前回の続き。


1月12日のこと。


10日に「瞬殺」状態だった「母恋(ぼこい)めし」(母恋駅)を何としても食べたくなり、早起きして会場へと向かった。


色々な話も伝わってくるが、現地で色々移動するのも億劫なので、1階正面入口に並ぶことにした。朝9時である。30~40番目位であろうか。


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年々場内整理のノウハウが蓄積され、進化している気がする。

開店15分前に店内へ誘導され、まだ薄暗い1階婦人化粧品売場で暫く待つ。


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やがて先頭から4人ずつのグループに分けられ、グループ毎にエレベーター前に案内される。4グループ毎にまとめられる。

先頭グループから順にA→B→C→Dとすると、エレベーターに乗せられるのはD→C→B→Aの順になる。こうすることで、列の先頭集団がエレベーターの一番手前で降りられることになるという、極めて細やかな配慮である。

更に、エレベーターも時間をずらして順次稼働させるという念の入れよう。朝から感心した。


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さていよいよ会場入りである。

走らぬよう、早足で一目散に「輸送駅弁」のコーナーへと向かった。

幸い並ぶことなく入ることができた。

九州から順にぐるっと取り囲むように駅弁の山があるが、目的はただ一つ。順序を無視していきなり北海道のブースへ飛ぶと、本命の「母恋めし」は山と積まれていた。50個くらいはあったろうか。


「1個買えればいいや」と思って来たが、俄かに欲が出て、思い直して2個籠に入れた。

それと、「2ちゃんねる」で書かれていた「えびめしロール」。

公式サイトから印刷した「駅弁リスト」には何故か「えめしロール」と書かれていて、謎だったが、やはり正しくは「えびめしロール」。


後で思えば、この時Jokerを手札に持ったようなものだったから、もう少し欲張って色々買った方が良かったのかもしれない。

ともあれ会場の異様な熱気と緊張感に煽られ、早々とレジに向かったのである。

結局、この日手に入れた「輸送駅弁」は次の2種類、計3個であった。


「母恋めし」(母恋駅)(980円)*2

「えびめしロール」(岡山駅)(580円)


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続いて「実演販売」&「全国うまいもの」へ向かう。


これから先は、この後すぐ食べるための弁当の調達に走る。


「近江牛ハッシュドビーフ風」 (米原駅)(1,000円)

「岩手短角牛弁当やわらか煮」 (肉のふがね)(1,280円)

「宿場の釜めし・焼き釜めし」(駒乃屋)(945円)


を買う。後の2つは昨年からのリピートだ。「短角牛」に至ってはこれで4年連続だ。


真っ先に駒乃屋へ行って、個数限定の「焼き釜めし」を注文すると、出来上がるのに13分かかるという。「13分」という半端な数字に並々ならぬこだわりを感じる。お金を払って名を告げて、一旦その場を離れ、すぐさま向かいの「ハッシュドビーフ」、その足で「短角牛」を買い、早々と戦線離脱する。


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「近江牛ハッシュドビーフ風」 (米原駅)(1,000円)


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「湖北のおはなし」、「近江牛としょいめし」など名作駅弁を調製する井筒屋による洋風駅弁。

サフランライスに柔らかい牛肉が乗り、別トレイに入った洋風きのこソースをかけてハッシュドビーフ風にするというもの。

今回そこまで手が回らず、十分な検証ができなかったが、下のご飯は同社の「近江牛大入飯」と同じものか?

きのこソースは、玉葱、しめじ、マッシュルームが入ったかなり濃厚な味。

本当はレンジで温めて食べたほうが美味いと思ったが、会場でいち早く頂いた弁当は、まだ微かに温かみが残っていた。

容器といい、コンセプトといい、何だか駅弁というよりも、デリカテッセンのランチ弁当のような雰囲気。


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「岩手短角牛弁当やわらか煮」 (肉のふがね)(1,280円)


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毎年楽しみにしている弁当の一つ。

残念ながら今回も前半のみ。16日で終わってしまった。


ほとんど脂身のない赤身牛肉は、繊維がほぐれるほど柔らかく醤油で煮込まれ、口に含むとほろほろと崩れるような食感。下に敷かれたきんぴらごぼうのシャキシャキ感が絶妙な食感のバランスを醸し出し、他にはない独自の旨味を生み出している。


