前回の続き。

“聖地巡礼”を途中で入れた関係で、紅華大運動会の星さま&さらさよろしく周回遅れとなってしまっていたが、気づけばアニメはあと1話。

最終話放映後、その前の回を取り上げるのも随分間抜けな話で、どこかで追いつかねばと思っていたが、やっとその機会とモティベーションが巡ってきた。

 

今回扱うのはTVアニメ版第12話・「きっと誰かが」

原作だと第6巻・第18幕、第19幕の途中までに相当する。

他のエピソードもあれど、今回は実質的に“山田さん回”となった。

 

**********

 

山田彩子の回想から物語は始まる。

 

―――恋は沢山してきたほうだと思う 初恋から2次元、3次元―――

『ベルばら』のアンドレに、『銀河英雄伝説』のラインハルト…

そして、現実の恋…

 

クラスメイトの平山に、彩子が駆け寄る。

お互い“山田”、“平山”と、苗字を呼び捨てで呼び合う仲。

今朝は、彩子が家の焼きたてパンを平山に持ってきたのだ。

「今、食べたい」

一心にほかほかのパンにかぶりつく平山。

そんな彼を彩子は嬉しそうに見守る。

 

「私がもし男だったら、彩みたいな性格のいい子を彼女にするけどなぁ」

お昼を食べながら、仲良し女子たちが話に花を咲かせる。

やがて同じクラスの女子・矢野明日花の噂話になる。

矢野明日花は、男を取っかえ引っかえする恋多き女。

来るもの拒まずのようだ。

向こうで平山が、彩のことを話している…といっても彩の家のパンのこと。

「…彩も平山もいい奴同士でお似合いだよ」

彩子、笑って打ち消すが、まんざらでもない様子。

 

そんな時、ニュースが駆け巡った。

矢野に平山が告白し、振られたと―――。

 

落ち込む平山に彩子が声を掛ける。

平山はポツポツと話し始める。

矢野のアンニュイで、何考えているかわからないところに魅かれた。

ある日、矢野がスマートフォンを見て笑っているのを目にし、そっと覗いてみると、子犬や子猫の動画だった。

“あぁ、この子はほんとはこういう子なんだな

守ってあげたいな”と思った。

共感してくれる彩子に、

「山田ってさ、本当、優しくて、一緒にいて和むな」

「俺、山田と…」

ドキッとした顔の彩子。

「…山田とずっと…友達でいたい」

―――現実が、自分の期待以上には絶対にならない―――それが私だ。

 

オーディションを控えた現実に戻る。

――― 一目惚れして一目惚れされて初恋を成就させたジュリエットを演じるなんて説得力皆無…!!―――

 

階段で委員長の杉本紗和に、彩子は声を掛ける。

 

「紗和、オーディション、もし同じグループだったら頑張るけど、失敗してテンポ

 おかしくしたらごめん……他の人にも言ってこなきゃ」

「言わなくていいわよ、そんなこと。

 そうやって先回りすることに意味はあるのかしら?」

「でも…グループ発表だから、失敗したらみんなに迷惑かけちゃうよ。

 私…いつも自分の予想を越えたことがなくて…。

 奇跡は紅華に入学できたこと位で、大抵のことは想像以下で…。

 私、今まで彼氏いたことないし、好きだって言われたことないし…」

紗和は彩子に向かってこう言った。

「私も人を殺したことがない」

「両想いになったことのない彩と、人を殺したことがない私は、未経験という点で

同じだわ。」

「…失敗することを恐れているとね、必ず失敗するわ。

そして、人よりうまくやろうとしても失敗するわよ。」

~~委員長はバレリーナの時、失敗した苦い経験があるのだろうか?!~~

 

…ならばどうすればいいのか?…アドバイスを求める彩に、紗和は続ける。

 

「難しいけど簡単よ。

今できることをすればいいのよ。

今まで練習してきたこと、それをそのまま再現すればいいの。」

「彩は娘役として、全方向から嫌われないタイプよ。

大丈夫、自信持って。彩はかわいいよ。

さ、行こ。」

 

―――あれ?これって前にも誰かに言われたような…。誰だっけ…?

