前回の続き。
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TVアニメ版・第10話は「4/40」と題され、原作第5巻の大半、聖先輩の紅華受験前を描いたスピンオフを除いた箇所に相当する。
“奈良っち回”となった。
大運動会の次は文化祭である。
一般的なものとは大きく異なり、本科生が中心となって歌と踊りを披露する、いわば卒業公演である。
紅華小ホールで催され、一般観客やメディアにも公開される。
今回、さらさ達の1学年上・99期生たちメインの文化祭で、予科生たちの寸劇が行われることとなった。
文化祭1日目、1幕最後に寸劇10分、コーラス5分が予科生の出番である。
寸劇の演目は『ロミオとジュリエット』。
安道=ファントム先生の演劇の授業で、夏休み前に実技演習を行ったのと同じ演目だが、台詞は異なる。
選ばれるのは40人中4人(だからタイトルが「4/40」)、残りはコーラスに回る。
紅華はスターシステムで、配役は演出家や上層部が決めるものだが、今回はオーディション形式をとる。
各人、希望する配役に立候補し、実演して見せ、自分以外の者に投票する。
役はロミオ、ジュリエット、ティボルト、乳母の4つ。
今回は入浴シーンのサービスカット(?)。
何役に手を挙げるか乙女たちが話に花を咲かせる。
前回ロミオ役だったが、ティボルト役もいいと、憧れのトップスターたちの演技に萌え萌えの委員長に対し、上昇志向の強い薫は、ロミオ一本で、アピールのチャンスと宣言。
歌しか取り柄がないと、自己評価の低い山田さんは、薫の勢いに気圧され気味。
そんな中、さらさはロミオかティボルトか迷っている。
同室の奈良っちは、ロミオがいいと思うと言う。
さらさの明るく真っ直ぐな性格がロミオ向き、上層部に自分の長所をアピールしたほうがいいと思う。それに、皆で観劇に出かけた帰り道、さらさが再現してみせたロミオの台詞。
「…もう一度、さらさのロミオを見てみたい」
奈良っちが日課の清掃。指導役の聖先輩が、予科生による寸劇の話を聞き出している。
奈「私、上手に笑えないので、ジュリエットより乳母のほうが…」
聖「えー何それ?バカじゃない!
だって今はまだ有象無象の100期生の中で、
お客様が見たいのは元JPXの奈良田愛ただ1人よ。
それが乳母?お客様を落胆させるつもり?
断言するわ。ジュリエットはあなたよ。」
奈良っちは、それは実力ではないと反論するが、聖先輩は、美しさという付加価値は持って生まれた才能。ゴールに近いスタートラインに立っているのだから、全力疾走で逃げ切ればいいと告げた。
職員室でも、オーディションの話題が出る。
安道=ファントム先生は、芝居はチームワークだが、一回位は競争心を煽ってもいいと言う。一方、女性教師陣たちは、刺激と競争心が暴走して、嫉妬と憎しみに転じないよう気をつけろと忠告する。
さらさはロミオかティボルトかで迷っているが、暁也からの電話で、何かを決意した様子。
役の希望を申告する日、予科生たちは黒板に自分の名前を書いていく。
―――さらさの脳裡に暁也との会話が甦る。
「…ロミオが合っていると言われて悩むんなら
さらさちゃんが本当にやりたい役はきっと…」
さらさが自分の名前を書いたのは、ティボルト役だった。
安「へぇーっ」
さ「リベンジです」
杉本紗和委員長も同じくティボルト役希望。
共に健闘を、と握手の手を差し出したさらさに対し、本気モードの委員長はライバルと馴れ合わないと言い放ち、握手を拒否。
奈良っちはジュリエット役を希望。山田彩子も、沢田双子姉妹も、ジュリエット役志望。
“仮にあなたに実力がなくても、全力疾走で逃げ切ればいい”
聖先輩の言葉は、トップになりたいのなら必死に努力しろって意味。
1週間後のオーディションを前に、各自自主練に励む。
とりあえず奈良っちは、配られた台本に読みがなをつけることから始めた。
一方さらさは、ティボルトの役作りに悩んでいる。
ティボルトは、いとこのジュリエットに許されぬ恋心を抱き続け、その苛立ちから、ロミオの親友・マキューシを殺す。そしてロミオに殺される。
「馬鹿な…。これが俺の最期だというのか。
ジュリエット…俺の美しく輝く星。最後まで手の届かぬまま俺はゆく。
モンタギューめ、滅びてしまえ。
ロミオ…お前に殺られるとはな…」
これが元の台詞だが、さらさは色々なティボルト像を模索している。
「手の平に咲いた赤い薔薇。いいや、これは俺の胸の中から流れ出る命の赤。
血だ…。滅しなさい!モンタギュー」
これはナルシストバージョン。
「ジュリエット…私の小宇宙に瞬く遠き恒星よ…。何億光年かけても、君には辿り着けなかったようだ。」
これは頭脳明晰バージョン。
更に…続けようとするさらさを奈良っちは制し、オリジナリティを出そうとするあまりセリフを変えてはいけないと言う。
奈「…個性を追求しすぎると、押しつけがましくなる。
大切なのは、いかに役に寄り添えるか?
