今月26日から、シネマヴェーラ渋谷というユーロスペースの上の階にある邦画専門の名画座で、岸田森特集上映が始まった。

全18プログラムの中で、本作が間違いなく最も稀少映像だと思い、27日に劇場へと出向いた。
併映は『白昼の襲撃』(1970東宝)。主役の少年院上がりの元運転手・修は、もしかして黒沢年男?と思いながら見ていたら、やはりそうであった。
初回上映の11時よりも随分早く着いたので、最初は場内はまばらだったが、みるみるうちに客席は埋まり、12:40の本作上映の頃にはほぼ満席、立ち見さえも出るほどで、改めて岸田森氏の人気のほどが窺える。

岸田森氏といえば、やはり『怪奇大作戦』。それに『帰ってきたウルトラマン』。2本立ての幕間、場内にはこれらのテーマ曲のアレンジが流されるという細やかな配慮が嬉しい。
自身のリアルタイムの視聴経験からすれば、『猿飛佐助』(主演:太川陽介)の大久保長安が印象深いが、何よりも最終話のあまりにも残酷なシーンがトラウマ映像となって今なお鮮明な記憶として残っている。
本作は1979年8月4日、『土曜ワイド劇場』の1作として放映された。

横領発覚を恐れて若いOLを殺害した5人の男女。死体はバラバラにして捨てたはずが、死人の右手がワサワサと動き出し、復讐を開始する。
…という概略を読んで、『恐怖劇場アンバランス』の第12話・「墓場から呪いの手」を思い出された方がおられたとしたら、貴方は相当なマニアだ。
本作はこのリメイク作なのである。
以下、もう少し詳しくあらすじを追ってみることにする。
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東西通商の経理課に勤めるOL・白川雪子(演:堀越陽子)は、幸せの絶頂にあった。4年に及ぶ社内恋愛の末、課長・南条信(まこと)(演:荻島真一)と婚約が叶ったのだ。音大生の妹(演:木村理恵)も祝福している。姉妹は両親を早く亡くし、姉が親代わりとなって妹の面倒をみてきたのだ。
母の形見の翡翠のイヤリングを指輪に作り替え、姉妹で1つずつ分けあい、愛用している。
ある日南条は野田部長(演:渥美国泰)から呼ばれ、近く抜き打ちで会計検査が入ることを聞かされる。南条は野田部長と共に、産業庁の宮崎課長(演:岸田森)、花山食品の花山社長(演:山田吾一)らとグルになり、会社から3億円を横領していた。
実は南条が雪子に近付いたのも愛ゆえではなく、雪子に帳簿を操作させ、横領の隠蔽工作を図るためであった。
野田部長は、雪子を殺害し、雪子が失踪したことにして、横領の責任を負わせる計画を南条に話す。
尻込みする南条に、専務の娘・渡辺香里(演:長谷直美)と結婚させてやろう、そうすれば君の将来は約束されたも同然だと、甘い誘惑の言葉を囁き、南条を計画に引きずり込む。
野田部長の愛人で、クラブのママ・千枝(演:原良子)のマンションに、南条は雪子を呼び出す。野田部長が現れ、仲人を引き受けようと申し出る。雪子が安心するも束の間、背後から南条が雪子に襲いかかる。雪子が南条にプレゼントしたネクタイで、雪子は絞め殺される。
雪子の死体はバスルームに運び込まれ、千枝が電動ノコギリを持って現れる。それで死体を解体し、バラバラにして隠匿しようというのである。
野田以外の男たちはてんで意気地がない。千枝が率先して死体解体に当たっている。バスルーム床に流れる夥しい血潮。照明を落とした暗い部屋で黙々と行われる作業が陰惨な雰囲気を増す。
油紙で厳重に梱包されたバラバラ死体は、男たちが分担してそれぞれ野田が指定した場所に遺棄しに行く。捜査の攪乱と、アリバイ工作のしやすさから、警察の所轄が別々で、関東近県の50キロほど離れた場所。印旛沼、丹沢山中、奥多摩の工事現場とダムが選ばれた。
当夜は皆、千枝の店でマージャンをしていたことにした。
皆が立ち去った殺害現場のマンション。人けがなくなったバスルームで、死骸の右手が静かに動き出した。連中が遺棄し忘れたらしいのだ。翡翠の指輪が嵌まっている。物言わぬ右手は、ワサワサと動き始め、復讐を開始する。
最初の犠牲者は産業庁の宮崎課長であった。宮崎は男たちの中でもひと際臆病者で、常時ビクビクしている。帰宅途上、運転していた自動車のフロントガラスに、突然現れた女の右手。
