ネタバレ注意。
主人公の名前は「かな」です。
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「私に、無理して笑わないで…!」
秀吉「え……っ」
「忙しくて相当疲れてるんでしょ?私に気遣いなんてしなくていい」
(秀吉さんのそういうところも、格好いいと思う。でも……!)
「私の前では、作り笑いも、平気なフリも、しないで欲しい」
秀吉「お前、そんなことで怒ってるのか……?」
「『そんなこと』じゃないよ。私には、大事なことだよ」
(っ……何、言ってるんだろう。これじゃ、我がままの上乗せだ)
秀吉「まったく……。急に怒り出したと思ったら、なんだその可愛い理由は」
「え……?」
秀吉「あー……いや、とにかくだな」
咳払いをひとつして、秀吉は私の顔を見つめ返した。
秀吉「誤解してるぞ。俺は無理に笑ってなんかない」
「嘘……」
秀吉「嘘じゃない。かなが来て嬉しいから笑ってるんだ」
(っ……そう、なの?)
嬉しくなって流されそうになるけれど、ぎりぎり踏みとどまる。
「でも!お茶は私が淹れるから。本当に少し休んで。何か私にして欲しいことがあったら言ってね。今日じゃなくても、いつでもいいから。出来ることは少ないかもしれないけど、頼ってくれたら、嬉しいから」
秀吉「かなは変わってるな…。そんなこという女、初めて会った」
(う…、おこがましかったかな。秀吉さん、頼られ体質だしな…)
「ごめん。無理にとは、言わないよ」
秀吉「……いや、かなの気持ちはわかった。わかったから、この眉間のしわ、伸ばそうな」
(え?あ……)
人差し指と親指で、眉の間をみょーんと伸ばされる。
「そ、そんなに怖い顔してた?」
秀吉「おう。般若みたいだった」
「嘘!?」
秀吉「うーそ。怒った顔も可愛かった」
(……っ、爽やかにそういうこと言わないで)
他愛無く頬が火照ることが、悔しくて堪らない。
秀吉「じゃ、お言葉に甘えて少し休憩するかな。仮眠する。四半刻経ったら起こしてくれ」
「……うん、わかった」
(一刻が二時間くらいだから、四半刻は三十分か)
この時代に来てから覚えた時間の単位を、頭の中で密かに現代の単位に置き換える。
そうしている間に、秀吉さんは壁際であぐらをかき目をつむった。
(起きたらお茶が飲めるように用意しとこうかな)
お茶の支度をして部屋へ戻ると、穏やかな寝息が聞こえてきた。
(やっぱり、すごく疲れてたんだ)
忍び足でそばへ行き、隣に座って寝顔を盗み見る。
(秀吉さんのたれ目、良く見たらぱっちり二重だ。眉毛の形、かっこいいな…あ、髪の毛さらさら。肌は綺麗だけど堅そう。男の人だもんね。耳の形も綺麗。首はがっちりしてる…)
寝顔を眺めているだけで、あっという間に時間が過ぎていく。
(って、本人の許可なく寝顔を見るのは良くないよね…!)
とんでもないことをしていることに気づいて、三角座りで膝を抱え、小さくなる。
その時、ことん、と肩に重みが加わった。
(わ……っ)
秀吉「……ん……悪い」
「う、ううん…」
(起きちゃった……)
すぐに身体を起こした秀吉さんは眠たげな顔で眉間をつまんでいる。
(まだ半分寝てるみたい…。よっぽど疲れてるんだな)
心配に駆られ、自然と手が伸びていた。
顔を覗き込み、秀吉さんの頭をそうっと撫でる。
「秀吉さん、無理し過ぎないでね」
秀吉「……っ」
(…………あ)
眠たげな目が開かれるのを見て、我にかえった。
(な、何やってんだろう…!)
