少し前の平日、前から行ってみたいと思いながら、なかなか行けていなかったかき氷専門店「HACHIKU(ハチク)」へ行ってきた。
池袋西口、大通りを渡り、マルイの更に向こう。立教大学の手前に店はあるというのだが…記憶に残るのは、脇道に逸れてすぐ、薄暗い通路を奥の入口へと至る新刊文庫本専門店と、何かのついでに寄った憶えがうっすら残る「白雲閣」という結婚式場。
10数年ぶりに訪れてみると、文庫本屋は跡形もなく、結婚式場も「リビエラ」というお洒落な名前に変わっている。そのすぐ前の三角州。こんなところに食い物屋ができてたのか…。立大生に混じって辺りをうろうろしかけたが、狭い店の前に早くもできている列のお蔭で、すぐにわかった。
この店の開店は13時だが、整理券が先に配られることになっている。
お店のTwitterを見ると、平日でもこの時期、配布時刻の12時で予定枚数を終えてしまうという激戦ぶり。万全を期すべく11時前に行ってみたが、それでも既に13番目であった。
サングラスの弦と帽子の縁を滴り落ちる汗が何とも鬱陶しい。
漫画本と文庫本を読みながらじっと立って待っている。
やがて11時過ぎに、頭が薄くなった面長で色黒の店主と思しき男性が姿を現し、店のテント下に辛うじて収まる8名の次から道の対岸で並ぶよう誘導があり、私の前の若い女子2人組から列ごと移った。
すぐ背後はインドカレー屋などが入った飲食店ビルで、建物が影になり、直射日光は避けられるようになったが、何て蒸し暑い昼なんだ!!
12時ちょっと前に、多分ご店主がグループの人数と希望杯数をきいて回る。
私の後ろに延々と列ができ、どうやら公園の方まで伸びているようだ。
ご店主が戻ってくるのが遅い遅い。それが列の長さを証明している。
この店は、開いている時間帯を希望して、整理券をもらうことができる。
敢えて15時とか夕方とか、自分の都合に合わせて来店希望時間を申告することができるのだ。
意外にも後の時間を指定する人がそれなりに居たようで、最も早い時間で13時。但し5番目なので実際に提供できるのは13時20分頃。それと「せっかくなので、2杯頂きます!」と私が言ったところ、2杯目の提供は更にお時間を頂きます、とこのご店主、些か強面な見た目に似ず、とっても丁寧な説明をしてくれた。
背後に続く長蛇の列を尻目に逸早く解放され、さぁどうやって時間をつぶそう?
この日はかんかん照りの快晴とは到底言えぬ曇り空だったにもかかわらず、蒸し蒸しと暑い。
すぐそばの公園で本でも読みながら時間つぶしに励もうものなら、氷食う前にこっちが日干しになっちまう。
まずは腹ごしらえ!暑い時はカレー!
甘いかき氷を前に心はすっかりカレーモード。
いや~近年、特にインドカレー屋の多さは目を見張るものがありますが、この界隈も「犬も歩けばカレー屋にあたる」(…って、前回も似たフレーズを書いた気が…)。ともあれ、あれやこれやと目移りして困っちゃうナ状態。
その中で目を引いたネーミングのお店がこれ。
「火星カレー」って何やねん?!
どうやらガッツリ系で、気取らず入れそうな予感。
狭い階段を地下へ下り、食券を買う。
頼んだのは「鴨・草カレー」 。「草」とはホウレンソウ・トッピングのことらしい。
面白いのは、牛、豚、鶏とオーソドックスな肉に加え、馬、鹿、羊、果てはカンガルーまで珍しい肉のオンパレード。これだけ肉の種類が選べるカレー屋はちょっと見たことがない。
バイトの兄ちゃんに盛りと辛さをきかれる。
大盛りでも値段変わらないんだー。総重量700グラム?!
軽い!軽い!