今年も1回しか味わえなかったが、来年もきっと食べに来ることだろう。

一度2個買って立て続けに食べてみたいものだ。


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これらを味わってから、今度は甘いものを買う。


「まぼろしの金時クリームパン」

「まぼろしのダブルクリームパン」

(手作りパンとケーキの店 Pao)(各262円)


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今回初登場。愛媛県は今治市のお店。

初日にものすごい行列になっていたので敬遠したが、この日は5人ほどしか並んでいなかったので、すかさず2個ずつ購入。


冷蔵保存のせいか、パンそのものは割と固めで、パンというよりは洋菓子に近い感覚だが、てっぺんにクッキー生地があり、けしの実が沢山乗っているのがあんパンらしい。

生クリームは甘さが抑えられており、「金時」のほうはつぶあんや「ダブルクリームパン」のカスタードの甘さが、相対的に際立つが、全体的にはさっぱりとしていて、見た目のボリューム感に反して食べやすい。

クッキー生地の甘さと、けしの実の粒々感が良いアクセントとなっている。


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お隣の冷蔵スィーツコーナーでまたしても「マルセイバターサンド」を買い、再び奥へ。

駒乃屋の「焼き釜めし」を引き取り、かさの家の「梅ヶ枝餅」を買い、再び戦線離脱。屋上へ行く。


人がどんどん押し寄せている。さすが土曜。

一番人気の「食べくらべ四大かにめし」(稚内)の列は、階段を下へ下へと延び、逆に「輸送駅弁」の列は大催場隣の子供服売り場を突き抜け、同じ階段を上へと延び、8階レストラン街の通路にまで至っている。


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「宿場の釜めし・焼き釜めし」(駒乃屋)(945円)



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色とりどりの具材のカラフルさが目に楽しく、味わい深い一品。

とりわけこの「焼き釜めし」は、おこげがふんだんに入っていて、それを割り箸でこそげて混ぜ繰り返しながら、パリパリとした食感を味わえば、至福の時が味わえる。


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屋上は風にさらされ、1月の寒気が身に沁みたが、この釜めしのあつあつのお蔭で、身体が十分暖まった。


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「梅ヶ枝餅」かさの家)(5個・630円)


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これも毎年リピートしている。一見地味な何の変哲もない焼きあんこ餅だが、薄べったい餅の外はパリパリ、中はモチモチとした食感、塩味を隠し味に纏った粒餡の甘さのバランスが絶妙で、実に美味い。

奇を衒ったところは何一つない、オーソドックスな味なのだが、当たり前のことを堅実にやると、こんな美味いものができるんだよ、というお手本のような味だ。


現地で2個頬張り、翌日以降、残りを食べた。

冷えてカチカチに固まった餅を元の食感に戻すにはひと工夫いる。

皿に乗せて水をパラパラとかけ、ラップで覆い、レンジで温めること30秒。

少し冷ました頃が食べ頃だ。


次の日にカチカチに固まるのが、本物の餅である証なのだ。


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再び会場へ戻ると、徐々に昼飯時近づいてきた。

場内はますます混雑を極め、もはや身動きも困難な状況。


ソフトクリームを買い、早々と会場を後にすることにした。


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「ベネズエラチョコ・ソフトクリーム」 (北菓楼)(350円)


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初日に「ホワイトチョコ・ソフトクリーム」を食べたので、今回は「ベネズエラチョコ」を選択。

これも毎年何度となく食べている。

場内の熱気にあてられ、弁当の濃厚な味わいに疲れた時、このソフトクリームにどれだけ救われたことだろう。

350円という値段はソフトクリームとしては結構いい値段だが、カカオの味が強すぎず弱すぎず、ほどよい味のチョコソフトになっている。


てっぺんのクリーム部分を食べ切った後、延々と下へと続く「食べくらべ四大かにめし」の列が一体どこまで伸びているのだろう?そう思い、少々行儀は悪いが、コーン部分を齧りながら階段を下へ下へと降りる。


