前回の続き。


5月5日(日)


梅田―難波―岸里玉出


―難波…純喫茶アメリカン…大たこ…心斎橋―梅田


…(『ME AND MY GIRL』)…梅田…ドリヤード…大阪


―大正…萬歳湯…大正湯…三光湯…大正―難波


―(鶴橋)―寺田町…源ヶ橋温泉…寺田町―大阪


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2月に続き、再びこの場所へ来た。

1階入口の吹き抜けを通り抜けた先に「梅田芸術劇場」への入口があった。

長いこと来ていなかったので、地下の「シアター・ドラマシティ」と共に2つ劇場があることをすっかり忘れてしまっていた。


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開場にはまだ少し時間がある。

木立ちの脇に腰を下ろし、少し早目の昼食とした。

朝方、玉出商店街の出店でおばあちゃんから買ってきた安倍川餅である。


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餅は柔らかく、きな粉にたっぷりとまぶった砂糖が甘い。懐かしい味がした。


そうこうする内、開場となった。


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ホールは意外なほどに広く、ロビーは天井にアーチをあしらった回廊風でどことなく優美である。


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いよいよ『ME AND MY GIRL』開演である。


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物語は一言で言うと、ロンドン下町っ子・ビルのシンデレラストーリーである。


もう少し詳しく書くと…


舞台は1930年代の英国。主人公はロンドンの下町ランベスに住むビル(演:龍真咲)

このビルに思いがけない幸運が舞い込むところから物語は始まる。

ロンドン近郊の高級住宅地メイフェアにあるヘアフォード伯爵家。当主である伯爵亡き今、遺言により、莫大な遺産と当主の座は行方不明の一人息子が受け継ぐとされた。

何とビルが、その一人息子、ヘアフォード伯爵の落とし胤だというのである。


ヘアフォード家に連れられるビル。

妹の公爵夫人マリア(演:憧花ゆりの)が亡き兄に代わり、家を切り盛りしている。

メイフェアでは、新しい後継ぎビルがどういう人物なのかという噂でもちきりだった。

実際にやってきたビルを見て、ヘアフォード家の人々は愕然とする。

ビルは、ひどい下町訛りの粗野で不作法な言動の青年であった。


マリア公爵夫人は、遺言執行人ジョン卿の反対を押し切り、ビルを教育して、ヘアフォード家次期当主にふさわしい立ち居振る舞いを身につけさせようとする。


この話に心穏やかでないのが、マリアの姪ジャッキー(演:凪七瑠海)と婚約者ジェラルド(演:美弥るりか)。彼らはヘアフォード家の財産が自分たちのものになると期待していたのだ。

奔放で勝気なジャッキーは、ジェラルドとの婚約を破棄し、ビルをモノにすべく、あの手この手でビルを誘惑し、歓心を買おうとするが、ビルにはサリー(演:愛希れいか)という恋人がおり、サリー以外の女性と一緒になる積りはないと公言する。


サリーはビルの幸運を喜ぶが、自分がいると折角のビルのチャンスをつぶしてしまうのではないかと悩むようになる。


ビルの教育は進められ、遂にその成果が問われる日がやってきた。

上流階級の人々を招き、ビルの伯爵家継承披露パーティーが催されることになった。

周囲の不安をよそに、ビルは堂々と振舞って見せる。

そこへサリーがランベスの仲間たちを連れて現れる。ランベスの人間は所詮ランベスでしか生きられない、自分は上流社会には相応しくない。そのことをビルにわからせようとするのだが、ビルも又自分が下町の出であると仲間に加わり、サリーたちと共に活き活きと振舞うのだった。(「ランベス・ウォーク」


(第2幕)

