8月4日(火)
伏見―(栄)―東別院―(栄)―池下
―(伏見)―浅間町―浄心―(上前津)―矢場町
―(金山)―本笠寺―(金山)―(上前津)―荒畑
―栄―伏見
*****************************
前回の続き。
萬歳湯の思いがけない休業により、夕風呂(――という言葉があるかは知らないが――)を逃した私。こういう時、「あいち銭湯マップ」という区毎のPDFファイルが浴場組合サイトに各種用意されているのは実に有難い。近場で代わりになりそうな銭湯がすぐ見つかる。東京や大阪でも同じような地図があればよいのに…。
地下鉄でお隣・浄心という駅へ行き、児玉湯を目指すことにした。ポイントは番台式だということ。
地上へ出ると大通りが東西に走っており、そこを暫く西へ進む。やや狭い道を渡ったところで右折。
白壁の正面に赤錆が所々に浮いたやや草臥れた外観が良い。頬を染め、気持ちよさそうに子供に背中を洗ってもらう父ちゃんの広い背中をあしらった牛乳石鹸の暖簾も良い。
結構人がいる。よしず張りの床で服を脱ぐ。木製ロッカーが渋い。数えたら丁度50あった。
ここまで何湯か入ってきた他の銭湯同様、ここでも浴室との境に結構広い流しと、タイル床が広がる。赤い豆タイルが敷き詰められ、左手側には石庭が広がる。大きな立石もあった。
浴室へ入る。パッと目につくのは八角形状のカラン。誰もここに近寄る人がいなかったので、全部試してみた。カラン2つは不調だったが、シャワーはちゃんと出た。
浴槽は左手側に広がっている。手前の壁際に並ぶカランの奥に「U」の字を横たえたような主浴槽。中に段差があって壁際へ行くほど深い。
その奥に接するように緩やかなカーブを描いた縁の別の浴槽があり、そこがジェット浴槽や電気風呂となる。その間にでっかい鯉のオブジェが立っているのが一大特徴。
湯上りに身体を乾かしながら、風呂の様子をササッとメモりながら、TVを見ていると、近頃模型に熱中する女性が少なからず居り、「モケジョ」と呼ぶのだという。
元よりジオラマには少々心得があるから、実に興味深く見ていると、一組の夫婦が紹介されていた。元々は夫の趣味だった模型製作を見る内、奥さんの方がすっかりハマり、専用の制作部屋まで用意してしまった。お蔭で夫婦の会話が増えたとのこと。
名古屋地区では、かの有名な山田卓司氏が主宰するジオラマ教室があり、女性の生徒も最近増えたといっている。山田氏といえば、かつて「TVチャンピオン」の「プロモデラー選手権」で何度も優勝を飾ったその道では有名な方。その昔、まだ「萌え」という言葉さえなかった90年代半ば頃、他の出場選手たちがアニメキャラを多用したジオラマに走る中、昭和の少年時代を思い出させる叙情的なジオラマを作り上げ、高評価を勝ち得た。
氏曰く、女性のほうが感性が豊かで、作品に物語性を持たせる傾向にあるという。
「モケジョ」…初めて聞いた。何だか昔歴史で習った“モヘンジョダロの遺跡”みたいな語感ではある。色々面白い言葉が次々出てくるのう。
脇へ回れば更にレトロな様相を見せる。前に藤沢の喫茶店を訪ねた時みたいだ。
*****
さて風呂から上がり、頃は夕方6時前。前の日がかき氷8杯目にして満腹感を得、銭湯が恋しくなったが、この日は7杯目にして風呂恋し。冷たいものを大量に詰め込んでも、全く腹が下ることのない丈夫な体質に産んでくれて、母ちゃん有難うと言いたいが、かき氷の梯子の場合、7~8杯が一つの目安ということか。
浄心駅へ戻る際、道沿いのブティックの扉脇にこんな猫のオブジェを見つける。
これからどうしよう?身体の冷えが収まったところで、氷行脚の締めに掛かろうか。
1つは前日パスしてしまった上前津の台湾氷・「フードキャンプ」へ行くこと。もう1つは矢場町という繁華街へ出て、「雀おどり總本店」という甘味処へ行くこと。
いずれにせよ19時までの営業だから、あと1箇所しか行けない。
ここは未知なる世界の可能性に賭け、後者を選ぶことにした。
既に夕ラッシュが始まった地下鉄に揺られ、矢場町駅地上へ降り立った。辺りには松坂屋がその偉容を見せている。銀座店は再開発でつぶれてしまったが、ここ本店はやはり格の違いを見せつける。
既に夕方6時半近い。仕事帰りのOLたちで店内は犇めきあっている。中は奥に結構広く、ちょっとした小川に掛かった橋を渡り、一番奥へと進み、席を確保。事前の予習で、「大島金時ミルククリームわらび氷」(850円)という盛りに盛った感満載のメニュー、ここへ来ることがあったなら、絶対頼もうと決めていた。
早い話が黒蜜氷である。練乳とアイスクリームと小豆。更に足元にぷるんとしたわらび餅。濃厚さ加減が堪らん。
メニューを見る内、夏季限定の文字が目に飛び込み、誘惑に負けた。どうせ甘党の大喰らい。昼メシも晩メシも氷である。「葛ざくら氷」(800円)も頼んだれ!!
