8月8日(月)
日本橋―(淡路)―南方/西中島南方―新大阪
新大阪―西中島南方/南方―(梅田)―神戸三宮
神戸三宮―岡本/岡本―(西宮北口)―宝塚
宝塚―(西宮北口)―(今津)―御影
御影―梅田―新大阪
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3回前の続き。
散々阪急電車を堪能したから、もういいでしょとばかり、通い慣れたるソリオ宝塚を通る。
どこかで昼メシ…ってよく考えてみたら、ついさっき西宮北口で豚まんにかぶりついたばかりだが、そこはこの長い旅のテーマ“食い倒れ”。
阪急百貨店を物色するも、目ぼしいものが見つからず、ソリオのパン屋にふらふらと吸い寄せられる。
このお店“ふぇるへん”という。さすがは歌劇のお膝元。『ベルばら』のフェルゼンを連想してしまうのは、既に頭がヅカモード!?
右側の壁に向かってイートインスペースもあるが、ここは先を急ぎテイクアウトとしよう。3個ばかり買う。
天井にはドーム。周りには緑。南洋のカラフルなデカいインコでもいそうな温室みたいな雰囲気のお洒落スポット。インコはいないが、以前、この下の本屋で迷いオニヤンマに遭遇したことがあった。
真夏の花の道は木々が鬱蒼と生い茂る。開演にはまだ早いせいか、辺りに人影はない。
大劇場の南欧風建物へ吸い込まれるように入ると、中は既に人でいっぱいであった。あちらこちらでファンクラブのお姉さま方が札を掲げ、メンバーが寄っていく。日比谷だと、これが劇場前の露天で行われる。つくづく“ムラ”のこの広々とした余裕ある空間が羨ましい。
冷房の効いたロビーから敢えて炎天下の外へ出た。他に誰もいない。
重たい鉄の椅子をゴロゴロを引きずり出し、先ほど買ってきたパンを食べる。
オレンジ何ちゃらいう、見た目はケーキのモンブランそっくりな甘いパンと、チーズブールといったか、たっぷりチーズ入りフランスパン、それと正式名は忘れてしまったが、言うなれば“白パン玉子”。
そうこうする内、12時半となり、劇場へ。
ここはいつ来ても、正面階段前で記念撮影する人が後を絶たず。カメラを構えるおっちゃんは、劇場の人なんだろう。
大劇場名物、出演者のプレート。何だかうちわみたいだが、壁鏡のつもりかも。網羅するつもりで2枚撮ったが、しまった!トート閣下を外してしもたか…。
でっかい階段の裏に売店と立ち飲みスペース、それとこれも名物・巨大看板。ここで記念撮影するお方も後を絶たず。折角だからちと寄ってみよう。
席は大分後ろの方でA席だったが、それでも1階なので見晴らしがよい。東京よりも造りに余裕がある。
平日昼だが、さすが『エリザベート』。満席であった。熱気と期待が渦巻く中、いよいよ幕が上がった。
ストーリー自体は、『ベルばら』と違って、細かなバージョン違いはない。
煉獄のシーンで幕を開け、エリザベート皇后を刃にかけた無政府主義者・ルキーニを被告とする裁判が執り行われる。
ルキーニの独白による回顧という形で、物語は進んでいく。
舞台はウィーン・ハプスブルグ帝国。若き皇帝フランツ・ヨーゼフに見初められたシシィ(エリザベート)は、皇帝のもとに嫁ぐが、その母ゾフィが牛耳る王宮のしきたりにがんじがらめの生活を余儀なくされ、息苦しく不毛な日々を送る。
そんなシシィを見初めたもう一人の男がいた。“死”という名をもつ黄泉の国の帝王トート閣下である。
トートはシシィを事あるごとに死の世界へといざなおうとするが、シシィはそれを拒み続ける。
やがてハンガリー独立運動が起こり、その動きを封じ込め、民衆からの求心力を得るために、エリザベートの美貌が政治利用され始める。
ゾフィとエリザベートの対立は続く。自分の味方にならず、おかんの顔色ばかり伺うマザコン皇帝の不甲斐なさに、エリザベートは愛想を尽かし、放浪の旅を続ける。彼女の魂はいずこに安住の地を見出すのか…?!