個性とは、役者本人からにじみ出るもの。」
さ「うわー!金言いただきました!」
奈良っちの頭に、女優の母の言葉が甦る。
「…私が!私が!…ってこれ見よがしの演技が鼻についちゃう。
大切なのは、役を理解して、いかに役の人生に寄り添えるかってことなのに。」
“脚本から、ティボルトの日常を読み解けば、彼という人物が見えると思う。”
“彼は死ぬとき、何を思うの?それを考えたら、それがさらさのオリジナルになるんじゃないかな。”
奈良っちはさらさにアドバイス。
“これはよく考えなければですね。愛ちゃんありがとうございます。”
奈良っちはにっこり微笑んだ。
~~~キモオタさんが、この顔見たら、“奈良の開国”どころか、“天照大神御降臨!”とか言うんだろうな…~~~
―――ティボルト…ジュリエットへの恋心を表に出せずひねくれ、荒れる。
とっても複雑な人―――
各メンバー達が役の掘り下げに精出している。
奈良っちは、課題の笑顔の作り方から。
委員長はティボルトの憎しみの表現に力を尽くす。
オーディションを明日に控え、一緒に風呂につかっても、言葉ひとつ話そうとしないほどピリピリしているメンバーたち。
風呂から上がると、丁度テレビが暁也の姿を映していた。
さらさは昔のことを思い出す。
―――女の子は歌舞役者になれないと知らされ、向かう気持ちを紅華の「ベルばら」に切り替えたばかりなのに、歌舞伎の稽古に忙しい暁也のことを聞くと、自分が絶対になれないものになれる暁也が羨ましくて、怪我でもして、暁也も歌舞伎が出来なくなればいいと思ってしまった。―――
…悲しいくらい手の届かないものを、無邪気に当たり前のように持ち去っていくロミオ。…さらさの中で、ロミオが暁也の姿に重なる。
オーディション当日。
会場には、安道=ファントム先生の他に、副校長、演劇講師で紅華歌劇演出も兼務する高木先生(一見穏やかで物静かな紳士風だが、後にさらさ達が本科生になった時、厳しい演技指導にあたる)、紅華歌劇団OGで文化史担当の大木先生、声楽講師の小野寺先生たちがズラリと並んでいた。
騒然とする100期生たち。
4つの役を、当日不意打ちで4人任意で組まされ、そのグループ内で個々の演技を採点していく。
希望者が偏っているため、足りない役は安道=ファントム先生や高木先生が補う。
最初の組に、ジュリエット志望の奈良っちが呼ばれた。
採点を先生たちも行うことを知り、多くの人前で晒し者になることに、予科生たちは動揺を隠せない。
最初にセリフがあるロミオ役は、台詞をとちり、やり直しを志願した。
そんな中、奈良っちは流石の落ち着きぶりである。
…薫はそう評したが、奈良っちは心の中で自分の出番を待ちながら思っている。
“これは余裕ではなく慣れ。JPX時代に多くの舞台を経験し、アイドルとして常に人目に晒されることを無視する「慣れ」。”
“そんな私も、さすがに大舞台では緊張とプレッシャーに潰されそうになったものです。そして今も…。
恋というものが理解できていないから、ジュリエットという役に寄り添えない”
“さらさにドヤ顔でアドバイスしたことが、こんな風にはね返ってくるとは…”
母親の顔が一瞬浮かぶ。
待機しているさらさは薫に、ひそひそ声で奈良っちのことを話している。
「愛ちゃんは、自分の感情を外に出すのが下手なだけで、内側では高速回転しているんだと思うんです。」
奈良っちの心の声は続く。
ジュリエットの胸に突然去来したロミオへの恋。
その実像がわからない。
“一目惚れ…?形から入る?
