数年前、日曜劇場で『華麗なる一族』をやっていた時、某大手製パンメーカーが、それに便乗し「華麗パン」なるものを売り出したことがある。
何のことはない。カレーパンである。
少々ベタにすぎるが、更にその尻馬に乗って、カレー屋巡りの記事にこんな命名をしてみた。
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今となっては随分前に感ずるが、『TVチャンピオン』という番組の絶頂期に、「カレー王選手権」というのがあった。
確か「第2回」の予告だったが、背景に何とも哀愁漂う、それでいて郷愁をそそるボソボソとした歌声が流れていた。
「何という歌なのだろう?」私は必死に探し求めた。
インターネットなぞない時代である。
どうやって探し当てたのか忘れてしまったが、何でもCD店のフォークソング・コーナーを片っ端から見て回り、それらしいものを買ってきた気がする。
遠藤賢司・「カレーライス」
(アルバム「満足できるかな」所収)
冒頭から何やら侘しげな雰囲気あるギターのイントロが始まり、やがて始まる歌声。
「♪君も猫もみんな
みんな好きだよ カレーライスが
君はとんとん じゃがいも・にんじんを切って
涙を浮かべて 玉葱を切って
ばかだな ばかだな ついでに自分の手も切って
僕は座ってギターを弾いてるよ~お~お~
カレーライス」
この後、歌は「2番」で「誰かがお腹を切っちゃったって」と、三島由紀夫の割腹事件に触れている。
「君」にカレーを作らせながら、「僕」は座ってギターを弾いて待っているなど、後にフェミニズム団体が目くじら立てた某百貨店のキャッチコピーを思わせる光景だが、それも時代であろう。
「彼女」が慣れない手つきで作るカレーライスは、ジャガイモもニンジンも玉ねぎも溶けておらず、固い牛スネ肉がごろんごろんと入っている、昔ながらのカレーに思えてならない。
この歌を聴くと、何故か私は、カレーの匂いよりも、ルゥを入れる前の、野菜がぐつぐつと煮立つちょっと青臭い匂いのほうを思い浮かべてしまう。
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この歌の愛聴ゆえか、「カレー王選手権」の影響か、この頃から私は、もっと若い時分にやっていたラーメン店巡りから、カレー屋巡りに宗旨替えを始めた。徐々にカレーのスパイスの辛さに、甘党の舌が耐性を得始めたせいかもしれない。
当blogでは既に、「どこそこ帰りにめし屋に寄った」という趣旨の不定期シリーズがあるが、外で食らうご飯の選択肢としてカレー屋が上ることが多い。
それを特に、1本のシリーズとして立ち上げてみよう。そう考えたのである。
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記念すべき第1回目は、やはりこの店から取り上げたい。
~「ボンディ」・神保町本店~
神保町交差点から靖国通り沿いに九段下方面へすぐ、「神田古書センター」というビルがある。
ここには随分お世話になった。
2階の「中野書店」では、今みたいに古い少女漫画本がお宝になる前、山岸凉子作品の絶版本(『ひまわり咲いた』、『白い部屋のふたり』等々)、大和和紀作品の貸本漫画(若木書房の『どろぼう天使』等)、それらを安く買い求めた。もっと前には、北条司の『キャッツ・アイ』を探しに来たこともあった。
6階にある「アベノスタンプコイン社」では、その昔、鉄道雑誌の古本が無造作に棚に詰められ、まさしく宝の山状態。かつて到底手に入らなかった雑誌の数々を、嬉々として選び出したものだった。
特に2階に漫画本を探しに行くと、いつも奥からカレーのいい匂いがプンと漂ってきた。
まだ10代の頃だったと思うが、匂いに引き寄せられるようにして入ったのが、ここ「ボンディ」との最初の出会いであった。
学生の懐には、結構な値段だった。
神保町グルメといえば、当時の私には、最初は友人に教わった「いもや」が専らであり(~近年、「いもや」は神保町界隈から随分数を減らしている~)、少々値の張る「ボンディ」はちょっとした贅沢だったのである。
当時は「チーズカレー・中辛」を頼むのが定番であった。
注文して暫くすると、茹でたジャガイモが2つペアで先に出てくる。
あつあつのジャガイモの皮は素手で持つと火傷しそうなので、紙ナプキン越しに手に持ち、食べるところだけを気を付けて剥く。バターをつけて頬張ると、いよいよすきっ腹が刺激される。
(この日訪れたのは1月頭。お年賀にとみかんをくれた)
やがてお待ちかねのカレーが来る。
