前回の続き。
本作随一の美熟女キャラ・信夫久子さんに関する考察の続きである。
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原作の久子さんは、アニメ版に比してその登場シーンは格段に少ない。誕生パーティー帰りのマリ子の家で、奈々子を拉致せんとするマリ子を懸命に引き止める場面位しか記憶にないが、着物姿の普通のおばさんという感じだ。
対するアニメ版では、いつも黒の洋装。こういうと些か礼を欠くかもしれないが、アニメ版の久子さんは、原作版よりも若々しく華やぎ、その美貌のレベルは遥かに増している。
黒は女性の美しさを引き立てる神秘の色とは確かにいわれるが、こうまで黒衣を徹底させるのには、実は別の意味があるのではないだろうか。
以下は妄想レベルのお話。
もう30年前の作品になってしまったが、天知茂氏の遺作となった『土曜ワイド劇場・江戸川乱歩の美女シリーズ・黒真珠の美女』で、ヒロイン・蕗谷裕子(演:岡江久美子)は、物語冒頭、いつも身につけている黒真珠がきっかけで明智探偵と知り合う。
物語終盤、裕子は明智探偵に、黒真珠は真珠に意味があるのではなく、黒という色に意味がある、喪に服しているのでは…と看破される。
黒真珠でさえそうなのだ。信夫久子さんの毎度の黒衣姿は、単に黒が好きというだけではない、もしかして服喪という意味が隠されているのではないだろうか。
これは私の完全な想像だが、例えばマリ子が生まれた後、再び子を授かるも、不幸にしてその子が水子に流れ、或いは生後間もなくこの世を去った。その子のために喪に服している。だからいつも黒い服。そうは考えられないだろうか。
そしてその頃、夫・檜川信夫氏は、丁度官能小説家として仕事が油に乗り始めた頃。それなのに、家では妻が子を喪った悲しみを忘れまいとするかのように、黒い服しか着ないで待っている。
夫婦の間に溝が生まれた大きなきっかけとなったのかもしれない。
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前の回で紹介したが、刃傷事件の謹慎中に、貴がマリ子のために若かりし檜川信夫氏が書いた古い小説本を探し出してきてくれた、とマリ子が奈々子たちに話す場面がある。
「…パパとママが初めて出会って、愛しあって、一緒に住むようになった頃の、まだ私が生まれてなくて、パパがまだ作家として売れてなくて、貧しくてアパート代も払えなかった頃の、パパの青春。
何もないけど、希望だけがあって、才能と愛だけにぬくもりを求めて…そんな頃に書かれた小説。本当に、本当にきれいな小説。
嬉しかった…。今はポルノ作家なんて言われてるけど、私、嬉しかった。こんなに心に滲み入るような美しい小説をパパが書いていたことを知って…。」
檜川信夫氏は始めから官能小説家ではなかったのだ。最初は純文学志向だったことが窺える。
そして売れていなかった頃、後で妻になる久子と出会い、愛を育んだ。
本作は、名門女子高が舞台なだけに、メインとなる女子高生キャラたちも含めて、皆、言葉遣いが綺麗で上品である。
だが、その中で、「○○してよ」という言葉遣いをする者は極めて少ない。
念の為にいっておくが、“○○してくれよ”という意味ではなく、“○○しているのよ”という意味を、丁寧にちょっと気取って言う言い方だ。
宮さま:「まぁ、お手製の。とても嬉しいわ。あなたらしくてよ、奈々子さん」
モナリザの君:「あら…仲矢さん。1年生が出入りしていい場所じゃなくってよ…」、「紅茶でもいかが?ご馳走してあげてよ」
似た言葉遣いの例として、
メズーサの君:「あら、ソロリティー廃止のご署名をなさったような方とは、お友達だったことなどありませんことよ。失礼」
マリ子:「…あなたの布地も私が選んでいい? それならよくってよ、図書室行っても。ウフフフ…」
これ位しか思い浮かばないが、実はもう一人いる。既に触れたが、マリ子の母・久子さんだ。
マリ子の長風呂に心配して様子を見に来る。
「マリ子さん、マリ子さん、いつまで入ってるの?
