S 様
せっかくお電話いただきながら捗々しい応対もでき兼ね心残りな気がされますので、
ご迷惑かもしれませんが、少しばかり書き添えさせていただこうとペンを執りました。
私の菩提寺から、月に一度、「寺だより」が届けられます。
先月のその一節を、私はとても気に入りましたので引用してみます。
「あの世は生きている者には絶対にわからない世界ですが、無ければこの今が生きられない」。
そして、そういうあの世の世界を「真空妙有」と言うのだそうです。
これは、スピノザのいう、すべての存在は無限が有限のカタチをとったのだということに通ずると思います。
有限の私たちには無限は絶対に知得できませんが、無限が無ければ有限はあり得ず、考えられもしません。
また有限は、無限がカタチを取ったものですから、そのまま無限でもあるわけです。
スピノザは、無限のことを神(=自然)とも表すわけですが、
すると私たちは人(有限)でありつつそのまま神(無限)であるわけです。
幸いというべきか、私は名古屋在住の悟りを開かれた方(92歳)の知遇を得るとこができました。
その方へ、スピノザの主著、『エチカ』を進呈したところ、
僅か2,3週間ほど後、『スピノザとの対話』という冊子が送られて来ました。
その方が、『エチカ』の要旨をまとめられたものです。
その中に、「人間を超える神ではないのですから、私たちは最高の存在です。
互いを尊敬しながらそれぞれが堂々と生きれば良いのです」と記されています。
またその方は、こうも言われます、 「無限の未来、無限の可能性」と。
私自身はそのように思い定めて、日々を生きています。
日々、どのように生きるかのみを考えています。
言い換えますと、死について考えることが最も少ない生き方です。
私など実のところその生き方につきまだ極めて不徹底で、
しかし、僭越は承知で、Sさんへ書き送らせていただきます。
平成8年4月1日