9月4日(木)


阪急梅田―烏丸/四条―京都


京都―四条/烏丸―阪急梅田―阪急御影


御影―香櫨園 苦楽園口―夙川―王子公園


王子公園―阪急梅田―烏丸/四条―京都


京都―丹波橋―千林 千林―丹波橋―京都


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旅日記の続き。


遂に大阪の宿を引き払う日がやって来た。

この日も生憎の雨。

遅い朝食の後、キャリーカートを引きずって地下街を伝い、阪急梅田へ出る。

元々は早起きして梅田かどこかのコインロッカーへ大荷物を放り込み、身軽になる積りだったが、前夜次の京都の宿に訊いてみたところ、昼間でも先に荷物だけ預かってくれることがわかったので、一旦京都へ向かうことにした。


JR京都の駅前ホテルにしたのでJRで行く方が速いが、「スルッとKANSAI」を使い倒そうとケチ根性を出し、わざわざ阪急~地下鉄乗り継ぎで行く。


この旅では初めて乗る9300系特急だが、もう何度も乗っているので、特に座る席にこだわりはない。

3ドアセミクロスシートなので、幾ら転換クロスとはいえ、意外に進行方向を向く席は少ない。

眺望重視で側窓が下まで広く伸びているため、クロスシートの窓際なら快適だが、ロングシートに座ると背凭れが明らかに寸詰まりで、お世辞にも掛け心地は良いとはいえない。

とはいえ、この時は巨大キャリーカートを如何に楽に運ぶかが至上課題だったので、足元が広く、おまけに車内を歩く人を気にせずに済む最後尾の車掌室に面したロングシートに敢えて座った。

京都線の特急は、途中駅にちょこちょこ停まるようになったので、平日でも結構客の入れ替わりが激しい。下手にクロスシートに座ろうものなら、確実に荷物を網棚に乗せねばならず、そうすると揺れでいつ大荷物が落ちて来はせぬかと気が気ではなくなる。1年前の西鉄特急の時の二の舞はご免だ。


終点・河原町の一駅手前、烏丸で降り、市営地下鉄に乗り換える。漸く京都に着いたのは昼の12時近かった。

京都の古い中心街は河原町界隈だが、バスに乗るにはJRの京都駅からのほうが便利なので、JR駅前に泊まることが多い。「タワー浴場」というスペシャルな付録がつく京都タワーホテルは今回は満杯だったので、初めて南口の駅前ホテルに泊まることにした。


荷物を預かってもらい、漸く身軽になれた。来たのと全く同じルートで阪急梅田に戻ってきた。


そろそろ終焉間近い2300系が停まっていたので、カメラを向ける。

前パンタ付の最後尾も追ってはみたが、見事にピンボケになってしまった。



今度は神戸線に乗り換える。

最初は特急だが、向かう先には停まらないので、西宮北口で普通に乗り換える。この旅の初日同様、またしても1000系電車が待っていた。

御影と王子公園どちらを先にするか迷ったが、結局御影を先にした。

南口に降り立つと、ちょっとした商店街はあるものの、すぐ先は閑静な屋敷町で、街は落ち着いた表情を見せる。




少し歩くとケヤキ並木の緑が濃い山手幹線へ行き当たる。幹線沿いに少し西へ向かった先に、目指す店がひっそりと立っている。


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ダニエル・御影


神戸市東灘区御影町郡家1-23-12


10:00~19:00 月曜、第1火曜休


→ H.P.

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この店の看板商品は「うなぎの寝床」という焼いた細長いチョコレートケーキだが、私は昔からこの店の焼菓子よりもむしろ生菓子が好きだ。

季節の果物をふんだんに用いたタルトやコンポート、ムース類が豊富で、ここへ来る度にそれらを買う。100%手作りで店のすぐ奥には工房が見え、甘さは控えめ。果物本来の甘みが際立つ。厚手のアルミ箔で囲まれた中に柔らかなムース。上にはドロッとしたソースがかかり、色どり鮮やかだ。


以前はJR京都駅の伊勢丹地下にも出店しており、旅の最初が京都の時、ここのケーキを買っては、チェックインした駅前ホテルで最初に洋菓子三昧というのがお決まりのパターンだったが、数年前に京都からは撤退してしまい、その楽しみは失せた。


20年ほど昔にこの店で「巨峰のタルト」に巡り会い、以来大のお気に入りで、何度食したかしれないが、残念ながらここ数年は見ていない。

この日は洋生菓子ばかり、コンポートやムース系を中心に5点ばかり選び出した。プリン好きゆえマロン粒の乗ったプリンも忘れずに加える。

御影店はテイクアウト専門である。ケーキ箱を提げて山手幹線伝いに暫く歩く。

雨は上がったばかり。まだ道は濡れている。ふと足元を見ると、ケヤキの根元に大きなキノコが生えていた。きっと毒キノコなのだろうが、こんな間近で野生のキノコを見るのは久しぶりのことだ。


