今年も駅弁大会が始まった。

通い始めて既に干支を一巡以上している。

これに行くと、正月気分が吹き飛ぶ。

本来の順序からすると、前回の続きを先にすべきところだが、タイムリーな話題を優先する。

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「第55回 元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」

 

2020年1月8日(水)~1月21日(火)まで

10:00~20:00(1月14日(火)は17:00まで、24日は18:00まで)

京王百貨店・新宿店7階・大催場にて

通称「駅弁大会」。

 

今回も、チラシの自前での撮影はやめ、公式サイトのpdfを借用させて頂いた。

毎度の繰り返しになるが、最低限の用語解説をすると、

「実演販売」会場の販売ブースで、調理して出す駅弁。

「輸送駅弁」現地から輸送されてくる駅弁のこと。「A-0」という大きなブースに地域毎に置かれるのが大半だが、現地からの輸送が遅くなる一部の駅弁は14時からの販売に先立ち整理券が配布され、「D-1」という別の場所で販売される。又、一部の人気駅弁と、復刻掛紙付など特殊なものは、整理券なしで「D-1」で販売される。

「全国うまいもの」会場の販売ブースで売られる、駅弁以外の食品。


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12月下旬にwebチラシを見て、今回ほどやる気のなさを覚えたことはなかった。

どれも見たことのあるような内容だし、以前は毎回買っていた「うまいもの」の業者の廃業あるいは撤退が著しい。

メインの対決企画は、オリンピックイヤーに因んでか、「カニ駅弁」が5種類並ぶ。

 

エビ、カニが一切ダメという古くからの友人がいる。

別段アレルギーというわけではなさそうだが、とにかく受け付けないのだそうで、

数年前に残念ながら廃業してしまった神保町の「いもや」に初めて連れて行ってもらった時、「天丼~」に行ったが、わざわざ並びの席が空くまで待って、彼の海老天と私のイカ天を「いっせ~の、せっ」で取り換えっこして食べたことがあった。

従ってこの友人とは「かに道楽」へ飲みに行くなど以ての外なのである。

 

私自身は、格別エビ・カニが嫌いなわけでもないが、かといってものすごく好きかというと、それほどでもない。

特に駅弁に出てくるような茹でたエビ、カニの寿司は、さほど旨いと思っていない。海老なら生は美味いと思うが、それは駅弁ではなく海鮮弁当の領域だ。

従って、5種類も揃えられたカニ弁当は全てパス。

 

「牛肉弁当に外れなし」と一応は思っているが、似たものばかりでこれも飽きた。

 

去年さんざんこきおろしたから、繰り返すのはやめにするが、強度の鉄道マニアのくせに、特に今のJRの「特急」に全く魅力を感じないので、ヘッドマーク弁当にも興味なし。

嵩張る容器を手に入れても、使い道がないまま捨てるに捨てられない。数年前に高いカネをはたいて手に入れた台湾駅弁のステンレス容器で、ほとほと懲りた。

 

年が明けて漸く掲載された「駅弁リスト」を見るにつけ、西日本~四国、九州エリアの駅弁の激減ぶりは目を覆いたくなるばかりだ。

今も東日本大震災の傷跡は大きく、東北地方を応援したいというのはわかるが、駅弁大会でまで露骨な“東日本推し”をされるのには辟易する。

これでは東京駅の「祭」と大差ないではないか。

 

「祭」はJR東日本がやっている店だから、自社の東北、北海道、上越、北陸の各新幹線で運べる駅弁ばかり品揃えが良いのも、そっち方面ばかりアピールして、自社の新幹線に何とか乗せようという隠れた意図を勘ぐってしまうのも、まぁ向こうも商売だから偏向も仕方ないかと思うが、「駅弁大会」までそれに倣う必要はない。

 

「駅弁大会」というのは、ここでしか買えない全国の駅弁が一堂に会するからこそ、わざわざ人ごみの中に出向く値打ちがあるのであって、代替手段があるのなら、存在意義も薄くなる。