 

オーディションに場面は移っている。

やはり彩子のジュリエットと、紗和のティボルトは同じ組になったようだ。

「杉本さん、彩ちゃん、がんばって下さい」

さらさが声を掛ける。

 

再び彩子の回想。

彩子と矢野明日花が屋上で話している。

彩子は明日花に、何故平山を振ったのか尋ねる。

 

「え~だってぇ~彩ぁ~平山のこと好きでしょ?」

「…私ぃ~女受け悪くてぇ~女友達、彩だけじゃん 優しいの彩だけじゃん

何かぁ~、人として彩に嫌われたら終わりかなぁって~」

 

「平山、今傷心だから、告ったらつきあえるじゃん」

「そんな~弱みにつけ込むみたいなの嫌だよ~」

「なんで~?ハッピーエンドなら、それでいいじゃん?」

「でも…ずっと友達って言われたし…」

「へへへ…彩かわいい」

「かわいくないよ。言われたこともないよ」

「彩はかわいいよ。誰からも好かれるし、あったかいオーラ出てるし。

だから紅華もきっと受かるよ。」

「そうかなぁ…」

「そうだよ~。私も男だったら、彩、彼女にしたいよ。

何なら~女のままでもつき合えるけど~」

そうして彩子に視線を向ける。

「うーん…そっかぁ。有難う」

 

「アハハハハ…やっぱ彩かわいい。

私も一生友達でいたい。」

「ホント、彩、大好き。

かわいくて涙出る。」

 

「何という言葉を使えば、この燃えるような僕の気持ちを

貴女に伝えられるのだろう」

ロミオ役の台詞がシンクロする。

 

―――うそ…もしかしてあれって…へええ~~~~っっ?!

 

“山田さん、さっきから青くなったり赤くなったりしてるけど、大丈夫かしら?”

舞台上を見ている声楽担当・早乙女先生。

“みんなごめんね。

私は教師として平等に評価をしていきたいと心掛けているわ。

…でもね…教師だって、人間です。

どうしたって、自分が才能を見出した子を応援してしまうのよ”

 

“ミュージカルは舞台の総合格闘技よ!

一発必中の華麗な技が決まれば逆転できる!!

山田さんっ、あなたにはそれがあるのを忘れないでっ!!!”

 

「ロミオ…」

“がんばってぇ”

 

「…どうしてあなたはロミオなの?」

 

―――不思議…憑き物が落ちたみたいだ…。

 

気がつかない所でそっと誰かが見ていてくれる。

―――奈良っちみたいにはなれないけど…。

 

―――舞台に立った時、沢山のお客様の中の誰かが、私を見つけてくれるかな…?…見つけてほしい…私を…

そう思うのなら、ダメもとでもアピールしなきゃだめなんだ―――

 

「動けば肘が当たるような人の波の中

ロミオ…振り向いた時、そこに見えたのはあなただけだった」

―――言えた!―――

 

*****

 

「さて…次は主席のティボルトか…」

安道=ファントム先生、あくまで冷静。

「ロミオ…!貴様、俺に何をしたっ!!」

杉本紗和委員長の指差す先にさらさの姿。

そして目が合う。

 

大木先生:「指先の細やかな表現が美しい。さすが将来はプリマ・ドンナとまで

       言われた子」

 

「馬鹿な…。これが俺の最期だというのか。

ジュリエット…俺の美しく輝く星。最後まで手の届かぬまま俺はゆく。

モンタギューめ、滅びてしまえ。

ロミオ…お前に殺られるとはな…」

(~~~委員長…💧💧…顔、怖いです…~~~)

 

高木先生:「これは…これは…怒りと憎しみでいっぱいのティボルトだね」

 

「お嬢様、大変です。ティボルト様が…」

乳母が駆け寄る。

“さぁ、山田さん、ここからがあなたの勝負所よ”

 

ところが彩は歌いださない。

見ている生徒たちが顔を見合わせる。

 

“なぜ、歌わないっっっ!!!”