やがて南北を貫くバス道と交わったところで左折。緩い坂道を南へ向かう。ここもゆったりとした広い並木道である。ダニエルのケーキ箱をぶらぶら提げて、この並木道をでれでれと下るのが好きだ。


国道を横切り、更に南下。ふと道端に目をやると、こんな花が咲いていた。


目線の先に高架線を行き交う阪神電車の姿が見え始めると、間もなく御影散策もおしまい。

折角だから阪神の高架橋下に長く連なる旨水館(しすいかん)という商店街の中を通り抜けることにする。その出口、阪神御影駅前の角に、安政堂菓舗という巨大ロールカステラの名店があるが、この旅ではまだまだ先があり、土産に買うには早すぎる。朝ご飯として食べ切るには多すぎる。今回は諦めざるを得なかった。


阪神電車御影駅のカーブしたホームに昇り着いた。

すぐ目の前を焦げ茶色の車体を金色の縁で彩った渋い装いの近鉄電車がゆっくり通過して行った。近鉄奈良線開業100周年を記念し、開業当時に運行されていたデボ1形車両の塗装をイメージしてラッピングが施されたもの。昭和レトロな装いの、御影駅によく似合う。


ホームから駅前広場を見下ろす。神戸市バスの停留所によく見かける、アーチ型の緑色した雨除けが昔と変わらず懐かしい。阪神御影は六甲山行バスの発着地。いつかここからバスに乗り、六甲山へ行ってみたい。



上り待避線に普通が到着。下り側には赤胴車の特急がやって来た。自分にとって阪神電車といえばやはりこれ。それに昔から馴染み深い須磨浦公園行のほうが未だに姫路行よりもしっくり来る。

上り1番線に梅田へ向かう特急も到着。こちらはオレンジ色と薄ベージュ色にリニューアルされた車両である。どうも阪神タイガースの宿敵、読売ジャイアンツのマスコット、ジャビットの色に思えてならないのだが、トラキチ…すみません…タイガースファンたちから文句は出ないのだろうか。

この日は甲子園で阪神戦がある日だったのか、車体はジャビット色だが、前後の窓の内側にしっかり虎縞マークが掲げられていた。


さてそろそろ撮影タイムもおしまい。ジェットカーに乗り込んで、向かった先は香櫨園。

先頭車両にかぶりつき。よく見ると、芦屋のホームに佇むお姉さんはかなりの美人だ。


やがて電車は香櫨園に着いた。

ここは高架化以前は長閑な雰囲気の簡素な駅だったが、今ではすっかり近代的な高架駅に生まれ変わっている。高架下にしつらえられた右読みの駅名標が実に渋い。

雨上がりで足元は頗る悪いが、構わず悪路を突き進む。松の木が川面に向かっていい塩梅にしなだれかかるように生えている。





国道を横切り、JRのガードを潜り抜け、尚歩く。やがて阪急の夙川駅前に至る。その脇の狭いガードも潜り抜け、尚北上。

一匹の猫がいた。どうやら女の子のようである。

しゃがんでちょいちょいと呼んでみると、意外に人馴れしている様子。近寄ってきて地べたに腹ばいになった。背中を撫でてやる。頭を撫で、鼻を触る。鼻はしっとり濡れていた。

恋の季節だったのか、背中を撫でる内、お尻を高く掲げるポーズをとった。


「アホッ、おいど上げなっ。相手がちゃうっ、ぺしっ」

背中を軽くどついたら、そのままプイと立ち去った。

立ち去った先で、呑気にあくびなぞしている。


「達者でなっ。野良で子沢山はしんどいで。産児制限に励め~」




再び川沿いを歩く。雨でいつもより水かさが増している。

足が濡れるのは覚悟の上で、川べりへ降りてみた。

辺りには誰も人がいない。石を渡って足滑らしたら一巻の終わりやなー。ツルッといかんように慎重に足を踏みしめる。


上へ上がる道は案外少ない。

松の木の根っこを見ると、血管みたいにあちこち伸びて、逞しい。

漸く上へ上がることができた。橋の欄干に桜のモニュメントが埋まっている。

この辺が阪急電車の苦楽園口。

まだまだ先へ進む。やがてベンチが見えてきた。

前にも書いた気がするが、5年ほど前の夏の朝のこと、この先の甲陽園駅並びの「ツマガリ」という有名なケーキ屋で洋菓子を5つばかり買ってきたことがあった。

8月上旬。盛夏の朝9時頃だったと思う。

元・宝塚の紫苑ゆうさんが現役時代、ここのシュークリームがお好きだという話が出るや、毎回山ほど差し入れられたという話を昔きいた。この時もシュークリームを加えたはずだ。


ツマガリ・ケーキ

(参考画像)