宮崎は恐怖に慄き、車から転がり出て、そのまま踏切を越え始発電車に轢かれて命を落とす。自殺として処理されるが、警視庁富士見警察署の大塚刑事(演:長門裕之)は、死体の異様な脅えた顔つきから、宮崎課長の自殺に疑念を抱く。
姉の突然の失踪を訝る妹が警察に捜索願を出しに来たことから、宮崎課長の轢死と関係があるのではないかと疑い始める大塚刑事。
一方、雪子殺害現場となったマンションに住むのを気味悪がった千枝は、すぐに引き払っては怪しまれるから当分住み続けろと野田部長に命じられる。
千枝は、南条に住まわせようと提案。野田もそれに乗っかる。
次の犠牲者は千枝であった。千枝のもとに右手が迫る。階段をにじり寄り、通気口から部屋に忍び入り、千枝の喉元に襲い掛かる死者の右手。
恐怖に慄きながら千枝は部屋から屋上へと逃れるが、そこへ執拗に迫りくる右手。千枝は屋上から転落。還らぬ人となった。今回も自殺と処理される。
専務の娘・香里との結婚話を順調に進める南条。早くも下僕扱いされ、頭が上がらない。野田部長の誕生日パーティー席上にまで捜査に現われた大塚刑事に、香里は機嫌を損ね、後を追った南条と共に、スポーツカーで抜け出した。
向かう先は香里の家の箱根の別荘。芦ノ湖でモーターボートに乗る2人。だが、死者の右手はそこにも迫り来る。突然ボートのエンジンが止まり、香里に命じられるがままにエンジンの様子を見ようと湖面を見れば、水中から右手が南条の手を掴み、引きずり込もうとする。
懸命に抵抗する南条。香里はそんな南条の様子に気付かず、早くエンジンを直せと苛立つばかり。
漸くエンジンが直り、その場を走り去るモーターボート。その姿を見送りながら、桟橋の下では右手が蠢いている。
その一方で右手は次々と隠匿された死体の残りをかき集めている。
今度は花山社長の番である。寝室で布団をめくると、そこから現れたのは雪子の生首。花山はテーブルクロスで生首をくるむと、窓から外へ放り出した。
夫の不審な挙動を訝る妻に取り繕う余裕もなく、花山は庭に出ると、生首は消えており、包んでいたテーブルクロスだけが残されていた。
狂乱の体で再び寝室に戻った花山。椅子に腰を下ろし、ふと横を見ると、足元に生首が転がっている。
絶叫して生首をテーブルクロスに包み、車を駆った。向かった先は、深夜、人けのない自分の会社の冷凍倉庫。冷凍スイッチを入れ、戸を開けて倉庫奥に生首を遺棄し、凍らせようとする。
その背後に右手が迫る。右手は操作盤のスイッチを入れ、自動扉を閉めてしまう。中に閉じ込められた花山社長。絶叫空しく凍え死んだ姿が翌朝社員によって発見された。
南条の前にも再び右手の姿が現れる。右手の恐怖の幻影は、夕食デートの席上で、向かいに座る香里の手に重なり、恐怖に慄く南条は思わずフォークを香里の手に突き刺し、その場を立ち去る。
宮崎課長、千枝、そして今度は花山社長が不審死を遂げ、野田部長は気が気ではない。そこへ南条が今夜の失敗の報告に来る。怒って南条を追い返す野田。
そこへ迫りくる死者の右手。空中を舞い、野田に襲い掛かる。
狂乱した野田は、床の間に飾ってある日本刀を抜き、めくらめっぽう振り回す。畳に白刃を突き立てる野田。そこへ再び右手が襲う。
野田は転倒し、勢い余って突き立てた白刃で自らの喉首をかき切られ、絶命する。
南条は、次々に起る関係者の死に、事の真相を知り裏で糸を引いている者がいるはずだと、殺した雪子の妹に疑念を抱き始める。妹をマンションに呼び出す南条。
いつしか右手は、バラバラ死体の全てを、解体現場のバスルームへと集めていた。
そのマンションで妹に激しく迫る南条。右手にぶら提げられた生首が宙を舞い、南条に襲い掛かる。
狂乱する南条。いつしか生首だけでなく、他のパーツも組み合わさると、白光りする雪子の幽霊となって、南条にのしかかる。右手は南条の喉首を締め上げ、南条は悶絶死を遂げる。
駆け付けた大塚刑事。雪子の幽霊は姿を消し、苦悶の表情を浮かべた南条の死体は、自分で自分の首を絞めていた。
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『恐怖劇場アンバランス』と大筋は同じだが、こちらは殺人実行犯が単独である点が違っている。殺人犯の桑田を演じたのは山本耕一氏。故・小林千登勢さんとのおしどり夫婦ぶりで知られていた。
