しばらく更新をさぼっていたため、この記事が実に令和最初のものとなる。

 

**********

ひょんなことから深夜ドラマを見始め、それが意外に面白く、作品名を覚えてから早1年。

アニメ版の1期、この冬放映された2期、間髪入れず今度は実写ドラマの第2段。遂には映画化され、現在劇場公開中。

物語の舞台は、私立百花王学園。

主役の蛇喰夢子(じゃばみゆめこ)が転校してくるところから物語は始まる。

この学園は120年余りの歴史を誇る、上流階級や政財界の大物子女が数多く通う名門中の名門。

だた、学園の著しい特徴が1つある。

それは学園内の秩序が、生徒間で行われるギャンブルの強弱によってのみ定められる階級制度によって保たれているということ。

そしてその秩序を維持しているのは生徒会であり、中でも圧倒的なギャンブルの強さを誇る生徒会長・桃喰綺羅莉(ももばみきらり)の手によって、階級制度はより強固なものに作り上げられた。

 

ギャンブルにおいては、何千万、何億という額が賭けられる。

勝負に負けると高額の負債を背負うことになり、支払い不能に陥ったり、生徒会への上納金が少なくなったりすると、その生徒は「家畜」に身分を落とされる。

男子なら「ポチ」、女子なら「ミケ」と呼ばれ、名札を胸に提げ、屈辱的な学園生活を送らねばならない。

夢子は一見したところおっとりとした物腰柔らかな清楚なお嬢様だが、その実、高リスクを背負った極限のギャンブルに異常なまでに執着する、破滅型思考に取り憑かれた“賭ケグルイ”。

追い詰められれば追い詰められるほど、その目は潤み、妖しげな赤い光を帯び、「滾ってしまいますぅ~」と興奮状態。そして相手を奈落の底へいざなう決めゼリフが「さァ、賭け狂いましょう!」。

 

物語は、夢子を中心に進んでいく。

転校初日、クラスで幅を利かせていた早乙女芽亜里(さおとめめあり)に勝負を挑まれ、「投票ジャンケン」で一度は借金を背負うも、芽亜里のイカサマを見抜き、逆転勝利。「ポチ」の身分に堕していたクラスメイトの鈴井涼太を「家畜」から脱却させ、友達になる。

 

大手玩具メーカー社長令嬢、1年生にして生徒会役員の皇伊月(すめらぎいつき)、伝統文化研究会会長にして同じく生徒会役員・西洞院百合子(にしのとういんゆりこ)と、次々に生徒会役員に勝負を挑まれるが、いずれも逆転勝利。

西洞院との勝負では、あと一歩まで追い詰めるが、生徒会長・綺羅莉の介入を受け、逆に3億もの借金を背負う羽目に陥り、「ミケ」に堕す。

 

その後、芽亜里とタッグを組んでの頭脳プレイで大勝利を収め、「家畜」からの脱却ができるにも拘わらず、敢えてそれをしようとしないのは、「家畜」ならではのギャンブル挑戦権を留保したいからに他ならない。

生徒会長に勝負を挑むのだと誰しもが思っていたが、さにあらず。

意外な場面で権利を行使し、野望に燃える権力欲の塊の男を奈落の底へと突き落とした。

 

その後も次々と、超個性的な面々が現れては、趣向を凝らした独自性溢れる創作ギャンブルの勝負が描かれていき、読者、視聴者を飽きさせない。

ギャンブルは、運任せの純粋な勝負ではなく、実は相手は毎度巧妙にイカサマを仕込んでいる。知らずに勝負に挑んでくる「賭け狂い」の夢子を、「馬鹿め!」と心の中で蔑み、余裕綽々で勝負に臨むが、夢子は類まれなる洞察力で相手のイカサマや策略を瞬時に見抜き、並外れた記憶力で些細なことも見逃さず、又、巧みな話術で相手を勝負の深みに引きずり込み、抜き差しならぬ状況に追い詰めるなどして、不利な状況をひっくり返してしまう。そのさまは、この上ない快感を齎す。

夢子の神がかり的ともいえるギャンブルの才能は、全く以て天才的だ。

 

ギャンブルという特異なフィールドでの闘いのみが描かれ、欲得づくの対戦相手のあまりに際立ったキャラクター(名前からして個性的な面子ばかりで、平凡なのは鈴井くらいなものか…?)、学園という閉鎖社会内の出来事という特殊性ゆえ、現実離れした異世界での出来事のように思えるが、実は勝負の内容がギャンブルでさえなければ、現実世界においても大なり小なり展開される、駆け引きの世界なのである。

極限にまで追い詰められた状況下で繰り広げられる、登場人物たちの丁々発止の駆け引きのさまが実に面白い。

そしてその過程の中で繰り広げられる登場人物たちの“変顔”オンパレードも本作の大きな見どころとなっている。

原作漫画、アニメ版はいうに及ばず、実写ドラマ版においてもそれは活かされ、異種格闘技を見ているかのような錯覚を抱かせる。

 