 

ゆっくりと間をおいて、まずは手の動きから。

「♪うそよ 間違いよ それとも神が与えた試練なの…」

手に汗握る早乙女先生。

 

彩子の歌はやがて広がりを見せ、

「♪…あなたへの愛は 消えない炎よ 信じる力を私に与えて」

彩子の熱唱を懸命に見守るクラスメイトたち。

その歌の非凡な実力に、早くから気づいていながら、それを発揮できず、自信をもてずにいる彩子をもどかしく思っていた薫も、笑みを浮かべている。

“計算された、歌に入るまでの絶妙な間。

おとぎ話を語り始めるようにスッとピアニッシモから入り、そして徐々に包み込むように優しく強く…”

“私の目は間違っていなかった!!”

 

感激のあまり、机に突っ伏してしまう早乙女先生。

 

演技を終えた彩子たちに、クラスメイトが駆け寄る。

彩子の熱唱を絶賛する声の中、

「さすが、ライバルね」奈良っちの塩対応というか、何ともいえぬ表情。

一方のさらさは、同じティボルト役を演じた委員長の熱演を讃える。

よく目が合ったというさらさに、

「私…人を恨んだことがあまりなくて…」

「…なので仮想敵を作ってみたの。

今、一番ライバル視している人にしたわ。」

 

「誰ですか?」

無邪気に問いかけるさらさに、「秘密。」

委員長は笑みを浮かべて立ち去った。

 

*****

 

その後も、予科生たちの演技が続く。

午前中の組の生徒たちの演技が終わり、

応接室で教師たちが、興奮醒めやらぬ様子で語りあっている。

 

早乙女「青春の輝き!!みんな若くて瑞々しくて、いたいけよねぇ」

大木 「期間限定の不完全ならではの美しさですわね」

高木 「お客様に喜んでもらうには程遠いけど、新鮮ではあるよ」

 

そして、安道=ファントム先生は、こう言った。

「才能とは努力と持続力って言いますけど、たまにいるじゃないですか。

裏をかくわけでもなく こちらの想像を超えたものを出してくるやつ。

そういうのを見せられると、わが事のようにワクワクしますね」

 

昼休み。ロッカー室で昼食を囲む予科生たち。

午後の演技を控えて食事がのどを通らないとこぼす他の生徒の言葉をきいて、委員長、薫、沢田双子姉妹、山田らが、午前中で終わってよかったと話している。

後は誰に票を入れるか考えるだけ―――沢田姉妹の言葉を遮るように、奈良っちが、さらさがまだ終わっていないと告げた。

 

そうだ!―――さらさがまだだった!

道理で静かなわけだ。

 

そのさらさは一人、中庭にいた。

 

さらさは紅華に合格した頃のことを思い出していた。

前夜のパーティーに来られなかった暁也が、水族館に誘ってくれたこと。

楽しみにし過ぎて早くに支度が終わり、暇を持て余しているので、さらさは暁也を家まで迎えに行くことにした。

家の前で、暁也から「1時間遅れる」とLINEが入る。

だが、そのさらさの目の前に、兄弟子・煌三郎と連れ立って出ていく暁也の姿がある。

隅田川の川べりで、さらさのことを話す2人。

煌三郎は、暁也にさらさとつき合えと提案。

(~~~松本零士氏デザインの“ヒミコ”がわざわざ旋回して船着場に着けるなど、妙に気合が入ってるんだよなぁ…~~~)

 

煌三郎は、さらさが神戸の紅華に行くと、情報が得にくくなる。

単なる幼馴染だと疎遠になる。恋人同士だと連絡を取ろうと努力する。

さらさの動向を掴んでおきたいのは煌三郎の側なのだ。

暁也がそれを言うと、煌三郎は暁也に、

“このまますんなり十六代目・白川歌鷗になれると思うな。

(現)歌鷗は、芸の鬼だ。自分が認める逸材が出てきたら、芸養子にして跡を継がせる。(そうなったら暁也はお払い箱だ。)

そうなった時、自分ならそれを止められる。

それだけの信頼を歌鷗から得ている。”

