昨日5月5日はこどもの日。

今一つすっきりとしなかった天気が、一気に快晴。

絶好のお出かけ日和に、映画館でも、家で映画でもあるまいと、昨秋横浜行の帰りに実現しそびれて以来、宿題となっていた京急(京浜急行)に乗りに出ることとした。


随分久しぶりの鉄道話である。


*****


京急は、東京圏私鉄の中にあって、関西私鉄に似た雰囲気を色濃く感じる。

線路の幅がどうの、車体長がどうの、というだけではない。

JR(国鉄)に真っ向勝負を挑み高速運転をしていること、各停よりも優等種別を主体としていること、様々に工夫されたフットワークの軽い運転をしていること、個性的な車両が多いこと、そんなところに京急の魅力を感じる。


もう随分昔のことになるが、大学のサークルで泊まり込みの合宿に行き、三浦海岸沿いの民宿に泊まったことがあった。

この時、横浜から、今では「旧・1000形」といわれる車両の「特急」に皆と乗ったのが、人生初の京急であった。

とにかくよく揺れた。酔いそうになった。


専門課程に進み、キャンバスが品川の近くに変わった。サブ・ゼミという、助手さん(当時)が主催する午後の輪読会をサボッて、品川から京急の「快特」に乗ってみたことがある。「2000形」という当時の花型車両であった。

もう秋だったが、三浦海岸で降りて、海に行ってみた。潮の匂いがした。


三浦海岸…(京急久里浜線~本線)…横浜乗り換え…(相鉄本線)…海老名

…(小田急小田原線)…相模大野乗り換え…(小田急多摩線)…多摩センター

…(京王相模原線)…調布乗り換え…(京王線)…府中…(この後秘密)


そんなルートで辿ってみたら夜の9時を過ぎていた。


その話をゼミの仲間に話したら、

「授業をサボってまで鉄道に乗りに行くマニア」

と語り草にされてしまった。

或る意味当たっているから、仕方ないか。

*****


五反田で都営浅草線に乗り、泉岳寺駅を目指す。

品川駅からにしないのは、「2100形」という現在の花型車両の「快特(A快特)」が、10年ほど前からお隣、泉岳寺始発となっているからである。

「2100形」には何度も乗っているから、今更そんなに珍しくは感じないが、京急に乗るのに、やはりこの車両は外せない。


既に停車していたが、運転席後ろの「展望席」は埋まっているので、次まで20分待つことにする。

前には若いカップルが並んでいる。

羽田空港へでも行くのだろうと思っていたら、私と目的が全く同じだった。

流石にもう20分は待つ気がしない。運転手の後ろで我慢することとした。


品川から急に混む。


北品川を通過し、高架線に上がると、列車はぐんぐん加速する。

途中で下り線は、既に高架化なった上り線の下に潜り込む。先頭から見ているとスリリングだ。


蒲田、川崎、横浜、と混雑を増す。


『私立探偵濱マイク』シリーズ(1993~96;林海象監督)の舞台、「横浜日劇」のあった黄金町駅を通過。

ikekatのブログ
(黄金町は少し先)


上大岡、金沢文庫、金沢八景、横須賀中央…京急久里浜で漸く空いた。


ここからは単線。YRP野比駅、津久井浜駅…確かこの辺りが『歩いても歩いても』(2008;是枝裕和監督)の舞台だったのでは…と思い、後で調べてみると、少し手前の、久里浜霊園の傍だったらしい。

山間に真っ赤な五重塔が見えていた。


ほどなく終点・三崎口駅に着く。


以前乗った時、猛スピードで走る電車の直前を猫が渡って行ったことがあった。


「猫、渡り切れ!」


手に汗握る思いであった。

案外すんなり渡り切ってしまった。野良猫の敏捷なのに驚かされる。


今回も、確か金沢文庫駅で、電車が発車しようとしている先を、中どもの猫が、何本もある線路を堂々と横切って行った。猫って案外大胆だ。


*****


ふと、久しぶりに海に行ってみたくなり、一駅戻って三浦海岸駅で下車。

先にまぐろ丼でも食べようか、と思ったが、駅前の店は混んでいそうなので、先に海を目指すことにする。


5月の海はまだ青みが強い。


ikekatのブログ
それなのに、少なからぬ人たちが泳いでいるのには驚いた。

海上にはヨットが帆を翻している。


ikekatのブログ

サングラスの若い女性にシャッターを押してほしいと頼まれる。

砂浜に座り、編み物をしている姿をカメラに収めてほしいと、iPhoneを託された。

blogの撮影用だったのだろうか?

