新宿・京王百貨店で、今、駅弁大会をやっている。
正式名称は、
「第47回 元祖有名駅弁と全国うまいもの大会」
2012年1月12日(木)~1月24日(火)まで
10:00~20:00(1月18日と24日は17:00まで)
通称、「駅弁大会」。
2週間弱の開催期間の中、1週目と2週目で一部の品が入れ替わる。今年でいうと、18日が境目となる。
毎回、対決企画が打ち出され、今年は「こだわりの味付け対決」と題し、醤油味と味噌味の牛肉弁当対決(「近江牛としょいめし」(米原駅)と、「島根牛みそ玉丼」(松江駅))の様相。
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人混みも、行列も嫌いなくせに、ここ5年ほど、毎年「駅弁大会」を訪れている。
この大会の長い歴史を思えば、5年など短いほうで、私など駆け出しの若輩者に過ぎない。
話には聞く、台湾空輸の駅弁も、初参戦した時は既になかった。
それでも5年通うと、何となく勝手がわかってくる。
最初の年こそ、「あれもこれも」と際限なき欲望のままに動き、「本当に食べきれるのか?」と自分でノリツッコミをしたくなるほど、気になった弁当を手当たり次第に買い込んだ。
お蔭で、“正月太り”ならぬ“駅弁太り”を繰り返してきたが、徐々に気持に余裕が出来てきて、数知れぬ弁当を目にしても、何となく味の想像がつくものが増えてきた。
洋菓子、アイス…食べ物でいうと、これらのジャンルは一足先にそういう状態に至り、そんなに貪欲に
「何でも食べたい。山ほど食べたい。」
そこまで思わなくなりつつあるが、翻っていえば、それは、そういうことをしすぎた結果、欲望が飽和状態に近づいたせいだと言えるのかもしれない。
まさに芥川龍之介の『芋粥』の心境である。
ここにきて、とうとう駅弁に対しても、似た気分になりつつある。
勝手なもので、最初の頃の、あのギラギラとした貪欲な気持ちが鎮静化しつつあることに一抹の寂しさを感じつつも、
「それでも、これだけは食べたい。」
欲の飽和状態をいともたやすく突破して、行列だろうと、人混みだろうと、委細構わず調達しにかかりたいものが、まだここにはある。
全くの個人の主観に基づいた、私のお気に入りを紹介する。
が、この大会、規模が大きいので、幾つかのコーナーに分かれており、話の都合上、その説明もなしに、いきなり「輸送駅弁が…」などと言っても、何が何だかわからない。
「ご興味のある方は現地に行って気に入りそうな弁当を適当に選んでみて下さい」
では、あまりにも乱暴すぎて、当blogで敢えて記事にする意味がない。
まずは基本的なところから。
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会場は、3つのコーナーに大別される。
「実演販売」
「輸送駅弁」
「全国うまいもの」
「実演販売」は、そこで駅弁が作られ、売られているものを指す。
人気の駅弁は、長蛇の列ができる。材料を火にかけて調理する本格派から、予め用意された材料を弁当箱に詰めてゆくものまで、店によって様々だが、ご飯ものが大半の駅弁において、ご飯は必ずしも、その駅弁の地元のコメが使われるわけではないようだ。
あつあつの、或いは暖かい、出来立てが食せるとあって、このコーナーが大会のメインといえる。
「輸送駅弁」とは、文字通り、現地から輸送されてくる駅弁が売られるコーナーのこと。
「実演販売」は、いうなれば「出店(でみせ)」だから、人手もコストもかかる。そこまで割けない場合、弁当だけ会場に運んで、売られることになる。
近年、JRの大きな駅や、冬場になるとスーパーでも、駅弁が売られることが多い。いわば「輸送駅弁」とは、これの規模をうんと大きくしたものである。
「全国うまいもの」は、「実演販売」と形式は全く同じ。ただ、扱っているものが駅弁ではないということである。駅弁ではない弁当から、和洋菓子の数々、漬物、干物、お好み焼き、梅干し、甘納豆、鯉の甘露煮…ここだけ見れば、“全国物産展”の趣である。
会場の一角に「赤福茶屋」という、伊勢の銘菓・「赤福」(~元々関西人の私は、この「赤福」は子供の頃から食べつけており、大好物だ~)と、ほうじ茶が味わえるお店があるが、これも「全国うまいもの」の一つである。