食事の支度できてますよ。…ふやけてよ」
すると湯船の中で、マリ子が水死体のように伸びている。以下略。
ポルノ作家の娘などと学園内では陰口をたたかれてはいるが、マリ子の言葉遣いはなかなか堂に入ったお嬢様言葉である。そうそう簡単に身につくものとも思えないが、一番身近に母というお手本がいた。
長風呂の娘に向かって「ふやけてよ」なんて普通なかなか言わない。そもそも子供に対して丁寧語なんて使わない。
こうした上品な言葉遣いといい、夫の浮気に悩んだり、娘の外泊に直面したりしても、怒れない、喚けない、感情を露わにできない…そんな性分といい、マリ子の母・久子さんこそ、実はかなりのお嬢さん育ちだったのではないだろうか。
しかも恐らくは、父親の威厳がものすごく強く、母親が大人しくつき従っている、厳格な躾のもとで育ってきた箱入り娘だったのではないだろうか。
それが文学青年の信夫氏と知り合い、文学への情熱と夢に魅かれて、愛しあうようになる。
ところが厳格な父親の知るところとなり、「文学なんぞやっている奴との結婚なんて駄目だ。断じて許さん」そう頭ごなしに怒鳴りつけられる。父には絶対服従の母が味方してくれる筈もない。
若かりし久子さんは決死の覚悟で出奔し、愛する信夫青年と駆け落ちを果たす。
「あんな奴とはもう親でも娘ではない」そんな頑固親父の声が聞こえてきそうだ。
更に勝手な想像をするが、久子さんの父、即ちマリ子の祖父は、例えば法学、経済学等の社会科学系大学教授、或いは医者か弁護士、もしくは大銀行の重役、そんなお偉方だったのではなかろうか。
文学青年との仲を真っ向否定するには、文学への理解なくしてはやっていけそうにない人文科学系ではないだろう。理数系なら専門家色がより強く、娘のことなどさほど頓着しないか、娘に過剰に甘い。そんなイメージがある。
又、実業家即ち会社社長であるならば、久子さんの離婚に際して、必ず口を差し挟み、孫娘・マリ子共々、マンション住まいなどさせず、実家へ連れ戻すと思われるからである。(~『風の輪舞』あたりを想定してます~)
なかなか芽が出ず貧乏が続く信夫青年の、それでも諦めない文学への純粋な夢を、懸命にやりくりしながら支える。若かりし久子さんの喜びがそこにあった。とうに実家からは勘当されている。風呂なし、トイレ共同、畳は茶色く焼けている。特にこの時期、西日の強さが身にしみる。そんなボロアパートでも2人にとっては夢の城だ。
そんな時、応募した小説が新人賞を受賞する。それが後にマリ子が手に取る“こんなに心に滲み入るような美しい小説”なのではないだろうか。本になっているということは、何らかの理由が必要だから。売れない作家の本が出るということは、新人賞に限らず、何らかの受賞作であると考えるのが最も分かり易いと思うのである。
ところが受賞に喜んだのも束の間、檜川信夫氏の小説はその後も一向に売れず、貧困生活は続く。
そんなある時、1人の担当から、官能小説の執筆を打診される。戸惑う檜川信夫氏。だが、愛する妻を少しでも楽にさせてやりたい。そんな一心で筆を執る。
慣れない官能小説に試行錯誤を繰り返しながらも、何とか連載を続けていく。ところが、意外にも読者の好評を得た。(~映画・『真木栗ノ穴』あたりを想定してます~)
そんな頃、マリ子が生まれる。小説が売れ、子供が生まれたこともあり、少し広い部屋へ移る。
当初志向したのとは別方面だが、やはり自分のものした作品が売れるのは嬉しいもの。
出版社に連れられて、酒の機会も増えていく。
カネに群がるように、夜の女たちが寄ってくる。
出版社もこの路線でどんどん書かせ、儲けたい。どんどんカネを投資する。
官能小説だから、モデルの女性が必要だ。だが、妻はそんなタイプの女ではない。内心眉を顰めているかもしれないが、夫の仕事に口出しするような女でもない。