パーティーの夜は明けた。公爵夫人はサリーに、ビルに愛想尽かしをして出ていくよう迫る。

サリーはビルのために、悲しみを胸に隠し、身を引く決心をする。

サリーはビルに、血筋の良い娘と結婚すべきだと告げ、ビルのもとを去る。


公爵夫人の差し金だと悟ったビルは夫人に抗議するが取り合ってもらえず、それどころかジャッキーとの結婚を強引に決められてしまう。

ヤケ酒を呷る内、ビルはジョン卿と意気投合する。

互いに想いを寄せる女性のことを語り合う内、ビルはジョン卿が公爵夫人のことを想っていることを知る。


ビルとサリーのために一肌脱ごうと考えたジョン卿は、秘かにランベスへサリーを訪ねる。

想い極まりサリーの元を訪ねたビル。だがサリーは一足違いにいずこかへ行方をくらませていた。


傷心にふさぎ込むビル。その様子に公爵夫人は、ビルのために良かれと思ってサリーと引き離したが、そのことが間違っていたのではないかと悩み始める。

そんな公爵夫人を優しく慰めるジョン卿。彼は長年胸に秘めてきた想いを打ち明けるのであった。

一方、ジャッキーに捨てられそうになってこちらも悩んでいるジェラルド。ビルの助言により、ジェラルドも又ジャッキーの愛を取り戻した。


ビルはサリーと結婚できないくらいなら、伯爵家の後継ぎになどならないと、荷物をまとめて屋敷を出てゆこうとする。

その時、ジョン卿が一人の美しい貴婦人を伴って現れた。


それはジョン卿の計らいで秘かに貴婦人修行を受けてきたサリーその人であった。


「こんの野郎、てめぇ一体今までどこに失せてやがった!」


こうして3組のカップルが誕生し、大団円を迎える。


*****


宝塚版『ME AND MY GIRL』は1987年月組によって初演された。

剣幸&こだま愛コンビによるこの公演は大変な人気を博し、同じ年に再演までされている。当時の人気のほどが窺える。


私が初めてこの作品を実際に観たのは1995年の再演で、12月の東京公演であった。

天海祐希&麻乃佳世コンビの退団公演で、大変な人気だった。

12月の公演のチケットを求める列が8月頃から既に劇場地下にできたとか、チケットには50万円のプレミア価格がついたとか、様々な噂や伝説が飛び交った。

一般前売り初日は、プレイガイドでの取り扱いは無く、特設電話など無論通じず、公演が始まった後早起きして並び、何とか2階立ち見で一度だけ観た覚えがある。


剣幸版の時、研1(注:歌劇団在団1年目)にして新人公演主役に大抜擢されたのが若かりし天海祐希。それから8年、久々の『ME AND MY GIRL』再演が彼女のサヨナラ公演となった。


麻乃佳世の健気さに反し、肝心の天海祐希は自分には思ったほど良いとは思えなかった。こんなことを書くと叱られそうだが、チョカチョカしたおふざけの動きだけがやけに目立つチンピラヤクザのように思えてしまった。

多分色々な予備知識を仕入れたせいで、あまりにも大きな期待を寄せすぎてしまったせいであろう。アイドル的なスターというものが昔からあまり好きでないからかもしれない。

役得ともいえるパーチェスター弁護士役の汐風幸のおとぼけぶり。

それと、無機質な鋼鉄の殻を被った感じさえする“男”そのものというイメージがそれまであった真琴つばさがジャッキーという女役になり、脚線美も露わにビルを誘惑するが、どこかぶきっちょそうな感じが残っているのが妙に役柄に合っているように思えた。


また、今でこそショーやレビューで頻繁に見られる“客席降り”の演出だが、当時の宝塚では滅多にこのような演出はなかった。

そんな中にあって、『ミー&マイ』の第1幕終盤「ランベスウォーク」の場面は、当時としては珍しい客席降りの大サービスであり、これ自体が一つの伝説的名場面であった。

残念ながら2階一番後ろの立ち見席では、1階で何が起きているのかを実際に目にすることができず、随分やきもきしたものだ。

最近のショーやレビューの客席降りの場面だと、時折2階席にもちゃんと出演者が割り振られ、不公平感がなくなってきたのが嬉しい。

今回の『ミー&マイ』では、偶々1階席後方の券が買えたので、「ランベスウォーク」の客席降りを堪能できたが、2階席、3階席はどうだったのかは残念ながらわからずじまいである。


2008年の東京公演も一度観ているが、不思議と全く記憶に残っていない。


私にとって3度目の『ミー&マイ』となったわけだが、これまで観たものに比べると出演者は総勢40名と少ない。

弁護士パーチェスターと執事ヘザーセット、ジャッキーとジェラルドのそれぞれ役替わりがあったようだ。

龍真咲&愛希れいかコンビを始め出演者たちが皆若々しい印象があり、龍真咲のビルはフットワークの軽い気のいい庶民の若者という感じがした。


*****


本作は、上流階級の人々と庶民階級の主人公たちという対比が見られる中で、登場人物たちが皆悪意がなく、善人なのが良い。


ビルとサリーの前に立ちはだかる公爵夫人。「意地の悪い婆さん」とジョン卿に陰口をたたかれてしまうが、その公爵夫人は伯爵家の繁栄のため懸命になっているだけであり、本当に意地の悪い嫌味な人なら、そもそもビル自体を認めようとはしなかったであろう。

サリーに去られ落ち込むビルをみて、思い悩む公爵夫人もまた本質的には善人だと思う。


ジャッキーもまた、財産目当てにジェラルドを捨ててさっさとビルに乗り換えようとしているが、ビルにその気がないのを悟ると、意地の悪いことなどはしない。

ジェラルドはやけに楽観的だ。


ジャッキーのハートを取り戻すために、ビルがジェラルドに入れ知恵した内容が“ひっぱたけ”というのが些か乱暴な気もするが、陽気な登場人物たちの喜劇の流れの中で、暴力とかDVとかというのはナンセンスであろう。


最後、3組のカップルが成立し、フィナーレには3組のウェディングドレスの花嫁が登場する。

この後、ビルとサリーは上流階級社会にうまく馴染んで行けるのであろうか。

きっとうまくやっていけるだろう。

それは各々が礼儀作法の教育を受けたからではなく、周囲にこれだけ善意をもった人たちがおり、新しい伯爵家を盛り立てて行ってくれるに違いないと思えるからである。

カップル成立の後の幸せを素直に信じさせてくれる、観る者を幸福感で満たしてくれる、そんな作品だと思う。


今回の旅は、そもそもこの公演のチケットを衝動買いしたことに端を発したものであった。

実際の公演を観て、衝動買いは決して間違いではなかった。そう思っている。


(以上敬称略)