秀吉さんの顔も、秀吉さんの頭に触れている私の手も、硬直している。
秀吉「あー……っと、これは……俺の、真似か?」
「う、うん、そんな感じ……」
秀吉「そうか……」
見つめあったまま、沈黙が落ちる。
(この手、どうしよう。引っ込めるタイミングがわからない!こうなったら……っ)
-選択肢-
髪をかきまわす (2+4)
眉間を指でつつく ◎
そのままにして様子を見る (4+2)
勢いに任せ、秀吉さんの眉間を指でツンとつついた。
秀吉「っ……何するんだよ」
「これは、その……さっき、眉間のしわ伸ばされた、仕返し」
秀吉「……そ、そうか」
居心地悪そうに応え、秀吉さんは目元をかすかに染めている。
(うー……胸の中がむずむずして、居たたまれない)
「……じゃ、また来るから!」
秀吉「……おう」
手をさっと引っ込めて立ち上がり、私は秀吉さんの部屋を飛び出した。
(私の手のばか!というか、私のばか!ちゃんと誤魔化せたなか?秀吉さんに変に思われてませんように……)
ほのかに熱い指先を握りしめ、一目散に玄関を目指す。
こうして私は、廊下を走るなという秀吉さんの言い付けを、また破ってしまった。
かなが立ち去ったあと――
秀吉「……今のは、俺を慰めようとしたとか、そういうことか?」
かすかに熱を持つ額を、秀吉は手の甲で押さえた。
柔らかなかなの手のひらで撫でられた箇所が、むずがゆい。
秀吉「……まずい。妹に、見えなくなってきた」
(頭、ぼーっとする……)
御殿を出て外の空気に触れても、頬の熱が冷めなかった。
城への帰路をたどりながらも、頭の中は秀吉さんでいっぱいだ。
(前は、こんなんじゃなかった。秀吉さんの親切を素直に喜べた。妹みたいに甘やかされることが、ありがたかったし、嬉しかった。なのに……)
甘やかされることがもどかしく、素直になれなくなった。
挙げ句、無理に笑うのはやめて欲しいとか、気遣われるのが嫌だとか、駄々をこねた上に、
大の男の人相手に頭を撫でたり――もう滅茶苦茶だ。
(相手は今を時めく戦国武将だっていうのに、無礼千万だよ……あ、この考え方、秀吉さんっぽい)
何を考えていても、思考が秀吉さんに行きついてしまう。
(この時代にきて一ヶ月くらい経つけど、短期間でばっちり影響されちゃってる。戦国ライフもあと二ヶ月か……。このままぎくしゃくするのが続くのは嫌だな)
思わずため息がこぼれた、その時…
光秀「ずいぶん憂い顔だな、かな」
「光秀さん……?」
通りかかったらしい光秀さんが、にやりと笑って歩み寄る。
(もしかして七里さんも一緒なんじゃ…!)
辺りを警戒するけれど、それらしき人の姿はない。
光秀「安心しろ。七里殿は今日は一緒じゃない」
「えっ、なんで私の考えてることがわかったんですか?」
光秀「顔に書いてあるからだ。俺との約束は守っているだろうな?」
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光秀「七里殿には近づくな。いいな?」
「え……」
光秀「理由は知らなくていい。俺から忠告を受けたことは誰にも言うな。言ったらその口、二度と聞けないように縫い付けてやる」
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「お、覚えてます。誰にも言ってません」
光秀「よし、良い子だ」
満足そうに微笑み、くしゃっと頭を撫でられた。
光秀「約束を守った褒美に、悩みがあるなら聞いてやろう」
「え……?」
光秀「難しい顔をしていただろう。小さな頭で考えるより口に出した方がいくらかマシだ」
(小さな頭って……容量的な意味で言ってるよね)
私の返事を待つ光秀さんの眼差しは、面白がっているように見える。
けれど、ほんの少し親切心も混ざっているように思えた。
(……話すだけ、話してみようかな)
「ええっと、ある人の話なんですけど…」
光秀「ほう、ある人」
(なんでだろう、ひと言で誰のことか見抜かれた気が…っ…まあいいや、大人だし、スルーしてくれるよね)
「すごく親切にしてくれる人で、ありがたいと思ってたのに、最近、もやもやするんです。子ども扱いされてるみたいで……。まあ、頼りがいのない自分が悪いんですけどね」
光秀「なるほど、自己分析は正しくできるようだな」
(悔しいけど反論できない……)
「とにかく……この頃その人の前で素直になれなくて、じたばたして、一緒にいると、ぎくしゃくしてしまうんです」
光秀「それでお前は、この世の終わりとでも言いたげな顔で悩んでいた、と」
「そこまで思い詰めてはないですけど……」
(よく考えたら、戦が始まりそうなこのご時世に、のんきな悩みだな。戦国武将に相談する悩みじゃなかった……)
『くだらない』と一刀両断される覚悟を決めるけれど、
意外にも、光秀さんは淡々と尋ね返してくれた。
光秀「ではお前は、ぎくしゃくする前の関係に戻りたいのか?」
(え……)
光秀「子どもをあやすように甘やかされ、妹のように扱われるだけの関係に、という意味だ」
「っ……いいえ」
(もう、それじゃ、喜べない)
光秀「だったら、先へ進め。結果がどうなるかは、俺は知らないがな」
(先へ、か……)
光秀さんの声は思いのほか力強く響き、一瞬、胸が軽くなった。
けれど……
「先には行けないんです。色々あって」
私はあと二ヶ月で、この時代を離れる。
この気持ちに、『先』なんてないのだ。
光秀「お前が頭でどう考えていようが、手遅れだと思うぞ」
「手遅れ?」
光秀「帰って、秀吉のことを考えながら鏡を見てみろ。お前が奴をどう思っているか、すべて顔に出ている」
(ええっ?)
