先週のこと、渋谷東映に念願の『ロボット』を観に行った。
4月頭にこの劇場で、森田芳光監督の遺作・『僕達急行A列車で行こう』を観た時、予告編で本作のことを知った。
「これは絶対に観に行かねば…」そう確信した。
日本版予告編
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21世紀に移ろうかという頃、インド映画に入れ込んだことがある。
最初は『ムトゥ 踊るマハラジャ』であった。
娯楽要素を「これでもか」とてんこ盛りに詰め込んだ徹底ぶりに大爆笑し、素朴な舞台と裏腹の絢爛豪華な歌と踊りに酔い痴れた。
次は『ジーンズ 世界は2人のために』であった。
アクション要素こそないものの、甘やかなロマンと、ゴージャスさを増した世界規模のスケール感に魅了された。
物語展開上、唐突に始まると思しき歌と踊りの連続は、私の場合、宝塚歌劇で見慣れているから、全く違和感なく、寧ろそれがお楽しみという感覚に最初からどっぷり浸かることになった。
3時間近い上映時間の長さは、フランスの知る人ぞ知る巨匠・ジャック・リヴェット監督作品ではザラであり、十分に慣れている。
『パリでかくれんぼ』(Haut bas fragile;1995仏)というミュージカル・コメディを気に入って、何度も観に行った経験も、インド映画につながる大きな道筋となった。
だが、これら2作は強烈なインパクトと魅力を放ちすぎた。
最初からあまりに強力な作品にばかり巡り会ったがために、判断基準が高すぎるところからスタートしてしまった。
その後、他にも幾つかインド映画を劇場へ観に行ったが、民族間抗争という政治的要素が盛り込まれたり、宗教問題が絡んだりと、極楽浄土的マサラムーヴィーのロマンと娯楽のみを、高レベルで期待するようになっていた私にとっては、偉そうな言い方だが、欲求不満が募ることとなった。
結果、『ムトゥ』と『ジーンズ』にのみ興味が収斂することになってしまい、そのことが皮肉にも、却ってインド映画鑑賞の趣味の幅を広げる上で、枷となってしまったのではないか。そう反省している。
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そんな中、本作は予告編を観ただけでも、何やら途轍もないパワーと独自性を感じさせた。
果たしてその予感は的中した。いや、それ以上である。
『ジーンズ』の時も、ハリウッドとの融合による圧倒的なスケール感を感じたが、インド映画の更なる進化形を見せつけられた思いがする。
一言でいえば、インド版『ターミネーター』となるのだろうが、魅力は後半のアクション・シーンに留まらない。
娯楽要素てんこ盛りの強力すぎる内容で、「これでもか」というほど、徹底している。
ここまでやってくれると気持ちよすぎる。
主役はインド映画界が誇るスーパースター・ラジニカーント。
ヒロインはミス・ワールド、アイシュワリヤ・ライ。
私にとっては、『ムトゥ』と『ジーンズ』の主役同士の夢の競演である。
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まずは作品データから。
『ロボット』 (原題:Endhiran the Robot)(2010 インド)
日本公開編集版:139分 オリジナル版:178分
監督:シャンカール
製作:カラーニディ・マーラン
製作総指揮:ハンスラージ・サクセーナ
音楽:A.R.ラフマーン
出演:
ラジニカーント(バシーガラン博士/チッティ)
アイシュワリヤ・ライ(サナ)
ダニー・デンゾンパ(ボラ教授)
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筋書きはとてもわかりやすい。
天才ロボット工学博士が10年の歳月をかけて開発した、超高性能ロボット・チッティが、人間の感情をも持ち始め、やがて博士の恋人・サナに恋心を抱き始める。
サナに愛を拒まれ、博士から見放されたチッティは、悪徳工学博士・ボラ教授の手で、殺人マシーンに作り変えられる。
暴走を始めるチッティ。自らの複製を大量生産し、ロボット軍を組成し、ロボット帝国を築こうとする。女王として奉ろうとするのは、博士との結婚式場から拉致してきたサナ。
人類はロボット軍に勝てるのか…?博士はサナを無事救い出すことができるのか…?