すると途中5階あたりだっただろうか。

「ここからですとあと2時間待ちで~す。」

プラカードを持つお姉さんの声。


尚も行列は続き、結局その終点は何と2階と3階の間にまで達していた。

もはや7階から下るよりも、直接1階から上ったほうが早く列の最後尾に並べるレベルだ。


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何だかすごいことになっている。

果たして会期中に、「四大かにめし」を味わえる機会は訪れるのであろうか。


そんなことを思いながら階段を尚降りると、いかん、いかん。1階に着いてしまった。

さすがにソフトクリームを齧りながら婦人化粧品売場は通れないから、慌てて2階との間に戻って全部口の中に放り込んだ。


先ほど屋上で「梅ヶ枝餅」の撮影用に餅の表面を割った時、手にくっついた餅を洗うべく、文字通りお手洗いで手だけ洗い、早々と帰路についた。時計はまだ11時半を指している。


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持ち帰った「輸送駅弁」を賞味する。


「えびめしロール」(岡山駅)(580円)


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岡山でお馴染み「えびめし」の真ん中にはドーンと海老フライが一本。それを薄焼き玉子で巻き、それをロールケーキのように切り分けたもの。

お好みでタルタルソースをどうぞ、というのが気の効いた演出。

値段が示すように、量は少ないが、濃厚な味わいのえびめしに、プリプリした食感のエビフライ。更にはタルタルソースの味も加わって、決して物足りなくはない。

「輸送駅弁」コーナーの駅弁の山にあって、この小さなパッケージは埋もれてしまいがちだが、さながら小さな巨人である。


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「母恋めし」(母恋駅)(980円)


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今回初登場。今大会「輸送駅弁」中、間違いなく一番人気であろう。

早い日だと、開場10分ほどで完売してしまう。


以前から、旅番組でその存在は知っていた。

番組中で旅人が、断崖絶壁から遠く荒海を臨みながら、この弁当を食べている映像が記憶に残っていた。


初日に戦いに敗れ、気合を入れて再び参戦した会場で、思い焦がれた「母恋めし」は、予想に反した薄紫の衣を纏った姿で、まだ山と積まれていた。

一つ手にした後、思い直してもう一つ。今大会中唯一2個買ってきたそのお味は…。


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大きな2枚貝が素朴な網にくるまれ、脇にはホッキ貝の乗ったにぎりめし。燻製玉子にスモークチーズ、濃い紫色のナスの漬物が2本、ハッカ飴という陣容。


網から2枚貝を取り出せば、中にも同じホッキ貝のにぎりめし。


その味は駅弁らしからぬ薄味で素朴な味わい。

とかく濃厚な味に慣れた舌には正直、些か物足りなさすら感じるかもしれない。

そんな思いを吹き消すために、さりげなく入っているのがナスの漬物だ。

スティック状になった漬物を齧りつつ、にぎりめしを頬張ると、塩気が効いて実に美味い。


燻製玉子とスモークチーズの美味さは超絶的。酒飲みなら間違いなく一杯引っ掛けたくなる味だ。濃厚な旨みが小さな食材の中に凝縮されている。


そして最後はハッカ飴。

私は元来ハッカ飴が好きではなく、幼少期「サクマ式ドロップス」において「白」を「バナナ」だと思って頬張ると、「ハッカ」が来て、思わず吐き出したこと幾度と知れず。


ところがこのハッカ飴は、それほどハッカ味が強くなく、ちょっとスッとする甘い飴という味わい。ハワイアンブルーが涼やかで、葉っぱの形が詩情を誘う。


この弁当でMVPの働きをしているのは、燻製の2つではなく、ナスの漬物である。私はそう確信している。


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母恋(ぼこい)とは、アイヌ語の「ボク・オイ」というホッキ貝が沢山ある場所という意味らしい。

それに「母恋」という漢字を当てるところが心憎いではないか。


中に添えられたイラストがまた郷愁を誘う。


「ああいとしの母恋めしさん」

こんな言葉を見せられて、嫌だと思う人はそうは居まい。


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母恋駅は室蘭本線、東室蘭駅から分かれる支線の終点・室蘭駅の一つ手前にある。

地球岬という何ともスケールの大きな名の岬の断崖絶壁から、さいはての地の水平線を遠く望みつつ、素朴な味を楽しむというのが、この弁当の本当の楽しみ方なのかもしれない。


是非一度は現地に赴いて、風に吹かれて「母恋めし」を味わってみたいものだ。


そんな思いを強くした。


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次回へ続く。