足元にふんだんに散らされた透明賽の目切りの寒天が、桜吹雪を思わせるぜ。天辺の葛まんじゅう。これの中身のあんこだけが、濃厚な具ということになるのだろう。桜の塩漬けだけじゃ氷は食えまい。そう思って匙を入れると、上品な甘さのシロップが意外に氷に滲みていた。
単価の高い客にはサービスが良いのか、お姉さんがお茶のお代わりを注いでくれる。飲み干した湯呑みの底に店の名の如く雀が二羽踊っている。
ご馳走様でした。お勘定の時、賞味期限が近い一口ういろうを土産にもらう。これは嬉しいサービスだ。翌朝の起き抜けのおやつと化けた。
*****
さてここからが大変。名鉄本線・本笠寺という駅まで行かねばならない。共栄湯というレトロ銭湯を目指すのだ。
名古屋へ出るには地下鉄乗り継ぎが面倒だなぁ…。そう思いながら路線図と睨めっこ。金山で乗り換えたらラクチンやおまへんか。矢場町→上前津→東別院→金山。各駅停車で氷スポットがある!この辺り、実は名古屋の氷銀座というべき場所なのか?
金山は、10年前、初めて名古屋へ来た時に、駅前のカプセルホテルに泊まったことがある。
この時は中央本線をひたすら西進。飯田線に揺られること6時間。夕方6時に漸く豊橋に着き、名鉄特急で金山入りしたが、かき氷の梯子をしようという発想は当時はまだなく、とりあえず宿に荷物を置いて身軽になってから、矢場とんのわらじ豚カツを食べに繰り出した覚えがある。
ここはJR東海道本線と中央西線に名鉄本線が挟まれた大きな駅。名鉄線のホームで普通を待ちながら、向こうの中央西線の行き交う電車を眺めている。
ここから普通電車で5駅。途中に堀田という中央に通過線をもつ、阪急神戸線六甲、西武新宿線沼袋のような新幹線タイプの待避駅があって、昔から名鉄電車の形式写真を撮るには格好の撮影スポットだが、既に陽は落ちている。特に降りることもせず、本笠寺に向かった。
ここも待避駅だ。猛スピードで通過してゆく特急を写してはみたが、どれもブレて今一つ。フラッシュなしでは無理らしい。
改札を出て踏切を渡って西側へ行く。少し行くと道が広々とする。Googleマップを見ながら適当に脇道に入り、車を気にすることなくてれてれと緩い下り坂を歩く。
横切る車通りを渡り、その道沿いに進むこと少々。どこか南国ムード漂う木々がホームセンターを思わせる広々とした建物が姿を現した。ここが共栄湯である。
暖簾をくぐってアルミサッシの引き戸をカラカラと開ければ、番台の向こうに開放的な脱衣所が広がる。
男湯・女湯の境の柱が、白い支柱が放射状に広がるような形をしていて美しい。
浴室に入る。出入口も白基調。薄緑色のガラスが嵌まった窓に囲まれたアーチ型のエントランスにも造形美を感じる。手前には、これまで見てきたのと同様、床にモザイクタイルが埋め込まれた広々とした流し前の身体拭き場といったらいいのか、そんな場所があり、ここで水をかぶってもよい。
中は実に開放的で広々とした空間だった。
中央に据えられた小判型の浴槽がパッと目に飛び込んでくる。2つに区切られ、手前が浅く、奥側が深い。奥のほうには中をぐるりを取り囲むへりがあり、ここに腰を下ろすこともできる。
その更に奥には大きな四角い浴槽が3つに区切られ、左手側から順に、ぬるめ・泡、電気、2連超音波ジェットの順。
その奥は大きく開放的なガラス窓だ。石灯籠の立った中庭が広がる。今回訪ねたのは夜だったが、本当は昼間のうちに訪ねてみたい風呂だ。きっと燦々たる陽光の下、緑溢るる温室の如き癒しの空間が広がっていることだろう。