―――要するに、暁也が人間国宝・白川歌鷗の後を継げるかどうかは、兄弟子である俺の気持次第なんだぞ。だから俺の言うことを聞いておけと、おどしているわけである。―――

 

「じゃ、考えといてね」

軽い口調で暁也の肩をポンポンと叩き、煌三郎は暁也を残して立ち去った。

その後ろ姿を見ながら独白。

 

「万事あの調子で恨まれることもあるだろうに

憎みきれないって凄いよな…。

…頭の回転の速さと、愛嬌と華、顔…色悪…」

 

 

さらさは三つ編みマスクで変装し、そんな2人のやりとりの一部始終を、

こっそり陰で聞いている。

 

水族館にて。

大水槽で自由に泳ぎ回る魚たちを見上げるさらさと暁也。

そんな魚たちの群舞を、さらさは紅華歌劇団のパレードのようだという。

キラキラと遊んで泳いでいる小魚たちが団員。

大きく、ゆっくり泳いでいるのが役付きのスターさん。

その中でも、トップスターはエイだ。

「…トップ様が背負う羽根のようです」

暁也はさらさが神戸に行ってしまう前に、新橋に誘うが、さらさは歌舞伎を観に行くのは祖父に禁止されている、とやんわり断る。

自分が家を出ても、時々祖父のところへ遊びに来てほしいと頼む。

そして、

「…紅華に入学して、2年後にはあの沢山のお魚の一匹になります。

いつかエイになって、オスカル様を演じたいです。

さらさはやっと本当に歌舞伎から卒業できます。

さらさのなりたかった助六は暁也くんに譲ってあげます。」

 

「…あのね…暁也くん…。

さらさの彼氏になって下さい。」

 

*****

 

再び紅華音楽学校。

昼休みが終わり、さらさが戻って来た。

役作りの仕上げをしていたという。

 

「大丈夫そう?」

気遣う奈良っちに、さらさはいつもの満面の笑みを見せ、「今度こそ、さらさのティボルトを皆さんにお見せします!」と宣言した。

再びオーディション会場。

さらさの名が呼ばれる。

何故か最初に呼ばれるはずのロミオ役が飛ばされている。

勘のいい薫はあることに気づく。

 

安道=ファントム先生が告げた。

そして、ロミオは、俺」

 

**********

 

前回に続き、オーディションの模様が描かれるが、山田さんのエピソードメインの前半で全て持って行かれてしまった感がある。

 

誰からも愛される温かみのある優しい性格、そんなほんわかした山田さんの、仄かに恋を抱き始めていた平山君からの、まさかの“友達宣言”。

それまで何とも思っていなかった、ただの親しい友達から、徐々に異性として意識し始めた相手。

そんな相手から、何の悪気もなしに“友達”と言われるショック。

相手を意識し始めた側のみが抱く、敗北感。失望。時に絶望。

しかも言った本人は、最大限の親愛の情を示したと微塵も疑わない。

 

そして、周囲の評判は悪いが、自分は分け隔てなく親しく付き合っている同性の友人。

恋多き女―――場合によっては尻軽女などと陰口を叩かれていたかもしれない。

そんな女友達が、実は自分のことを少なからず想っており、しかも、他の誰よりもかけがえのない“本命”だと思っている。

彼女は、恋多き女と噂される中で、実は“本命”だった女友達に、いつもの気安さからは到底想像もつかないほど慎重に、しかもサラッとその秘めたる想いを告げた。

きっと心臓はバクバク。

想いを打ち明ければ、友情が壊れてしまうかもしれない。

もう気軽に話すこともできなくなってしまうかもしれない。

矢野明日花にとり、まさに一世一代の賭けだったのだろう。

 

そんな切羽詰まった思い詰めた気持ちに全く気付かず、素直に「有難う」と答える山田さん。

「アハハハハ…」

ことさら大声で笑い飛ばし、一世一代の告白も、冗談めかして、そのままなかったことにしてしまうしかないではないか!!