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もう少し詳しく書くと…
天才ロボット工学博士・バシーが10年の歳月をかけて作り出した、超高性能ロボット・チッティ。見た目は博士とそっくりだが、あらゆる知能、技能、体力に優れ、吸収し、応用する、まさに超人。そのチッティが感情を持ち始め、博士の恋人サナに恋心を抱くようになる。
人間と機械は愛し合うことはできない―――サナに拒絶されたチッティは、有能な兵士ロボットとして軍に活用してもらおうとする博士の期待に反し、大事なプレゼンで、愛を語る詩人と化した。
チッティは博士の逆鱗に触れ、破壊され、廃棄処分されてしまう。
かねてから教え子・バシー博士の成功を妬んでいたボラ教授は、チッティを回収し、戦闘用プログラム、“レッド・チップ”を追加することで、殺人マシンとして再生する。
新型チッティは、バシー博士とサナの結婚式場に乗り込み、サナを拉致し、追ってきた警官隊を蹴散らかす。更には自身の複製を作り出し、勝手を許さない、とすがるボラ教授を殺害。
チッティ率いるロボット軍団は、強奪と殺戮を繰り返し、人類の脅威と化す。人工知能開発局(AIRD)本部を占拠し、ロボット帝国を築く。チッティはサナに自分の愛を受け入れよと迫る。
バシー博士はサナを救い出すべく、チッティそっくりに変装し、AIRD本部に潜入する。チッティに正体を見破られ、絶体絶命の危機に瀕する博士。
その時軍隊の突入が開始され、人間対ロボットの戦争が始まる。
ロボット軍団の進化はすさまじく、何百体ものロボットが合体してフォーメーションを次々と変え、激しい攻撃を繰り広げ、人間側はなすすべもない。
チッティ軍の暴走を食い止めるべく、バシー博士は、ロボットたちの合体を妨害するプログラムを送信するなど、懸命の抗争を続けるが…
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インド映画お約束の“歌と踊り”の場面は、本作でもふんだんに盛り込まれている。
実は、日本で公開されているのは、オリジナル版よりも40分ほども短いバージョンで、歌と踊りのシーンが随分カットされてしまっているのだ。
プログラムには魅惑の名場面の写真が紹介されている。
You-tubeで、完全版を観ることはできるが、是非テレビで観たいと思い、海外版のBlu-rayソフトを米国から取り寄せることにした。リージョンフリーだから問題なく再生できるようだ。
思っていたよりも随分早く届いた。
以下は、そのBlu-rayも参考にしながら、書き綴ったものである。
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“歌と踊り”について、まずは、カットされなかったナンバーから。
サナが通学する医学部の大学病院で、その卓越した能力により、妊婦の難産を無事済ませるチッティ。サナから称賛のキスを頬に受ける。
夜になり、充電に身を横たえても、サナの姿が頭にチラついて離れない。
研究所を脱け出し、サナの部屋へ。
もう一度キスをとせがむチッティに、深夜1時にレディーの寝所を訪なう非礼を咎め、サナは自分の頬から血を吸った蚊をつかまえてくるよう命ずる。
チッティにとっては朝飯前のこと。
蚊を捕まえ、サナに謝罪させると、サナが頬にキスしてくれた。
顔をほころばすチッティ。それは恋の芽生え。
音楽が始まる。(「Naina Miley」)
チッティの眼窩からカメラは奥へ奥へと進み、精密な金属部品が組み合わさる内部に至ると、コンデンサーや抵抗が新緑の芽生えと化し、恋の花が咲き誇る。
再びチッティの眼の外へカメラが飛び出すと、そこは一転メタリックな舞台。銀仮面のロボットたちの群舞を従え、チッティが静かに階段を降りてくる。
恋の始まりの歓喜の笑みを浮かべ、左胸から両手で形作るのはハート。
そのハートの先には、ヘッドホンにクールな装いの人造美女といった趣きのサナの笑み。
長くなるが、日本語字幕付の動画から訳詩を拾ってみた。
「♪キスが欲しい? でもお預けよ
あなたはスーパースター
スーパースター 早く奪いに来て
鉄のハートが花を咲かせ
初めての愛が 私を手招きする
0と1は花の香り 空に星 瞳に稲妻
必死にネット検索 君だけに捧ぐ愛 (※)
私はロボット 愛をささやく
私はスーパーガール 愛のラッパーガール (※※)
君は私の無限の数字
その瞳がパワー源 人工歯で君と笑う
鉄の心で抱きしめ 君が眠れば己を抱く
私は機会の友だちさ
このダンスを見て その手で感電させて
熱い夜を過ごせば バッテリー切れ
メモリーの中に 君を閉じ込め
電源も切らずに 夜通し想う
センサーをかき集め 君を読み込む
君のためなら 命令も無視
ロボットのキスを受け入れて
血の通わぬ愛は 拒絶するのか
生物学上はロボット
スパイの中では最高レベル
不死身の体を授けられた
消耗知らずの 永遠の愛
ねえロボ 誘惑しないで
オモチャじゃない?なら捕まえて
破壊が生む奇跡も欲しくない
私のバックアップ 点検が必要ね
ハートがあるなら 溶かしてあげる
よくあることよ 昔からのお約束
ヘビのように迫らないで
愛のロボットは お呼びじゃない
(※)(※※)くりかえし
(※※)くりかえし
この体には 触れさせないわ」
途中、場面が幾度か変わり、舞台は銀→金→銅とシフトする。
バックダンサーのロボットたちも姿を変える。
最後の舞台で頭がコンペイトウみたいなロボットたちが現れるが、何だか『愛の戦士レインボーマン』の「黄金の化身」か「水の化身」みたいだナ…
よく見ると、男性ロボと女性ロボがいるようで、左半分の集団にはしっかりと胸がある!