アリバイ工作を頼むのがホステスなのは同じだが、こちらではホステスは共犯ではない。桑田の部屋に一緒に転がり込むと、死体解体現場だとは夢にも思わず、バスルームを使おうとして桑田に止められる。
そのまま飲み明かした深夜、突然部屋のブザーが鳴る。戸を開けても誰もいない。閉めるとまたブザーが鳴る。桑田が被害者の久美と付き合っていたことを知っているホステスは、久美の仕業なのでは?と無邪気に言い残し、桑田から車を借りて帰っていく。
その後、遺棄したバラバラ死体が梱包したままの姿で桑田の部屋に落ちていたり、寝ている桑田に手が忍び寄り首を絞めたりする。
桑田が死体を捨てた河原で、遊び戯れるカップル。その足首に突然、久美の手が掴みかかり、腰を抜かしながら這う這うの体で、その場から車で逃げ出すカップル。だがいつの間にか車内に入り込んでいた久美の手が男に襲い掛かり、男は殺されてしまう。(男は事件とは関係ない筈なのに、いい巻き添えの気もする。)
残された女が警察に駆け込み、捜査が開始される。現場に残された指紋が、死んだはずの久美のものと一致する。
久美にはエレクトーン奏者の妹がいる。妹から姉・久美の失踪を聞かされた中川警部(演:入川保則)が捜査に乗り出す。
徐々に追い詰められた桑田は、妹を呼び出し、お前が裏で糸を引いているのだろうと迫る。
そこへ久美の手が襲い掛かり、桑田は手から逃れようとマンションの非常階段を上へ上へと上り、遂には転落死を遂げる。
桑田が死体となった瞬間、復讐をやり遂げた久美の手は、くたっと力が抜けたようにその場に転がった。みるみる内に手は腐蝕が進行し、やがて焦げ茶色に変色して干からびた。
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全13話からなる『恐怖劇場アンバランス』は、全てのエピソードが恐ろしい話ばかりとはいえない。その中で、第12話・「墓場から呪いの手」は飛び抜けて怖い。
シリーズ中、このエピソードが最初に制作されたものらしい。アンケートを取ったところ、怖すぎるので同種の話があったとしても毎週見ないという意見が多数だったということである。
その物語を更にスケールアップして作り直したのが本作である。
殺人者は主人公のみに留まらず、5人の男女の共犯となっている。
男たちはリーダー格の野田部長以外は皆てんで意気地のない憶病者ばかりである。特に岸田森氏演じる産業庁・宮崎課長。横領隠蔽のみならず、証拠隠滅のためのOL殺害にまで悪事の範囲が及ぶと、スキャンダルの露見を恐れる保身の気持ちは他の仲間よりも人一倍強いのか、最初から逃げ腰、手にした洋酒のグラスをガタガタと震わせ、野田部長からあいつは危ないなと言われる始末。
汚職に手を染める官僚として、普段威張ってはいても、その実小心で意気地がない。そんな役どころといえば、森村誠一シリーズ『腐蝕の構造』における、国防庁の官僚・中橋役が思い浮かぶ。
新防衛計画の中心を担う人物。その受注を狙う土器屋産業の社長を継いだ貞彦の巧みな罠により、ホテルのダブルブッキングを装う形で高級コールガール・三杉さゆり(演:夏樹陽子)をあてがわれ、さゆりにのめり込む情けないさまを演じている。
『猿飛佐助』の大久保長安、『斬り抜ける』の森伝八郎など、青い血の通った冷徹な役柄のイメージが強い中、本作の宮崎課長の小心者ぶりは珍しい。
バラバラ死体の、切り離された手だけがワサワサと動くさまは、見ようによってはユーモラスに見え、実際、花山社長を冷凍倉庫に閉じ込めるべく操作盤のスイッチを手がしっかりと押さえて離さない場面や、「俺の名前は出すなよ」と最後の最後まで自己保身に懸命な野田部長の様子に、場内で笑いがしばしば起きていた。
だが、手が復讐相手たちに次々にジリジリと迫る様子は、ゼンマイ仕掛けの玩具ぽいがゆえに却って背筋がゾーッとするような不気味さに溢れており、観ている者の恐怖を煽る。
どうしても連想してしまうのが、江戸川乱歩の『妖虫』の一場面で、ここでは若い女の白い手が地面から植物に混じってニョッキリと生えているさまが生々しく描き出されている。
特にパワーアップした本作のクライマックスでは、手だけに留まらず、生首が宙を舞い、最後はバラバラ死体が合体し、幽霊になって実行犯に襲い掛かるというえげつなさ。