『アメリ』というフランス映画で、主人公・アメリが、友人のキャビンアテンダントに、実家の庭から持ってきた陶器の小人の人形を預け、世界各地の名所旧蹟を背景に写真を撮ってきてもらい、絵葉書にして送る話を思い出した。


もう一度海辺に近寄る。押し寄せる波が思ったより強く、靴の中まで濡れてしまった。



海岸線沿いの地魚料理屋にふらりと立ち寄る。


ikekatのブログ

「三浦丼」というスペシャル丼を頼もうとしたら、既に売り切れだという。

「刺身定食」を頼む。


随分待たされたが、クロムツとか何とか覚えきれない色々な刺身に、ちょこっとだが、生しらすも。

やはり本場の魚は美味い。


ikekatのブログ

駅前に戻る。「三浦海岸わいわい市」というのをやっている。金目鯛の干物に引き寄せられる。

売り子のおばちゃんに、夜まで持ち歩いて大丈夫かと尋ねると、凍ったものを保冷剤をつけてくれるという。この大きさで三枚1,000円は安い。思わぬ土産が出来た。


*****


再び京急に乗る。またも「2100形」。


ikekatのブログ
この電車は、外国製の部材が積極的に用いられている。座席はノルウェーとスウェーデンのもの。


ikekatのブログ
制御機器はドイツ・シーメンス製で、発車起動時に音階を奏で、「ドレミファインバータ」などと言われていたが、機器更新で、既にこの音は聞けなくなってしまった。


このままずっと品川まで乗っていたいが、堀ノ内駅で降り、浦賀方面へ向かう。


映画・『球形の荒野』(1975)の最後、「七つの子」の場面の舞台が、観音崎だったはずで、是非行ってみたい場所だが、既に16時近い。バス乗り場は確かめたので、次の機会とする。


ikekatのブログ

堀ノ内を通り越し、金沢八景で乗り換え、新逗子へ向かう。


駅を出ると、葉山行のバス停が。「そうか、葉山が近いのか…」


ikekatのブログ

ここからエアポート急行」に乗ることにする。


「新1000形」といわれる中の、ステンレス車両が来たが、どうも安っぽい感じがして好きになれずにいる。

浦賀からの「普通」で乗ってみると、JR東日本の「E231系」(山手線、中央・総武緩行線、常磐線快速等で使用)に比べて、椅子はふかふかで座り心地が遥かに良く、思ったよりは良い電車だとは思ったものの、趣味的には面白味に欠ける気がしてならない。


「2000形」という、先代の看板車両の「快特」に昔乗った、と冒頭で書いたが、「2100形」という後継車両が出来て、3ドア・ロングシートという通勤仕様に改造され、主に「エアポート急行」で使われている。

通勤車両なのに、横引きカーテン、車端部にはクロスシートが残されている。


ikekatのブログ

ikekatのブログ
(後で羽田空港で写せた写真)


これに乗りたいと思っていたが、来たのは「600形(3代目)」という車両であった。


ikekatのブログ

こちらもクロスシート車だし、更に20分待つと日が暮れそうなので、先頭の「展望席」に陣取って、羽田空港を目指す。


*****


途中眠くなり、気付けば横浜。程なく京急蒲田に着く。

下りと異なり、上りは高架化が完成している。

ここで進行方向が変わり、それまでとは逆向きで、空港線に進む。


ikekatのブログ

電車がひっきりなしに発着するこの駅で、乗務員が電車8両分移動するまで停まっている余裕があるのだろうか、そう思っていたら、運転士の居た場所に車掌、車掌の居た場所には運転手が待っていて、ここで丸ごと入れ替わる。滞りなく電車は発車した。