主役の恋の芽生えを描いた歌と踊りのシーンが、数あるナンバー中でも秀逸を極め、本作では、ここがそれに当てはまる。
(『ムトゥ』では、「KULUVAALILEE」、『ジーンズ』では「Enakkey Enakka」)
この場面でのチッティは、後半の強面のふてぶてしい顔とは違い、目はサングラスに覆われて表情こそ見えないが、口元には笑みがこぼれ、生きる喜びに満ち溢れているではないか!
ミュージカル・ナンバーとしては、この場面が白眉ではないかと思っている。
曲はアップテンポなテクノポップ調。
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サナの誕生日パーティー。バシー博士は会場で突然サナとの結婚を発表する。ワルツを踊ろうとバシー博士を誘うサナ。だが、博士はダンスは不得手。
そこに現れたのはチッティ。DJに音楽を変えさせ、サナと踊り始めるのは、まさしくロボット・ダンス。(「Chitti Dance Showcase」)
カクカクとした動きはチッティにはお手のもの。
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後半、AIRD本部を占拠したチッティとロボット軍。チッティの求愛を拒み続けるサナだったが、恋人・バシー博士が自分を救い出しに来てくれたことを知り、博士から、時間稼ぎのために、チッティのご機嫌をとるよう言われる。
態度を軟化させるサナにチッティは狂喜。ひざまずき、サナの手に恭しく口づけしようとする。
やった、ついにサナのハートを手に入れたぞ!
得意の絶頂に上り詰めるチッティ。
自らのレプリカ軍団が居並び、ロボット製の虎を両脇に従え、ロボット帝国の王として君臨する。チッティの自信に満ちた様子を描いたナンバー。(「Arima Arima」)
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続いてカットされたナンバーも紹介する。
まずは、最初のほうで、ロボットの開発に没頭するあまり、恋人サナからの連絡を無視し続けるバシー博士。そんな博士に愛想を尽かし、サナは別れ話を切り出す。
思い出の品を返し合うと、博士はキスの返却も要求。しぶしぶ応じるサナ。キスする内にサナの機嫌が直り、恋人たちはよりを戻す。
そこでおもむろに始まる歌と踊り。(「Pagal Anukan」)
ブラジル北東部のレンソイス・マラニャンセス国立公園を舞台にしたこの場面。真っ白な砂漠の中に、雨季の間だけ現れるというエメラルド・グリーン色の湖。
ギターを持ったバシー博士と、色鮮やかなドレス姿のサナが舞う。
曲調は穏やか目。
曲は0:53頃から開始。
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チッティのスーパーロボットぶりを描いたナンバー。(「Boom Boom Robo Da」)
コミカルな調子で、チッティの、何をやらせても超人並みの優れた能力の発揮ぶりが描かれる。
博士の世話に、地雷の除去。ダンスに空手に一人で料理。
スーパーメイクで老婦人たちを見違えるばかりの姿に変身させ、揚句、自らも婦人の格好でファッションショーへ。(ラジニカーントの女装姿が拝めます!)
ストリート・ダンス調の軽快なナンバー。
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博士の期待に反して愛を語る詩人と化し、軍に笑いものにされたチッチィの失態に、怒った博士はチッティを破壊。廃棄処分してしまう。
落ち込む博士を慰めるべくサナは博士をドライブに誘うも、博士は終始無言。博士の気を引くべく、海辺の漁師に声を掛け、一日限りのボーイフレンドを装うと、逆に漁師に迫られて、サナ絶体絶命。
博士が駆け付け窮地を脱し、二人で逃走する内、笑顔が戻る。
そこでいきなりマチュピチュに舞台は飛んで、絢爛豪華な衣装の群舞。
(「Kilimanjaro」)
ロケーションは壮大で、色彩的にも華々しいが、曲調は情熱的ながらも、間奏は意外にサッパリとした雰囲気。
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以下、次回に続く。


