当blogで度々取り上げてはきたが、これまで「紀行」やかき氷店巡りの一環として触れたにすぎず、独立した記事がなかったので、今回はたっぷりと濃厚甘味の世界へと皆さまをいざなうとしよう。

 

甘党にとり、近頃見逃せないのがテレビ東京の深夜ドラマ・「さぼリーマン甘太朗」主演は尾上松也氏。

大分以前に故・水野晴郎氏が晩年、突然暴走し始め、一部のファンの間ではカルト的人気を誇る「シベリア超特急」というシリーズがあった。その「パート2」はチープさが大分改まり、少しはましな謎解き映画になったが、戦局悪化か何かで列車が足止めを食らい、乗客たちはやむをえず現地のホテルに投宿する。

そこで強欲な金貸しが殺害されるという事件が勃発。

水野氏扮する山下将軍が探偵役を買って出て…という話だが、その時、件のホテルのボーイ役だった、情けない顔をしたいがぐり頭の少年の演者として、尾上松也という名前が記憶に残った。

山場の謎解きシーンで、ラヴェルの「ボレロ」ばりのBGMでどんどん盛り上がっていく。詳しくは敢えて申しませぬが、音楽感極まった末の「やめた!」は、一生忘れられぬ名(迷)シーンでございます。

あれから10数年。こんなにでっかい色白歌舞伎お色気青年に育つとは…。

 

…いかん…超特急だけにいきなり“脱線”しちまった。

 

出版社の外回り営業に転職してきた飴谷甘太朗は、折り目正しい有能な社員として早速頭角を現すが、実は彼が外回りに転職したのにはわけがあった。

それは営業を早く切り上げ、時間を浮かせば、週末のみならず平日にも甘味を味わうことができるじゃないかというもの。

仕事中にこっそりさぼって、好きな甘味を存分に味わいたいという次第。

甘いものを口にした彼は、毎度、その世界にトリップしてしまう。

大袈裟なトリップの描写が、ドラマ版では余すところなく再現されている。

「ああ~っ」と恍惚の表情を浮かべ、法悦に浸る松也氏の悶え顔が、「そこまでやるか?」という変態性を如何なく発揮し、見る者に徹底したカタルシルを与えてくれる…かどうかまではわかりません。

 

ともあれこの「甘太朗」のかき氷の回でも、冒頭チラッとこの店が触れられていたし、その後、原作漫画を繙いてみると、甘太朗がトリップする主役がまさにこの店の氷であったことを知った。

 

私はかき氷が昔から好きだが、以前は今ほどブームではなかったし、気に入った店を時々訪ねるに過ぎなかった。

この店も、初めて訪れたのは2011年と、決して古くはない。

「かきごおりすと」ではなく、当時は次々とシリーズが出ていた、故・岸朝子さんの「東京五つ星の○×」というガイドブックによって存在を知ったのだと思う。

 

いつもは氷の季節が本格的に始まる前か、大分終わりに近づいた時期かに訪れ、真夏のピークを外すせいか、これまでこの店で長蛇の列に並んだ経験は一度もない。

 

今年は空梅雨で、今から思えば梅雨の間のほうが、遥かに夏らしい陽気だった。7月上旬に早くも訪ねたが、8月頭という、普段なら避ける時期に早くも2度目の来訪を果たしている。

間違いなく「甘太郎」に感化されたといえるだろう。

 

ああ、甘いっ子。濃厚な苺汁と練乳と、ゆであずきのコラボレーションが、脇に添えられたふにふにの白玉が、私のことを待っている!

幾度かこの店を訪ねた中で、たまには他の品も試してはみたが、やはり行きつく先は「氷いちごミルク金時白玉」。この店を夏場に訪ねるならば、一度は食すべき、この店の氷の王者である。

 

さぁいよいよ実食レポート。

今年8月頭のとある平日のこと。夕方から雨がしとど降った日だったが、午前中は薄日さす蒸し暑い氷日和の陽気であった。

 

開店10分前に店に着く。

初の真夏ゆえ、既に長蛇の列ができているのでは…と危惧するも、前に若い子連れファミリーが賑やかに屯するのみ。

通りがかりの爺さんがファミリーに話し掛けている。

西荻の先住民らしく、聞くとはなしに父親との会話を聞いていると、どうやらもう少し北側の上井草の農家なのか土地持ちのようだ。話相手役の父ちゃんは30代半ばかな?と思しき若者の面影を残す今どきの父親。爺さんへの返しが時折タメ口なのが、いただけない。関わったら面倒そうなガチャガチャと動きに落ち着きのない少年2人だけかと思いきや、脇にいたこちらは中学生かな?と思しき女の子と、まだ若いが若干の生活窶れが窺える母親の2人がひっそりと控えている。クロックスやすね毛ボーボーの半ズボンじゃないだけ、まだましな格好だといえようか。