ロミオがイケメンだったから…?外見だけ…?
運命の恋が、そんな俗っぽいことでいいの?
…波長が合って、ロミオの纏うオーラが良かった?!
恋するとオーラが見える?
…エスパー?
恋ってSFなの…?!”
“とりあえず、しれっとセリフを言えばいい…。
ううん、諦めちゃいけない。
こんなことで挫けていたら、あそこへは辿り着けない。”
「愛ちゃーん!」
さらさの声が甦る。
それは、学校を抜け出し、神戸の港に一人佇んでいた時、奈良っちの顔を知るナンパ男たちに絡まれそうになった。
その時、助けに来てくれたさらさの姿。
キモオタ氏との“決着”。
その帰り、華のみちで、
“幼少期の嫌なことを忘れたい。”
「それにはどうすればいいの?」
そうさらさに後ろから尋ねた時のこと。
皆で行った観劇会。
その帰り道、観てきたばかりのロミオの台詞を完璧に再現してみせたさらさ。
一瞬その台詞のように、夕空なのに煌めく星々の姿が見えた。
同じ場所に立ちたい―――そう思ったら、自然とさらさの元に駆け寄り、手を取って、“お友達になりたい”…そう告げていた。
そんな私に、さらさは満面の笑みで、“私もずっとお友達になりたいって思っていたんです”と答えてくれた。―――
「ロミオ、あなたはどうしてロミオなの。
モンタギュー家と縁を切り、その名を捨てて
それが無理ならせめて私を愛して」
―――恋はまだわからない。
これから知る時が来るのかな?
それすら今は自信がないけれど。
でも私、桜舞い散る木の下で出会ったの。
私を導く宝物のような出会い。
私はさらさと銀橋を渡る。
そのためには何一つ諦めてはいけない―――
奈良っちの中で、さらさへの想いが、ジュリエットのロミオへの想いに今シンクロする。
「動けば肘が当たるような人の波の中
ロミオ…振り向いた時、そこに見えたのはあなただけだった」
無表情だった奈良っちが、今、突如として覚醒したかのような熱演。
見守る同期生たちは、一斉に笑顔を浮かべた。
「お疲れさん」
安道=ファントム先生の声がかかる。
演技を終えた奈良っちは、オーバーヒート状態。
完全にトリップしていたのを、さらさがパチンと手を叩き、漸く彼方から戻って来た感じだ。
5分休憩。
化粧室で話し合う山田さんと薫。
山「どうしよう…一番最初に凄いの見ちゃって
私ジュリエットやっぱり向いてなかったよ
どうしよう…」
薫「彩のそういう所さぁ 全然直ってないんだ。
弱音吐くのもいい加減にしてほしい。
この期に及んでそんなことさ、
誰もが思ってても口に出さないだけなんだから」
山田さん、ますますプレッシャーで押しつぶされそうになる。
そして2組目。
ジュリエットにはそんな山田さんが、そしてティボルトには杉本紗和委員長の名が呼ばれた。
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ジュリエットがロミオを恋する気持ちを理解できなかった奈良っちは、目まぐるしい“高速回転”の末、初めてできた友達・渡辺さらさとのかけがえのない出会い、さらさを大切に想う友情、絆、そうした感情をシンクロさせることで、役に寄り添うに至った。
奈良っちは、少女時代に母親の交際相手から受けた性的虐待が元で男性恐怖症になり、自分と関わろうとする人間をシャットアウトすることでこれまで生きてきた。
さらさが言ったことをそのまま鵜呑みにしたわけではないのだろうが、今は紅華音楽学校生徒として、懸命に演技、歌、踊りなどに取り組むことで、過去のトラウマを記憶の彼方に押しやろうとしてはいるが、決してトラウマが消えたわけではない。
ジュリエットがロミオに抱いた恋愛感情の表現に、自らの引き出しにある中で、さらさへの想いを重ね合わせたことと、元々男性恐怖症であることを合わせて、奈良っちを百合系のようにいう書き込みを某巨大掲示板で見たが、それは違うと思う。
奈良っちは不幸にも、人が人を大切に思う経験をあまりにも知らずに来てしまった。
未成年者にとって、関係性が良好であれば、最も最初にそういう感情を抱くべき親―――特に母親が、奈良っちにとっては、娘ではなく自分自身にしか興味のない女優であり、それどころか自分を酷いトラウマに陥れた忌むべき男を近づけた張本人なのである。
(奈良っちがさらさに、“台詞を変えてはいけない。役に寄り添い、役を理解していけば、個性は自ずと役者からにじみ出てくる”とアドバイスした時、誰に教わったんですか?とさらさに尋ねられ、「女優さん」と突き放した言い方をしていることが、奈良っちの母親との関係性を如実に物語っている。)
一体、奈良っちの母は、今をもってしても、娘をこんな性質に変貌させた原因をわかっているのだろうか?