逆にいえば、「駅弁大会」の盛況ぶりと駅弁ブームに目を付けた、商魂逞しきJR東日本が、「祭」という店をどんどん充実させていった結果、特に東日本地域の駅弁に関しては、東京駅へ行けばいつでも気軽に買えるという状況を生み出すに至ったのだといえる。

 

実際のところ、駅弁を巡る環境は厳しく、廃業する業者が後を絶たない。

例えば数年前には「駅弁大会」にも来ていた徳島の業者が廃業してしまい、かの地の駅弁は消滅してしまったようにも聞く。

随分前に出た、確か光文社新書の「駅弁大会」という本を拾い読みすると、業者を口説き、出店してもらう苦労が並大抵でないことが伺える。

だから、たかだか年に一度数万円のカネを落とすだけの者が偉そうに、「どこそこのあの弁当が来ない」とか、「どこそこの県の弁当が少ない」とか、安易に言ってはいけないのかもしれないが、それでも今年のラインナップを見ていると、日本という国はいつからフォッサマグナから東しかなくなってしまったのか?と皮肉の一つも言いたくなる。

 

私が子供時代は、既に一般客車は勢力を弱めていたが、それでも電車や気動車の急行列車が数多く走っており、例えば信越本線の横川駅では、電車の窓を開けて、駅売りのおじさんから「峠の釜めし」を買って食べていた。

それが今では窓の開かない特急ばかりになり、車内販売でさえ合理化とやらのせいで廃止が後を絶たない。これでは旅のどのシーンで駅弁を買えというのか。駅ナカビジネスはコンビニを駅に誘致し、駅弁はコンビニの一角に肩身狭く置かれ、より安いコンビニ弁当やサンドイッチ類に負けてしまう。

 

スローライフが推奨される一方、鈍行列車に使われる車両は、地方でもロングシート車が増えた。

ロングシート車では、車内でものを食べるのは憚られる。

首都圏の通勤電車と同じような設備の車両が走るようになれば、「近代的になった」と歓迎されるという話を読んだことがある。

とんでもない話だ。

言い過ぎかもしれないが、とんだ都会コンプレックスもあったものだ。

ゆったり空いていて皆座れるほうが快適に決まっている。

“お一人様”向けが広まり、ラーメン屋のカウンター席にも1人ずつの衝立が立ち、漫画喫茶の狭い個室が喜ばれる時代に、人目に晒され放題のロングシート車が快適なわけがない。

快適だとすれば、狭苦しいボックス席に比べれば、空いている時、足が投げ出せること、近年増えたキャリーカートを足元前の通路に置けることくらいである。

駅弁というものは、その地方、地方の空気、方言などに触れつつ、のんびりと暇を持て余す中で、「さて腹が減った」と、移りゆく車窓を横目に頬張るのが本来の姿だと思うのだが、それが一番できうる鈍行列車で、駅弁を味わえる機会が今ではどんどん減っている。

快適だが密閉空間で、金魚鉢越しに外界を眺めるような特急や新幹線の車内で、駅弁を、コンビニ弁当よりはちょっと贅沢気分にと乗車前に買い込み、僅かな移動時間の中で慌ただしく消費するのは本来そぐわないと思っている。

 

従って、時代の流れと言えばそれまでだが、駅弁というものの本来の存在意義を失わせてしまった責任の大半は、当の鉄道会社自身にあると私は思う。

 

ともあれ、今や駅弁は、鉄道つながりの大義名分のもとに、ご当地グルメを実にわかりやすく体現する食べ物として、物産展やフェアで売られ、消費されるべく、様変わりしている。

だからこそ、55回も続く老舗イベントであるのなら、余計に全国満遍なく名産品を集めた食の一大祭典であってほしいと思うのだ。

私が関西の出だから余計にそう思うのかもしれないが、東京人が東日本エリアばかり見ていて、それが当たり前だと思ったら大間違いだ。

今のままでは、“東京駅の二番煎じ”と本末転倒な評価が下され、駅弁そのもの同様、このイベント自体が、あまり先の見通しが明るくないのではないかと思えてしまう。

 

