『ロボット』に触発され、昔のインド映画のDVDを引っ張り出し、再見してみた。



第一弾は本作。これなくしては、今日、インド映画は語れない。


以下の文章と、おそらく次回に掲載する文章は、それぞれを映画館で観た当時、別の場所に書いた文章に加筆修正を施したものである。

当時の興奮冷めやらぬ幸福感を感じて頂ければ幸いであります。


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作品データ


『ムトゥ 踊るマハラジャ』 (原題:Muthu)

(1995 インド)


監督・脚本: K.S.ラヴィクマール

製作総指揮:B・カンダスワーミ

音楽: A.R.ラフマーン


出演:

ラジニカーント(ムトゥ)

ミーナ(ランガナーヤキ)

サラットバーブ(ラージャー・マライヤシンマン)

ラーダー・ラヴィ(アンバラッタール)



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主人公は、インド映画界きってのスーパースター・ラジニカーントが演じるムトゥという、大富豪の使用人である。


こんなこというとすごく失礼かもしれないが、私の第一印象。
SEGAタ三四郎の藤岡弘、(~懐かしすぎる!皆さま、ご記憶ですか?~)…が一番近いと思った…少し吉幾三入ってるけど。


この主人公、めちゃくちゃ強い。手ぬぐいを肩に掛けて見栄を切るのが大袈裟で面白い。

ヒロインは目鼻立ちのくっきりとしたすごい美形。
ミーナというこれまたトップ・スターが演じる。撮影当時19歳だったというから驚きだ。



面白い!文句なしでめちゃくちゃ笑える。



これは絶賛!激賞もんである。

ロング・ランを続けていたのも十分うなづける。

不覚にも、私が『ムトゥ』を初めて見に行ったのは、1999年になってからのことで、公開劇場がシネマライズ渋谷から銀座シネパトスに移ってからなのだが、それでも当時、開場30分前に行ったのに平日でも行列が出来ていた。



とにかくこれは凄い。
映画見てこれだけ笑えたのは、私にとっては『Shall we ダンス?』以来だった。
(あと、強いて挙げるなら、『シャ乱Qの 演歌の花道位か…)


久しぶりに笑いすぎて涙がでた。


ここまでやる?ってところまで、とことんやってくれる。


とりわけすごいのは、中盤で馬車の逃走シーン。

あの『ベン・ハー』の戦車競争のシーンよろしくダイナミックなシーンの連続で、

最後には……アッと驚く場内大爆笑の大仕掛け。

…まぁこれは実際に見て頂いてのお楽しみにしましょう。



随所にちりばめられた歌と踊りの数々…楽器は勿論ヴィーナという
あの印度音楽特有の「ぶぃよよ~~ん」という感じのものが、
「これでもか」という位使われ、女歌手の妙に甲高い歌唱、
エキストラ使いまくりで、兄ちゃんも姉ちゃんもおっちゃんもおばちゃんも
リズミカルに野猿(ちょっと懐かしすぎるか…?!)よろしく踊りまくり、歌いまくる…。


ミッチーこと及川光博が、以前『パパパパパフィー』という深夜TVで、
自分の理想の結婚生活を「歌と踊りに溢れた生活」といっていたが、
きっとこういうのをそういうんだろう。



ある時は娘のしゃっくりの「ヒックヒック」がそのままダンスナンバーのリズムになり、間奏に象の「ぱお~ん」が、あひるの「がぁがぁ」が、孔雀の「ぐるるる…」が、本当にその動物の顔の映像のフラッシュと共に入る。


ビートの効いたダンスナンバーと、印度古典舞踊の伝統様式美と、動物たちののどかな顔が同居する不思議な融合を見せられた。



またある時は、二人の間に突然芽生えた激しい恋の萌芽が、川面を水浸しになりながら転げまわる様が、水瓶がひっくり返る映像と共に、スローモーションで描かれた。

この動画の4:03辺りから。

ダンスナンバー(「KULUVAALILEE」)は6:55辺りから。


幸福感に満たされた恋愛賛歌に、ヴィーナを奏でるムトゥの姿。

そのムトゥが奏でるヴィーナが、瞬間的に生身のミーナの姿に早変わり。

くすぐったそうな、嬉しそうな、ミーナの笑い声は、この上ないエロティックな想像力をかきたてた。

流石、『カーマ・スートラ』を生み出した国だと感心した。


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見終わった後、こらえきれなくなってサントラ盤を映画館で買ってきてしまったのはいうまでもない。


後半、この2人が組んで踊る場面で衣装が途中で次々に切り替わるシーンが非常にゴージャス。

話そのものは最後はちょっと強引な持ってきかたという感じもしないではないが、アクションあり、笑いあり、まさに大団円。娯楽要素てんこ盛りの様相。



何かとてつもなく気持ちが幸せになる。


どんな不満も不安も消し飛んでしまうほどの、すごいパワーを持っている。
昔歴史で習った「ええじゃないか踊り」があんな感じだったのかなぁと勝手に想像してしまった。


こういうのを“娯楽”というんだなぁとつくづく思わされる。


それまでインド映画というと、サタジット・レイの暗い映像を連想していた私だったが、この映画はインド映画に対するイメージを根本からひっくり返してしまった。

私の場合、ちょっとブームに乗り遅れてしまった格好で、実際に観たのは劇場公開翌年の1999年だったが、ギリギリでも劇場で他の観客と共に、
「ぎゃはははは…」と大笑いしながら見ることができたことを心底幸運だったと思う。


2時間40分の長い上映時間がとても短く感じた。


以上、敬称略。