作りは随分と古そうだったが、常連客のおじさん達が多数集う、社交場として機能していた。こんな銭湯が近くにあれば通い詰めるのにねぇ。
*****
緩い坂を上り、住宅街を抜け、再び駅へ。西側には入口はないようで、踏切を渡って駅に行く。
猛スピードで通過していく特急電車を写してみたが、やはりブレてダメであった。
再び金山駅に降り立ち、名城線に乗り換えた。このまま大人しく宿へ戻ればよいものを、やはりそれでは済まされない。
鶴舞線に乗り換えて、今度は荒畑駅で下車。
時は9時過ぎ。広い道沿いの店は軒並み閉店。向こう側に見える高速道路へ向かってひたすら歩く。ここまで猛暑の中、裸足に靴をひっかけて歩いてきたが、気付くと早くも踵に大きな水ぶくれができているのを発見。うわー、靴下ナシのツケが早くも来たか…。この先まだまだ長い旅。靴擦れの足で歩き回ることなどできるのか…?!
足をいたわりながらゆるゆる歩き、漸く高速道路が上を走る大通りにぶつかる。ここを左に曲がる。一体どの辺なのか、皆目見当がつかないが、それなりに飲食店などが並んでいるから、繁華街ではあるのだろう。
更に進み、信号を左に曲がると、車通りがV字型に合流する木立ち脇に、次なる目的地が姿を現した。喜乃湯である。
牛乳石鹸の暖簾が中央に掛かっているが、出入りは脇の細い開き戸から行う。
ここも番台式。ていうより番台式ばかり選んで訪ねている。
焦げ茶色した格天井から下がったレトロなファンが渋い。ロッカーは都内の銭湯でもよく見るタイプで、化粧合板の戸が上下に広がり、中央が開放的な棚になっていて、タオルなどが置ける。
浴室との仕切がなかなか渋い。アーチ型などではないスクエアな作りだが、濃茶色のタイルの柱が2本、擦り硝子1枚扉の出入口脇両側を固めていたり、鴨居部分に細かな薄青色のタイルがあしらわれていたりする。
中に入る。中央に島状の主浴槽。浅・深の2槽に区切られる。奥の壁際にジェット2連浴槽が横に広がり、その右側が電気風呂。電気と高周波風呂が切り替えできるのが一大特徴。
左右にシャワーなしとシャワー付きカランが並ぶ。左手前の水鉢がいぶし銀の脇役だ。
ベンチに腰掛け、涼む。
*****
さて、これからどうやって宿に戻ろうか。
靴擦れの足で来た道を延々戻る気力は到底残っていなかった。目の前には高速道路が高架で走る広い道が伸びている。バスくらい走っているだろう。そう思って暫く歩いてみると、思った通りバス停が見つかった。
助かった。ほどなくバスが来た。伏見までは行かないが、栄までは連れて行ってくれるようだ。夜10時近いが結構混んでいる。一番後ろの席に座り、ボーッと外を眺めていると、途中で客がドッと降りた。先ほど「雀おどり」に寄った矢場町らしい。
ほどなく終点の栄。大通りの向こうに中日劇場が見える。前、2月に名古屋へ来た時は、ここで宝塚を観たのだったっけ…。向こうにテレビ塔がライトアップされている。
翌日には名古屋を立つ。昼はひたすらかき氷店の梯子、日が暮れたら銭湯の梯子。それしかしてこなかった。漸く最後の夜に名古屋観光らしい気分を少し味わえた。
混む地下鉄で一駅、伏見の宿に戻ってきた。
この日もフロントで貸してくれた冷え冷えのおしぼりが有難い。
次回へ続く。
店名への敬称略。






