ハンガリーを巡る情勢は一層緊迫の度を強め、皇太子ルドルフは国家反逆を企てたとして皇帝から糾弾され、絶望したルドルフは、トートの誘いに導かれるまま、自ら死を選ぶ。
失意のどん底に突き落とされたエリザベートは、トートに死の世界へ自分を連れて行ってと訴えかけるが、トートはそれを拒絶。曰く「死は逃げ場ではない」。
既に老境に達した皇帝フランツ・ヨーゼフは、放浪の妻を迎えに行くが、2人の心は交わることはなかった。
そして遂にトートの命を受けたルキーニの刃がエリザベートの胸を貫く。
黄泉の国へと遂に彼女を迎え入れたトートは、愛おしそうにその身体を抱きしめ、2人は昇天していく。
というのが大筋。
今回の『エリザベート』は、狂言回し役のルキーニが、私には今一つに思えた。無理に低い声にしようとはしているが、上ずり、引き合いに出して悪いが、かつての宙組の湖月わたるを思わせる。
トート役の朝夏まなとは、大劇場公演としては、この時がトップスター就任後初だったと思うが、エリザベート役・実咲凛音とのコンビも安定した印象があり、ビジュアル的にも優れていたが、ものすごく何か特別なものを感じるまでには至らなかった。
宝塚版『エリザベート』もすっかり定番演目として根付き、多分こちらも見慣れたせいであろう。
初演時の一路真輝退団公演の緊迫感や、歌に課題があった麻路さきがどうこの難役をこなすのかという注目というか心配、それらの頃は、それはそれは果し合いに挑むかのような姿勢で熱心に観ていたものだが、近年の再演を観ていると、ノウハウが蓄積されたせいか、出演者たちに余裕というか手慣れたものが感じられ、難役、難曲、大作に挑むんだという切迫感は、一昔前ほどには感じられなくなったと思っている。
多分、こちらも見るのにすっかり慣れてしまったということなのだろう。
第1幕最大の山場、大鏡の前で美しく着飾ったエリザベートが登場するシーンに心の中で歓声を挙げ、あっという間に幕間となった。
再び炎天下の川べりテラスへと出ることにした。
席に着き、食べ物を持っているとなると、つい手を付けたくなるというもの。
午前中に安政堂菓舗で買ってきた饅頭を広げ、無心になって食べる。
武庫川の向こうにはタワーマンションがいつしか建っている。近頃ちょっとした場所だとどこでも見かける同じような風景だが、対岸の建物群には、ホテルだってあるはずで、宝塚が元々温泉街だったことを思い出させてくれる。
涼しい中へ入り、グッズ専門店のキャトル・レーヴを覗いてみる。この時は旬だった“エリザ”グッズが目白押し。
こうしてみるとやはり大劇場のロビーは広い。ここで立食パーティーか舞踏会でも催せそうな雰囲気である。
第2幕となる。
やはり導入の狂言回しはルキーニ。「キッチュ」という歌にいつからか手拍子が鳴り響くようになった。
ハンガリーでの戴冠式。独立運動家たちが蜂起の機会を窺う中、登壇したエリザベートは三色旗のドレスを披露。たちまち民衆の心を掴み、神々しい美貌はカリスマ的魅力を振り撒いた。
その後も皇太后ゾフィーとエリザベートとの確執は解消を見ず、エリザベートは諸国放浪の旅に出歩く。
その間に、皇太子ルドルフは、少年から青年へと成長していくが、母恋しの心の空洞に付け入るかのように、トートとその一味たちが近付く。革命派たちに担ぎ上げられ、新生ハンガリー帝国の王を夢見るのも束の間、父・皇帝の知るところとなり、厳しく咎められる。
風雲急を告げる政治情勢を憂えるルドルフを、急進派へと引きずり込もうとするトート。それに懸命に抗おうとするルドルフ。
『闇が広がる』という歌は、後半の見ものの1つだが、この回、歌が終わったところで突然中断し、やがて緞帳が下り、灯りがついた。場内が俄かに騒然となった。
緞帳裏から、普段は決して聞くことのない男声の怒号が聞こえてくる。
随分昔の、まだ生まれる前のことだが、輪っかのドレスを纏った娘役がセリの歯車にドレスを巻き込まれ、狭まりゆく輪っかの骨組みによって遂には胴体を切断され、死亡するという、恐ろしく、痛ましい事故が起きたという話を聞いた。
咄嗟にそんなとんでもない事故を想像したが、やがて館内放送が流れた。舞台装置不具合による中断とのこと。ショッキングな事故に遭遇しなくて本当によかった。5分ほど後、再開されたが、この思いがけない2度目の“休憩”の間に席を立って、多分用足しに向かった勇敢なご婦人の姿もチラホラと。
そして5分後、何事もなかったかのように続きが始まり、エリザベートがトートと共に無事昇天し、エンディングを迎え、大階段を終えた。きっかり5分遅れで終幕を迎えたのは流石である。臨時の舞台挨拶でもないかしらんとちょっと期待したが、その辺りは淡白である。
カフェテリアの向かいにいつしか大きな土産物コーナーができたが、以前ここが何だったのか、全く思い出せない。
中高年のおば様向けのド派手な服屋だったか、事務所か何かだったか…?