オカルト色を含めた傑作ミステリーといえそうだ。
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「土ワイ」などと略される今の『土曜ワイド劇場』からは想像もつかないが、30数年前の『土曜ワイド劇場』は本当に怖かった。
以前、『湖水の死美人』という作品のシナリオを手に入れた時に書いた文章の繰り返しになるが、当時の作品群は映画から流れてきたスタッフが作り手の中心をなし、ウィリアム・アイリッシュ、カトリーヌ・アルレーなど往年の本格派ミステリーを翻案したものも多く、最後に意外な犯人が暴かれたり、視聴者を芯から怖がらせたりして、見終えた後、トイレに行くのも怖く、夢に出てきそうな内容だったことを思い出す。
「湯けむり○×」とか「○△紀行」とか、一応殺人事件が扱われてはいるものの、ミステリー色がすっかり褪せた緊張感のない作品ばかりが増え、 『土曜ワイド劇場』も含めて2時間サスペンスドラマを見る気が失せたのは随分と早かった気がする。
今から30年ほど前は、土曜午後に『土曜アンコール劇場』という再放送枠があった。当時まだ子供だった私は、ある時土曜午後に家に遊びに来た友人を誘い、放映されていた『自画像の怪』という作品を一緒に見ていた。
大空眞弓さん演じる人妻が主人公で、画家の夫(演:前田吟)が殺害される。未亡人となった主人公が一人で守る家に、雨の夜に限って訪問者が来る。不審に思いながらも主人公が戸を開けると、死んだはずの夫がずぶ濡れで現れ、自分を避けるようにアトリエへと姿を消し、何やら作業をしている。そして再び物言わず出て行ってしまう。後には描きかけの自画像。その自画像が、夫が現れる度に次々に恐ろしい形相へと描き換えられていく。…そんな筋であった。
特に2回目の、溺死体を思わせるような、目を剥いて口元が変形した絵が本当に恐ろしく、3回目の顔中血だらけの絵よりも怖かったことを今でもはっきりと覚えている。
一緒に見ようと誘った友達が、ソファーの横でガタガタ震えながら見ていた。
「スカパー!」でテレ朝チャンネルというものが開局して久しいが、一向にこうした一昔前の『土曜ワイド劇場』を放映してくれそうな気配がない。
テレビ朝日のコンテンツは、何も『クレヨンしんちゃん』、『西部警察』、『土曜ワイド劇場』なら天知茂の「江戸川乱歩美女シリーズ」に限ったものではない筈である。
願わくば35年ほど昔にタイムスリップし、当時の恐ろしかった『土曜ワイド劇場』を心行くまで堪能してみたいものである。
そんな中にあって本作は、円谷プロ制作という特別な分類ゆえに、こうしてまだ視聴機会に恵まれるだけましであろう。
個人の好みを言うならば、往年の『土曜ワイド劇場』、それと「昼メロ」と呼ばれていた時代の昼ドラマ、これらの専門チャンネルこそ「スカパー!」で是非作ってほしいものである。
そして往年の『土曜ワイド劇場』といえば、やはりこのオープニングが良く似合う。
欲をいえば、これから始まってくれないと、何だか物足りなさを覚えてしまうのだ。
さて岸田森特集。次は何を観に行くか。
同じくTVドラマの上映、「火曜サスペンス劇場」の『可愛い悪魔』はひとまず確定。
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『白い手美しい手呪いの手』
1979.8.4放映(土曜ワイド劇場)
監督:富本壮吉
原作:若槻文三
脚本:武末勝
主な出演者:
荻島真一、堀越陽子、木村理恵、長門裕之、岸田森
長谷直美、渥美国泰、原良子、山田吾一
(本作は、4/30にシネマヴェーラ渋谷にて再上映)
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『恐怖劇場アンバランス』第12話「墓場から呪いの手」
1973.3.26放映
監督:満田穧
脚本:若槻文三
主な出演者:
山本耕一、牧紀子、松本留美、入川保則、藤あきみ
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以上、一部を除き敬称略
参考文献:
『円谷プロ 怪奇ドラマ大作戦』(2013)(洋泉社)
『テレビジョンドラマ』20号・特集土曜ワイド劇場(1986)(放送映画出版)