ライスにもチーズの粒つぶが散らされ、端には何故か小梅に漬物。若い頃は、これらが嫌いで、時には残しさえもした。
カレーポットに盛られたほどよい黄色と茶色の混じったルゥには、とろとろに蕩けたチーズが顔をのぞかせ、いい匂いが鼻腔を否応なく刺激する。
匙で掬うと、チーズがトローリと糸を引いた。
こぼさぬよう注意して、ご飯の皿の上にかける。
ルゥに混じったチーズと、ご飯に乗せられた粒つぶのチーズ。両者の味がカレーに絡み合って、辛さとコクとまろやかさ、複雑な食感が醸し出され、それはそれは至福の時なのであった。
この店のお蔭で「欧風カレー」に目覚めたとさえ言ってよい。カレーにチーズは欠かせぬアイテムとなった。
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やがて他のカレーメニューにもチーズをトッピングできることを知る。
以来、ちょっと贅沢して、「ビーフカレー・チーズのせ・中辛」というのが定番になった。
この店は、「ビーフ」も「ポーク」も「チキン」も皆同じ値段である。
他所では「ビーフ」が一番高いことが多い。
「どうせなら、「ビーフ」…」そんなさもしい根性が働いて、未だに「ポーク」も「チキン」も頼んだことがないのである。
特にお腹が空いている時は、「大盛り」にしてもらう。大盛りはカレーポットではなく、小皿にルゥが盛られてくる。
近年、秋~冬にかけて限定メニューで「カキカレー」というものがあることを知った。カキも大の好物だ。運が良いだけかも知れぬが、生ガキを食べて一度もあたったことがない。
そこで、昨秋、本年初頭、と立て続けに「カキカレー・チーズのせ・中辛・大盛り」を食べた。
専門的なことはよくわからないが、フォン・ド・ヴォーの味なのだろうか。深い肉の旨みとコクが効いた、甘みと辛みが絶妙なルゥは、ただでさえ美味だが、これに冬の味覚・カキが加わると、仄かな酸味が感じ取れ、更に複雑な旨みと化す。
誰かがどこかで、「子供が好きなカレーを、めちゃくちゃ美味くした味」と書いているのを読んだ。
まさに至言。
もう無我夢中で、ルゥをかけてはチーズご飯を頬張り、またルゥをかけて…の繰り返し。
今となっては、小梅や漬物の和風の辛みも、いい舌休めだ。
2011年の「神田カレーグランプリ」で、「ボンディ・神田小川町店」が優勝した。
その影響なのか、前よりも長い行列になることが多くなったような気がする。
平日のランチタイムのみならず、土曜でも行列ができていて、諦めたこと数度。
今年頭、『グッモーエビアン!』という映画を観た私は、劇中に出てくる「ヤグカレー」に食欲を刺激され、どうにもこうにも美味いカレーが食べたくて仕様がなくなった。
その足で神保町へと向かい、真っすぐ「ボンディ」を目指した。
まだ夕方5時であった。
さすがに店内はガラ空き。それでもチラホラ客がいて、皆さん、待ち時間には、戦利品の本を広げている。やはりここは本の街。
エスニックな雰囲気を纏いながら、どこか垢抜けた落ち着いた店内は、古書センター奥という立地も相俟って、隠れ家的雰囲気もある。
何せ自分にとっては、神保町という非常に強い吸引力をもつ街にあることが大きい。わざわざカレーのために出向くのではなく、出向いた街に店があるのだ。
私にとって、この店は永遠のカレーの王者。
美味いカレー屋の代表というべき存在なのである。
そろそろ一度、「ポーク」や「チキン」、「エビ」や「野菜」、「魚介ミックス」などにも目を向けたほうがいいのかなぁ…この文章を綴りながら、そんなことを思った。
無論、どんな時でもチーズ乗せは欠かせませぬ。
(以上、敬称略)
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ボンディ 神保町本店 →URL
東京都千代田区神田神保町2-3 神田古書センター 2F
03-3234-2080
11:00~22:30 (ラストオーダー22:00)
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(主なメニュー)
ビーフカレー/ポークカレー/チキンカレー
チーズカレー/エビカレー/アサリカレー/野菜カレー :各1,450円
キノコカレー/ミックスカレー/魚介ミックスカレー :各1,600円
お子様カレー :1,200円
カキカレー :1,600円 (冬季限定)
大盛り :+150円、チーズのせ :+150円
それぞれ甘口、中辛、辛口あり
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(データ、公式サイトより転載。一部追記。)