カードがきくので、近頃「寶あわせ」という最中も、ソリオではなく、こちらで買う機会が増えた。
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最初の予定では、このまま阪急宝塚線で梅田へ出て、南方から新大阪へ向かう積りだったのだが、やはり心に残るのは、昼前に買いそびれた安政堂菓舗の巨大ロールケーキである。
岡本店になかったのだから、望みは薄いが、阪神御影へ寄らずしてこのまま東京へ帰ってしまうのは何とも未練が残る。
今津線で西宮北口へ出て、神戸線を乗り越し、今津から阪神電車に乗り換える。今津に特急は停まらないので、急行に乗るわけだが、この急行が西宮止りなので、ここで降ろされ、追い付いてきた特急に乗り換えねばならない。
ちょこちょこ乗り換えさせられるんは、ほんまめんどくさいわ。
こうして阪神御影に降り立った。向かうは一路、商店街。その入口角に目当ての安政堂菓舗がある。
ところがついていない時はとことんついていないもので、やはりというか何というか、巨大ロールケーキは跡形もなかった。
ここ御影店になくて、岡本店に行ったらまだあったということはあるが、その逆は経験したことがない。
暫し呆然とするが、わざわざここまで来て手ぶらで帰るのも口惜しいから、御影店でしか作られていない「沢乃井餅」を買って帰ることにした。
「きなこ」と「よもぎ」の2種類あるが、どちらも好物だし、腹いせや!両方とも買うたれ!
その足ですぐさま阪神電車で梅田へ向かう。
時は5時半。そろそろ日が西に傾きかけてきた。
主力車両も、電車の色も変わってしまったが、高校野球や阪神タイガースの副標は昔と変わらない。
神戸市バスの4連アーチ型の待合テントの緑色も、昔と変わっていない。バスの緑色はいつしか黄緑色が主流となってしまったが、この緑テントはいつまでも変えずにいてほしい。
今回も、夏の甲子園開催中にこっちに居たが、甲子園に出向くことはなかった。
電車はあっという間に梅田に着いた。阪神の梅田へ来たのは、思えばこの旅で初めてのことであった。
御堂筋線に乗り換えて、新大阪へ向かう。
近年、大阪を発つ時、JRではなく地下鉄で新大阪へ向かうことが増えた。
JRは大阪駅も電車も人で人でいっぱいで、想像しただけでもゲンナリしてしまう。
御堂筋線は中津を出ると地上に出て、道路と併走しながら淀川を渡り、新大阪へ至る。このまま千里の手前まで道路と並んで走る。
新大阪駅前は、あの大阪万博当時の未来絵図のイメージがまだ残っているように思える。昭和レトロな雰囲気を纏った未来的な風景が、今となってはカッコよく見える。
まだ新幹線の時間まで少し間がある。
今こそ新大阪駅ビル内の喫茶店に寄る時だ。
ヒゲオヤジが迎えてくれる「サンチョ」にも心惹かれたが、色とりどりのサンプルが眩しい「エリーゼ」に入ってみることにした。
腹はさほど減ってはいない。「プリンパフェ」なんてのを見つけてしまっては、これしかないでしょって気になってまう。
店内は、所々に木目をあしらった、今どきのカフェによくあるような簡素なインテリアで特に目を引くところはない。
プリンパフェ(780円)とアイスコーヒー(430円)を頼む。
見よ、器から今にも零れ落ちんとするプリンのさまを!
彼女(?)は重力に必死に逆らい、その柔らかき身体を若干歪ませ、変形という苦痛に耐えながら、懸命に空中に留まり、匙を入れられてその重量を減らしてもらうのを今か今かと待ち望んでいるのである。
自家製ではないかもしれないが、カラメルの苦みがちゃんと味わえるカスタードプリンであった。期待して入った店、期待して頼んだメニューでは決してなかったが、これなら十分な及第点であろう。
時間もつぶせたところで、荷物を取り出し、土産を買い、後は東京へ向かうだけ。
…のはずだったのだが、最後の最後に来て、この旅最大のアクシデントにこの後見舞われることになった。
風雲急を告げるところで、今回はお終い。
しつこく次回へ続く。
以上、敬称略。






