中辛、大盛りにしてもらう。
しばらく待って、カレーが供された。
見た目より遥かに辛さ控え目で食べやすい味。
パッと見は、平べったく円形に盛られたご飯に、ドライカレー風のルゥを乗せた「パク森」を思わせる盛り付け。
酸味の効いたキーマカレーといったところか。
仕上げにバーナーで表面を炙るのがポイント。
円形矢印状に綺麗に並べられた鴨肉は、思った通りサッパリと、しかし脂の乗った味で、自然とこの鴨肉サイズごとにスプーンで掬って口へ運ぶことになる。
“草”の下にルゥはない。“ほうれんそうご飯”になるのはいやだなーとばかり、ケーキを食べる要領で、扇形に切り分けて、へりから中心にかけて匙で一気に掬い上げ、大口開けて放り込む。
店の指南に従って、半分食べたところで刻み紅生姜を投入。あっさりした辛味に仕上がった。
店奥の壁を見ていると、やっぱりというか何というか、4月1日限定で「馬鹿カレー」なる特別メニューがあるらしい。
トッピングで追加肉もできるようなので、今度来ることがあったら自分で「馬鹿カレー」にしちゃおうか?
ところで何故“火星”?
後で検索してみたら、製法が独特で、地球上のどこにもない新しいカレーだから、それで「火星カレー」なんですって。
店名のインパクト絶大なこの店。
「火星の馬鹿を食いに行こ」
で通るわけですから。
なのにロゴマークは萌え系。…不思議だ。
…もしかして、もしかするが、「火星ちゃん」という綽名の某皇室がおり、今は随分なお爺ちゃんだが、昔は随分その愛称で親しまれたようだから、意識しているのだろうか?
多分、考え過ぎかな。
*****
まだ時間があるので、偵察に出かける。
すぐそばに保護猫カフェというのがあった。
保護された野良猫と遊べて、そのお金を野良猫のために使う…素晴らしいことじゃありませんか。
それに実は、○×▼□ちゃらいう血統書付の難しい品種よりも、そこらにいる雑種猫たちと戯れたいのでございます。
だが今日は寄るヒマがない。
通りを渡って北口エリアへ。
ピンサロ、キャバクラその他諸々、殿方たちのパラダイスたるべく歓楽タウン。
一応ランドマークのシネマロサは、全面ピンクの派手派手しい映画館で、昔からたまに来ているが、近年内装が綺麗になり、新作上映館になったが、如何せん建物の古さは否めず、年増のホステスが懸命に厚化粧した感じが漂っているあたり、有楽町スバル座と似ている。
その風俗エリアど真ん中を進み、車通りを渡った先。静かな通りが一層怪しげな雰囲気を増す裏道雑居ビル2階に「あん」があった。
まさかこんなところにかき氷屋ができたなんてねー。
近頃では考えもつかない場所に、かき氷屋ができる。
氷目当ての素人さんの若い女子が訪れ、エロ目的に羽根も鼻の舌も伸ばしに来たオヤジたちが却って何だか気まずい思いをする。
まぁ、大阪兎我野町の「雪ノ下」といい勝負?
あそこも相当なもんでっせ。
お寺と高級デザート店と、無料風俗案内所が寄りあっているんだから。
見たところ長蛇の列ができている様子もないが、中はカオスだったりして…。ハチクの後で余裕があれば来てみよう。
とりあえず場所は確認できた。下見だけして戻る。
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先ほど整理券をもらった時、13時20分に戻ればいいや!と思い込んでいたのだが、考えてみれば注文しなければ調理に入るわけがない。
13時寸前に「まだまだ余裕」とマルイでお手洗いを借りながら、ふとそのことに気がついた。それからの私は超のつく、さながらパタリロのゴキブリ走法の如き、文字通り破竹の勢いの早足で、スタスタと「ハチク」に戻り、お蔭で足の底からヒートアップ。
だのに3分過ぎで戻ってみれば、まだシャッターすら開いていない。
早歩き損とはまさにこのこと。
ほどなくシャッターが開き、お姉さんがにこやかに出迎えてくれる店内へ入る。
三角形の店内は意外と広く、板張りでカウンターに波板に、奥に黒い2人掛けソファー。アメリカンな内装だ。何だか文化祭の模擬店を思い出してしまった私。
入ってすぐ左手側に窓が開いており、そこで注文して番号札をもらう。
でっかい黒板に書かれたメニューがこちら。
「スペシャルXO!」って何だ…?!