父親が誰なのかは一切語られず、その気配すらない。
家庭に、家族に、安らぎを得られず、唯一心を許せる相手は叔父の太一だけ。
それでも太一がいてくれただけ、まだましだと言えようが…。
多分、奈良っちにとって、太一叔父さんは、大切な人、かけがえのない人というよりも、適度な距離感を保ちながら接してくれる安全なシェルターのような、意識しなくていい唯一の存在なのではないかと思う。
奈良っちが紅華を受けたのも、女性だけの歌劇団で、男性と接するストレスが極端に少ないことが大きな理由だとは思うが、それ以上に、太一が紅華の講師だということが大きかったのではないか。
紅華に入り、元JPXといういわばアイドル崩れの異色の経歴を持つがゆえに、世間から色々と注目を集めるが、そこは自らにバリアーを張り、必要以上の他者との関わりを避けるから大丈夫。
そんな中、さらさだけは、そんな彼女のバリアーをいともたやすく乗り越えて、明るく無邪気に、ある意味無神経なまでに、彼女の領域に踏み込んできた。
最初はそれが堪らなく鬱陶しく嫌だったが、やがてそれを超越した想いが奈良っちの中に芽生え、さらさがかけがえのない存在になっていく。
きっかけは自分の暗部に触れる事件に偶々さらさが関わったことだが、やがて憧れという全く別の感情が芽生え、更に共に高みを目指したいという、戦友とか、同士愛とか、そういった感情に変貌を遂げていったのだと思う。
TVアニメ版・第8話・「薫の夏」で、感情表現に乏しいと評されていた薫が、高校球児・陸斗との関わりを経て、例えそれが淡い恋に自ら終止符を打ったちょっぴりほろ苦いひと夏の経験だったとしても、そのことが、彼女の感情表現に何某かの影響を与え、もしかしたらそれが、落ち続けていた紅華受験の最後のチャンスに合格を齎してくれた要因だったのかもしれない。
それと同様に、これまで無表情を続け、夏休み前の演劇実技で、“このジュリエット、恋してねぇ~”と安道=ファントム先生に心の中で評されるほど、感情表現が下手であった奈良っちが“演技開眼”を果たせたのは、再び演ずる機会を得たことと、さらさとの友情をかけがえのない想いとして、自らの引き出しに取り込むことができたこと、そしてその時、そこに役柄を結び付けられたこと、こうしたことの賜物だったといえるだろう。
このペースでいけば、恐らくTVアニメ版では描かれないと思うが、文化祭当日でのアクシデントを経て、奈良っちは更なる演技の幅を身につけるチャンスを得ることになる。
この回は、奈良っちが本格的に演技に目覚める大きなきっかけとなる、重要なエピソードだと思う。
そんなわけで、今回のエンディングは、原点回帰。
さらさと奈良っちのデュエット・「星の旅人」。
3つあるバージョンの内、今回は誰もが納得のEDといえるだろう。
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今回も掲載画像は、一部を除きTVアニメ『かげきしょうじょ!!』公式サイトより借用しました。
次回へ続く。