からかい交じりに見下ろされ、頬を手のひらで覆う。
「そ、そんなにわかりやすいですか、私!」
光秀「少なくとも俺にとってはな。秀吉は知らん」
「っ…そもそも『とある人』が秀吉さんだとは言ってません」
光秀「今さら隠す意味があるか?」
「ここは大人同士、暗黙の了解で、あえて口にしない流れじゃないですか…!」
光秀「顔に出ているものを、言葉で隠しても仕方ないだろう」
「それは……っ、そうですね……」
(あ、しまった。認めちゃった)
光秀「お前は、面白いほど素直だな」
光秀さんがふっと吹き出し、おかしそうに笑い出す。
(あれ……。この人も、心から楽しそうに笑うことがあるんだな)
これまで見た怪しい微笑とは違い、どこかくつろいでいるように見えて、
なんだか、笑われていることを怒る気にならない。
「……そんなにおかしいですか?」
光秀「いや。あけすけで幸せそうな悩み事が物珍しくてな。俺には、そういう微笑ましい類いの話題は縁遠い」
(縁遠いって……)
「縁遠くしているのは光秀さん自身でしょう?」
光秀「ん…?」
「いつも何考えてるのかわからないし、にやにやしてるし…もっと今みたいに、あっけらかんと笑ってればいいのに」
光秀「……」
「光秀さんの本音を知りたい人は、たくさんいると思いますよ。私も、今日あなたと話してみて、そう思いましたし…」
(特に秀吉さんは、そう思ってるだろうな)
光秀「……やれやれ。安易にそういうことは言わない方がいい」
「え?」
光秀「お前の兄が、気が気じゃなくなるだろうからな」
苦笑いをする光秀さんの表情は、いつもより少し優しげに見える。
(どういう意味だろう…)
光秀「さて、おしゃべりはここまでだ。せいぜい秀吉と仲良くすることだな」
「あっ、待って下さい」
歩き出した光秀さんの背中に、慌てて声をかける。
「あの、私相手に本音を言わなくてもいいから、秀吉さんには言ってくれませんか?
光秀「……秀吉に?」
「秀吉さんは、光秀さんの本心を聞きたいと思ってるはずです。だから…」
光秀「お前は、本物の妹でもないのに奴に似ているな」
「え?」
光秀「大のつくお人好しだ」
私の言葉に応えず、光秀さんは行ってしまった。
(結局はぐらかされちゃった。私レベルじゃ太刀打ちできないか…でも)
『お人好しだ』と呟いた光秀さんの瞳は温かかった。
(光秀さんも、秀吉さんのことを嫌ってるわけじゃないのかもしれない。光秀さんは、悪い人じゃない。そう思って、いいよね…?)
遠ざかる背中を見送りながら、私は祈るようにそう思った。
忙しい秀吉さんと顔を合わせることもないまま、数日が過ぎた夜。
女中「かな様、文が届いておりますよ」
「ありがとうございます」
女中さんが届けてくれた文を、蝋燭の明かりにかざす。
(あっ……、秀吉さんからだ)
達筆な字で書かれた差出人の名に、まじまじと見入った。
名前を見るだけで胸が高鳴るなんて、末期症状かもしれない。
(いやいや……末期って何。光秀さんにも言ったじゃない、『先はない』って)
自分で自分に言い聞かせながらも、文を開く手がはやる。
『前略、かな様。明日、俺の御殿に遊びに来い。一日暇ができたから……煎餅の礼をする。一日構い倒すから、そのつもりでいろよ?』
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エッ光秀たんエスパーなの?かっこいい(?)
わたしも光秀たんに相談したい…相談したいことは特にないけど…
秀吉ルートの片想いポジ、まさかの光秀か…!?最高だな…
なんかもっと笑えばいいのにみたいなところで若干キュンと来てない?光秀たん!!
そして秀吉がついに恋心に気づいてしまった回、最高では!!
先に彼目線読んでしまってたんですけどこの話の秀吉目線、結構好きかもしれない。
1話始まってすぐがちゃでプレミア出ちゃったから最初我慢してたんだけど
もういいや!読む!って決意してからもう何度も読んでる。笑