大笑いしながら自然と溢れ出てくる涙。

“顔で笑って心で泣いて”という言葉があるが、この場合、“顔で笑って、泣いて、心で泣いて、そのまま無理矢理笑い飛ばせ”といったところである。

この後、矢野さんは彩子から顔を逸らし、溢れ出て止まらぬ涙を、笑いで覆い隠して拭い去るのだ。

 

確かにLGBTの“L”なのかもしれないけれど、それまで蓮っ葉で尻軽な今どきの娘―――そんな印象しかなかった矢野さんが、この瞬間、とても美しく見えた。

 

この横顔涙のカットは原作にはなかった。

何だかとても切なくなった。

 

そんな矢野さんの心の葛藤を、その場では全く想像もつかず、自分の人生経験の引き出しにはない、到底理解できない―――そう思っていたジュリエット役を演じる時が刻一刻と迫る中、そこで初めて「うそ…あれって、もしかして…」と、ずっと後になって気が付き、あせる山田さん、やっぱりかわいい。

 

本作において、山田さんはその取り上げられ方において、実は随分優遇されている。

紅華の卵として、遥かに高い意識をもつ薫など、あの夏のスピンオフがなければ、モブキャラ並みの扱いといってよいほどだ。

 

元アイドルの奈良っちは勿論のこと、祖母の代まで三代遡って紅華乙女のサラブレッド・薫、バレエ界で将来のプリマ・ドンナを嘱望された委員長・杉本紗和ら、常人離れした華々しい経歴あるいは血統の持ち主。

 

下町の畳屋の孫娘で、一見庶民代表に見えるさらさだって、実は歌舞伎界との繋がりが濃く、日舞で鍛えられた体幹の強さ、稀にみるコピー能力など、非凡な才が垣間見える。

それに何と言ったって父親だ。

煌三郎が匂わされるが、実は歌鷗かもしれないのだ。

そうすると、さらさは歌舞伎の血筋を受け継ぐ娘ということにさえなる。

 

主な100期生の中では、沢田双子姉妹が母が昔から紅華ファンという他は、一般家庭の出に思えるが、紅華とのつながりが全くなく、8歳の誕生日に連れて行ってもらって紅華ファンになった以外、全くの予備知識もアドバンテージもない、街のパン屋さんの娘・山田彩子の庶民度は、やはり群を抜いている。

 

山田さんだけが、いわゆる普通の女の子なのだ。

意識が高く、気持ちも強く、自信と克己心に溢れた同期生に気圧されて、弱気にもなるし、自信も失うことだろう。

本作もまた、私含めて、殆どの読者は、特別何かの素養や係累があるわけでもない、至って普通の人だと思う。

誰もが最初から薫や委員長のように、高い意識で、強い向上心を最初から持ち続けていられるものではない。

山田さんの弱気、自己評価の低さが、多くの読み手にとり、最も親しみを持つことができ、共感しやすい感情なのだと思う。

 

「スチュワーデス物語」で、“ドジでのろまな亀”の堀ちえみに声援を送るのも、山岸凉子の「アラベスク」でノンナを応援したくなるのも、同じような感情だと思うのである。

 

しかしながら、そんな山田さんが、例え成績最下位になろうとも、紅華という選ばれし狭き門の一員たることができたのは、その歌の才能に拠るところが大きい。

勿論、誰からも愛される温かみのある雰囲気が、入試の時点で、大きな魅力として映ったのかもしれないが、やはり歌のスペシャリストとしての素質を見出されたことに優るものはないと思う。

 

今回でも、あの第5話に続き、山田さんの歌唱力にダイヤの原石を見出した早乙女先生の、胸が熱くなる独白がある。

人間、誰しも他人から何かしらの点で認められ、評価されると、大人でも、年寄りでも嬉しいものだとは思うが、それが思春期の、まだ何物か判然としない時期の未完成な時期であれば猶更だ。

 

大人ほどには世界が拡がりを見せていない10代において、自分のことを認め、かけがえのないものに思い、例え心の中ででも味方になってくれる人がいてくれるということが、どれだけ心強いことか。