ああ「メロン」なのね。
一瞬「エックス・オー・醤」を想像してしまったアルよ。
一番高くてボリュームがありそうで、上等そうだからまずはこれ。
「スペシャルメロン」。
2杯目は迷ったが、この店は元々果物屋さんだったようなので、やはり果物系にしておこう。大のメロン好きなので、メロンの品種違いをマニアックに楽しめる「生めろんカスタード」にして、メロン×メロンも考えたが、お初の店でいきなり過激なことをするのはやめよう。旬の「3種のすももみるく」にしておいた。
共に「+100」の日光天然氷で。締めて2,500円也。
何せ「13時組」のドン尻なので、暫く待つことになる。
先に並んでいた人たちはカウンター席と、窓際の2人席に陣取ったので、奥の黒革のソファに腰を下ろした。この後氷を食べるにはどうかな?という席だが、座って待っている分には最高の席だ。
大きなメニュー板の下に白桃が売られていた。
漸く今、桃の季節である。
桃もピンからキリまであり、高いからといって美味いとは限らず、逆にそこらの5個400円の桃が果汁滴る水蜜桃で、極上の美味を提供してくれることもある。
今どきそこらの八百屋でも大玉の桃は結構高い。
果物屋の目利き付という期待値込みなら、「2玉650円」というのは安いほうなのかもしれない。
昔、タカノで1玉500円超の桃を買って帰って食べたら、確かに甘かったが身がゴリゴリだったなんてこともある。全くもって桃はわからん。
近頃では「押すな」のみならず「さわるな」と書いてあるから、尚わからん。
そういえば「桃」は氷メニューにはなかったな。
そんなことを思う内、漸く番号が呼ばれた。
お待ちかねの「スペシャルメロン」。
うわっ重たっ!
ひっくり返さぬようそーっと運ぶ。
ビールサーバー位の缶かんに天板がコルクの台があったので、そこに盆を載せる。いざ実食。
ふわふわの氷、ほの甘く、酸味の効いたメロンシロップ。
たまらん…。口の中ですーっと溶けていく感じ。
用心深く中央に穴ぼこを掘り進めたところで、ミルク投下。
わーっほの甘い練乳味が加わった。
一層マイルドさが増す。
少々ゆっくり味わい過ぎたようだ。奥の方から氷汁が盆の上に垂れてくる。
改めて氷全体を見渡す。
そうか…下半分はメロンの輪切りであったか…。
食べる速さをスピードアップ。
やがて輪切りメロンの断面がほぼ姿を現し、種の部分を刳り抜いた空洞にはバニラアイスが埋まっている。
これじゃあ溶けた氷の逃げ場がないわけやね。
どろどろになったアイスクリームと氷とシロップの混じったものをスプーンで掬っては食べ、掬っては食べ、途中で先割れスプーンでメロンの果肉を丸くえぐり、汁の逃げ場を作ってやる。
いや~ここから先がキツかった。
何せ身の引き締まったタカミメロンの大玉半分。薄緑のところを全部スプーンでほじくり出して食べるのだから。
漸く側のほとんどを掬い出し、残るはあともう一かけら。最後はストローでメロンミルク氷汁を吸いこみ、ごちそうさまでした。
*****
お盆を返し、待つこと暫し。
この間に次の時間枠の“新顔”が姿を現し始める。
意外と中年男子お一人さま“ゴーラー”はいるみたい。
やけに馴れ馴れしく声も態度もデカいセルフレーム眼鏡男とか、しわくちゃ日焼けおっちゃんなのに氷が来たらカメラメンモードに入っちゃう人とか。
そうこうする内、2度目の番号が呼ばれた。
「3種のすももみるく」。
上に乗っかっている果肉が「サマーエンジェル」。
左右別皿でシロップになっているのが「ソルダム」と「大石早生」。
“おおいしわせ”と読む。
特にここ数年、本当にプラム(すもも)の品種がグッと増えた。
今現在、わが家の冷蔵庫には「貴陽」、「サマーエンジェル」、「ソルダム」に白桃がごろごろしている。プラムはまさに今が旬。
まずは一口。
おおー、プロの果物屋さんが氷用に見立てると、一番オーソドックスで「酸っぱい」イメージのあった大石早生がこんなにも甘いのか…。
氷全体にしみこんだミルクの、甘すぎず薄すぎない上品な甘さが、プラムの甘酸っぱさ、果肉のコリコリ感と調和して、実によい。
ここらでシロップ投入。中にも大石早生の果肉がごろんごろんとたっぷり入り、まともにかけると氷が総崩れを起こしてしまうのではないかと、心配でちょろっちょろっとしかまだかけられない欲求不満を、かなり解消してくれる。
どちらも酸味が強い印象。
大分食べ進めたところで、それではそろそろ行きますか。
ドバーッとシロップ一気がけ。
こうして見ると、イカの塩辛に梅ジャムかけたみたいだな…。
事実、これまでよりも酸味が一気に増した。甘酸っぱい果肉、ほの甘いミルク氷、2種のシロップの酸味たちが、文字通り“三位一体”いやこの場合“四味一体”というべきか。まさしくこれはすももワールド。
2種類のシロップにも繊維の残った磨り潰される一歩手前の果肉が残っており、特にピンク色した「サマーエンジェル」が、尚のことイカの塩辛に見えてしまい…ってしつこいっ!