それに10月の消費増税。

駅弁は持ち帰り食品で、増税の影響はないと思うのだが、それでも便乗なのか、原材料費は増税なのか、今回も値上げされた印象がある。

とうとう宮島口の「あなごめし」が2,000円の大台を突破した。

牛肉駅弁の目ぼしいものは、1,000円超えどころか1,500円超えがザラである。

高山駅の飛騨牛駅弁は、2,500円もの高値となった。

旨そうだが、幾ら年に一度の祭典とはいえ、そこまではたく値打ちがあるか?と躊躇してしまう。

じわりじわりと値上げの波が押し寄せている。

過去に食べたことのあるものは、特に気に入ったもの以外、簡単に手出しができないというよりも、手を出したくない気持ちになりつつある。

既視感を覚えるものの購入は抑制したくなる。

「A-0輸送」も、今年は目を引く初登場ものがない。

 

そんなわけで、今回はいつになく通う回数を限ることにした。

それでも現地に出向くとあれやこれやと欲張って、当初の予定よりは、多くのものを買い、味わいつつある。

以下はそのレポートである。

 

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1/10のこと。

11時半頃現地に着く。

毎度のことながら、前半のみ「うまいもの」に出店する551蓬莱は今年もものすごい列だ。大阪近郊では色んな場所にあるので、また向こうへ行った時、食べればいいやと思ってしまう。東京だと物産展でしか買えないから、あんなに並ぶのだろうが、何もそこまでせんでも…と思う。

 

今年も前半限定で展開される「ご当地パン」特集も、相変わらずの長蛇の列。

昨年は、最初は買うつもりなしといいつつ、結局2度も買い込んだが、その時の牽引役だった「ニシカワパン」は、webサイトから後で直接山ほど取り寄せたせいで、却ってここで無理して買う意義が失せた。

数年前の初登場時、喜んで大量買いした盛岡の「福田パン」も、そのボリュームは有り難いが、味の想像がつくようになってしまった。

気になるとすれば、高知の「ぼうしパン」くらいだが、何となく味や食感の想像がつく。

…とこんなわけで、今年は本当にパス。

 

総合案内の整理券を最初にチェックすると、昨年まで一番人気だった宮島口の「あなごめし」が残っていた。記事にできるかわからないが、昨夏、現地で食べた。その記憶が残っているので、今回は特に欲が湧かないが、とりあえず整理券をもらう。

鹿児島中央駅の「桜島灰干し弁当」も、ボリュームはないが味は美味しいので、これも券をもらう。

 

「C-2」甘いもの輸送コーナーへ行く。

初登場の「あきたのバター餅」、大分の「蜜衛門」を買う。

「バター餅」はそろそろ残り少なくなっていた。

 

今年は実演うまいものの出店数が減ったのか、これまでより随分と通路が広いので、場内を通るのは随分楽になった。

実演ブースで列が出来ているのは、うまいもの北海道の海鮮弁当くらいである。

 

それらを一頻り見て回ったところで、先に「A-0輸送」に行ってみた。

平日の11時半過ぎだったせいか、全く並ばされることなく場内に入れた。

「2ちゃんねる」では、初登場の「きつね寿し」(京都駅)の“瞬殺”ぶりが何度も触れられているが、元々子供時分にいなり寿司が嫌いだったせいもあり、これをどうしても試してみたいとまでは思えないのである。関東風の濃い味付けではなく、関西風のあっさりめのお稲荷さんの味なのだろう。容易に味の想像がつく。

 

やはり初登場の駅弁で唯一気になったのが、長崎駅の「長崎角煮めし」

かつて毎年リピートしていた坂本屋が来なくなって久しいが、その面影を求める。

一度は見逃してしまったが、他の弁当の山の間から2個残っているのを見つけ出し、無事確保。

それで気をよくしてつい欲張り、結局8個も買い込んだ。

既に予定外の購入、出費である。

 