そんな人物観察をしながら初めて彼らの後に並んでいたら、やはり真夏らしく、私の後ろにもう2組が並び、何となく列ができた。

唐突に古い木の扉が開き、中に案内される。

 

内装は純然たる甘味処といった風情で、薄暗く、昭和100%のレトロ感である。

博多人形が硝子ケースに鎮座するさまなど、懐かしき昭和遺産という感じだが、昔はどの家庭にもこうした日本人形の飾りの一つはあったものなのだ。

頭に手拭いを巻いた作務衣姿の寡黙なご主人が注文をとりに来た。

氷2杯も考えたが、ちょっと毛色の変わったものを一緒に頼むとしよう。

「豆かん」「氷いちご金時ミルク白玉」を注文する。

1人で4人卓を占拠しているが、これ位客単価を高くすれば、店屋も悪い気はすまい。それにこれがこの日の私の昼食なので、氷1杯ではどうも心許ないのである。

 

順番は特に指定しなかったが、1番乗りのファミリーたちへの氷が供された後、最初に来たのは「豆かん」であった。

まずは何もかけずに一口。

えんどう豆が…まだ温かい…。

ホクホクと口腔内で綻びる。

仄かな塩気、意外な豆の柔らかさ。

下から出てくる寒天のシャキッ、グニュッとした涼味。

続いて黒蜜投入。この店では黒蜜がデフォルトだ。

一気に濃厚さが増す。黒糖のパンチが効きながらも、寒天に中和され、上品さを得た甘さが加わり、夢中で匙で掬っては、口へと運ぶ動作を繰り返す。

ええぃ!この小ぶりなスプーンがめんどくせぇ!

器を口につけ、一気にガーッと流し込みたい気分だが、流石にそこまでしなかった。

 

ごちそうさまでした。

器を奥に押しやり、本を開く。

本格的な氷シーズンを迎え、接客バイトを入れたのか、7月にはいなかった給仕の女性から、「氷、お作りしてよろしいですか?」の声が掛かる。勿論Yesだ。

 

店に居合わせた私以外の全員は氷を頼んでいたが、彼らに皆、氷が運ばれた後、いよいよガリガリと氷を削る音が聞こえてくる。私の氷が今、調理されている!

 

ほどなくして、氷が運ばれてきた。

おおーっ!いつ見ても、幾度見ても、美しい真っ赤な苺ソースがたっぷりと。その両脇に粒々小豆と、夥しい数の白玉。そして全体を濃厚な練乳が「これでもか」というほどかかり、赤白黒の三色旗を奏でている。

陶器の平皿に、平面的に盛り付けられた氷は、他にはないビジュアルだ。

小豆のない「氷いちご」「氷いちごミルク」などでは、逆さすり鉢状にもう少し氷の中央が盛り上げられるから、きっと具材の重みに耐えかねて、こうした平面的な盛り付けに自然となるのであろう。

サムネイル画像を見るたび、私は、よく脂の乗ったしゃぶしゃぶ牛肉を思い浮かべてしまう。

恐る恐る匙を入れる。最初のこの瞬間が一番の至福の時だ。

今回も真ん中の真っ赤な苺ソース+練乳からいってみた。

甘酸っぱいどろどろ苺に濃厚な練乳が絡みつく。

続いて小豆もご一緒に。

自家製なのが否応なしにわかる、甘すぎないさっぱりと品よく仕上がったゆであずきだ。これも甘~い練乳が絡みつき、どろっどろっとした甘みになる。

そして白玉。たった今茹で上げて、水に晒しましたという素性が窺える、表面滑らか、中身もちもち、全体はふにっふにっとした白玉餅が、3個や5個なんてケチなもんじゃない、8個も並んでいる。

これは言うなれば、巨大で濃厚ないちご大福をかき氷にしたような味だ。

サッパリと上品に、ヘルシー志向で…などとのたまう向きには、全く不向きな、甘いもの好きの、甘党のための氷である。

そういえば店名からして「甘いっ子」

名は体を表す。

それを最も端的に示しているのが、この「氷いちごミルク金時白玉」である。

 

大満足にて店を後にした。

怒涛の第一波が過ぎると、少し店は落ち着きを取り戻した。

先ほどの給仕担当のお姉さんが、鼻に皺を寄せて笑顔で送り出してくれた。

 