担当にも唆され、最初は恐る恐る、だが徐々に大胆に外の女と関係ができてゆく。
その頃、妻が再び身籠ったことを知る。
今度こそ息子!その期待通り、妻は男の子を出産する。
喜びに溢れ、一度は外の女たちとの関係はすっぱり清算する。
豪邸といえる屋敷も構えた。
ところがその幸せは長くは続かなかった。下の子が幼い命を散らしてしまったのである。
悲嘆にくれる妻。
だが自分は食うために、食わせるために、仕事を再開せねばならない。
一方妻の悲しみは癒えない。幼き子の喪に服するように、黒い服ばかり着るようになった。
あれだけ愛してきた妻だったが、何だか疎ましく思えるようになってきてしまった。
仕事場を外に求め、専らホテルに籠るようになった。
広すぎる屋敷に妻と娘を残しているが、気持ちが吹っ切れたのか、仕事はますます順調だ。どんどんカネが入ってくる。家族には十分すぎるほどの生活費を渡してある。元々賢い妻だ。家のことは任せておけばよい。娘の教育も任せておけばよい。何せカネは十分ある。(カネ、カネいうな…とお思いでしょうが…。)
仕事が順調なら、恋もますます順調だ。絶好調といってよい。近頃では妻にも、浮気を勘付かれてはいると思うが、何せお嬢様育ちだ。俺に盾つくことはできまい。妻は実家とは縁が切れている。うるさい外野もいない。
…こんなことを勝手に想像してみた。
***
本作は、薫の君とおにいさまの結婚というクライマックスを迎えた後、一気に2年の時が流れ、薫の君が死病を克服して無事出産、そして蕗子の予言通り、主人公・奈々子がすっかり大人びた美しい姿に成長した姿でその嬉しい便りを読むところで、大団円を迎える。
一切触れられていないが、最上級生になったマリ子はどうなったのであろうか。
以下、再び妄想レベルのお話。
貴との交際はその後も順調に行っているのだろう。薫の君にあれほど恋焦がれていたマリ子である。思い込んだら命がけ。猪突猛進型の激しい性格。実行型のマリ子である。薫の君の花嫁姿をみて結婚に強く憧れ、バレエや英語、フランス語といったそれまでの数々の英才教育などどうなってもいいとばかりに、高校を卒業したら早々と貴のもとへお嫁入りしてしまうかもしれない。
いざ結婚ともなれば両家顔合わせということになる。一の宮家、関谷家(~アニメ版では、久子さんの旧姓は明らかにされていないが、原作には出てくる~)の、それぞれ保護者として、一の宮氏と久子さんも顔を合わせることだろう。
大分前に連れ合いを亡くしている一の宮氏のことだ。落ち着いた物腰、上品で控えめな態度、何よりも滲み出る色香、美貌…フリーの久子さんに心奪われるかもしれない。
「年甲斐もなく、貴女に惚れました。この先の人生を共に歩んで頂けませんか?」
そんな申し出をすると仮定する。
悩む久子に対し、元々陽気でポジティヴ思考のマリ子のことだ。きっとこんな風にいうだろう。
「わぁー素敵なお話じゃない。ねぇママ、私とお揃いのウェデングドレス着て、2人で一緒に一の宮にお嫁に行きましょうよ!」
別れた元夫・檜川信夫氏は、離婚騒ぎ後のバッシング騒ぎを機に、作家としての人気も低落し、風の便りではくっついた元女優も、いつしか信夫氏の元を去ってしまったとのこと。
(~そりゃ幾ら略奪愛に成功したとはいえ、女性の方がああまで申し訳なさそうに、ビクビクしていたのでは、早晩愛は全うできぬまま破局を迎えてしまいますわな~)
今では「あの人は今…」状態の檜川信夫氏。結局、マリ子も月一はおろか、あれ以来一度も信夫氏と会いに行かないでいる。
そんな折、かつて馴染みだった編集者から1本の電話が入る。
檜川信夫氏が何と、長年の不摂生が祟ったのか重い病に取り憑かれて余命いくばくもなく、人知れず都内某所のホスピスで療養中だというのだ。
久子は大きな衝撃を受けていた。