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私が現在、この「駅弁大会」で必ずといってよいほど買うのは、次のものである。これでも随分絞り込んだ。(価格は、当記事記載時点)
弁当
「ぶりかまめし」(氷見駅/富山駅・駅弁)(980円)
「島根牛みそ玉丼」(松江駅駅弁)(950円)
「いわて短角牛弁当」(肉のふがね)(1,280円)
惣菜
「鯉のうま煮」(伊久間養鯉場)(1切580円)
菓子類その他
「よもぎういろ」、「小倉ういろ」(伊勢・虎屋ういろ)(各1本483円)
「梅ケ枝餅」(大宰府かさの家)(5個入630円)
「水羊かん」(福井・えがわ)(1箱630円)
「ぶどうジュース」(岩手・菅原ぶどう園)(1杯200円)
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順にコメントしていく。
・「ぶりかまめし」(氷見駅/富山駅・駅弁)(980円)
初めて訪れた時、チラシを見て、真っ先に「食べたい」と思った弁当。
柔らかく煮込まれた“ぶりかま”は骨ごと箸で切れるほど。わかめに、刻み生姜、白エビ、山葵味の少し効いた酢飯…と全ての具材がバランスよく配され、何といってもメインの“ぶりかま”にボリューム感があるのが良い。
何とかこの弁当のような、柔らかい“ぶりかま”を作れぬものかと、魚屋で買ったぶりかまを圧力鍋で煮込んでみたが、醤油が煮詰まって大失敗。
圧力鍋の焦げ付きをどうやって取り除いたものか…と思案にくれ、金属タワシでゴシゴシこする、マイナス・ドライバーで削る、重曹を入れて煮る…等色々やったが、全て効果なし。
最後の手段とばかりに、晴れた日中ベランダに放置してみたら、見事的中。
あれほど頑固にこびりついていた焦げが、皮がめくれる如く、みるみるうちにペリペリと剥げた。
恐るべし太陽のパワー。
話を逸らせてしまったが、過去5年の中で、最も数多く食している弁当である。
「2ちゃんねる」で、ここ数年評判を高め、今年は遂に、会期中の全期間実演販売が続くに至る。
隠れ情報としては、駅弁大会期間終了後も、京王百貨店某所で「輸送」という形で3月頃まで売られ、最近では、あろうことか、東京駅でも売られるようになった。
従って、無理に駅弁大会で買う必要もないのだが、仄かに暖かい実演販売の出来立てを会場ですぐに食べるのが、やはり一番美味しい。これからも敢えてこの会場で買い続けるであろう駅弁。
一度は、現地に赴いて食べてみたいとは思うが、名うての豪雪地帯に、寒いのも雪も苦手な私が、敢えて強行できるのか疑問である。
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・「島根牛みそ玉丼」(松江駅駅弁)(950円)
2年前の駅弁大会初登場以来、人気を集め、遂に対決企画を担うまでに至った。
牛肉系の駅弁は随分種類があり、その多くが、すきやき風か、やまと煮風の甘辛醤油味という中にあって、味噌味というのが個性的だ。
上に載った半熟玉子をトロリと崩し、絡めつつ食べると、至福の時が味わえる。
近年では行列が絶えない。
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・「いわて短角牛弁当」(肉のふがね)(1,280円)
厳密には駅弁ではなく、「全国うまいもの」コーナーで売られる弁当である。
会期中、前半にしか販売されず、今年も18日で終わってしまった。
多くの牛肉弁当が、脂身の旨味を強調しているのに対し、この弁当は、殆ど脂身のない赤身を繊維がほぐれるほど醤油で柔らかく煮込み、きんぴら牛蒡と二段重ねにすることで、素朴な味わいと独特の食感が実現し、他にない個性の光を放っている。
決してボリューム感があるとはいえず、割高な印象があるためか、行列になっているのを殆ど見たことはないが、ここ数年、毎年リピートしている。
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・「鯉のうま煮」(伊久間養鯉場)(1切580円)
毎回後半にのみ登場する。今年はまだ味わっていないので、写真はなし。(追加で掲載するかもしれません。)
(2月7日写真追加。こうして改めて見ると、うろこが少々グロい?)