物語の舞台が名門私立高校であること、生徒会が絶対的な権力を握っていること、そして生徒会は学園内に留まらず、政財界にも大きな影響力を及ぼし、日本国における絶対権力の先鋒としての役割すら負っていること。

…これらの要素のみを取り上げれば、少し前にやはり映画化された『帝一の國』(古屋兎丸)と大筋では同じに見えてくる。

違うのは『帝一の國』が生徒会に入り、生徒会長の座に就くことが主人公たちの絶対的目標であるのに対し、本作においては生徒会長の権力の絶対性は同様だが、主人公の目標は必ずしも生徒会長への就任ではなく、生徒会長とギャンブルをすることだということである。

そこには権力志向を超越した途轍もない快楽主義が存在する。

あまたの対戦相手たちが、ギャンブルを権力や野望や夢を手にするための手段として捉えているのに対し、夢子だけはギャンブルそのものを目的としている。そこが夢子の最大の強みである。

 

生徒会長・綺羅莉は、その絶対的権力を、かつて自らが1年生という弱冠の身の時、ギャンブル勝負を生徒会長に挑み、勝利したことによって、その手中に収めた。

ギャンブルによる階級制度をより強固なものに作り上げ、学園内に留まらぬ政財界への強い影響力、人一人の人生そのものをも支配するだけの力を時に発揮する。

それだけの権力を手にしていながら、常に冷静沈着、冷徹そのものである。

学園という閉じられた世界に絶対的に君臨する女王というキャラクターは、私が良く知るところでは、あの池田理代子の『おにいさまへ…』の宮さまを思い出させる。

しかし『賭ケグルイ』の世界の特異性は、際立っており、又現時点ではまだ綺羅莉の真の姿は今もって神秘の謎靄に隠されているといえる。

上で、夢子だけがギャンブルそのものを目的としていると記したが、綺羅莉だけはまだわからない。そもそも綺羅莉が何故斯様なまでにギャンブル中心の世界観を抱くに至ったかは、未だ一切明かされていない。

 

綺羅莉にとり、学園内のギャンブルを主軸に据えた階級制度は、アクアリウムの管理と大した差はなく、夢子が学園に転校してきて生徒会役員を次々に破っていることさえも、活きのいい外来種が現れて面白いわね…位にしか思っていないのだろう。

とはいえ夢子の存在が、綺羅莉の退屈に大きな波紋を投げかけたのは事実。

綺羅莉は遂に、全校生徒のみならず、自らが当主を務める百喰一族の分家の代表をも学園に招集し、生徒会会長の座と、百喰一族当主の座すら賭した生徒会長選挙を開催するに至る。

 

TVアニメ版の会長室には橘小夢の「地獄太夫」の絵が掲げられているのが時折見える。綺羅莉会長の得体の知れなさが窺えて、実に良い。

因みに第2期からは、更に百喰一族の控室に、対になるように同じく橘小夢の「水妖」という絵が掲げられている。

綺羅莉にとって、百喰一族の有象無象どもも、アクアリウムに蠢く外来魚否絵のモチーフ通り巨大人魚も混じっているということなのだろうか。

そしてその人魚に纏わりついているのが蛇。

夢子がこの先、百喰一族も喰っていくという暗示なのだろうか。

 

生徒会長選挙という新たな戦いの場でも繰り広げられるのは勿論ギャンブル勝負である。

票という名のチップを獲得すべく、あくなき闘いが繰り広げられる。

アニメ版では、男装の執事・×喰零(ばつばみれい)というオリジナルキャラが現れ、第2期の最終エピソードでは、その零が考案し、主催となる「100票オークション」なるギャンブルが繰り広げられ、零がアイデンティティーを取り戻す形で物語が締め括られた。

 

実写ドラマ版は、夢子役・浜辺美波、芽亜里役・森川葵、鈴井役・高杉真宙らが、この特異な閉鎖的世界の中で弾けた演技を見せ、各キャラクターの再現性は極めて高い。

狂言回し役・鈴井や、同じく説明役に回ることもある芽亜里は、この複雑なギャンブルのルールや状況などを説明する際、カメラのほうを向いて大振りに話す一方、他の登場人物たちはその間静止状態となり、例えば今まさにギャンブルに興じようとしている芽亜里が狂言回し役を演ずる際には、芽亜里自身から離脱し、一人だけ動くといった演劇的演出が見られる。

そもそも学園内が陰翳のある世界として描かれ、登場人物たちが照明に浮かび上がる。さながら古代ヨーロッパの屋内競技場のようだ。ここからして演劇的である。

 

アニメ版同様、現在のところ実写ドラマ版も第2期まで存在するが、実写ドラマ版のほうが物語の展開は遅く、実写ドラマ版第2期の最大の見せ場は、夢見弖ユメミ(ゆめみてゆめみ)とのアイドル対決であった。