 

未成年者の場合、まず身近なところだと親。それに先生。

そういうすぐそばにいる大人が認めてくれるか否かで、その子の心のあり方はものすごく違ってくるように思える。

 

あとは友達。

自分の心根が悪ければ、良い友達は得られない。

例え表面的な、知り合い程度の“友達”はできたとしても、互いの人となりを理解し、認め、かけがえのないものと思ってくれる、いわば生身の友達は、テクニカルなことや、表層的な言葉だけで作れるものではない。

 

そして大切なのは、そうして自分の心の支え、拠り所となってくれる人、味方になってくれる人の存在に気づき、それを当たり前だと思わず、感謝できる気持ちだと思っている。

 

前回最後のように、自信喪失な山田さんを叱咤する薫は、何度も繰り返すが、紅華入試実技試験の時点で、実は山田さんが歌の名手であることを知っていた。

その強みを何で活かそうとしないんだ!

もどかしい思いが募り、ついきつい言葉で突き落とす。

 

今回登場する杉本紗和委員長は、“もっと高い意識を持て”という点では薫と同じだが、そこから建設的なアドバイスを山田さんに与え、最後に自信を取り戻させ、気持ちを前向きに導くフォローまで欠かさない。

この辺り、「さすが委員長!」と掛け声をかけたくなるような、見事な対応である。

委員長、人間が出来ている。

委員長が委員長で本当に良かったと思っている。

 

悩んだり苦しんだりする中で、決して順風満帆とは言えず、自己評価も低く、挫けそうになるけれど、地道な努力をきっと誰かが見ていてくれる。そして誰かが認めてくれる。

欧米の特にキリスト教圏では、“神が見ている。自らの善行、努力が神の意に沿う。ゆえに人が見ていなくても善行に励み、刻苦勉励を欠かさない。”そんな考え方が深く浸透しているようだが、日本にだって、“お天道様が見ている”という言葉がある。どの神様かははっきりしないが、“神様が見ている”そんな漠然とした概念は心の中にある。決して捨てたものではない。

 

ともすると現代社会においては、アピールとかプレゼンとか、コニュニケーション能力とか、場合によっては話にオチがあるとか、そうした表現技法の巧みさだけが、その人の魅力を測る尺度のようになっている感があるが、その結果、誰もが同じような格好をし、同じような言葉を喋り、同じような行動パターンをとる、金太郎飴のような、その癖、言うことだけは一丁前の皮相的で薄っぺらな人間が量産されるに至った。

 

だが、少なくとも紅華の世界では、そうした均質性は全く評価されないということなのであろう。

 

とはいえ例え道端に咲く野の花だって、美しく華やかに自らを彩る時期がある。

誰かに気づいてもらいたいと、懸命に花を咲かす時もある。

 

「…舞台に立った時、沢山のお客様の中の誰かが、私を見つけてくれるかな…?…見つけてほしい…私を…」

 

山田さん、けなげである。

クラスメイトの女子や、矢野さん同様、私も思う。

「山田さん、かわいい。」

 

どうやら早乙女先生同様、私もすっかり山田さん贔屓である。

 

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今回のエンディングは、第10話に続く、杉本紗和委員長&山田彩子さんペアの特殊バージョン・「シナヤカナミライ」

 

今回の採用は、内容的に文句なしといったところ。

 

いよいよ遂に残すところあと1回。

さらさティボルトが待っている。

実際の文化祭エピソードを原作通りやるには到底話数が足りないが、ダイジェスト版で端折るのか、オーディションの結果発表で終わるのか、はたまた“紅華乙女100期生、皆それぞれ頑張ります”といった体で、オーディションの結果発表自体をやらずに終わるのか。

エンディング曲の最期のシルエットから、原作にも同じ構図で描かれるポスターで終わりというのも、ある意味ビシッと一本、筋が通るように思えるが。

 

今はただ、最終回を待つのみ。

 

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今回も掲載画像は、一部を除きTVアニメ『かげきしょうじょ!!』公式サイトより借用しました。

次回へ続く。一部敬称略。