初めて駅弁大会を訪れた時から、目にしてはいたが、あまりに露骨な“鯉の輪切り”の形状と、意外に割高な感じがして、暫く敬遠していた。
或る年、思い切って試してみると、殊のほか美味い。
俗に、鯉は泥臭い、といわれ、私もそう思い込んでいたのだが、この「鯉のうま煮」は、甘露の味が途轍もなく濃厚で、そんな懸念は吹き飛んでしまった。
寧ろ心配したのは、小骨が多く、しかもその骨が頗る固く、うっかり力任せに噛みしめると、歯の詰め物が取れてしまうのではないか、ということなのであった。
京都・平安神宮の神苑に、泰平閣(通称、橋殿)という、池に掛かった橋に覆いかぶさった風雅な建物がある。
ここの欄干に靴を脱いで上がり、お麩を買って池に撒いてやると、大きな鯉が沢山寄ってくる。
この黒い鯉と同族が、このような姿に変わり果て、食用に供されているかと思うと、何だか微妙な気分だが、仕方ないではないか。
「それはそれ、これはこれ」
ここは割り切って、旨いものは旨い。そう思うことにする。
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・「よもぎういろ」、「小倉ういろ」(伊勢・虎屋ういろ)(各1本483円)
東京では、池袋・東武百貨店の地下に常設の売店があり、駅弁大会に行くようになる遥か以前から、ここのういろうはよく食べた。
こんなことを書くと叱られそうだが、ういろう屋としてはより有名な名古屋の某店のものよりも、寧ろここのういろうの方が、個人的には好みである。
お店のホームページ をみると、季節限定のういろが色々あって、一度春限定の「メロンういろ」というものを食してみたいものだと思う。
色々と目移りするが、毎回決まって買うのは、「よもぎういろ」、「小倉ういろ」の2種類である。
元々よもぎ好きなので、最初から「よもぎ」には注目したが、あれこれ試した末、寧ろ絶賛したいのは「小倉」のほうである。
一見すると、蒸し羊羹かきんつばを思わせ、見た目は随分地味な「小倉」だが、餡の味が口中に拡がり、至福の時を味わえる。
余程あんこが嫌いという方はともかく、餡好きな方は、是非一度、騙されたと思って、この「小倉ういろ」を召し上がってみて下さい。
見た目の地味さゆえに見過ごしてしまうにはあまりに惜しい逸品である。
敢えてもう1種類買うとすれば、私なら「抹茶ういろ」を選ぶ。これまた地味な外観で、お得感は皆無に見えるが、シンプルな中に、実に味わい深いものがある。「抹茶」もお薦めの逸品。
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・「梅ケ枝餅」(大宰府かさの家)(5個入630円)
初めて駅弁大会を訪れた時は、全くのノーマークだった品。
駅弁大会へ行った私の話を聞いて、父が単身駅弁大会へ行き、土産に買ってきたのが本品。
何の変哲もない、餡入り焼き餅だと高をくくっていたのが、食してみると実に美味い。
薄皮の餅に、平べったい形をしているが、この餅と中身のあんこの味のバランスが良く、隠し味の塩加減も絶妙だ。
以来、毎年リピートし続けている。5個入を一度きりでは飽き足らず、2度、3度と買うこともある。
会場で出来立てをはふはふ言いながら食べるのが一番美味しいが、家に持ち帰った頃には、すっかり固くなっている。
が、それこそが、この餅が混じりっ気なしの本物だという証しであろう。
水をパラパラとふりかけ、オーブントースターで焼くか、電子レンジなら30秒程度。
栞には30~40秒と書いてあるが、餡が暖まり過ぎると、舌を大やけどする。
20秒でも良い位だと思う。
これも、見た目の地味さに油断してはならぬ逸品。
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・「水羊かん」(福井・えがわ)(1箱630円)
