前回の続き。

今回は弁当。

 

三千院の里監修京風だし巻きと牛すき重(京都駅)(1,090円)

「三千院の里」とは、京都の惣菜、焼魚、弁当などを販売する惣菜店のようだが、元は会席料理を食べさせる日本料理店と旅館を兼ねたところのようでもあり、お節料理を出しているようでもあり、鳥取の会社の一事業のようでもあり、今一つよくわからない。

草津の駅弁調整元・南洋軒が製造販売している。

昨年、「駅弁大会」へ姿を現したのはちりめん(しらす干し)ご飯と、おばんざいの弁当だったが、今回は牛すき焼とだし巻き玉子の駅弁。

右側半分を占める京風だし巻きは、砂糖の入っていないだしが混ざった玉子焼き。

元関西人の味覚には、どうしてもあの関東の砂糖が入った甘い玉子焼きが好きになれない。今回既に取り上げた数多くの駅弁にも、砂糖入り玉子焼きが多数入っていたが、本当は"好きになれない"どころか嫌いである。箸をつけずに済ませたいところを、いい大人が好き嫌いをして無闇に食べ物を粗末にするのもどうかと思うので、我慢して食べているのである。

さて、私の味の審査を突破した玉子焼群は、こうして無事素晴らしきおかずとして認識された。

あっさり目の味付けの牛肉も、幾らコマ肉とはいえ、こうなってくると好感を以て迎えられるのである。

付け合わせは、すぐきを思わせる胡瓜の漬物。それに湯葉。

一味違う、あっさりとした京風すき焼き弁当を召し上がれ。

 

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きつねのへそくり(京都駅)(1,200円)

「5ちゃんねる」の書き込みを見て、買う気になった駅弁。

京都駅弁を謳ってはいるが、こちらも京都の業者ではなく、「ひっぱりだこめし」や「牛めし」でお馴染みの淡路屋という兵庫県の調整元が作っている。

細切り人参とゴボウが散らされ、更にその上には銀杏、イチョウを象った小さなカマボコが数切れ。

その下にはノーマル、黒糖2種類の甘辛い油揚げが四角に切られたものが格子状に並べられてある。

試しにお揚げさんを全てめくってみると、中から南瓜素揚げ、栗甘露煮、合鴨炭火焼、きのこ、胡桃などが姿を現した。

…なるほど…それで”へそくり”…。

なかなか凝った造りである。

新潟の「えび千両ちらし」を思わせる。

あちらは一面に(私の嫌いな)甘い玉子焼き。その下に鰻や小肌などが並ぶ宝箱的駅弁だが、仕方ないとはいえ「ちらし」を名乗る割には刺身が一切ないのが内心不満であった。

こちらは神戸の業者が京風の再現に挑んだ弁当だが、控えめの醤油味付きご飯といい、具材といい、小松菜と人参のお浸し、梅干し、さつま芋の甘煮といった付け合わせといい、あっさり味に徹したなかなかの意欲作であった。

割と早くにいつも完売してしまうのも頷ける。

梅干しも控えめな辛さで、全体のバランスを崩していないところも良い。

 

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ふたつ星一段重弁当(武雄温泉駅)(1,980円)

「ふたつ星」とは正確には「ふたつ星4047」という、JR九州が、西九州新幹線開業に合わせて武雄温泉駅~長崎駅間に運行開始した観光列車のこと。「ふたつ」とは佐賀県と長崎県を、「4047」とは改造種車の「キハ40形、キハ47形」を指す。

例によって水戸岡鋭司氏が手掛けた豪勢な内装で、種車の面影は前面以外全くと言ってよいほどない。

この観光列車の有明海岸を通るコース限定で予約販売される弁当が2種類ある。有明海の海苔と佐賀牛をふんだんに使用した贅沢な二段重の「特製ふたつ星弁当」と、一段のすき焼き風に味付けされた佐賀牛が楽しめるのり弁「4047弁当」である。

本品は、「4047弁当」をベースに、すき焼き風牛肉を「特製ふたつ星弁当」のローストビーフとステーキに置き換えた特別仕様のハイブリッド版。

手掛けるのはこれまで数々の佐賀牛豪華駅弁を輩出してきた、"西の王者"カイロ堂である。

ローストビーフ、牛ステーキ共に素晴らしいローズピンク色の切り口を見せており、味付け玉子も紛れもない本物。

これらの風味を損なうのを嫌い、敢えてレンジで温めずに食べたが、それらを取り除いて温めても良かったかもしれない。

お品書きは写真が示す通りだが、どの食材を取っても"外れ"がなく、如何に気合が入っているかが窺えようというもの。

ローストビーフにはちゃんとポン酢が用意され、これまで食してきたどのローストビーフのタレよりも、このポン酢が優っている。

これまでの説明で既に明かしているが、驚くべくはこれだけの豪華具材の下に白飯との間に前面に海苔とおかかが敷かれているということ。

つまりこの弁当は、”超豪華のり弁”でもあるのである。

 

写真ではわかりにくいが、経木を使った弁当箱に、接合部は和紙を用いており、風味と容器の処分のしやすさの両方を狙った、こちらも独自性に富む凝った造りの容器であった。

 

尚、「特製ふたつ星弁当」は2,520円、「4047弁当」は1,440円のようなので、価格設定も本品は中間のハイブリッド仕様。

 

唯一気がかりなのは、武雄温泉駅が新たな新幹線の(暫定開業の)起点となったことで、ここカイロ堂のこれまでの数多ある佐賀牛弁当が、全てこうした観光列車や新幹線絡みの弁当に集約されて、消滅してしまわないかということである。

 

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日付変わって翌朝。

輸送駅弁を予定外に多く買ってきてしまったため、朝から駅弁を食べることとなった。実にヘビーだ。

 

瀬戸内レモン鶏めし(姫路駅)(1,100円)

この弁当と次の2つも又、「5ちゃんねる」を見て追加購入を決めたもの。

鶏モモ肉をハーブと塩で焼いたものをメインに、付け合わせはアスパラガス煮、パプリカ素揚げ、ヤングコーン煮、下にはキャベツの煮浸し、別トレイにポテトサラダと、駅弁には珍しいオール洋風弁当である。

スパイス入りレモン汁と、更にレモンの切身まで用意され、これらでレモン味を演出。

ご飯は白飯ではなく、醤油ベースのうるち米炊き込みご飯で、全体の味のバランスがよく考えられた弁当である。

 

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サーモンハラス蒲焼き重(秋田駅)(1,250円)

「釣りキチ三平」のイラストがあしらわれた魚弁当。

ご覧の通りイクラ醤油漬けが散らされており、レンジで温めるのは断念。

ご飯の上一面にサーモンハラスの蒲焼き。それにイクラ醤油漬け。付け合わせは甘い玉子焼に、秋田の弁当らしくいぶり醤油漬―—とはなっているが、いぶりがっこであろう。

 

魚弁当なら、肉系よりは軽いのではないかと思い、朝から2個目に選んだが、予想に反して実にヘビーな内容であった。

魚は魚でもサーモンハラスだということに思いを馳せれば良かった。

空きっ腹であれば、濃い目の味付けに、サーモンの腹の脂身と来ればいやおうなく食欲が増すのだが、温めなかったこともあって、胸やけがした。

食後、身体がひたすらサッパリした飲み物を欲した。

 

この内容なら、1個でも十分満腹感が得られるであろう。

いずれにせよ、珍しい"重たい"魚駅弁である。

 

次回へ続く。