その後に展開される「王道」・豆生田との「選択(チョイス)ポーカー」の決着を以て、ミニドラマの尺であった第2期実写ドラマ全5話が完結。

その最終話は、オリジナルストーリーの劇場版への呼び水的役割を果たし、映画へ視聴者を誘導する役割を担っている。

 

劇場版は原作にはないオリジナルストーリーである。

至極簡単に言うと、ヴィレッジという“非ギャンブル主義”を掲げる組織が学園内に出来、一波乱起きるという話である。

生徒会がヴィレッジの一掃に乗り出す。

一方、学園内で生徒代表を決める選挙が始まる。

勿論その手段はギャンブル。全校生徒強制参加だ。

不抵抗不服従主義を唱えるヴィレッジだが、選挙不参加は即放校を意味し、又生徒代表の座を得ることで、ヴィレッジの存在を生徒会に認めさせるためもあって、副代表の歩火樹絵里(あるきびじゅえり)らが参加を表明。

ヴィレッジ代表の村雨天音(むらさめあまね)は、かつて生徒会長・綺羅莉とギャンブルをして勝ったことのある人物。

その目的は、「ミケ」になっていた姉を救うことだったが、その姉は「何もわかっていない」と言い残して自殺。止めようとした村雨も顔に大怪我を負い、今もその痕が残る。

村雨が、非ギャンブルを提唱し、ヴィレッジを作ったのはそれがきっかけであった。

勝ち抜けした夢子、芽亜里、皇伊月、それとヴィレッジの歩火。

ところが準決勝を前に、歩火のペアの相手・犬八が拉致され、行方知れずとなった。このままでは不戦敗となってしまう。そこに現れたのはギャンブルを封印した筈の村雨。

彼は歩火と新ペアを組むや、相手がカードを繰る順を瞬時に記憶するという特殊能力により、決勝へ勝ち上がり、夢子&鈴井ペアと対戦。

勝負は予想に反し、夢子たちリードで進む。

夢子は歩火がわざと負けようとしていることに気づく。

果たして歩火の真意は…?!

 

というもの。

 

ヴィレッジの拠点、芽亜里が歩く地下道、村雨の姉が自殺する場所は、あの『カメラを止めるな!』ロケ地として一躍有名になった茨城の廃水道施設。

お蔭で著しい既視感を覚える。

村雨の姉さんが飛び降り自殺した場面など、おばさん女優がふっと湧いて出てきて、血まみれで倒れている村雨を放っておいて、護身術の舞を披露しそうに思ったもの。

僧衣を思わせるピッチリした前ボタンの白装束は、ひと頃話題になった某新興宗教団体を思わせる。

学園内で「家畜」に身を落とした弱者たちが、被抑圧階級者として惨めな気持ちになりかけるのを、歩火らが彼らの気持ちを鼓舞し、怒りを煽動する。

名もなきヴィレッジ団員らが右足をダンダンと一斉に踏み鳴らし、怒りの感情を増幅させ、「おぅお、お、おぅお」と叫ぶさまは、まさにファシズムを想起させる。本気でクーデターでも起こしそうだ。

又、活動の様子がやけにエコロジカルなもので、メンバーが飼い慣らされた羊のように善人になっており、あの悪態偉そぶり野郎の木渡が、家畜に墜ちて行方をくらませていたかと思ったら、花の小鉢を夢子らに差し出すほど骨抜きにされてしまっているのも、新興宗教の洗脳を思わせ、随分不気味だ。

しかし冷静に考えてみれば、綺羅莉の構築したギャンブルによる階級制度こそ常軌を逸した洗脳的要素をもった体制であり、それに異を唱えるヴィレッジの理念には、本来正当性を感じるべきものである。

なのに薄気味悪く思えてしまうのは何故?

 

ネタばらしになってしまうが、予告編の浜辺美波の

「無駄遣いはほどほどに。めっ!」

は、準決勝戦で皇伊月に放ったもの。

又、名物の「変顔」は劇場版でも健在。

山場で、突然の豹変を遂げ、壊れてしまったかのような狂気を見せる歩火こそ、劇場版の「変顔」の最たるものだろう。

 

そうした濃い連中の跳梁跋扈する中、最後に全て持って行ってしまうのはやはり夢子。

極限状態に追い詰められ、「滾ってしまいますぅ~」と興奮状態にトリップ。

そして興奮はエスカレートし、目は妖しげな赤い光を帯び、相手を奈落の底へと誘い込む。

「さァ~、賭け狂いましょう!」。

 

狂気に憑かれた天才ほど魅力的なものはない。

 

劇場版は今も大盛況のようなので、実写ドラマ版続編は十分期待できる。

骨喰ミラスラーヴァの超絶グラマラスボディーや、藤子キャラにしか見えないハリウッド女優・名足カワルが、実写でどう再現されるのか、

今から楽しみだにゃん♡

 

以上敬称略。