子供の頃は、水羊羹の魅力がわからなかったものだが、或る時期を境にすっかり水羊羹好きになった。
とりわけ「たねや」という和菓子屋のものが好物で、筒状のプラスティック容器から水羊羹をツルンとガラスの器に移す時が至福の時である。
そのようなわけで、本品は、初参戦時から毎年買い続けている。
福井では、冬に水羊羹を食べる風習があるそうで、実に羨ましい限りだ。水羊羹=真夏のものという固定観念に一石を投じる、実に魅力的な感覚ではないか。
箱の中には、平たい密閉容器が入っており、12個分の仕切りがある。
付属の木のヘラで取り分けて食べるのが、何だか伊勢の「赤福」を思い出させる。
この水羊かんは、黒糖が入っており、一通りでない深い味わいがある。
ついついヘラで、掻き出しては食べ、また掻き出しては食べ…と続けたくなるが、「もうちょっと食べたいな~」と思う辺りで留めておくのが丁度良いのである。
向田邦子さんのエッセーに「水羊羹」というものがある。
少し引用してみる。
「水羊羹は、ふたつ食べるものではありません。口あたりがいいものですから、つい手がのびかけますが、歯を食いしばって、一度にひとつで我慢しなくてはいけないのです。水羊羹を四つ食った、なんて威張るのは馬鹿です。その代り、その「ひとつ」を大事にしましょうよ。」
(『眠る盃』所収「水羊羹」より)
威張りこそしないが、「ひとつ」で我慢しきれず、ついつい水羊羹を沢山食べてしまう煩悩大魔神の私は、大馬鹿者の類であろう。
かつては2箱まとめて買って帰ったこともあった。
今年は1箱のみである。気が向けば、また買って帰るかもしれない。
少しずつ有難がって水羊羹を食す。そんな気分に近づきつつあり、徐々にではあるが、もしかしたら馬鹿者から脱却できつつあるのかも知れない。
この「えがわの水羊かん」は、冬場のみだが、楽天市場などでも買うことができる。
敢えて駅弁大会で買わなくても良いということになるのだが、やはり目の前で好物が売られているのを手をこまねいているわけにはいかない。
日によっては割と早い時間(午後2時位)には売り切れてしまうこともあるので、ご用心。
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・「ぶどうジュース」(岩手・菅原ぶどう園)(1杯200円)
ご飯ものが大半を占める駅弁の中にあって、毎度、大変有難い存在なのが、ここのジュースである。
紙コップになみなみと注いでくれる。
濃厚で深みのある味は、そこいらの「果汁100%」のぶどうジュースとは全く味が違う。
実は、紙コップで売られているのは、数種類ある中の「ミックス」で、瓶で売られているジュースは幾種類かある。
「キャンベル・ノースレッド混合」
「紅伊豆」
「ロザリオビアンコ」(以上、各720ml 1,365円)
「ぶどう&ブルーベリージュース」(720ml 2,100円)
「ぶどうミックスジュース」(1,000ml 1,365円)
本気で瓶を買う積りなら、お店の人に頼めば、「ぶどう&ブルーベリージュース」以外は試飲させてくれるようだ。
かく申す私も、昨年、試飲させてもらい、濃厚な「キャンベル・ノースレッド混合」を買って帰った。
その前の年は、お店で飲めるのと同じ「ぶどうミックスジュース」を買って帰った。
「紅伊豆」は少し酸味があり、「ロザリオビアンコ」は、俄かにはそれが「ぶどうジュース」であることが信じ難いほど、マイルドな風味の白葡萄ジュースで、まるで桃のジュースを飲んでいるかのような味わいであった。
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さて、当初の構想では、こんなに長い記事にする積りはなかったのだが、食べ物話は幾ら書いても話が尽きない。
続きはまた近い内に書くとして、今回はこれでおしまい。