今回は前半にしか来ない弁当に照準を合わせ、購入する。

とはいえ、牛肉弁当ならここ数年来、高いが絶対の信頼を置いている佐賀牛だけは初っ端に味わうことにした。

ここだけ少し並ぶ。

 

 

…早くも大きな手提げ袋にレジ袋多数。

12時になる前に屋上へ退散。

ペット売り場の前を通ると、昨年まで和ませてくれた犬猫コーナーが、ペットフード置き場と化していた。百貨店業界の厳しい現状を感じさせられるようで、何だか虚しい。

ビヤガーデン用の穴あきテーブルが多数出ていて、どうにか席にありつくことができた。

早くも実食タイム。

 

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佐賀牛ザブトンステーキ・ローストビーフ・ロースすき焼き弁当

 (武雄温泉駅)(1,998円)

今年もトップバッターは佐賀牛。

容器はそのまま、基本構成も変えずに、毎年間違い探しのように微妙に中身を変えてくる。

メインは勿論、手前に3枚鎮座まします分厚い“ザブトンステーキ”。

日差しと影のコントラストで上の写真では分かりづらいが、ピンクの赤身の美味そうなこと。

塩胡椒で味がついているが、レモンソースをお好みでかけるのもいつもと同じ。

柔らかく分厚く、牛肉を食っているという喜びを感じさせてくれるザブトンステーキの美味さは格別。中央のロース肉のすき焼きも旨いが、奥の小ぶりの赤みを帯びた3枚のローストビーフは硬く、実はこれが一番いらない子だったかもしれない。

辛うじて2,000円の大台を突破せぬよう留まっているのは、少しでも割高感を感じさせまいとする心意気か?

他の弁当、駅弁で2,000円超えが続出したので、何年も前からこの値段の佐賀牛駅弁が、何だか相対的に割安に思えてならぬ今日この頃。

味は文句なし。どうせ高いカネをはたくなら、ここのものが間違いない。

 

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青魚4品盛り (釧路駅)(1,390円)

釧路駅弁・いわしのほっかぶり寿司。

今年は前半のみ出店。

昨年食べそびれた「漬けさんま」を求め、今回は売り場がすいていたこともあって、売り子のお姉さんに教えてもらい、漸く購入。

「青魚4品盛り」といっても2種類あって、去年はさんまのマリネのほうを買ったというわけネ。

左上の2貫が「漬けさんま」。

右隣から順に時計回りで、鯖のほっかぶり、炙りさんま甘辛握り、いわしのほっかぶり。

”ほっかぶり”とは魚の表面に生大根の薄切りを乗せたもの。

たったそれだけのことだが、イワシやサバという魚の生臭さが嘘のように見事に消え去ってしまう。

他では味わえない独自性豊かな寿司だ。

 

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常陸牛厚切りカルビ焼肉弁当(水戸駅)(1,600円)

昨年のものに比べると、牛肉の切り方が大きくなっている。

ドーンと気前よく分厚い牛カルビ焼肉の甘辛味が実に男前。

ステーキ肉の下に隠れたそぼろ肉もいい脇役の仕事をしている。

消費税は上がったが、お値段据え置きは嬉しい。

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あんこう三昧弁当(水戸駅)(1,100円)

珍しい鮟鱇の駅弁。

唐揚げ、味噌煮、あんきもまでついている。

味噌煮込みご飯は弁当箱一面ぎっしり。ささがきゴボウ甘辛煮、三つ葉のおひたし、花人参、椎茸と野菜も豊富。

なかなか食べ応えのある弁当だ。

やはりこの弁当一番のキモは、文字通りあんきもだろう。

生臭くならないよう、付け合わせのしらたき含め、全体を味噌味で統一しているのも良い。

常陸牛弁当の影で脇役としてあまり売れていなさそうだったが、なかなか個性的で、地元の特産を活かした、よい駅弁だと思う。

 

初っ端からいきなり昼食で駅弁4個一気食いは結構腹にこたえた。

今年は暖冬なので、これ位のペースでどんどん消費していかないと、何日も常温で保存しておけない。

 

次回は持ち帰った弁当のレビュー。