最後は紅いすももたちがたっぷり混じったミルク氷汁を、器を両手で掲げ、ずずーっと飲み干し、ごちそうさまでした。
低い座位で持ち上げたので、ソファに氷がちょっぴり垂れてしまったけれど、2杯目を待っている間にもらってきておいたウェットティッシュの存在が、これほど有難く思えたことはない。
この日、店内飲食とは別に、テイクアウトもやっていた。
この前、阿佐ヶ谷の「ともえ庵」で頂いた氷と似た器にたっぷり盛られた3種類のフレーバー。多分この日もイートインのほうは“12時瞬殺”だったんだろうに、こういう救済策があるのは嬉しい配慮。
だってテイクアウトを食べながら、今度は早く来て絶対イートインで食べるんだ!って、氷好きなら思うもの。
*****
店内からテイクアウトの様子をチラチラ見ていた私。
店を出たらテイクアウトも食ってやろうかと思っていたが、いやはやとんでもない。
イソップ童話で、お腹を思い切り膨らませるカエルさんのお話しがあったが、気分はあんな感じ。
もうこれ以上一滴の水も入らんと言えるほど、腹がパンパンに膨れ上がった。
ぐるじぃ~
背筋をシャンと伸ばして歩けないほどの満腹感は久しぶり。
昔、東京宝塚最初の「エリザベート」に延々並んだのに、結局チケットが買えず、腹いせに新宿の今は亡き「印度屋」のカレー食べ放題で、しこたま盛り上げた大盛りカレーを3杯食った時以来だよ。これは。
去年大阪で7杯食った時も、おととし名古屋で11杯食った時も、こういう思いはしなかったのに、これは一体どうしたことだ?
「メロンスペシャル」、6Lサイズって書いてたもんなー。
タカミメロン半分のびっしり果肉が効いたのか?
はたまた氷の前に食べた「鴨+草カレー」が効いたのか?
お腹が重くて重くて、フーフーいいながら、歩く。臨月の妊婦さんの気持ちがちょっとわかった気分。この後近くの公園の石べりに腰を下ろしたら、早速蚊に刺された。
今、胃袋をパンパンに満たしている大半は水だから、きっとその内、腸に下りたらラクになるはず。
何だか大食い選手権みたいになってきたな…。
些か無謀に思えたが、1時間後の「メアリと魔法の花」の予約を取り、山手線のシルバーシートに「今は病人」と苦悶の表情で居座り、新宿の映画館へ這う這うの体で辿り着いた。
危惧していたことだが、主人公の赤毛の女の子が、男の子の所へお使いに出た先の記憶が全くないまま、いつしか夢心地。気付けば最後、空飛ぶところに行っていた。
席を立つと、先ほどの苦悶が嘘のように引き、帰る足取りもすっかり軽い。
きっと胃袋にパンパンに貯まったあれやこれやの食いもんを、懸命に我が血液たちが集結し、必死の消化作用を行ってくれた賜物であろう。
消化中はどうあっても眠くなる。
先ほどの池袋ピンクゾーンに潜入し、下見までした「あん」は一体どうなってしまたのやら?
折角場所を確認できたのだ。是非次の機会に。
それにしても「ハチク」というお店、氷にありつくのに競争が激しく、四苦八苦するとは聞いていたが、まさかありついてからも別の意味で四苦八苦することになろうとは。
本日の教訓
1.「スペシャルメロン」を侮ってはいけない
2.先に大盛りカレーで腹ごしらえをしてはいけない
3.満腹の後、映画に行ってはいけない
店自体は狭いが、店内の人口密度は抑えられ、快適空間が約束される店。
近くにあればもっと通うのにねぇ。
チキショー、立教大生が羨ましいぜ。
ボリュームたっぷりの本格派フルーツかき氷、どうもごちそうさまでした。
あと低姿勢で丁寧な応対のご店主も、頗るポイント高し。



