こういう小回りの利くところが好きだ。阪神電車の甲子園での「二丁ハンドル」みたいだな、と感心する。


下り線は工事中なので、次の糀谷駅を過ぎるまで、電車は渡り線をうねうねと渡る。


ikekatのブログ


ところで、この京急蒲田駅の最終的な完成予想図を見ていて、どうしても解せないことがある。


品川方面から空港線に直通するルートと、空港から品川方面に直通するルートが、互いに右側通行となり、平面交差してしまうのだ。(下図、緑色濃淡の線)


ikekatのブログ

横浜方面から蒲田で向きを変え空港線に至るルートと、その逆方向が、寧ろ左側通行を維持し、平面交差が避けられている。(下図、青色濃淡の線)


ikekatのブログ

「エアポート快特」という品川~羽田空港直通列車が、京急蒲田通過となり、大田区と物議をかもしたのは記憶に新しい。

そこまでして品川方面との直通に力を入れておきながら、何故平面交差が発生し、渡り線を車体を揺らして走らせるようなルートとしたのか?


何か特別な意図でもあるのだろうか?

素人考えでは、品川方面のほうをスムースにしたほうが良いのでは?そう思えてならないのである。



ikekatのブログ

*****


列車は羽田空港・国内線ターミナル駅に着いた。

すると、ここでも乗務員総取り替えで、ものの1~2分も経たぬ内に、「エアポート急行」は折り返し、新逗子方面に向かってしまった。この早業に再び驚かされる。


今度は京急川崎から、ここで乗り換え、大師線を目指す。


既に日は落ちて、辺りは薄暗くなっている。川崎大師に寄る時間はない。終点・小松新田駅まで乗り通す。

この辺に来ると、工業地帯で、やたらと街の色彩に灰色が目立つように感じる。


駅外に出ると、すぐ先で汽笛が聞こえる。


陸橋に上がると、貨物線の束。東海道貨物線と神奈川臨港鉄道である。先ほどの汽笛は、神奈川臨港線のディーゼル機関車のものだった。


ikekatのブログ

ikekatのブログ

*****


これで京急全線乗り通したことになる。


車窓はすっかり闇に包まれた。


京急川崎から品川方面を目指すが、心残りは「2000形」。

これだけ京急に乗って何度もすれ違っているのに、当たらないとは。


やってきた泉岳寺行の「快特」が、ステンレスの「新1000形」だったので、これを敢えてやり過ごし、次の「エアポート急行」に賭けることにする。


闇を裂いて近づいてきた電車のヘッドライトの場所で、今度こそお目当ての車両であることを確信する。

果たして、待ち望んだ「2000形」であった。


ikekatのブログ

いい加減時間も遅くなってきたので、最初は次の京急蒲田まで、と思ったが、結局、再び羽田空港まで乗り通す。


今度は、「エアポート快特」に乗る。

京成の「3400系」という、初代スカイライナー用車両(AE型)の機器更新車であった。

次の、羽田空港国内線ターミナル駅を出ると、品川まで停まらない。


************************


泉岳寺を通り越し、京急線からは飛び出した。


まだまだ続きがある。今度は北千住を目指すことにする。


浅草で東武伊勢崎線に乗り換えるか、隣の押上で乗り換えるか迷うが、結局、押上まで乗って、敢えて地上に出、とうきょうスカイツリー駅から北千住を目指すことにした。


開業前の東京スカイツリーを見上げるのも悪くない。そう思ったのである。


世闇に聳える東京スカイツリーはやはり巨大であった。

神戸・ポートタワー、横浜・マリンタワーに続き、何故か塔の足元で、仰角写真を撮っている。

てっぺんをフレームに収めるのに上を向きすぎて、首が痛くなった。


ikekatのブログ

ほどなく、とうきょうスカイツリー駅。

「業平橋」という由緒ある駅名が消えてしまい、遊園地のアトラクションみたいな名になってしまったのは残念だが、事業主体でもあるし、致し方ないところであろう。


ikekatのブログ

東武電車に乗り、ほどなく北千住駅に着く。


*****


既に21時近い。流石に空腹を覚え、改札を出た。


北千住は、ここを通り過ぎたり、乗換たりしたことは何度もあるが、考えてみればここで降りるのは初めてである。


