってれば……こんなことにはならなかったかもしれねえ。だけど、もう手遅れだ)
幸村「俺は行商として安土城の城下にひそんで、織田軍の状況を偵察してた。今度の戦で、宿敵信長を滅ぼすために。俺の主君…信玄様の散り散りになった血族を集めて、武田家を再興して…それから、自分の国に帰るために」
言葉を重ねるたび、かなの表情が苦しげに歪んでいく。
幸村「俺の主には、そういやお前も前に会ってたな」
「え……?春日山城の城下で会った、あの男の人が…?」
(覚えてたか)
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幸村「……びびんなくていい。この人は俺の行商仲間だ」
信玄「…………」
「え?……そうなの?」
幸村「おー。名前は……信さんとでも呼べ」
信玄「――…ああ、そうだよ。よろしくな」
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越後での出来事を思いだしながら、かなに告げる。
幸村「ああ。俺の主、甲斐の虎、武田信玄だ」
「幸村はあの人のために戦ってるってこと…?」
幸村「そうだ。俺の命はあの人のもの、この戦で死のうが、本望だ」
越後でかなに出くわした日の、穏やかな昼下がりを思い出す。
(あの時俺は、こいつと偶然出会ったって思ってたけど…)
幸村「お前があの時越後にいたのは、旅芸人の兄貴に連れられてきたわけじゃねーんだな」
「っ……うん。信長様達と遺書に……敵の、偵察のための旅をしてたの」
幸村「…そうか。初めからおかしいと思ってたんだ」
唇を歪め、幸村は苦笑を浮かべた。
幸村「本能寺のそばの山ん中で、初めてお前に出逢ったのも…安土城の城下町で再会したのも、越後の茶屋でまた顔をあわせたのも…偶然でもなきゃ不思議でもねえ。ただお互いを探り合ってただけだったんだな」
(バカか、俺は。こいつとの出会いを……運命と思ったなんて。戦が終わって再会したら、こいつをさらうつもりだった。かなが俺と同じ気持ちなら、出逢ったのが敵地でも関係ねーと思ってた。だけど…)
信長がみずから戦場に連れてくるような、あの男に近しい敵側の人間を引き入れたりはできない。
それに昼間、刀を振るう幸村から、かなは捨て身で信長をかばった。
(信長を救おうとした女を、信長を殺そうとしてる俺が、連れていけない)
「幸…」
幸村「ゆき、じゃねえ。俺は初めから、幸村って名の、お前の敵だ」
-選択肢-
名前なんて関係ない ◎
「名前なんて関係ない。幸でも、幸村でも、私が出逢ったあなたは敵じゃない…!」
幸村「じゃあ何だっつーんだよ!?」
(お前の味方の武士達相手に刀振り回してた俺が、敵じゃなかったら、何なんだよ)
「っ…やなやつ、だよ。こんな状況でも私をどきどきさせて、どうしようもない気持ちにさせるから」
幸村「……っ」
「無神経で意地悪で、でも優しくて…勝手に口づけして、困らせて……今もこんな気持ちにさせて、ほんと、やなやつ…っ」
(お前が、それを言うのかよ)
憎まれ口を叩く唇を、今すぐ口づけで塞いでしまいたかった。
(かなも、俺を……っ…だからって、どうしようもねえじゃねえか)
湧きあがる衝動を、幸村は必死に抑え込んだ。
「戦場で会った後も、私は幸村のことばっかり考えてた…っ。逢いたくて逢いたくて、仕方なかった…!」
幸村「……やめろ!」
「やめない…!」
張り詰めた表情のかなは、目を逸らそうともしない。
まるで鏡のように、自分と同じ想いがその瞳に透けて見えた。
幸村「んな顔、すんじゃねえ」
「だ、って…っ…」
怒りと悲しみが混ざり合った声が、幸村の身も心も揺さぶり…
(何なんだよ、お前は……っ)
理性が焼き切れ、幸村はかなを強く抱きすくめた。
かなは一瞬身を縮めたけれど、すぐに首へと腕を回し、抱きしめ返す。
(かな……)
視線が絡み合って、息つく間もなく唇を重ねていた。
手加減できず、奥まで荒々しく舌先でまさぐる。
「ん……、んんっ」
かなは苦しげに吐息をこぼしながらも、腕を離そうとはしない。
「ん……ぁ……っ…ゆ、き…」
幸村「っ……かな……」
背中を撫でると、かなの肌が熱を上げたのが着物越しにわかった。
「ん…、は、ぁ……」
こじ開けたかなの唇の端から、こもった声がこぼれる。
(だめだ、これ以上は……)
息を詰めて、幸村は唇を離した。
幸村「っ…もう帰れ。じき夜明けがくる」
「嫌だよ、そんなの…!」
幸村「帰れ…っ」
「嫌…!」
言い合いながらもお互いに腕を解けず、力がこもるばかりだった。
(……どうしてくれんだよ)
幸村「っ……この、バカ」
告げながら、愛おしさで胸がつぶれる。
激情に駆られて、幸村はかなを柔らかな草むらに押し倒した。
(敵だってわかってても、どうしようもないくらいかなが欲しい。かな以外、欲しくない。出逢わなきゃよかったなんて……思えねえ)
幸村はかなを腕に閉じ込めながら…いつの間にか育っていた想いの深さと、自分の愚かさを、痛いほどに思い知った。
幸村「……ほんと、バカだろ」
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いや、エロイな…?←
全部幸村目線にしてほしい!!!!!←