夙川公園まで歩いて来て、ベンチに腰を下ろし、優雅なケーキタイムとなった。この日の朝ご飯である。

まだ朝が早かったので、時折川沿いを散歩する人々が往来する。

その時、向こうからダーッと何か塊が迫ってきた。

よく見ると一匹の大きな犬であった。

毛の長い、細面の、アフガンハウンドという犬種だったと思う。

上品な面持ちのくせに、箱に入ったケーキの前でよだれを垂らして尻尾を振っている。

ほどなく向こうから男の人の呼び声がし、その犬は名残惜しそうに、飼い主の元へ踵を返した。


「すみません…」

犬に負けぬほど品の良さげな中年男性が、スポーティーな恰好で、照れくさそうに笑っていた。

「いえいえ…運動してお腹すいたんでしょうねぇ」

一瞬私はケーキに指を突っこんで、駆け寄ってちぎれんばかりに尻尾を振る犬の鼻づらに、ぺとっとつけてやろうかな…と実は思ったのだが、やめといた。

食事制限してるとか、糖尿病になるとか、言われたら嫌ですもん。


…そんなことを思いながら、雨が生乾きのベンチに腰を下ろす。

レディ相手ならハンケチくらい敷いて差し上げなければならぬシチュエーションだが、どうせこちらは男一匹。ズボンが少々濡れようが、何構やせぬ。後で歩けばすぐ乾くだろう。



ご覧のようなフルーツたっぷりのムース系オンパレード。どれが何という名前で…というのは、店でメモって来なかったので、みんな忘れてしまった。右上が“カスタードプリン・マロンのせ”で、これだけが濃厚だが、後はこの店の洋生菓子らしく、サッパリ甘さ控えめの優しい味。果物本来の甘みが舌に広がる。


この頃になると少し晴れ間が見えてきて、まずまずの心地好さ。

足元に群生するキノコも気持ち良さ気だが、これもとても食べられそうにない。

その先に鳩が一羽ぺちゃっと地面に蹲っている。

「何してんのん?お腹つめたないのん?」

近寄ってカメラを構えるも、一向に逃げる気配なし。

手を伸ばせば捕まえられそうだったが、旅先で鳩なんか捕まえてもしゃーない。香港じゃないから焼いて喰うわけにもいかんしね。


すぐ先に阪急が川を跨ぐ橋がある。

その下へ行き、電車を待った。

綺麗な写真を撮ろうと粘ってみたが、こんなくらいが精一杯。


そろそろ引き返すことにする。

ここまで大分歩き、そろそろしんどくなってきたので、苦楽園口から電車に乗った。

短編成の電車がこの駅でゆっくりと交換する。

鉢伏山が徐々に遠ざかってゆく。


ほどなく電車は夙川駅に着いた。

かつて神戸本線で6+2の8連用に梅田方に増結され、前パン凛々しく颯爽と走った車両も、今はこうして静かに支線で走っている。

オデコのヘッドライトがLED化され、何だか豚鼻が2つ並んでいるようだ。


乗ってきた甲陽線は、ここ夙川で東西に走る神戸本線と直角に接する。

普段はそれぞれの線内を電車が走るのみだが、たまに点検や交換が必要な時だけ使われる連絡線が急カーブをなしている。

丁度、数学で「Y=1/X」のグラフのような円弧である。否、この場合、北と西だから、正確には「Y=-1/X」と、マイナス付の式に例えるのが正しいか…。

ともあれ普段は使われない急カーブの線路を何気なく眺めていると、向こうの方で一匹の猫がレールに背中を擦りつけて、ころんころんと転がっていた。それが実に気持ち良さそうなのだ。おまけに転がりながら股ぐらをおっ広げ、丁度「ω」の形をした箇所を懸命にメンテしていらっしゃる。


そのリラックスしきった姿に魅かれ、カメラを出して構えてみたら、野良猫ってえのは流石大したもんやねぇ。ご覧のように見事なカメラ目線。最前までのダラけムード一気に消し飛び、ピシッと緊張感漲ったもんだ。


ちゃうちゃうちゃうちゃう、そんなカメラ目線はええねん。

さっきまでキミが見せてた背中擦りつけごろんごろん、あれもう1回やってーな。



幾度間を置いても、もうダメあかん。

敵に睨まれ構える姿勢を終始崩してくれませなんだ。




「♪ハイ目ぇそらして~ ハイ目ぇそらして~

リラックス、リラックス、リラックス

線路に背中すりすり~ ハイち○ち○かいかい~

寝っころがって~ 寝っころがって~ ハイもう一度っ

リラックス、リラックス、リラックス」


にわかエアロビインストラクターみたいになるも、何せ相手は言葉の通じぬ異種動物。

幾ら心で強い念波を送ってみたところで、通じないことだってあるさ。


遂に根負け。降参。

客が捌けて静けさを取り戻したホームを振り向き、電車を写してササッと立ち去ったのである。


あの雄猫はいつまでカメラ目線を続けていたのだろう。


「ニャンコ、ごめんなさいね~。

すっかり緊張させてしもたねえ。

おわびにあめちゃんあげよ。そーれっ」


すち子さんならこう言いそう。


いや、この場合、相手が猫だけに、投げてやるならまぐろキューブか。


以下、次回に続く。