数年前になるが、宝塚の帰りに、浅草の「マルベル堂」というプロマイド屋に何度か通ったことがある。

日比谷から浅草へ向かうのに、敢えて千代田線で北千住へと向かい、東武伊勢崎線で浅草を目指した。

徐々に背が高くなってゆくスカイツリーの足元に吸い込まれる感覚があった。

一度だけ「6050系」という快速用の車両に当たったことがある。


大半の乗客が降りてしまった後の車内はガラガラで、僅か数分の行程にさえ旅情を味わった。


*****


東口改札を出ると、目の前にはパチンコ屋。

ここの2階が、「喫茶室サンローゼ」である。


ikekatのブログ

レトロな雰囲気を醸す、広い空間の豪華内装の喫茶店だと聞き知っていた。


早速階段を上がる。


聞きしに勝るゆったりとした店内である。

写真では一部にすぎないが、カウンターの向かって右奥に、更に喫煙席群が広がり、途轍もない広さだ。


ikekatのブログ

窓から「スペーシア」が見える、店内が見渡せる、一番奥に陣取った。


「手作りハンバーグ」、「ライス」、「アイスコーヒー」のセットを頼む。

残念ながら、この店にはミルクセーキはなかった。


ikekatのブログ

すぐ出てきたところを見ると、作り置きか?

だが、なかなか美味い。

夢中で、フォークとナイフを動かしている。


今どき「おしぼり」というのも良い。


食後のデザートに、「プリンパフェ」を頼む。

甘党の本領発揮だ。

幼少期から食べつけているのは寧ろ「チョコレートパフェ」のほうだが、御徒町の「純喫茶丘」で、最近、何度聞いても、プリンは作っていないといわれ、喫茶店のプリンに少々飢えている。


ikekatのブログ

特別、「すごい!」と感激するほどではないプリンで、底をコーンフレークで嵩上げしてあるのも理想に遠いが、それでもこうした個性的なパフェがメニューにあるのは嬉しい。


店を出て気付いたのだが、金・土以外は21:30閉店で、普段ならとうに追い出されている時間なのであった。


*****


更なる目的地がある。


今度は駅を乗り越えて、西口へ。


アーケード街を少し歩くと、程なく日光街道と交わる。右に曲がり、北へ向かう。

夜で視界も悪く、適当に当たりをつけて歩くと、目当ての場所はすぐ見つかった。


大黒湯


ikekatのブログ
真っ暗なので、煙突はわからず、破風造りの建物もあまりはっきりとはしないが、紫色の暖簾が風情を醸している。


ikekatのブログ
靴入れの脇に、長細いロッカーが。

こちらは傘入れ。

久住昌之氏の本を読まなければ、そうとはわからなかったであろう。


ikekatのブログ

先ほどのアーケード街でまだ開いていた薬局でシャンプーを買い、タオルは家から持ってきた。


結構混んでいる。


頭と身体を洗い、湯船に浸かると生き返る心地がする。


ジェット浴二種類に、泡風呂と試し、普通の浴槽へ。

菖蒲湯になっていた。


露天風呂もある。

月こそ見えなかったが風流。

熱めの湯なので、露天の空気が気持ちいい。


脱衣所を見渡すと、牛乳の自動販売機が。

番台で冷蔵庫というわけではないのが惜しいが、迷わず「フルーツ牛乳」を飲む。


ikekatのブログ

ikekatのブログ

味が濃厚な明治乳業というところがまた良い。


すっかり人心地がついた。


*****


熱い湯にあたり、まだ身体が火照っている。


Tシャツ1枚で十分。上っ張りのシャツを引っ掛け、ゆるゆると街道を歩く。


お行儀悪いが、途中で手に入れたアイスキャンディーを齧りながら駅へと向かう。


北千住という土地は、都心部を挟んで、我が家とは正反対側の場所だ。これから帰るのに1時間半はかかるだろう。


あぁ、家に帰りたくない。


なるべく混まず、乗り換え回数も少なく、歩かされないルートを考える。


結局、東武線から半蔵門線直通に乗って大手町で降り、丸の内線に乗り換え、新宿を目指すことにした。


酒は一滴も入っていないが、久々の午前様となった。


持ち歩いた金目鯛はすっかり溶けて、柔らかくなっている。明日にでも焼いてみよう。