フルーツ系の氷メニューは、全て果肉使用の本格派か、市販シロップ使用かいずれかであることが多い。

こちらの店は、例えば「メロン」は市販シロップ使用で、それゆえ値段が安い。

杏といちごが自家製で、果肉をすり下ろして作られたシロップである。

前に一度だけ「宇治ミルク金時」を食べたことがあるが、宇治はかなり濃厚であった。

やはりこの店の看板氷メニューは、「氷いちごミルク金時白玉」だと思うのである。この店に来て、これを食べないのは勿体ない。

我こそは甘党と自認されるお方は、1,000円超えなど気にせず、迷わずこれを頼まれることを強くお勧めしたい。

この店を訪ねた帰りのお楽しみが、「盛林堂書房」である。

店頭の100円コーナーからしてなかなか良い本が並んでおり、昼前から老人で賑わうが、真骨頂は店内右側。ずらりと並んだミステリー、探偵小説、文庫本の数々。文庫本は岩波、ちくま、講談社文芸文庫と、文芸モノが充実。更に奥には創元推理文庫やハヤカワポケミスがずらりと並ぶ。

概ね神保町より安い値付けのようだ。

この方面の本も随分買い漁ったので、近頃買い控えている。

結局、この日の戦果は、40年前のヤマケイの「カラー日本の私鉄2」500円也1冊であった。広田尚敬氏の写真見開き1枚と、見開き解説が交互に配された、私鉄概説的ガイドブックで、写真は形式写真というよりは、風景の中の鉄道という捉え方だから、この本が実際に売られていた時分、子供だった私には詰まらなく思えた。

 

そのすぐ先の並びにはジェラート店の「ぼぼり」がある。

昔は荻窪にも店があったが、いつの間にやら西荻店のみになってしまったようだ。それで以前は「ぼぼり荻窪牧場」といっていたと思ったが、いつしか改名されたようだ。全体的にさっぱりとした味の自家製ジェラートが幾種類も並び、狭いが店内で食べる場所もある。

近頃、「甘いっ子」の氷で冷たいデザート欲が十分満たされてしまうせいか、随分長いこと行っていない。

 

西荻のランドマーク的存在たる「こけし屋」も更にその先、駅南側すぐにあるが、こちらは未だ訪れたことすらないのである。

 

かつては友人と飲みに行く定番スポットの1つに「戎」があった。

焼き鳥は勿論のこと、蓮根の肉詰めと、夏場だけ登場する山芋千切りが忘れ難いが、どんどん店が広がってゆくと、いつしか2時間で追い出されるようになり、それですっかり足が遠のいてしまった。

その先には「パパパパパイン」というハイナップルラーメン屋があるのだが、一度行ったきりである。

 

私にとり、目下のところ西荻窪は、イコール「甘いっ子」「氷いちごミルク金時白玉」

当分、これは変わらないようだ。

この日、昼から有楽町へ映画に回った。

元は有楽町線用だった、東京メトロ07系というレア車両が来たので1枚。

バブル期に造られた高級車の雰囲気があり、内外装共に好きな車両の一つだが、副都心線のホームドアにドア間隔が合わないかどで、有楽町線&副都心線から放逐され、東西線転属となった。

黄色帯を巻いていたのが水色帯に変わるとは、とうに廃車になってしまったJR301系や103系1200番台を思い出させる。

残念ながら次の荻窪で下り、丸の内線に乗り換え。

意外に電車は混み、先ほどの豆かん&氷のせいか、いつしか眠りについた。気付けば霞ヶ関だった。あぶない、あぶない…。

 

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この先は、長すぎるおまけ。

これまで食べた「甘いっ子」の氷写真をありったけ掲載する。

写真は基本的に新しい順。

こうして並べてみると、同じメニューでも時によって随分印象が異なるものだが、味はどれも濃厚で変わらぬものだった。

 

2017.7

2016.9

2016.9再訪 氷杏ミルク金時+白玉

2015.9

2015.9

2杯目に「宇治ミルク金時」を。今はないメニューのようだ。中に隠れた宇治シロップが濃厚。

2015.6

2014.9

2013.9

2012.10

2012.7

2011.9

こうして見比べてみると、近年、盛り付けが洗練されてきた感じが…。

かき氷の提供は5月ゴールデンウィーク~10月体育の日頃までらしいので、「さぼリーマン甘太朗」に刺激された方も、当blogの夥しい写真でその気になられたという奇特な方も、まだまだ十分間に合います。

西荻・甘いっ子に急げ!!

雨の平日朝イチが狙い目だっ!!

甘辛両刀使いの向きには、夕方氷→戎となだれ込む手もあるが、氷は特に夏場は売切れ終いらしいので、くれぐれもご用心。

そういえば、ドラマ版「甘太朗」、土橋さんは漸く敵意丸出しの不気味女から甘党同志に餓えたマニア女子へとシフトしてきた気がするが、歯医者の母ちゃんは果たしてこの先出てくるんだろうか?