浮気性の元亭主のことなど、今更どうなろうが知ったことではない。
(これもイメージ画像)
自業自得というものだ。
でも…ああ…でも…
一の宮氏のプロポーズへの返事の日が迫っていた。
「一の宮さん、申し訳ありません。私には過ぎたお話、やはりお受けするわけには参りませんわ。実は別れた信夫が…(中略)…私にはやはりあの人を置き去りにはできません。どうぞご理解下さいまし。」
(…手ぬぐい口の端で噛みしめて、きゅ~みたいな感じで、チョット愁嘆場の田舎芝居みたいやけど、気にせんといて下さい。)
彼女は涙ながらにそう訴えた。
「…わかりました、久子さん。そんな貴女だからこそ、私は貴女のことが好きになった。潔く諦めましょう。その代りお金のことでも何でも困ったことがあれば、何なりと相談して下さい。マリ子さんの義父として、親戚として、貴女のお力になりたい。」
一の宮氏、実に男らしくきっぱりと身を引いた。
久子は元夫のもとを訪ねた。そこには変わり果てた元夫の姿があった。髪は乱れ、すっかり骨ばり、痩せ衰えている。
彼女は献身的に看病を続けた。それが自分の使命であるかのように。
やがて最後の時が来た。
息も絶え絶えに余命いくばくもない元夫。
「ひ…さ…こ…すまない。…ありがとう…」
それが今生の別れの言葉となった。
お骨になった元夫を抱きかかえながら、彼女の頬に一筋の涙が伝い落ちた。(~わーとうとう作家殺してしもた!どないしましょ?!)
家に戻り、久しぶりに鏡台に映った自分の姿をまじまじと見つめる。
心労が祟ったせいか、髪に一筋、白いものが混じっている。
それに気づくと彼女の頬に、何故か自然と笑みがこぼれた。
愛を全うした者のみが抱きうる充足感なのかもしれなかった。
明日は久しぶりに白い服を着てみようか…。
彼女は鏡の中の自分に向かって、頷くようにそっと語りかけてみた。
(しつこいようですが、これもイメージ画像)
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妄言多謝。誰かこんなスピンオフを作って下さらないものだろうか。
ともあれ、この方には「檜川信夫氏の妻」、「信夫マリ子の母」といった家族との関係性による呼称などではなく、「信夫久子」あるいは「関谷久子」さんとしてアイデンティティーをきちんと確立した上で、是非幸せになってもらいたい。
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以上、7回の長期に亘り続けてきた“『おにいさまへ…』美女選手権”、麗しきお姉さまたちについて余すことなく書き綴った。
本来ならば、“選手権”らしく、この先誰と誰が勝ち残って…と記すべきところなのかもしれない。
だがこれ以上、たとえキャラクターといえども、美しき女性たちを値踏みするような発言を続ける勇気は私にはない。
どなたを一番お美しいと思われるか、それは実際に作品をご覧になった皆さま方が、それぞれお決めになって下されば宜しいだけのことである。
だが、賢明なる皆さまにおかれては、これまでの長い記述の中において、私がどなたにとりわけ重きを置いているかは十分お判り頂けることであろう。
・クールな面差しに似ず、最後まで誠実さを失わず、意外な涙脆さが男心をくすぐるメズーサの君。
・玲瓏たる和風美人への限りなきポテンシャルを感じさせる(仮称)緑ジャンパースカートの君。
・控え目な姿と態度の中に滲み出る大人女性ならではの魅力。黒衣の令夫人、信夫久子さん。
このお三方ならば、宮さま、サンジュストさま、薫の君という青蘭3大美女たちにさえ、勝るとも劣らぬ光を放っていると私は思っている。
“新御三家”たる美女たちに、格別の愛をこめて。
次回へ続く。
以上、一部敬称略。






